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先導的グリーンインフラモデル形成支援事業
先導的グリーンインフラモデル形成支援事業

先導的グリーンインフラモデル形成支援事業

先導的グリーンインフラモデル形成支援事業

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杉並区が国土交通省の支援事業を使い、空き家利活用や耐震化など9つの既存業務課題を題材にした職員研修からグリーンインフラを庁内に定着させ、区民会議・中間支援組織・ガイドライン策定へと3年かけて体制を組み上げた事例。効果への疑問に不利なデータも含めて公開で応じた過程が記録されている。

先導的グリーンインフラモデル形成支援事業

概要

杉並区は人口約57万人、面積34.06平方キロメートル。武蔵野台地の中央部を占め、神田川・善福寺川・妙正寺川という荒川水系の一級河川3本が区内を横切って流れている。宅地利用の割合は東京23区の中で最も高く、区面積の約7割を占める。緑被率は約2割である。 (参考:先導的グリーンインフラモデル形成支援事業 事業報告(東京都杉並区)令和7年度民間提案型官民連携モデリング事業 ニーズ提案書(東京都杉並区)

この区が2024年度から本格的に着手したのがグリーンインフラである。入口は水害対策だった。しかし3年間の展開を追うと、この取り組みの中心にあるのは「雨庭をいくつ作ったか」ではなく、グリーンインフラという新しい視点をどうやって組織と地域の日常業務・日常生活に組み込むか、という体制づくりの方法論である。 (参考:グリーンインフラを活用した取り組み|杉並区

区は2024年5月に熊本県立大学を代表機関とする研究拠点と連携協定を結び、同年度に国土交通省の「先導的グリーンインフラモデル形成支援事業」に採択された。この支援事業で行ったのは、職員向けの研修会2回と、ロードマップ・ポテンシャルマップの作成である。研修会では、空き家の利活用や耐震化・不燃化といった、区がすでに抱えている9つのまちづくり課題を題材に、グリーンインフラで何ができるかを職員自身が検討した。 (参考:グリーンインフラを活用した流域治水の取り組みの推進について専門家との連携協定を締結しました|杉並区先導的グリーンインフラモデル形成支援事業 事業報告(東京都杉並区)

翌2025年度には国土交通省の「民間提案型官民連携モデリング事業」に連続採択され、地域で10年以上活動してきた市民団体が法人化して中間支援組織を担った。2026年度には都市整備部管理課に専任の担当が置かれ、「グリーンインフラガイドライン(仮称)」の策定に向けた検討が始まっている。本稿は、庁内・区民・民間の三方向で並行して進められたこの体制づくりの手順と、そこで生じた摩擦を追う。 (参考:令和7年度 民間提案型官民連携モデリング事業|国土交通省グリーンインフラ|杉並区

背景・課題

宅地が7割の住宅都市で、行政だけでは面をつくれない

2023年12月に改定された東京都の「東京都豪雨対策基本方針」は、目標降雨を1時間あたり85ミリメートルに引き上げるとともに、目標を超える降雨への備えとして、家づくり・まちづくりのなかにグリーンインフラを実装していく考え方を示した。区はこの方針に沿って、河川・下水道の整備や道路の透水性舗装、区立施設での雨水浸透施設の整備といった従来の対策に加え、グリーンインフラによる雨水流出抑制に取り組むことにした。 (参考:グリーンインフラを活用した取り組み|杉並区【Vol.9】皆さんからいただいた声(ご意見)について|すぎなみボイス

ただし杉並区の土地の約7割は宅地である。公共施設や道路にいくら浸透施設を入れても、面としての効果を出すには民有地での実施が欠かせない。区は連携協定の公表時点で、この点を明確に「民有地での取り組みが不可欠」と述べ、区民との対話の機会をつくることを取り組みの前提に置いている。区内には認証NPO法人が305、区登録環境団体が24、区立公園に係るボランティア団体が180ほど存在する一方、これら異なる団体どうしの連携がないことを区は課題として認識していた。 (参考:グリーンインフラを活用した流域治水の取り組みの推進について専門家との連携協定を締結しました|杉並区令和7年度民間提案型官民連携モデリング事業 ニーズ提案書(東京都杉並区)

「効果が実証されていない手法に税金を使うのか」

取り組みを始めた直後、区が公民連携プラットフォーム「すぎなみボイス」で意見を募ったところ、賛同だけでなく厳しい問いが寄せられた。従来型のインフラ(グレーインフラ)も重要なはずなのに、なぜ「水害対策=グリーンインフラ」のように見えるのか。効果が数値化されていない中で、区はグレーインフラとグリーンインフラをどう位置づけているのか。効果や費用に疑問がある、効果が不確かなものに税金を使うべきではない――こうした声である。 (参考:【Vol.10】皆さんのご意見を踏まえた区の担当者の想い|すぎなみボイス【Vol.14】皆さんよりいただいたご意見について|すぎなみボイス

区の担当者はこれを受け、グリーンインフラに対する区の考え方を十分に説明しないまま意見募集をしていたと認めたうえで、区の立場を改めて示した。ハード面の整備は想定される降雨に対して高い効果があるが、高額な費用と長い年月を要する。近年の集中豪雨の拡大に緊急に対応するには、すべてをハードで賄うのは厳しい。グリーンインフラはまだ広く実証された手法ではないかもしれないが、水害対策の手段を広げる新たな一手として位置づけている、という整理である。同時に、効果をしっかり検証したうえで区の事業として具現化したいとも述べている。 (参考:【Vol.10】皆さんのご意見を踏まえた区の担当者の想い|すぎなみボイス

庁内でグリーンインフラが共通言語になっていない

区が国の支援事業に出した要望は、大きく二つだった。一つは、連携・推進体制を構築するために、まず部内でグリーンインフラに関する研修を開催したいというもの。もう一つは、当時改定作業中だった「みどりの基本計画」や景観計画に盛り込むためのロードマップを作成したいというものである。裏を返せば、この時点では庁内にグリーンインフラを議論するための共通の語彙も、部署をまたぐ検討の場もなかった。 (参考:先導的グリーンインフラモデル形成支援事業 事業報告(東京都杉並区)

取り組みのプロセス

1. 外部の専門知を先に確保する(2024年5月)

2024年5月20日、区は「流域治水を核とした復興を起点とする持続社会」地域共創拠点と連携協定を締結した。この拠点は科学技術振興機構(JST)の支援を受けたもので、プロジェクトリーダーは熊本県立大学特別教授の島谷幸宏である。協定の内容は、グリーンインフラなど流域治水の検討に必要な基本情報の共有、区民への周知・対話のための講師派遣、グリーンインフラ実施に必要な技術的助言の三点。事業の企画より前に、講師と助言者の供給ラインを確保した形になる。 (参考:グリーンインフラを活用した流域治水の取り組みの推進について専門家との連携協定を締結しました|杉並区

2. 「9つの既存業務課題 × グリーンインフラ」の職員研修(2024年9〜10月)

国土交通省の先導的グリーンインフラモデル形成支援事業は、グリーンインフラで地域課題を解決しようとする地方公共団体に対し、コンサルタント・専門家の派遣、企業とのマッチング、効果の可視化、地域の連携体制構築などを支援する制度で、令和2年度から令和6年度までに計16団体が選定されている。杉並区はこの枠組みを、庁内横断的な方向性・体制構築の支援に充てた。 (参考:グリーンインフラの実装に取り組む地方公共団体を支援します!|国土交通省先導的グリーンインフラモデル形成支援事業 事業報告(東京都杉並区)

研修会は「グリーンインフラ×まちづくり戦略」をテーマとし、参加したのは都市整備部の職員約100名、中心は若手・中堅層だった。第1回は2024年9月13日の午後、講義3本(杉並区の緑の現状、グリーンインフラの推進、論理的思考によるグリーンインフラの取組み検討)とワークショップ。第2回は参加者を2グループに分け、9月30日と10月1日の午前に実施した。 (参考:先導的グリーンインフラモデル形成支援事業 事業報告(東京都杉並区)

この研修の設計上の要点は、グリーンインフラを新しい分野として教えるのではなく、区がすでに抱えている業務課題を題材に置いたことにある。ワークショップのテーマは、①空き家の利活用、②耐震化・不燃化、③再開発エリアの緑地等、④区施設設計、⑤道路整備・維持管理、⑥雨水流出抑制、⑦環境教育、⑧生物多様性、⑨河川維持管理の9つ。いずれも既存の所管業務である。参加者は現状と課題、取組みのアイデアをグループごとに出し合い、効果を体系的に整理した。第2回では、そのアイデアを区内の具体的な空間に落とし込み、実現に必要な工程・実施時期・役割分担まで整理している。 (参考:先導的グリーンインフラモデル形成支援事業 事業報告(東京都杉並区)

3. ロードマップとポテンシャルマップ(2024年度末)

ワークショップの検討結果は「杉並区グリーンインフラ推進ロードマップ」にまとめられた。研修で出たアイデアを、グリーンインフラの効果とされる①防災・減災、②地域振興、③環境の3分類に整理し、区内のどこにポテンシャルがあるかを示す導入ポテンシャルマップも作成している。 (参考:先導的グリーンインフラモデル形成支援事業 事業報告(東京都杉並区)

注目すべきは重点テーマの選び方である。9つのテーマのうちロードマップの重点に選ばれたのは「環境教育」と「生物多様性」だった。区がこの取り組みに入った入口である「雨水流出抑制」ではない。ロードマップは、今後の内容の具体化や実現性を検討したうえで実施していくものとされ、庁内連携および区民・事業者等との連携の方向性も整理された。 (参考:先導的グリーンインフラモデル形成支援事業 事業報告(東京都杉並区)

4. 区民向けは「知る・気づく・考える・体験する」の4段階(2024年度)

庁内研修と並行して、区民向けのプログラムが4つの段階で組まれた。

「知る」にあたるのが講演会と実験である。第1回「みんなで知ろうグリーンインフラ」は2024年7月21日に井荻小学校で開催、応募50名に対し45名が参加した。講師は島谷幸宏(熊本県立大学)のほか、中村晋一郎(名古屋大学)、寺村淳(大正大学)、田浦扶充子(九州大学)。7〜8人ずつ6班に分かれ、意見交換と井荻小学校の雨庭・田んぼの見学を行った。質疑では「密集地でどう浸透する場所を用意するか」「規模感としてどれくらいの効果があるのか」といった実務的な問いが並んでいる。 (参考:みんなで知ろうグリーンインフラ(第1回)報告書|杉並区

第2回は2024年10月20日、善福寺公園で27名(うち子ども6名)が参加。土の状態が異なる3地点にリングを設置し、1リットルの水を入れて1分間で浸み込んだ量を測る浸透実験を行った。結果は、日向で下草があり土がやわらかい地点が最も浸透しやすく、人が歩いて土が固くなった地点が最も浸透しにくいという順になった。土地の状態による浸透量の差は、グラウンドで約7ミリメートル毎時、農地で約215ミリメートル毎時とされる。 (参考:みんなで知ろうグリーンインフラ(第2回)報告書|杉並区

「気づく」にあたるのが2024年9月7日の「聴っくオフ・ミーティング」である。区長も参加し、課題解決型グリーンインフラカードゲームとグループトークを行った。参加者からは、日頃の趣味がグリーンインフラそのものだったと気づいた、カードゲームは小中高の学びの教材になる、といった感想が出ている。 (参考:【Vol.3】「聴っくオフ・ミーティング」を開催しました!|すぎなみボイス

「考える」「体験する」を担ったのが3回シリーズの区民会議である。第1回は2024年10月27日、高井戸中学校と柏の宮公園で24名が参加し、公園内の雨水の課題がみられる5か所を確認して雨庭のアイデアを出した。第2回は12月14日、柏の宮公園で34名が参加し、前回のアイデアをもとに5か所の雨庭を実際に施工した。作業は1時間程度で完了している。この回の投票で、会議名は「グリーンインフラ杉並区民会議(GIAS)」に決まった。第3回は2025年2月2日に区役所で28名が参加し、島谷特別教授の講演とポテンシャルマップの紹介を受けて、杉並区らしいグリーンインフラのビジョンを話し合った。 (参考:第1回グリーンインフラ推進会議ニュースレターVol.1|杉並区第2回グリーンインフラ杉並区民会議ニュースレターVol.2|杉並区第3回グリーンインフラ杉並区民会議ニュースレターVol.3|杉並区

第3回で各班がまとめた案は、単発の施設整備ではなく仕組みの提案が多かった。中間支援組織の設立、駅前通りをグリーンインフラ化する構想、学校での雨庭・ビオトープと通学路のストリートプランツ、暗渠の開渠化、区民が地域の専門家に育つ仕組み、「防災の日」に倣った「グリーンインフラの日」の制定、善福寺公園をモデル地区として口コミで広げ行政に依存しない自立を促す案などである。 (参考:【Vol.16】グリーンインフラの今年度の取組について|すぎなみボイス

5. 批判に、不利なデータも添えて答える(2024年12月〜2025年3月)

意見募集は2回行われた。1回目は33件の回答と48件の「いいね」、2回目は29件の回答と188件の「いいね」が集まっている。2回目では「小中学校」「公園」「道路」といった公共施設にレインガーデンやビオトープを導入してほしいという声が多く、同時に効果への疑問も寄せられた。 (参考:【Vol.9】皆さんからいただいた声(ご意見)について|すぎなみボイス【Vol.14】皆さんよりいただいたご意見について|すぎなみボイス

区の回答は、抽象的な説明ではなく実物で示す形をとった。区職員4名が、区立井草地域区民センター内の既存ビオトープの一部を改良して「雨庭ビオトープ」をつくり、その工程を公開したのである。上流部を120センチ×70センチ、深さ30〜40センチ掘り、区立公園で発生した落ち葉からつくった腐葉土(90リットル袋3袋分)、公園の維持管理で出た丸石、剪定枝を束ねた「シガラ」で仕上げた。材料はすべて区立公園の維持管理で出たもので賄い、費用はかからなかった。タンクから流した約1トンの水は、下流にあふれることなく地中に消えた。この取り組みは「グリーンインフラ産業展2025」のポスター展で企業・行政部門の優秀賞を受賞している。同ポスター展には92件の応募があり11件が表彰されたが、そのうち3件が杉並区関連だった(上智大学の流域治水ガバナンス研究が研究者・学生部門奨励賞、善福寺川を里川にカエル会が非営利部門最優秀賞)。 (参考:【Vol.13】区職員が「雨庭ビオトープ」をつくってみました!|すぎなみボイス

区は同時に、効果がどの程度継続するか(設置から1か月後、半年後、1年後など)を検証し、その変化を含めて「見える化」しながら進めると表明した。この約束は翌年度に実行され、後述するように区にとって不利な結果も公表されている。 (参考:【Vol.14】皆さんよりいただいたご意見について|すぎなみボイス

6. 水害対策から多面的価値へ、そして子どもへ(2025年度)

2025年度、区はグリーンインフラの位置づけを水害対策にとどめず、コミュニティの活性化や生物多様性の保全といった多様な効果に広げた。これは前年度の意見募集で「生物の棲み処をつくる」「樹木による木陰」「子どもの教育」への期待が多かったことを反映したものである。 (参考:【Vol.14】皆さんよりいただいたご意見について|すぎなみボイス【Vol.20】グリーンインフラの令和8年度の取組について|すぎなみボイス

雨庭づくり体験型ワークショップは桃井原っぱ公園を舞台に3回開催された。第1回(2025年8月23日・勤労福祉会館、38名)でアイデアを出し、第2回(10月18日・25名)で実際に2地区に雨庭を施工。A地区は和風庭園を思わせる仕上がり、B地区は区のキャラクターをモチーフにした形状となった。第3回(11月22日・27名)では、土を耕した直後と、そこから1か月ほど経過した状態とを比べる浸透実験を行った。時間が経つほど土が締まり、水を吸い込む量が落ちていくことが確認された。自分たちが整備した施設の性能が落ちるという結果を公表した点は、前年度の「効果を見える化する」という約束に対する具体的な応答になっている。参加者は完成した雨庭を観察し、水路が落ち葉に埋もれている、芝生がめくれているといった課題も挙げた。維持管理の方策として、担い手を区民から募る案や、実践者どうしが集う場をつくる案が出ている。 (参考:雨庭づくり体験型ワークショップを開催しました!|杉並区

子ども向けの展開も本格化した。夏休み期間中、未来をつくる杉並サイエンスラボIMAGINUSで、パネル展「みんなで知ろう!グリーンインフラ!」を2025年8月12日から31日までの20日間開催(期間中のIMAGINUS来館者数は12,824名)。あわせてワークショップを計20回超実施し、301名(参加者169名、同伴者132名)が参加した。軽石・赤玉土・黒土に定量の水を流して保水性を比べる実験を行い、その結果をもとに持ち帰れる「マイ雨庭」を作成、さらに500ミリリットルのペットボトルで簡易雨量計をつくる構成である。家に帰ってからも継続して観測できる道具を持たせるという設計になっている。 (参考:【Vol.18】IMAGINUSでパネル展&ワークショップを開催!|すぎなみボイス

2025年度の区民会議は、議題を「体制」に移した。定員30名程度の抽選(全3回参加できる人を優先)で、第1回(2025年11月1日)はNPO法人Green Connection TOKYOの佐藤留美氏を招いて身近な困りごとを自然の力で解こうというワークショップ、第2回(12月13日)はUR都市機構を招いて企業がグリーンインフラに取り組む理由と「シャレール荻窪」の事例、第3回(2026年2月14日)は東京農業大学の福岡孝則教授による世田谷区の組織体制の事例を受けて、区民・企業・学識・区の役割分担を議論した。第3回で出た案は、いずれも「理想の姿」と「そのために必要な連携」をセットで示す形式になっており、中核人材の必要性、区民が横断的につながる組織や意見を交わせる場、運営プラットフォームと拠点整備、LINEを使った「隙間ボランティア」といった具体案が並んだ。 (参考:【Vol.19】令和7年度グリーンインフラ杉並区民会議を開催!|すぎなみボイス【Vol.17】グリーンインフラ杉並区民会議を開催します!|すぎなみボイス

7. 中間支援組織を、既存の地域団体で立ち上げる(2025年10月〜2026年2月)

2025年度、区は国土交通省の「民間提案型官民連携モデリング事業」に採択された。同年度は32件の応募から10件が選定され、杉並区はグリーン社会分野で「グリーンインフラに関する官民連携の包括管理・運営サービス」の導入検討先となった。提案者は株式会社建設技術研究所である。 (参考:令和7年度 民間提案型官民連携モデリング事業|国土交通省

区が国に出したニーズ提案書は、課題を率直に書いている。区民にとって緑豊かな暮らしは重要度が高く(区民意識調査で生活環境の評価としてみどりの豊かさを良いとする割合が8割超)、宅地が7割を占める住宅都市では区民との協働が欠かせない。一方で、多数存在する区民・団体の間に横のつながりがまだできていない――と。そのうえで、区民主体の持続可能な体制の在り方を定めること、関係者が情報共有するための情報基盤を既存システム(公開型GIS「すぎナビ」、公民連携プラットフォーム「すぎなみボイス」)を踏まえて構築することを課題に挙げた。 (参考:令和7年度民間提案型官民連携モデリング事業 ニーズ提案書(東京都杉並区)

橋渡し役(中間支援組織)を担ったのは、一般社団法人風致である。この法人は、2013年から善福寺川を「生き物がにぎわい、人々が集う里川」として再生することを目指して活動してきた「善福寺川を里川にカエル会」のメンバーが設立したもので、流域の生き物調査「カエル川しらべ」や川歩きワークショップ、シンポジウムを10年以上続けてきた団体を母体とする。行政が主導したのではなく、地域側の意思が行政との協働を生んだ流れであることを、法人自身が特徴として説明している。プロジェクトは、①相談窓口の開設・対応、②専門家の指導体制確保、③グリーンインフラ事例紹介マップの作成、④認証制度の構築、⑤集い・体験の場の提供・運営の5つの柱で構成された。 (参考:Vol.1 このプロジェクトについて|すぎなみプラスVol.2「すぎなみグリーンインフラ相談ひろば」とは?|すぎなみプラス

このプロジェクトは2025年10月に始まり、2026年2月に期間終了した。相談窓口は「ちょこっと質問」と「しっかり相談窓口」の2段階で構成され、庭の雨庭づくりから地域の水辺への思いまで相談が寄せられた。成果物のひとつ「杉並区グリーンインフラMAP」は、グリーンインフラ事例に加えて、東京都建設局の浸水予想区域図、東京都「水害記録資料集」に基づく浸水被害箇所、流域界、河川、標高段彩を1枚の地図に重ねたもので、自宅周辺に降った雨がどこへ流れるかを確認したうえで雨庭の要否を検討できる構成になっている。プロジェクト終了時点で、MAPの管理は区の所管課に移された。 (参考:「杉並区グリーンインフラMAP」を作成しました。|すぎなみプラス【活動報告】プロジェクト終了と今後|すぎなみプラス

8. 専任担当の設置とガイドラインへ(2026年度)

2026年度、区はグリーンインフラの特設サイトを開設した。「知る」「取り組み」「事例紹介」で構成され、2026年7月30日に相談窓口・雑談ひろば・グリーンインフラMAPが公開されている。相談窓口は一般社団法人風致と株式会社ハビタが運営し、すぎなみプラスから24時間相談を送れる。個人宅の庭の雨庭化、地域の緑化活動、保育施設や学校での雨庭整備といった相談が想定されている。前年度に中間支援組織が試行した機能が、単年度事業の終了後も区の枠組みで継続していることになる。 (参考:グリーンインフラ|杉並区グリーンインフラ相談窓口|杉並区グリーンインフラMAP|杉並区

体制面の変化は、区の公表資料の問い合わせ先から読み取れる。2024〜2025年度のグリーンインフラ関連資料はいずれも都市整備部土木計画課が担当していたが、2026年度に開設された特設サイトの担当は都市整備部管理課都市環境調整担当となっている。治水担当の一部署から、都市環境を横断的に扱う担当へ、所管が移った形である。 (参考:グリーンインフラを活用した取り組み|杉並区グリーンインフラ|杉並区

2026年度の重点は「グリーンインフラガイドライン(仮称)」の策定検討である。区民会議も継続し、今年度はガイドライン素案についての意見交換と、ガイドライン策定後の区民会議の在り方の議論を中心とする。参加者募集は8月頃を予定。あわせて、小学校と連携した出前講座(2025年度の和田小学校とIMAGINUSでの実績を踏まえ、家庭にも学びが広がる工夫を取り入れる方針)、放射5号線の残地、補助132号線、塚山公園、浜田山二丁目アパート、成田西水路といった公共空間での雨庭等の整備が予定されている。区はまた、プロジェクト名を水害対策中心の名称から「みんなのグリーンインフラ 自然を活かしたまちを考えよう!」へ変更した。 (参考:【Vol.20】グリーンインフラの令和8年度の取組について|すぎなみボイス

この事例の特徴

1. 新しい概念を、既存業務の言語に翻訳してから庁内に入れた

グリーンインフラの職員研修は、通常なら「グリーンインフラとは何か」の講義になりやすい。杉並区の研修は、空き家の利活用、耐震化・不燃化、区施設設計、道路維持管理、河川維持管理といった、参加者が現に担当している9つの業務課題を先に置き、それぞれをグリーンインフラで解けないかを検討させる構成だった。効果を体系的に整理したうえで、第2回では区内の具体の空間に落とし込み、工程・実施時期・役割分担まで詰めている。報告書は、これまで漠然と良いものと捉えられていた「みどり」への理解が深まったこと、日々の各課の議論にグリーンインフラの視点が自然と持ち込まれるようになったこと、研修で得た知識を政策立案の過程に反映させようとする意識が生まれたこと、を参加者の変化として挙げている。所属外の職員との接点ができたことも効果として挙げられている。横断組織を先につくるのではなく、既存業務の語彙に翻訳することを先にした設計である。 (参考:先導的グリーンインフラモデル形成支援事業 事業報告(東京都杉並区)

2. 重点分野を、政策の入口ではなく人が動く分野に置き換えた

区がグリーンインフラに入った動機は水害対策である。ところが研修から生まれたロードマップの重点テーマは「環境教育」と「生物多様性」になった。この置き換えは、区民からの反応と整合している。意見募集では、雨水流出抑制の効果を疑う声が出る一方、生き物の棲み処づくりや子どもの教育への期待が多く寄せられた。効果の定量化が難しく批判も受けやすい領域を主戦場にせず、住民の内発的な関心が強い領域を突破口にする。2025年度に位置づけを多面的価値へ広げ、2026年度に小学校との出前講座を主要施策に据えた流れは、この判断の延長線上にある。 (参考:先導的グリーンインフラモデル形成支援事業 事業報告(東京都杉並区)【Vol.14】皆さんよりいただいたご意見について|すぎなみボイス

3. 効果への疑問に、自分に不利なデータを含めて答えた

「効果が不確かなグリーンインフラに税金を使うべきではない」という批判に対し、区は反論ではなく検証で応じた。材料費0円の雨庭ビオトープで約1トンの浸透を確認して公開し、効果の持続性を1か月後・半年後・1年後と追うと約束した。翌年度の第3回ワークショップでは、その約束どおり耕したばかりの土と1か月後の土を比較し、時間の経過で土が固まると浸透量が減少することを公表している。整備した施設の性能が落ちるという結果は、行政にとって短期的には不利である。しかし、未実証の手法を公費で進める局面では、都合の悪い結果も出す姿勢自体が説明の根拠になる。成功例だけを並べる広報では、当初の批判に答えたことにならない。 (参考:【Vol.13】区職員が「雨庭ビオトープ」をつくってみました!|すぎなみボイス雨庭づくり体験型ワークショップを開催しました!|杉並区

4. 中間支援組織を新設せず、10年活動してきた団体を制度に乗せた

区民会議の第3回で参加者が挙げた「中間支援組織」という論点は、翌年度に実際の組織として立ち上がった。ただし新設ではない。2013年から善福寺川で活動してきた市民団体のメンバーが法人化し、国の官民連携モデリング事業という枠組みに乗る形をとった。すでに地域と信頼関係があり、フィールドを持ち、専門性のある主体を制度の受け皿にしたため、立ち上げから半年で相談窓口・MAP・イベント・事例取材まで動いている。行政が中間支援組織をゼロから設計する場合に必要な、信頼と現場知の蓄積期間を省略できた形である。 (参考:Vol.1 このプロジェクトについて|すぎなみプラス【Vol.16】グリーンインフラの今年度の取組について|すぎなみボイス

5. 同名の会議を、毎年ちがう高さの問いで運営した

グリーンインフラ杉並区民会議は2年続けて3回シリーズで開かれたが、問いの階層が毎年変わっている。2024年度は「杉並区らしいグリーンインフラとは何か」というビジョンの議論。2025年度は「区民・企業・行政がどう役割を分担するか」という体制の議論で、講師も市民活動側(NPO)、事業者側(UR都市機構)、学識側(世田谷区の組織体制)と立場を変えて招いた。2026年度は「ガイドライン素案」への意見交換、すなわち制度化の議論になる予定である。会議体を継続することと、議題を同じ高さで繰り返すことは別である。 (参考:【Vol.19】令和7年度グリーンインフラ杉並区民会議を開催!|すぎなみボイス【Vol.20】グリーンインフラの令和8年度の取組について|すぎなみボイス

6. 現場の失敗が、行政の公式チャネルで記録されている

区立済美小学校のビオトープについて、当時の副校長が語った記録が公開されている。校外の道路からビオトープに雨水が流れるよう仕掛けを作ったが、道路の排水性能が高すぎるため、雨水がほぼ池に届かなかった。防水シートを池底に敷いても、乾燥や横漏れ、植栽の吸水で水位はすぐ下がり、結局は毎日水道水を足すことになった。流れがない池はすぐ淀み、子どもは興味を示さない。入口にろ過材を設け、花壇を経由させて池に導く仕組みに変えたところ水が透き通り、メダカやヤゴが見えるようになって子どもが夢中になった――という経緯である。同時に、教員の異動や退職で活動が途切れる懸念と、地域ボランティアによる管理体制の必要性も述べられている。うまくいった話だけでなく、なぜうまくいかなかったかが行政のチャネルに残っている点は、他地域が同じ失敗を避けるうえで実用的な価値がある。 (参考:あまみずが育む命と絆。済美小学校が挑んだ学校グリーンインフラの現場から|すぎなみプラス

調査時点の成果

グリーンインフラガイドラインは調査時点で未策定であり、区全体スケールでの雨水流出抑制効果も示されていない。この事例で確認できるのは、体制と接点が段階的に積み上がったこと、そしてその過程で何が課題として残ったかである。 (参考:【Vol.20】グリーンインフラの令和8年度の取組について|すぎなみボイスグリーンインフラ|杉並区

庁内:共通言語の獲得と、専任担当の設置

都市整備部で若手・中堅を中心に約100名が2回の研修を受け、9つの業務課題を題材にグリーンインフラでの解決策を検討した。報告書は、研修を通じて各課の日常の議論にグリーンインフラの視点が入るようになったこと、政策企画プロセスへの反映意識が生まれたこと、部内の他所属職員との接点ができたことを成果として挙げている。2026年度には都市整備部管理課に都市環境調整担当が置かれ、グリーンインフラ関連の窓口が土木計画課から移った。 (参考:先導的グリーンインフラモデル形成支援事業 事業報告(東京都杉並区)グリーンインフラ|杉並区

計画:ロードマップとポテンシャルマップの作成、みどりの基本計画への反映

「杉並区グリーンインフラ推進ロードマップ」が作成され、重点分野(環境教育・生物多様性)の取組みの方向性と事例、事業推進に向けた課題が整理された。研修の検討成果をもとにしたポテンシャルマップにより、アイデアを区内の空間に落とし込んで具体化することができ、改定作業中だった「杉並区みどりの基本計画」に取り入れる要素の参考になったと報告されている。 (参考:先導的グリーンインフラモデル形成支援事業 事業報告(東京都杉並区)

区民との接点:2年間で延べ数百人規模

2024年度は、講演会45名(応募50名)、浸透実験27名、区民会議24名・34名・28名。2025年度は雨庭ワークショップ38名・25名・27名、区民会議が定員30名程度の抽選で3回。子ども向けでは、IMAGINUSのパネル展が来館者12,824名の館内で20日間開催され、ワークショップに301名(参加者169名、同伴者132名)が参加した。意見募集には2回で計62件の回答が寄せられている。1回あたりの参加規模は数十名にとどまるが、同じ人が複数回関与する設計(全3回参加者を優先する抽選)と、家に持ち帰れる雨庭・雨量計という接点の延長が組み合わされている。 (参考:グリーンインフラを活用した取り組み|杉並区【Vol.18】IMAGINUSでパネル展&ワークショップを開催!|すぎなみボイス

実装:区内7か所の事例が公開されている

区の特設サイトは、区内の取り組みとして井荻小学校、井草地域区民センター、遅野井川親水施設、柏の宮公園、済美小学校、桃井原っぱ公園、和田小学校の7か所を紹介している。うち井草地域区民センターの雨庭ビオトープは材料費0円で区職員4名が1日で施工し、約1トンの浸透を確認。柏の宮公園では区民34名が1時間程度で5か所の雨庭を、桃井原っぱ公園では区民25名が2地区の雨庭を施工した。 (参考:区内の取り組み紹介|杉並区【Vol.13】区職員が「雨庭ビオトープ」をつくってみました!|すぎなみボイス

情報基盤:グリーンインフラMAPと相談窓口が区に定着した

グリーンインフラ事例、浸水予想区域図、過去の浸水被害箇所、流域界、河川、標高段彩を重ねた「杉並区グリーンインフラMAP」が公開され、中間支援組織のプロジェクト終了後は区が運用を引き継いだ。相談窓口も2026年度に区の枠組みで再開している。単年度の民間プロジェクトで試作した機能が、行政の常設機能として残った形である。 (参考:「杉並区グリーンインフラMAP」を作成しました。|すぎなみプラス【活動報告】プロジェクト終了と今後|すぎなみプラスグリーンインフラ相談窓口|杉並区

外部評価と国の事業への連続採択

グリーンインフラ産業展2025のポスター展では、92件の応募のうち表彰された11件に杉並区関連が3件(区土木計画課、上智大学、善福寺川を里川にカエル会)含まれた。国の事業では、2024年度の先導的グリーンインフラモデル形成支援事業に続き、2025年度の民間提案型官民連携モデリング事業(32件の応募から10件選定)にも採択されている。 (参考:【Vol.13】区職員が「雨庭ビオトープ」をつくってみました!|すぎなみボイス令和7年度 民間提案型官民連携モデリング事業|国土交通省

残されている課題

第一に、全庁展開が果たされていない。事業報告書自身が、研修対象が都市整備部にとどまったこと、グリーンインフラが持つ複数の効果を全庁的な政策立案に生かす必要があることを課題として明記している。調査時点で全庁研修の実施は確認できない。 (参考:先導的グリーンインフラモデル形成支援事業 事業報告(東京都杉並区)

第二に、効果の定量化である。第3回ワークショップで、雨庭の浸透量は時間の経過とともに減少することが確認された。維持管理をどう組み込むかが課題として浮上したが、その仕組みは制度化されていない。区全体の雨水流出抑制量といったマクロな効果指標も示されていない。 (参考:雨庭づくり体験型ワークショップを開催しました!|杉並区

第三に、中間支援組織の持続性である。一般社団法人風致のプロジェクトは2025年10月から2026年2月までの期間限定で、すぎなみプラスで180名を超えるフォロワーを得た一方、5つの柱のうち「認証制度の構築」については終了報告に記載がない。MAPと相談窓口は区に引き継がれたが、中間支援機能そのものを誰がどう担い続けるかは、2026年度の試行・検証の段階にある。 (参考:【活動報告】プロジェクト終了と今後|すぎなみプラス

第四に、学校現場での継続性である。済美小学校の記録が示すとおり、教員の異動や退職で活動が途切れる構造的リスクがあり、地域ボランティアによる管理体制の構築が不可欠とされている。 (参考:あまみずが育む命と絆。済美小学校が挑んだ学校グリーンインフラの現場から|すぎなみプラス

第五に、区民の側にも懐疑は残っている。2024年度の区民会議参加者からは、賛否両論があるなかで推進ありきでは進まない、話し合いの場や区民への広報がまだ必要だという趣旨の声が出ていた。 (参考:【Vol.16】グリーンインフラの今年度の取組について|すぎなみボイス

他地域への示唆

1. 新しい概念は、既存業務の棚卸しに掛け算して庁内に入れる

グリーンインフラ、ウェルビーイング、ネイチャーポジティブといった横断的な概念を庁内に導入するとき、概念の講義から始めると「良い話だが自分の業務ではない」で終わりやすい。杉並区は、空き家の利活用から河川維持管理まで9つの既存業務課題を先に並べ、それぞれをその概念で解けないかを担当者自身に検討させた。研修直後から各課の議論に視点が入ったという反応は、この順序に由来する。横断組織や新計画を先につくるより、既存業務の語彙への翻訳を先に済ませるほうが、定着は早い。研修設計としても、外部講師の講義と自部署の課題を組み合わせるだけで再現できる。

2. 政策の入口と、住民と組む戦線は分けてよい

杉並区の入口は水害対策だったが、ロードマップの重点は環境教育と生物多様性になった。効果の定量化が難しく批判を受けやすい領域を主戦場にすると、初期の合意形成でエネルギーを使い果たす。一方、住民の内発的な関心が強い領域から始めれば、実践者が増え、その実践がやがて当初の目的にも効く。ただしこれは目的の放棄ではない。区は水害対策としての位置づけを維持しながら、住民との接点を多面的価値の側に置いた。入口の政策目的と、住民と組むテーマを意図的に分けて設計するという発想である。

3. 未実証の手法を進めるなら、不利なデータを出す仕組みを最初に約束する

「効果が不確かなものに税金を使うな」という批判は、新しい手法を導入する自治体がほぼ確実に受ける。これに対して「国も推奨している」「他自治体でも実施している」と答えても、批判の論点には届かない。杉並区は、効果の持続性を時系列で検証し公表すると約束し、翌年度に「1か月経つと浸透量が落ちる」という自分に不利な結果を公表した。批判に応えるとは、成功例を追加することではなく、検証の枠組みを差し出すことである。そしてこの結果は、維持管理を制度に組み込む必要性という次の議題を生んだ。

4. 中間支援組織は、地域にすでにいる主体を制度に乗せるのが速い

行政が中間支援組織を新設する場合、地域との信頼、フィールドの知見、専門性の獲得に時間がかかる。杉並区は、10年以上活動してきた市民団体が法人化した組織を国の官民連携事業の枠組みに乗せることで、半年間で相談窓口・事例マップ・イベント・現場取材まで動かした。既存団体を探すコストは、組織を育てるコストよりはるかに小さい。ポイントは、その団体に「行政と対等に契約できる法人格」と「予算のつく事業の枠組み」を用意することである。

5. 単年度事業で立ち上げた機能は、終了時の引き継ぎ先を先に決めておく

一方で、国の単年度事業に紐づいた中間支援プロジェクトは半年で終了した。杉並区の場合、成果物であるグリーンインフラMAPと相談窓口が区に引き継がれ、翌年度に区の常設機能として再開している。ここが設計されていなければ、蓄積は事業終了とともに散逸していた。実証事業を組むときは、「何を、誰が、どの予算で引き継ぐか」を開始時点で決めておく。逆に引き継ぎ先が決まらない機能(この事例では認証制度)は、実証段階で立ち消えになりやすい。

6. 会議体を継続するなら、毎年「問いの高さ」を上げる

同じ名前の住民会議を毎年開くこと自体は難しくない。難しいのは、議題が毎年同じ高さに留まって参加者が飽きることである。杉並区の区民会議は、ビジョン(1年目)→役割分担(2年目)→ガイドライン素案(3年目)と、議論の対象を段階的に制度側へ移した。講師の立場も、市民活動・事業者・学識と年ごとに変えている。問いを上げることと、経験者が上位の役割へ移れる導線を用意することはセットで考える必要がある。

7. 学校での実装は、施工より継続の設計が難所になる

学校のビオトープや雨庭は、子どもが参加でき、環境教育と防災を同時に扱える魅力的な題材である。杉並区の済美小学校では、子どもたちの掘削作業が地域とPTAを巻き込む契機になった。しかし記録が率直に示しているのは、道路の排水が良すぎて雨水が池に届かない、防水シートを入れても水位が保てないといった技術的な難しさと、教員の異動で活動が途切れる体制的な難しさである。学校での実装を企画するなら、雨水が実際に届く動線の確認と、地域ボランティアによる管理体制を、施工計画と同じタイミングで設計に含める。

参照元


2026年08月時点の調査内容に基づいて作成

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