
洞峰公園の市営化と県営Park-PFI計画の見直し
茨城県営洞峰公園のPark-PFI計画に市民から環境改変への懸念が相次ぎ、つくば市が無償譲渡を受けて2024年2月に市営化。コンソーシアム・パートナーシップ会議とデジタルプラットフォーム「my groove」を組み合わせた市民参加型の公園運営に転換した事例。
洞峰公園は、つくば市中心部に位置する面積約20ヘクタールの都市公園である。1980年の開園以来、茨城県が県営公園として管理してきたが、県が2021年度から進めたPark-PFI(公募設置管理制度)事業によるグランピング施設・バーベキュー施設等の整備計画に対し、市民から公園環境の改変を懸念する声が相次いだ。つくば市は計画の見直しを県に要望し、県は市が自ら管理することを条件に無償譲渡を提案。約1年半の協議と市民への説明・意見聴取を経て、2024年2月1日に公園は県営から市営に移管された。 (参考:新・公民連携最前線、洞峰公園 - Wikipedia)
市営化後、つくば市は運営状況の公開と市民との協働を重視し、学識経験者・住民団体・事業者・行政で構成する協議体「洞峰公園コンソーシアム」と、公募市民が参加する「パートナーシップ会議」の二層構造による運営体制を構築した。あわせて、市民参加プラットフォーム「my groove」上に公式プロジェクト「みんなの洞峰公園プロジェクト(#DohoMeet)」を開設し、対面の会議に参加できない市民もオンラインで意見を届けられる仕組みを常設している。my groove経由で寄せられた113件の市民意見が協議会の初回会合で共有されるなど、デジタルの声が公式の協議プロセスに接続されている点に特徴がある。広域自治体が進める公民連携事業と地域住民の合意形成のあり方、そして移管後の参加型運営の両面で示唆に富む事例である。 (参考:つくば市公式サイト、my groove「第1回管理・運営協議会 委員会レポート」)
洞峰公園は1980年に開園した県営都市公園で、都市公園法上は市全域の利用を想定した「総合公園」に位置づけられ、災害時の指定緊急避難場所の機能も持つ。温水プール(50メートル×9コース)、体育館、テニスコート6面、野球場、フィールドアスレチックなどのスポーツ施設と、多様な野鳥や貴重植物が生息する洞峰沼周辺の自然環境をあわせ持ち、市民の日常的な憩いと運動の場として定着してきた。一方、開園から40年以上が経過し、施設の老朽化と維持管理コストが課題となっていた。 (参考:my groove「洞峰公園ってどうなるの?」、新・公民連携最前線)
茨城県は、老朽化施設の改修と公園の魅力向上を目的に、民間資金を活用するPark-PFI制度の導入を決定。2021年12月に建設コンサルタント大手の長大を代表とする「洞峰わくわく創造グループ」を事業者に選定し、2022年4月から同グループによる管理運営が始まった。事業計画には、野球場エリアへのグランピング施設やバーベキュー施設の整備、アウトドアレストラン、南側駐車場の拡張などが含まれ、首都圏から新たな利用者を誘致する狙いがあった。 (参考:新・公民連携最前線、my groove「洞峰公園ってどうなるの?」)
この計画に対し、周辺住民や公園利用者からは、宿泊を伴う施設での飲酒による騒音・治安への不安、樹木伐採や工事による生態系への影響、眺望の喪失、計画策定前に住民の意見を聞かなかったプロセスへの批判など、多くの懸念が表明された。「静かな公園環境を守りたい」という市民の声を受け、つくば市長も現状の環境を大きく変える施設整備に反対を表明し、県と市の間で公園のあり方をめぐる協議が始まることになった。 (参考:NEWSつくば、新・公民連携最前線)
県は2022年7月、計4回の住民説明会を開催し、延べ約370人が参加した。説明会ではグランピング施設やバーベキュー施設での飲酒などへの反対意見が多数を占めた。並行して県は7月2日から8月31日まで記述式のアンケートを実施し、1,113人から回答を得た。つくば市が回答を独自集計したところ、Park-PFI計画全体に「改善すべき点がある」との回答が85.89%に上り、改善すべき箇所としてグランピング施設を挙げた回答は95.19%に達した。自由記述には、長年かけて育った自然の維持を求める声、グランピングやバーベキュー施設は近隣に既に複数あるという指摘、植物園など公園の既存イメージに合う代替案の提案、住民参加型の協議会設置を求める意見などが寄せられた。 (参考:NEWSつくば、つくばローカルナウ、my groove「洞峰公園ってどうなるの?」)
一方、県はこのアンケートについて「回答者の9割がつくば市民で、県民全体の税金で運営する公園の調査としては偏りがある」として、9月に県内全域から無作為抽出した1,000人を対象とする選択式の追加アンケートを実施した。その結果、県全体では計画への賛成が50.3%、反対が12.4%と賛成が過半数を占めた(つくば市民のみの集計では賛成39.3%、反対27.4%)。同じ事業への評価が、調査対象の範囲と設計によって大きく異なる結果となり、誰の意見をもって「住民の声」とするかが論点として浮かび上がった。 (参考:NEWSつくば、つくばローカルナウ)
県はアンケート結果を踏まえ、クラフトビール工房の新設取りやめ、駐車場拡張の規模縮小、樹木伐採の回避などの修正案を提示した。これに対しつくば市は2022年11月、Park-PFI事業の中止と代替案としての利用料金値上げの採用、県・市・有識者・住民による協議会の設置を県に要望した。しかし知事は、利用料金の値上げは一部の利用者にのみ負担が偏るとして退け、協議会の設置も混乱を増すだけだとして、いずれの要望も受け入れず、計画推進の姿勢を崩さなかった。 (参考:NEWSつくば)
膠着状態の中で県が示したのが、「市が公園を自ら管理するなら無償譲渡する」という提案だった。県の試算では洞峰公園の年間管理料は約1億5,000万円、2027年度までに必要な修繕費は3億5,600万円とされ、譲渡を受ければ市が相応の財政負担を引き受けることになる。市は2023年2月14日に市議会全員協議会で無償譲渡の方針を説明し、同月16日に県へ協議開始を正式に申請した。市自身の推計では、年間維持管理費約3億3,200万円に対し収入は約1億8,100万円で、差し引き年約1億5,100万円の負担に加え、大規模修繕に年平均8,000万円が必要と見込まれた。市はこの負担を受け入れてもなお、公園の自然環境を未来へ引き継ぐべき資産と位置づけ、その保全が持続可能なまちづくりの基本理念に沿うとして市営化を選択した。 (参考:NEWSつくば、新・公民連携最前線、my groove「洞峰公園ってどうなるの?」)
市は譲渡受け入れの判断にあたり、段階的な市民への説明と意見聴取を重ねた。2023年7月に複数会場で市民説明会を開催し、同年11月10日から30日まで市民アンケートを実施。1,336人(ウェブ1,055人、紙281人)の回答のうち、県から市への移管に賛成する意見は74.48%に上った。公園のあり方については「現在の環境維持を望む」が81.66%を占め、「収益施設導入による経費削減」は11.53%にとどまる一方、施設利用料金の値上げには67.59%が賛成と、環境保全のための負担増を許容する傾向が示された。 (参考:つくば市公式サイト、新・公民連携最前線)
2024年1月18日に県と市は無償譲渡契約を締結し、2月1日に洞峰公園は県営から市営に移管された。移管直後の混乱を避けるため、市は2023年度・2024年度は従来からの管理運営事業者である東京アスレチッククラブへの業務委託を継続し、プールや体育館等の利用料金も運営方針が決まるまで現状を維持することとした。 (参考:洞峰公園 - Wikipedia、NEWSつくば)
市営化後、市は公園の将来像を市民とともに検討する体制づくりを進めた。2024年6月には市営化のスターティングイベントを開催し、協議の枠組みを市民に共有。あわせて、市民参加プラットフォーム「my groove」上に公式プロジェクト「みんなの洞峰公園プロジェクト(#DohoMeet)」を開設した。プロジェクトページでは、Park-PFI計画から市営化に至る経緯の解説、会議のレポート、イベント告知を継続的に発信するとともに、「公園ひとことポスト」と呼ばれる意見募集を常設し、会議に足を運べない市民もスマートフォンから意見を投稿できるようにしている。経緯を解説した記事は閲覧数約1,300回に達し、プロジェクトをフォローすると更新がメールで届く仕組みも用意されている。 (参考:つくば市公式サイト、my groove「みんなの洞峰公園プロジェクト」、my groove「洞峰公園ってどうなるの?」)
2025年4月11日には「洞峰公園管理・運営協議会」が発足した。委員16人は、筑波大学や国立環境研究所、NPOなど生物多様性・環境教育・まちづくり分野の学識経験者5人、公園で活動する住民団体関係者2人、管理委託事業者1人、造園団体関係者1人、県・市の行政関係者7人で構成され、委員長には筑波大学の環境デザイン領域の教授が就任した。第1回委員会では、施設の老朽化と予算のバランス、「ルールが多くて使いづらい」という声を踏まえた自由に使える公園づくり、生物多様性に配慮した利用方法などが議論され、my grooveを通じて事前に寄せられていた計113件の市民意見—「遊び場を充実させてほしい」「自由に使えるスペースがほしい」など—が委員に共有された。 (参考:NEWSつくば、my groove「第1回管理・運営協議会 委員会レポート」)
検討体制は、16人の委員による協議体と、公募市民がテーマごとに意見を出し合う分科会の二層構造をとる。2025年10月には、多様な主体がともに公園づくりを進める場であることを明確にするため、協議会を「洞峰公園コンソーシアム」、分科会を「パートナーシップ会議」へと改称した。パートナーシップ会議は2025年度、毎月末の金曜夜と日曜午前に開催され、同年10月の公園イベント「洞峰感謝祭2025」では、午前中に来園者から意見を集めてパネル展示し、午後にその意見へ市長が直接答える公開トークセッションを行うなど、イベントと連動した開かれた対話の場も試みられた。同年12月の第5回と2026年3月の第6回は、休止していたアスレチック遊具の復活をテーマに、実際に遊具を体験しながら考えるワークショップ形式で開催された。 (参考:my groove「パートナーシップ会議in洞峰感謝祭」、洞峰公園 公園NEWS、my groove「次回分科会のお知らせ」)
2026年度からは、月次開催に代えて「アスレチック」のような重点テーマを設定し、テーマごとに複数回の議論を重ねる方式へ移行した。対面の場に参加しづらい市民にはmy groove上の意見募集を継続し、リアルとデジタル双方で集めた声をコンソーシアムで協議したうえで市に提言し、実際の運営に反映するサイクルが組まれている。my groove上の「ひとことポスト」では、アスレチックの楽しみ方を問う意見募集などに市民が投稿でき、その声に行政が応答する双方向のやり取りも生まれている。 (参考:my groove「2026年度の分科会の開催について」、my groove「みんなの洞峰公園プロジェクト」)
第一の特徴は、広域自治体(県)の公民連携事業に対して基礎自治体(市)が住民の声を背景に異を唱え、最終的に「公園そのものの移管」という形で決着した点である。Park-PFI事業をめぐる住民との対立は各地で見られるが、計画の修正や中止ではなく、所有・管理主体の変更によって解決を図った事例は全国的にも珍しい。県にとっては税負担の軽減、市にとっては環境保全の実現という形で、両者がそれぞれの論理で受け入れ可能な着地点を見出した。 (参考:新・公民連携最前線)
第二に、「住民の声」の測り方そのものが争点となった点である。県の当初アンケートではつくば市民を中心に計画への強い懸念が示された一方、県全域の無作為抽出調査では賛成が過半数を占めた。日常的な利用者・近隣住民の意見と、納税者全体の意見のどちらを重視するかという、公共施設の意思決定における根源的な問いが顕在化した。 (参考:NEWSつくば、つくばローカルナウ)
第三に、市営化を「ゴール」ではなく市民参加型運営の「スタート」と位置づけ、対面とデジタルを組み合わせた参加の回路を制度として常設した点である。専門家らによるコンソーシアム、公募市民によるパートナーシップ会議、公園イベントと連動した公開対話、そしてmy groove上のプロジェクトページという複数の経路が用意され、関与の深さを市民自身が選べる。特筆すべきは、デジタル経由の意見が「参考情報」にとどまらず、113件の意見の協議会への共有や、市への提言サイクルへの組み込みといった形で、公式の意思決定プロセスに接続されていることである。会議の議論はレポート記事として同じプラットフォームで公開され、「意見を出す→議論される→結果を知る」の循環が一つの場で見えるようになっている。 (参考:my groove「第1回管理・運営協議会 委員会レポート」、my groove「2026年度の分科会の開催について」)
一方で課題も残る。市の試算では公園の維持管理に年約1億5,000万円の実質負担と大規模修繕費が見込まれており、利用料金のあり方を含む持続可能な財源確保はコンソーシアムでの継続検討事項である。また、移管時点で野球場は閉鎖されたままで、利用再開の目処は立っていない。協議体の設置も当初想定から約1年を要しており、参加型の検討プロセスには相応の時間がかかっている。 (参考:新・公民連携最前線、NEWSつくば)
Park-PFI導入には計画策定前からの住民関与が不可欠である。 本事例で住民の反発を増幅させた要因の一つは、事業者選定後に計画が示され、住民が意見を述べる機会が事後の説明会に限られていたことである。説明会では計画内容そのものへの懸念に加え、プロセスへの批判が繰り返し示された。収益施設の導入を伴う公園再整備では、構想段階からの利用者・住民との対話が、事業の成否を左右する前提条件となる。 (参考:NEWSつくば)
アンケートの設計と対象範囲が結論を左右することを認識すべきである。 同じ事業について、利用者中心の調査と広域の無作為抽出調査で正反対の傾向が示された本事例は、調査結果を政策判断の根拠とする際に、誰を母集団とするかの設計自体が政治的な意味を持つことを示している。複数の調査を組み合わせ、結果の偏りと限界を公開した上で判断材料とする姿勢が、調査への信頼を保つ上で参考になる。 (参考:NEWSつくば)
施設移管は財政負担とセットで判断する必要がある。 無償譲渡といっても土地・施設の取得費が不要になるだけで、年間1億円超の維持管理負担と老朽施設の修繕費は移管先が引き受ける。本事例でつくば市は、負担額の試算を公表し、市民アンケートで利用料金値上げへの賛否まで問うた上で受け入れを判断した。環境保全と財政負担のトレードオフを定量的に示して市民に問う手順は、同様の判断を迫られる自治体にとって再現性のある参考例となる。 (参考:新・公民連携最前線、新・公民連携最前線)
「計画への反対」を「運営への参加」に転換するには、意見が意思決定に届く回路の常設が有効である。 反対運動を契機とする政策転換は、転換後に市民の関心が薄れると持続性を失いやすい。本事例では、コンソーシアムとパートナーシップ会議という会議体に加え、my groove上のプロジェクトページが経緯の共有・意見募集・議論結果の報告を一つの場で担い、デジタル経由の意見が協議会への共有や市への提言という公式プロセスに接続されている。会議体だけでは参加層が固定化しがちな住民参加に対し、関与の濃淡に応じた複数の経路を用意し、出した意見の行方を可視化するこの仕組みは、住民発意の保全運動を継続的なエリアマネジメントへ発展させる手法として応用可能性が高い。 (参考:NEWSつくば、my groove「みんなの洞峰公園プロジェクト」)
2026年6月時点の調査内容に基づいて作成
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