
洞峰公園とその近隣公園の自然共生サイト認定
つくば市の洞峰公園・二の宮公園・まつぼっくり公園の3公園が、市民団体の生きもの調査を基盤にNPO法人と市の共同申請で国の自然共生サイトに認定された事例。開発計画を巡る議論を経て、市民主体の調査・保全活動が都市公園の生態系価値を制度的に位置づけた。
2025年9月16日、茨城県つくば市の洞峰公園(17.4ヘクタール)・二の宮公園(2.7ヘクタール)・まつぼっくり公園(0.6ヘクタール)の3公園、計20.7ヘクタールが、「洞峰公園とその近隣公園の生物多様性保全活動計画」として国の「自然共生サイト」に認定された。2025年4月に施行された地域生物多様性増進法に基づく初めての認定(令和7年度第1回、全国201か所)の一つである。 (参考:環境省 報道発表、NEWSつくば)
申請主体はNPO法人つくばいきものSDGsとつくば市で、NPOからの提案を受けて両者が共同で申請した。前身の市民団体が2022年から積み重ねてきた市民参加型の動植物調査の成果が認定の基盤となっており、都市部の身近な公園に残る里地里山・沼・湿地の生態系の価値が、市民の手によるデータで国に認められた事例である。 (参考:NEWSつくば、つくばSDGsパートナーズ)
舞台となる3公園は、国策として計画的に整備された筑波研究学園都市の中心部に位置する。同市には総延長約48キロメートルの歩行者・自転車専用道路(ペデストリアンデッキ)網が張り巡らされ、沿道に公園や公共施設が配置されている。3公園は約800メートルの間隔でこのデッキ上に連なり、隣接する複数の研究所の樹林地・草地と合わせて100ヘクタールを超える緑地のまとまりを形成している。中核となる洞峰公園は1980年開園の市内最大級の総合公園で、江戸時代に灌漑用水源として築かれた歴史を持つ洞峰沼を擁し、絶滅危惧種を含むつくばの里地里山、沼・湿地に特徴的な動植物が生息・生育する。 (参考:つくば市「筑波研究学園都市とは」、つくば市「洞峰公園」、NEWSつくば)
洞峰公園は長く茨城県営の公園だったが、2021年度に県がパークPFI制度を活用したグランピング施設等の整備計画を進めたことに対し、地元住民やつくば市から懸念が示され、計画の是非を巡る議論が続いた。2022年7月の県の住民説明会に伴うアンケートでは、約75パーセントが事業の導入目的に懸念を示す一方、利用料金の値上げには半数以上が肯定的に回答しており、「50年続いた貴重な自然を維持した方が良い」など、収益施設よりも公園の自然環境の維持を求める声が多く寄せられた。この過程は、地域にとって公園の価値とは何かを問い直す契機となり、最終的に県の整備計画は実現せず、2024年2月に公園は県から市へ無償譲渡された。 (参考:my groove「洞峰公園ってどうなるの?」、つくば市「洞峰公園の市営化について」)
市営化後は、共創まちづくりプラットフォーム「my groove」上で「みんなの洞峰公園プロジェクト」が展開され、市営化の経緯の発信や公園の使い方に関する意見募集が行われた(アンケートには計113件の意見が寄せられた)。2025年4月には、筑波大学・国立環境研究所などの学識経験者、地域の活動団体、議会・造園業界の代表ら16人で構成する「洞峰公園管理・運営協議会」(委員長・藤田直子筑波大学教授)が発足し、市民が参加できる環境・教育・施設管理の3つの分科会と組み合わせて、今後の管理・運営方針の検討が始まった。 (参考:my groove「第1回管理・運営協議会 委員会レポート」、NEWSつくば(協議会発足)、my groove「みんなの洞峰公園プロジェクト」)
国際的には、2030年までに陸と海の30パーセント以上を保全する「30by30目標」の達成に向け、保護地域以外で生物多様性保全に資する区域(OECM)の拡大が課題となっている。日本では環境省が2023年度から「自然共生サイト」認定を開始し、2025年4月にはこれを法制化した地域生物多様性増進法が施行され、企業やNPO等が作成する「増進活動実施計画」を環境・農林水産・国土交通の3大臣が認定する仕組みに発展した。都市公園のような身近な緑地の保全活動を国の制度に位置づける回路が、ちょうどこの時期に開かれたことになる。 (参考:環境省 30by30 自然共生サイト、環境省 報道発表(法施行))
2022年4月、洞峰公園の整備計画を巡る議論が続くさなかに、市民ボランティア団体「洞峰いきものSDGsの会」が発足した。代表の木下潔氏が公園の動植物を調べる中で貴重な種が残っていることを知り、ミュージアムパーク茨城県自然博物館の名誉学芸員の協力を得て、地元住民とともに樹木調査から活動を始めたものである。同年6月には、工事予定地周辺でオオタカを含む絶滅危惧種・準絶滅危惧種の野鳥13種、キンラン・ギンランなどの希少植物4種が確認されたとして、県に保全を要望している。 (参考:つくば市「くっつくば」、NEWSつくば(2022年6月))
活動は、専門家の指導の下での樹木・植物・野鳥・きのこ・昆虫の市民参加型モニタリングと観察会、外来種防除や草刈り・採種・播種による希少植物の保全、清掃美化活動へと広がった。どんぐり探しなどの自然体験イベントには毎年100名以上の親子連れやシニアが参加し、ボランティア登録制度「洞峰グリーンレンジャーズ」により、落ち葉掃きや花壇整備など気軽に関われる入り口も用意されている。 (参考:NPO法人つくばいきものSDGs(活動内容)、ドコモ市民活動団体助成事業)
活動の継続性を高めるため、団体は2024年12月にNPO法人「つくばいきものSDGs」として法人化した。同じ頃の2024年秋、NPOからつくば市に自然共生サイト認定申請の提案があり、市民調査の成果を取りまとめて2025年4月にNPOと市が共同で国に申請。2025年9月16日に認定され、同月30日に東京都内で開かれた認定式に臨んだ。 (参考:NPO法人つくばいきものSDGs(団体概要)、NEWSつくば、国土交通省 報道発表)
認定された活動計画の期間は2025年9月から2030年8月までの5年間。植生の特性に応じて園内をゾーニングし、希少動植物の生息生育エリアでは手刈りの草刈りや落ち葉かき・播種などきめ細かな管理を、通常管理エリアでは機械刈りなど一般的な公園管理を行い、両者の間には背丈の高い草地を残す「高刈り」の緩衝ゾーンを設ける。モニタリングは植物・鳥類・昆虫・菌類を対象に年1〜2回、有識者の指導の下で市民参加型で実施する。実施体制は、市がサイト全体の運営管理を統括して通常エリアの緑地管理と沼管理を担い、NPOが希少動植物エリアの管理と調査・モニタリング、環境教育、市民参加型保全活動を担うという役割分担が明文化されている。 (参考:NEWSつくば)
第一の特徴は、開発計画を巡る議論の中で生まれた市民調査が、国の認定の基盤に転化した点である。整備計画への懸念を背景に始まった生きもの調査は、反対の声を上げるだけでなく、公園の生態系価値を継続的なデータとして蓄積する活動へと発展し、3年後にそのデータが認定申請の根拠資料となった。公園を管理する市公園・施設課が「認定された活動計画は、すでに取り組まれてきた活動を継続するもの」と説明している通り、認定のために新たな事業を起こしたのではなく、既存の市民活動を制度に接続した点に独自性がある。 (参考:NEWSつくば)
第二に、申請単位の設計である。洞峰公園単体ではなく、ペデストリアンデッキで結ばれた3公園を一体の計画として申請し、周辺研究所の緩衝緑地と合わせて100ヘクタール超の緑地ネットワークの中に位置づけた。計画都市ならではの歩行者動線と緑地配置を、生態系のつながりとして読み替えた申請といえる。活動計画は「通勤・通学など日常生活の傍ら、多様な生き物の活動に触れることができる」ことを区域の特徴として掲げており、市街地の暮らしと生物多様性の接点そのものを保全対象としている。 (参考:NEWSつくば)
第三に、行政とNPOの役割分担の明文化である。市が全体統括と通常管理を、NPOが希少種エリアの管理と調査・環境教育を担う体制が計画に書き込まれており、市民団体の専門的な活動と行政の公園管理が、同一公園内でゾーニングと対応づけて整理されている。 (参考:NEWSつくば)
2026年6月の調査時点で確認できる成果は次の通りである。
一方で、認定は5年間の活動計画の起点であり、生物多様性の状態そのものの改善効果はこれからのモニタリングで検証される段階にある。自然共生サイトの保全活動計画と、コンソーシアム・パートナーシップ会議を中心とする公園運営全体の議論をどう接続していくかも、今後の論点である。 (参考:NEWSつくば)
既存の市民活動を国の制度に「接続」するという発想。 この事例で認定の対象となったのは、新規事業ではなく3年間続いてきた市民調査・保全活動である。地域生物多様性増進法の認定は、すでに身近な緑地で活動している団体にとって、活動の社会的位置づけと継続性を高める手段になり得る。日常的な観察会やモニタリングの記録を体系的に残しておくことが、そのまま申請の基盤になるという点は、各地の環境系市民団体と自治体にとって再現性の高い教訓である。
対立の局面を調査・データ蓄積へ転換する経路。 公園や緑地の開発を巡る合意形成が難航する局面は各地にあるが、本事例では、その渦中で始まった市民調査が希少種の存在を可視化し、数年後には行政との共同申請という協働関係に結実した。賛否の対立を超えて「その場所に何がいるのか」という事実を共有する活動は、論点を整理し、後の政策展開の共通基盤をつくる役割を果たし得る。
複数の小規模緑地をネットワークとして申請する単位設計。 0.6ヘクタールの街区公園を含む3公園を、歩行者動線でつながる一体の生態系として計画化した手法は、単体では認定規模に届きにくい都市内の小規模緑地を抱える自治体に応用可能である。緑道や河川沿いの緑地など、線的なインフラで結ばれた緑のまとまりを再評価する視点を提供している。
役割分担の明文化による継続性の担保。 市民活動は担い手の熱意に依存しがちだが、本事例では国に認定される計画の中に市とNPOの役割分担とゾーニング別の管理手法が明記された。活動が個人の属人性を離れ、5年間の計画として制度的に位置づけられたことは、市民協働型の緑地管理を持続させる仕組みづくりの一つのモデルといえる。
2026年6月時点の調査内容に基づいて作成
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