
日立市×日立製作所 次世代未来都市共創プロジェクト
日立製作所の創業地である茨城県日立市で、市と日立製作所が包括連携協定に基づき推進するスマートシティ共創プロジェクト。グリーン産業都市・デジタル健康・公共交通の3テーマを軸に、企業社員の自治体常駐や市民参加型のまちづくりを展開している。
茨城県日立市と株式会社日立製作所は、2023年12月21日に「デジタルを活用した次世代未来都市(スマートシティ)の実現に向けた共創プロジェクト」に関する包括連携協定を締結した。2024年4月に市役所内に専従組織を設置して本格的に始動し、「グリーン産業都市の構築」「デジタル健康・医療・介護の推進」「公共交通のスマート化」の3テーマを先行して推進している。日立製作所側からは社員が市役所本庁舎に常駐し、市の専従職員とともにプロジェクトルームで日常的に協働する体制が構築されている。プロジェクト全体では両者合わせて約120名が関与しており、2031年の日立市総合計画最終年度を当面の到達点として、テーマごとにグランドデザイン(将来像)を策定しながら段階的に施策を具体化する手法をとっている。 (参考:日立市公式・包括連携協定の締結、日立製作所プレスリリース(2023年12月21日))
日立市は日立製作所の創業地であり、市内にはグループの事業所・研究開発拠点が10か所以上集積する。両者は110年以上にわたる関係を持つが、近年は人口減少と高齢化が進み、2024年4月時点の人口は約16万6,000人、高齢化率は34.6%に達している。産業構造も特徴的で、第二次産業の比率が37.3%と全国平均(23.7%)を大きく上回り、2019年時点のCO2排出量の68%が産業部門から生じている。 (参考:日本経済研究所・共創型イノベーション事例分析)
こうした産業都市特有の構造は、脱炭素化への対応、高齢者の移動手段確保、医療・介護体制の維持といった課題を同時に突きつけている。これらは個別の部署や単一の組織では対処が困難な分野横断的な課題であり、自治体と企業が個々の事業委託にとどまらず、まちの将来像そのものを共同で描く枠組みが求められた。日立製作所にとっても、OT(制御・運用技術)とIT(情報技術)を組み合わせた社会インフラ事業のノウハウを創業の地で実証し、他地域へ横展開するモデルを構築する意義があった。 (参考:日立製作所プレスリリース(2023年12月21日)、共創プロジェクトとは(日立市公式))
2023年12月の包括連携協定では、先行する3テーマと推進体制の大枠が定められた。協定締結から約3か月後の2024年4月、日立市は市長公室に「共創プロジェクト推進担当」を新設し、専従職員6名を配置するとともに、関連4部7課の職員が兼務で参画する体制を整えた。同時に日立製作所側も「ひたち協創プロジェクト推進本部」を立ち上げ、5名の社員を市役所本庁舎に常駐させた。市役所内にはプロジェクトルームが開設され、市職員と企業社員が物理的に同じ空間で業務にあたる環境が整備された。 (参考:共創プロジェクト推進担当の設置(日立市公式)、日立製作所プレスリリース(2024年4月1日))
3テーマそれぞれについて、まず10年先の将来像を描く「グランドデザイン」を策定し、そこから逆算して具体施策を導出するアプローチがとられた。
公共交通分野では、2024年11月22日に「2035年の日立市の公共交通の将来像」が発表された。「多様な移動手段を組み合わせた誰もが移動しやすいまち」を掲げ、オンデマンド自動運転カー、高齢者向け次世代モビリティ、デリバリー型カーシェア、統合MaaSアプリ、移動型店舗、ハンズフリー乗降・決済、ウォーカブル空間など10のモビリティソリューションを構想として示した。策定にあたっては、茨城大学の学生や地域住民を交えたワークショップが継続的に実施され、利用者の視点から理想的な移動のあり方を議論したうえで構想に反映している。グランドデザイン発表の翌月、2024年12月7日〜8日には日立駅前新都市広場周辺で「ひたち次世代モビリティフェス」が開催され、ベンチ型自動走行モビリティ、立ち乗り・座り乗り型パーソナルモビリティ、電動キックボード、カート型自動走行車両の4種類の試乗体験が市民に提供された。 (参考:2035年公共交通グランドデザイン(日立市公式)、日立製作所プレスリリース(2024年11月22日))
健康・医療分野では、2025年6月17日に「住めば健康になるまち」のグランドデザインが発表された。2031年を目標年とし、「地域医療のデジタル化」「健康データの集約・活用」「地域包括ケアシステムの構築」の3本柱で構成されている。具体的には、2025年4月から小児対象の夜間・休日オンライン診療と24時間365日対応の医療相談サービスが開始されたほか、40〜79歳の約6万6,000人を対象に、国民健康保険や後期高齢者医療制度など5つの保険者のデータを横断的に集約・分析する実証が進められている。また、2024年9月からはICTツールを活用した在宅医療・介護事業者間の情報連携モデル事業が始まっている。 (参考:日立製作所プレスリリース(2025年6月17日))
2024年12月には共創プロジェクトの専用ウェブサイトが公開され、プロジェクトの進捗を発信するとともに「みんなの声アンケート」機能を設置して市民からの意見・アイデアを受け付ける仕組みが導入された。サイト公開に合わせ、市内の公共施設や商業施設、学校など約400か所、JR日立駅を含む5駅にポスターを掲示してプロジェクトの認知拡大が図られた。2025年4月には市の推進組織が「共創プロジェクト推進担当」から「共創プロジェクト推進本部」へ格上げされ、日立製作所からの常駐社員も7名に増員されている。 (参考:ウェブサイト公開プレスリリース、日立市共創プロジェクト情報)
第一に、企業と自治体の関係が単なる業務委託や技術提供ではなく、将来像の構想段階から一体で取り組む「共創」の形をとっている点がある。企業社員が市役所に常駐して自治体職員と同じフロアで日常的に協働するという物理的な近接性は、テーマ間の連携や迅速な意思決定を可能にしている。日立製作所はグループ全体で約100名を投入し、うち7名が市役所本庁舎に常駐して自治体職員と同じフロアで業務にあたっている。 (参考:共創プロジェクト推進担当の設置(日立市公式)、NEWSCAST記事)
第二に、個別事業の積み上げではなく、テーマごとに10年先の将来像(グランドデザイン)を先に描き、そこから逆算して施策を導出する方法論を採用している点が特徴的である。公共交通と健康の2分野で既にグランドデザインが公開されており、構想の提示→市民との対話→実証実験→施策の具体化という一貫したプロセスが設計されている。
第三に、市民参加を後付けではなく制度設計の中核に位置づけている点がある。ウェブサイト上のアンケート機能、大学生・住民を交えたワークショップ、モビリティフェスでの体験型実証など、デジタルと対面を組み合わせた複数の参加チャネルが用意されている。日本経済研究所の分析では、市民の善意に頼り過ぎないよう透明な意思決定プロセスや適切なインセンティブ設計にも留意していることが指摘されている。 (参考:日本経済研究所・共創型イノベーション事例分析)
推進体制の面では、2024年4月の専従組織設置から約1年で「推進本部」への格上げが実現し、企業側の常駐者も5名から7名に拡充された。プロジェクト全体では両者合わせて約120名の体制が構築されている。
計画策定の面では、公共交通分野(2024年11月発表)と健康・医療分野(2025年6月発表)の2つのグランドデザインが公開済みである。いずれも構想にとどまらず、公共交通では「ひたち次世代モビリティフェス」での4種類のモビリティ試乗実証、健康分野では小児オンライン診療の開始や約6万6,000人の健康データ横断分析など、具体的な施策の実装に着手している。
市民との接点としては、約400か所へのポスター掲示、ウェブサイトでの情報公開と「みんなの声アンケート」の運用、大学生とのワークショップが実施されている。2026年4月にはプロモーション動画「デジタルがつくる10年後の日立市は?」(約8分30秒のフル版および約30秒のショート版)が公開され、デジタル技術が日常に溶け込んだ将来の暮らしを具体的に描く内容で、市民への周知を目的に公開された。 (参考:プロモーション動画公開プレスリリース)
本事例が他地域に参考となりうるのは、以下の3点である。
テーマ別グランドデザインという方法論。個別事業の寄せ集めではなく、まず分野ごとの将来像を関係者と共同で描き、そこから施策を逆算するプロセスは、特定の企業や技術に依存しない汎用的な手法である。構想→市民対話→実証→施策化という段階を明示することで、合意形成と実装を並行して進められる枠組みとなっている。
企業常駐型の共創体制の設計。企業社員の自治体常駐は他地域でも導入可能な仕組みだが、本事例では専従の市職員6名と企業社員が同じプロジェクトルームに入り、テーマごとに担当者を対にして配置するという具体的な組織設計がなされている。また、市側も4部7課の職員が兼務で参画することで、プロジェクト推進本部と既存の行政組織との接続が確保されている。この体制設計は、企業の知見を行政の実務にどう接続するかという点で参考になる。
複数保険者をまたぐ健康データの集約モデル。国民健康保険、後期高齢者医療制度など5保険者のデータを横断的に集約・分析する取り組みは、保険者ごとにデータが分断されがちな日本の医療制度において、自治体レベルで住民の健康状態を包括的に把握する手法として注目される。約6万6,000人規模の実証は、類似の取り組みを検討する自治体にとって規模感や制度的な課題の参照事例となりうる。
2026年6月時点の調査内容に基づいて作成
https://www.city.hitachi.lg.jp/shisei/seisaku_zaisei/1007379/1009398.html ↩
https://www.city.hitachi.lg.jp/kyoso-project/aboutus/1014815/index.html ↩
https://www.city.hitachi.lg.jp/shisei/seisaku_zaisei/1007379/1012156.html ↩
https://www.city.hitachi.lg.jp/shisei/seisaku_zaisei/1007379/1015011.html ↩
https://www.city.hitachi.lg.jp/kyoso-project/themes/1014820/1014837/index.html ↩
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000284.000067590.html ↩
https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2024/04/0401b.html ↩
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000409.000067590.html ↩
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000416.000067590.html ↩
https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2025/06/0617.html ↩
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000565.000067590.html ↩
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