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杉並区みどりの基本計画改定
杉並区みどりの基本計画改定

杉並区みどりの基本計画改定

杉並区みどりの基本計画改定

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16年ぶりの全面改定。素案が固まった後に区民ワークショップ4回を挟み、全27取組に「区民等の関わり方(例)」を併記した。未達だった指標を体感指標に入れ替え、認知度と担い手数を新指標に据えた計画づくりの過程を追う。

杉並区みどりの基本計画改定

概要

杉並区は2026年5月、「杉並区みどりの基本計画」を全面改定した。前回の全面改定は2010年5月であり、16年ぶりの改定になる。計画期間は2026年度から2030年度までの5年間、対象区域は区全域3,406ヘクタール。都市緑地法と杉並区みどりの条例に基づく、区の緑地保全・緑化推進の部門別計画である。 (参考:杉並区みどりの基本計画(表紙〜第1章)

改定の作業自体は2023年7月に始まっている。学識経験者と区民で構成する検討委員会が5回開かれ、2024年3月には素案が委員会に示された。当初のスケジュールでは、2024年7月にパブリックコメント、同年11月に全面改定という段取りだった。ところが実際にパブリックコメントが行われたのは2026年3月、改定は同年5月である。約1年半のずれが生じ、その間に当初の工程表になかった区民ワークショップ4回が挟まっている。 (参考:杉並区みどりの基本計画改定 検討委員会(第1回)資料杉並区みどりの基本計画 資料編

できあがった計画を前計画と比べると、施策の数は39から27に整理された一方、純粋な新規取組は1つしかない。代わりに全27取組のすべてに「区民等の関わり方(例)」という欄が新設され、区が何をするかと並べて、区民が何をできるかが同じ紙面に書かれている。指標も5本のうち2本が入れ替わり、うち1本は「グリーンインフラを知っている区民の割合」という認知度そのものを測る指標である。本稿は、計画の中身が固まってからの2年間に何が行われ、それが計画のかたちをどう変えたのかを追う。 (参考:杉並区みどりの基本計画(第3章)杉並区みどりの基本計画(第4章)

背景・課題

15年かけて、3つの目標のうち2つが未達だった

前計画は2010年に策定され、目標年次を2032年に置いて3つの数値目標を掲げていた。緑被率25パーセント、公園や広場に満足している区民の割合80パーセント、接道部緑化率30パーセントである。改定にあたって区がまとめた達成状況は、率直と言っていいものだった。 (参考:杉並区みどりの基本計画 資料編

緑被率は、2022年度のみどりの実態調査で21.99パーセント。策定時の21.84パーセントから0.15ポイントの上昇にとどまり、目標には遠い。公園や広場に満足している区民の割合は、2024年度の区民意向調査で80.0パーセントとなり、策定時の72.0パーセントから伸びて目標を達成した。問題は3つ目である。接道部緑化率は22.68パーセントで、策定時の23.03パーセントから0.35ポイント下がった。15年かけて、目標に近づくどころか後退していた。 (参考:杉並区みどりの基本計画 資料編

区が挙げた原因は施策の不足ではなく、土地の細分化という構造要因だった。相続などで敷地が分割されるたびに、道路に接する部分に生け垣や植込みを置く余地が減っていく。区内では敷地面積300平方メートル未満の建築行為が大多数を占めるため、300平方メートルを下限とする緑化地域制度を導入しても効果は低いと判断され、前計画期間中に検討はされたが導入には至っていない。 (参考:杉並区みどりの基本計画 資料編

区の緑の7割は民有地にあり、年1ヘクタールずつ失われる

杉並区の緑被地面積は749ヘクタール。うち公有地が約3割、民有地が約7割を占める。内訳を見ると、一戸建て住宅が267ヘクタール、アパート・マンションが119ヘクタール、公園87ヘクタール、道路・鉄道78ヘクタール、学校・幼稚園42ヘクタール、農地39ヘクタールという構成になっている。区が緑をどうするかを決めても、実際に緑を持っているのは住民と地権者だという構造である。 (参考:杉並区みどりの基本計画(第2章)

そしてその民有の緑は減り続けている。2007年度の523.73ヘクタールから2022年度の503.38ヘクタールへ、年およそ1ヘクタールずつの減少である。象徴的なのが屋敷林と農地で、屋敷林は2007年度の31.42ヘクタールから2022年度の16.01ヘクタールへとほぼ半減し、農地は2005年度の53.80ヘクタールから2023年度の37.40ヘクタールへ16.40ヘクタール減った。1993年度の農地面積77.3ヘクタールと比べると、30年で半分以下になっている。第2回ワークショップでは、平成24年と令和4年の航空写真を並べ、一つの屋敷林が18戸の一戸建てに変わった事例が示された。 (参考:杉並区みどりの基本計画(第2章)杉並区みどりの基本計画改定ワークショップ(第2回)説明資料

減少の理由は、所有者の負担にある。剪定や落ち葉掃きの手間、相続時の税負担、そして近隣からの苦情。区政モニターアンケート(2022年8〜9月、153人回答)でも、屋敷林・農地を守る取組として効果があると考えられたのは「維持管理に補助金を出す」26.8パーセント、「固定資産税、相続税等の税金を軽減する」24.2パーセント、「用地買収して公園緑地として整備する」22.2パーセントと、負担の肩代わりを求める回答が上位を占めた。同じ調査で、区内の緑が「減っていると思う」区民が挙げた対象は「戸建住宅のみどり」「屋敷林など民有地の樹林」が多く、減少は区民が体感できるほど顕著だと区は分析している。 (参考:杉並区みどりの基本計画 資料編

「実行性に乏しい取組も散見される」という自己評価

改定の必要性を検討委員会に説明した資料で、区は改定理由として都市緑地法の改正、気候危機・生物多様性・グリーンインフラといった社会情勢の変化、2022年度みどりの実態調査の結果反映などを挙げたうえで、こう書いている。現行計画では実行性に乏しい取組も散見され、優先的に実行していく取組を明確化した計画とする必要がある、と。5つの基本方針に39施策をぶら下げた「みどり39プラン」という構成そのものが、見直しの対象に入っていた。 (参考:杉並区みどりの基本計画改定 検討委員会(第1回)資料

担い手の側にも懸念があった。区の緑に関わるボランティアは、花咲かせ隊136団体1,099人、すぎなみみどり育て組43団体648人、みどりのボランティア杉並1団体56人、区認定みどりのボランティア団体12団体289人の計192団体2,092人(2025年4月時点)。人数としては小さくないが、前計画の評価では「ボランティアの高齢化に伴い、持続的な活動に課題がある」「休止、解散する団体が一定数あり、持続的な活動に懸念がある」と明記されていた。 (参考:杉並区みどりの基本計画(第2章)杉並区みどりの基本計画 資料編杉並区みどりの基本計画改定 検討委員会(第1回)資料

取り組みのプロセス

1. 専門家委員会と庁内二層組織を同時に立ち上げる(2023年7〜8月)

2023年7月5日、検討委員会の幹事会(課長級)と部会(係長級以下)の第1回が同日に開かれ、改定作業が始まった。区民に見える検討委員会の第1回はその約2か月後の8月28日、平日の午後6時からである。 (参考:杉並区みどりの基本計画 資料編杉並区みどりの基本計画改定 検討委員会(第1回)資料

委員会の構成は、要綱で学識経験者4名以内、区民6名以内と定められていた。実際の顔ぶれは、学識経験者等として都市基盤環境(東京都立大学名誉教授)、園芸学(千葉大学准教授)、樹木(公益財団法人日本花の会 特任研究員)、緑のNPO(NPO法人Green Connection TOKYO 代表理事)の4名。これに公募区民2名、保護樹木等・農地所有者1名、農業委員会委員1名、都立農芸高等学校緑地環境科の実習助手1名が加わる構成である。民有地の緑が論点の中心になることを見越して、実際に緑を持ち、管理している当事者を委員に入れている。さらにアドバイザーとして、国土交通省都市局公園緑地・景観課の緑地環境室長と、東京都都市整備局の緑地景観課長が加わった。区の計画づくりの場に、国と都の担当者が直接助言者として座る形である。 (参考:杉並区みどりの基本計画 資料編

庁内側は、幹事会に企画課、産業振興、都市整備部の各課、環境課、温暖化対策担当、教育委員会事務局庶務課が入り、部会には関係所管課職員13名が参加した。緑が土木・公園の所管に閉じないよう、環境と教育を最初から巻き込んだ設計になっている。 (参考:杉並区みどりの基本計画 資料編杉並区みどりの基本計画改定 検討委員会(第1回)資料

2. 意見収集のチャネルを並べて、反応の差が出た(2023年10〜12月)

委員会が改定の視点と基本方針を議論するのと並行して、区は区民からの意見収集を4つの方法で同時に走らせた。結果は方法によってはっきり分かれている。

  • Webアンケート(ロゴフォーム):10月25日から12月9日まで実施。回答は26名。
  • オープンハウス型懇談会1回目:11月9日(木)9時から12時、柏の宮公園。来訪者35人。
  • オープンハウス型懇談会2回目:12月2日(土)10時から15時、井草森公園。来訪者132人。
  • 聴っくオフミーティング:12月9日(土)、区役所本庁舎で区長と区民が意見交換。参加者40名。

土曜日で開催時間が長かった2回目のオープンハウスに条件面の有利さはあるものの、公園に出向いて開いた2回の懇談会の来訪者167人に対し、Webアンケートの回答は26名。同じ期間、同じテーマで募っての差である。一方、専門家が議論する検討委員会は公開で行われたが、傍聴者は第1回から第4回まで各3名、第5回は1名だった。 (参考:杉並区みどりの基本計画 検討委員会(第3回)資料杉並区みどりの基本計画検討委員会(第5回)会議記録

意見の内容も、専門家の議論とは異なる位相にあった。「みどりの増減は気候変動とは関係ない」「善福寺川の氾濫をグリーンインフラで抑えることはできない」といった前提への疑義、「緑被率は練馬区が26パーセントなので27パーセント以上にした方が良い」「なぜ25パーセント以上に上げるのか理由・必要性がわからない」という目標値への問い、「利用ルールの自由化を盛り込んでほしい」「建築に伴う緑化計画の提出義務など民有地に利用を強制するのは権利の侵害だ」という利害の主張まで幅がある。区はこれらを検討委員会の資料として整理し、賛否を問わず並べて提示した。 (参考:杉並区みどりの基本計画 検討委員会(第3回)資料

このほか、2023年8月23日に小学生アンケート、12月15日から2024年1月23日まで「みどりが好きか」「みどりを増やすにはどうしたらよいか」を問う子どもの意見募集が行われている。 (参考:杉並区みどりの基本計画 資料編

3. 素案が委員会に示され、そこで一度止まる(2024年3月〜2025年3月)

2024年3月27日の第5回検討委員会に、素案が提示された。表紙から資料編までを通した審議で、委員からは細かい指摘が続いている。

図解の伝わり方については、洪水リスクの図が「洪水と緑の関係がつながっていない」、屋敷林があることで水が浸み込むという流れの方がよい、といった指摘。緑被率25パーセント達成に必要な面積を「布団1枚分」「乗用車0.3台分」に置き換えた説明には、布団は面積の目安、乗用車は緑化の方法を示すものであり、性格の異なる二つをイコールで結ぶと分かりづらいという批判が出て、区も改善が必要だと認めている。

より本質的だったのは、民有地所有者への配慮を求める意見である。都市の中での緑の「弊害」という表現について、委員は「土地所有者の方は、残したくても苦情や要望で残しづらいし、つらい思いをしています」「苦労して残しているのに」と述べ、この計画を読む所有者が保護樹木や樹林は弊害だという気持ちにならないよう表現を工夫すべきだと求めた。緑地の7割を民有地に頼る計画では、所有者自身が読者であるという指摘である。

計画の推進体制についても、委員から「江東区、板橋区では、推進会議を設けて、地域のステークホルダーと共に進めています」「計画後も区民と一緒に進めていくために、第三者委員会を設置するとよい」「理想をいうと、エリアごとに地域と一緒に考える推進会議を設けるのがよい」という提案が出た。事務局は、庁内会議で継続する方法と第三者委員会を設ける方法があると答えるにとどまっている。 (参考:杉並区みどりの基本計画検討委員会(第5回)会議記録

第5回をもって検討委員会は開催を終える。2024年度に開かれたのは10月11日の幹事会・部会1回だけで、議題は「これまでの検討経緯」「みどりの基本計画改定の考え方」「みどりの基本計画の骨子(案)について」「今後の改定スケジュール」だった。当初予定されていた2024年7月のパブリックコメントと11月の改定は行われていない。 (参考:杉並区みどりの基本計画 資料編杉並区みどりの基本計画改定 検討委員会(第1回)資料

4. 区民ワークショップ4回:計画を書く場から、担い手をつくる場へ(2025年5〜8月)

2025年5月10日、当初の工程表になかった「杉並区みどりの基本計画改定ワークショップ」の第1回が開かれた。副題は「みどりの未来をみんなで描こう」。区が示した目的は、区民とともにつくる計画とすること、区民が考え、ともにできることを取組に盛り込むこと、そして「みどりに関わるひとを増やし、取組の輪を拡げたい」という3点だった。計画の文章を直すためではなく、計画を実行する人を増やすための場として設計されている。 (参考:杉並区みどりの基本計画改定ワークショップ(第1回)説明資料

回ごとの内容は次のとおりである。

第1回(5月10日)「わたしとみどりについて」

自己紹介とアイスブレイクから始め、みどりの基本計画とは何か、区の緑の現状と課題を共有した。参加者アンケートには「小学生にしては難しかった」「立場や居住エリアもちがう人たちの話を聞けておもしろかった」といった声が残っており、小学生から高齢者まで、居住地域も立場も異なる参加者が混在していたことが分かる。

第2回(5月31日)当事者と、先行する参加の場の経験者を呼ぶ

屋敷林・農地の所有者とそのサポーターが自らの現状と苦労を語り、続いて「グリーンインフラ杉並区民会議」と「杉並区気候区民会議」に参加した区民が、それぞれの会議の様子を報告した。区は冒頭で、第1回アンケートに寄せられた質問――公園や広場に満足している区民の割合はどう調べているのか、緑被率25パーセントに達していないが川などの水面を含めれば25パーセント以上あるのではないか、屋敷林の減少を航空写真で見せてほしい――に一つずつ回答している。水面を含む「みどり率」は2022年度で23.17パーセント(2017年度22.86パーセント)であることも示された。 (参考:杉並区みどりの基本計画改定ワークショップ(第2回)説明資料杉並区みどりの基本計画改定ワークショップ(第2回)配布資料

第3回(7月5日)「自分は何ができるか」に踏み込む

グループワークの問いは「参加者のみどりに対する行動ときっかけ」「自分は何をしてほしいか、自分には何ができるか」。第1回の説明資料では、この回のお題として「自分ができること」「自分たち(仲間)でできること」に加え、「仲間の増やし方」が挙げられ、仲間の種類をプロデューサー・プレーヤー・コラボレーターの3つに分けて考えることが示されていた。参加者を「協力する人」で終わらせず、役割の違う担い手として類型化する枠組みである。

第4回(8月9日)「探そう、夢中になれること」

参加者自身の緑との関わりについて、自分がやってみたいことを話し合った。第1回説明資料では、この回で「自分たちで取組指標」を区民目線で分かりやすくつくることが想定されていた。 (参考:杉並区みどりの基本計画 資料編杉並区みどりの基本計画改定ワークショップ(第1回)説明資料

当初の説明資料では、参加者自身がテーマを選ぶ第5回(期日未定)も構想されていたが、計画に記録されたワークショップは4回である。この期間、区は公民連携プラットフォーム「すぎなみボイス」でも2回の意見募集を行っている(2025年8月「日々の暮らしの中で、みどりの効果をどのように感じていますか」、2026年1月「みどりのために私ができることとは」)。2回目の問いが、区への要望ではなく自分の行動を尋ねるものになっている点は、ワークショップの問いの立て方と揃っている。 (参考:杉並区みどりの基本計画 資料編

5. パブリックコメントと決定(2026年3〜5月)

2026年3月15日から4月14日までの31日間、改定案について意見提出手続きが実施された。公表方法は広報すぎなみ3月15日号、区公式ホームページ、みどり公園課・区政資料室・区民事務所・図書館での文書閲覧。提出は個人55件(団体0件)、延べ151項目で、内訳はホームページ49件、電子メール4件、窓口2件だった。 (参考:「杉並区区民等の意見提出手続」の結果報告書

区は意見の全文と区の考え方を公開し、計画に反映させた意見には網掛けを付して示した。反映された修正には次のようなものがある。生物多様性についてより分かりやすい記述への修正(計画58ページ)と、緑化指導の項への生物多様性の記述追加(49ページ)。木陰の創出とみどりのベルトづくりにおける暑熱対策の記述追加・修正(46・50・61ページ)と、改定の視点における気候危機の記述修正(21ページ)。公園改修後にボランティアへの参加を促す記述の修正(52ページ)と、区とボランティア団体が協働して維持管理に携わる記述の修正(68ページ)。樹木が通行の妨げにならないことを含めた安全性確保の記述修正(46・61・81ページ)。都市計画道路への反対意見のように所管が異なるものは、所管部署に共有した旨を回答している。 (参考:(別紙1)区民等の意見の全文と区の考え方

2026年4月17日の部会と4月24日の幹事会で意見提出手続きの実施状況と修正内容が確認され、同年5月、計画が改定された。 (参考:杉並区みどりの基本計画 資料編杉並区みどりの基本計画(表紙〜第1章)

この事例の特徴

全27取組に「区民等の関わり方(例)」を併記した

改定後の計画は、3つの基本方針(みどりの充実/みどりの活用/みどりへの行動)の下に27の取組を置く。各取組のページは決まった書式で、リード文、「区の取組」、そして「区民等の関わり方(例)」の3ブロックからなる。この最後のブロックが今回の新設で、区の取組や制度を活用して区民に関わってほしい内容が、区の施策と同じ紙面に並記されている。 (参考:杉並区みどりの基本計画(第4章)

たとえば「Ⅰ-1-1 地域で支える屋敷林等の保全」では、区の取組として所有者連絡会での保全策の協議、特別緑地保全地区や市民緑地契約制度の活用支援、ボランティア活動の環境整備、国や都への税制見直しの働きかけが並ぶ。その下の区民等の関わり方には「屋敷林等は区民共有の資産であり、落ち葉や日照について理解します」「屋敷林等の支援に関するボランティア活動に参加します」「屋敷林所有者連絡会に参加し、保全制度等について理解、活用します」と書かれる。落ち葉や日照は、屋敷林が減る直接の原因になってきた近隣トラブルの中身そのものである。それを「理解します」という区民側の行動として計画本文に書き込んだ点が、この欄の性格をよく表している。 (参考:杉並区みどりの基本計画(第4章)

施策は39から27へ整理されたが、純粋な新規は1つだけ

各取組には前計画との関係が明記されている。内訳は新規1、拡充15、継続11。新規はグリーンインフラの導入を支援する制度(駐車場緑化・自転車駐車場緑化・雨庭など)を検討・実施する「Ⅱ-1-3 みどりの機能を活用した施設に対する支援制度」のみである。 (参考:杉並区みどりの基本計画(第4章)

つまりこの改定は、新しい事業を並べることでは行われていない。既存の27の取組それぞれについて、区民がどこから入れるかを書き直すことが改定の実質だった。第1回検討委員会で区が掲げた「実行性に乏しい取組も散見される」という課題認識に対する答えが、取組の入れ替えではなく関わり方の明示だったことになる。 (参考:杉並区みどりの基本計画(第4章)杉並区みどりの基本計画改定 検討委員会(第1回)資料

達成できない指標を惰性で引き継がず、体感指標に入れ替えた

新計画の指標は5本ある。緑被率、平均緑視率、公園や広場に満足している区民の割合、グリーンインフラを知っている区民の割合、みどりに関する登録団体に属している人数。前計画から引き継いだのは緑被率と満足度で、15年で後退した接道部緑化率は指標から外された。 (参考:杉並区みどりの基本計画(第3章)杉並区みどりの基本計画 資料編

代わりに入った平均緑視率は、歩行者の視点(高さ1.5メートル)から撮影した画像に占める緑の割合で、区内71地点の平均は2022年度で20.09パーセント。国土交通省の社会実験で25パーセント以上になると「緑が多い」「安らぐ」「歩きたくなる」と感じる人が増えるとされることを根拠に、計画期間内に25パーセントを目指す。区は入れ替えの理由を、緑視率は「人の視点に立って、日常的にどれだけみどりを感じられるか」を直接的に捉えられ、体感的な豊かさを反映できるからだと説明している。 (参考:杉並区みどりの基本計画(第3章)杉並区みどりの基本計画 資料編

接道部緑化率が改善しなかった原因は敷地の細分化という、緑化施策の側からは動かしにくい構造にあった。それを認めたうえで、供給側の指標(道路に接する部分をどれだけ緑化したか)から、受け手側の指標(歩いていてどれだけ緑が見えるか)へ測定点を移した形になる。 (参考:杉並区みどりの基本計画(第3章)杉並区みどりの基本計画 資料編

「認知度」と「担い手の実数」を指標に立てた

残る2本はさらに性格が異なる。「グリーンインフラを知っている区民の割合」は、現時点で数値が存在しない。区民意向調査に設問を新設して測り始めるところからの指標で、目標値も「上昇」とだけ書かれている。緑の機能を活かすには区民と事業者がその価値と仕組みを理解して行動する必要があり、認知度の向上が活用や整備を促進する前提になる、という理屈である。 (参考:杉並区みどりの基本計画(第3章)

「みどりに関する登録団体に属している人数」は2,092人から2,300人へ。前計画の評価でボランティアの高齢化と団体の休止・解散が課題として挙がっていたことへの直接の応答で、面積でも満足度でもなく、動く人の頭数を目標に据えている。 (参考:杉並区みどりの基本計画(第3章)

面積指標(緑被率)、体感指標(緑視率)、満足度指標、認知指標、担い手指標。ひとつの計画に性格の違う5本を並べ、それぞれに寄与する取組番号を明示する構成になっている。 (参考:杉並区みどりの基本計画(第3章)

目標を世帯単位に翻訳し、その翻訳の質を委員会が詰めた

緑被率を21.99パーセントから24.7パーセントに上げるには、約92.3ヘクタールの増加が要る。計画はこれを土地利用別に分解し、公園プラス15.63ヘクタール、民有地プラス17.79ヘクタール、学校プラス1.81ヘクタール、公共公益施設プラス0.79ヘクタール、道路プラス0.67ヘクタール、河川・水路プラス0.5ヘクタール、農地マイナス3.13ヘクタールという内訳を示した。農地だけがマイナスで置かれているのは、減少抑制と公有地化を進めても純減は避けられないという前提を明示したものである。 (参考:杉並区みどりの基本計画(第3章)

さらに緑被率1パーセント分(約34.06ヘクタール)を区内339,844世帯(2025年11月時点)で割り、1世帯あたり約1平方メートルという目安に換算している。第5回検討委員会では、この種の換算をめぐって「布団1枚分は分かりやすかった」という評価と、「1棟あたり2.2平方メートルという表現は、他の自治体でも見たことがないので、頭に入りにくい」「駐車場1区画の標準の大きさがあるので、それで示してはどうですか」という具体案が交わされた。目標の翻訳のしかたそのものを、専門家が議題として詰めている。 (参考:杉並区みどりの基本計画(第3章)杉並区みどりの基本計画検討委員会(第5回)会議記録

地理的な地域別方針を外し、生活場面別の協働イメージに置き換えた

2024年3月の素案は6章構成で、第5章に「方針図」が置かれていた。公園等の整備現況図、エコロジカルネットワーク現況図、農地現況図、災害に関する現況図を重ね合わせ、7つの地域それぞれの特性を踏まえた施策を設定する、という組み立てである。前計画にも第5章「地域別方針」があった。 (参考:(別紙1)みどりの基本計画素案第5章〜第6章

改定後の計画は5章構成で、この地域別方針の章がない。代わりに第5章「実現に向けて」の後半に「協働により実現するみどりのイメージ」が置かれ、「住宅街」「商店街」「屋敷林・農地」「公園」「学校」「河川」「道路」の7つに分けて、協働によって実現するまちの姿が描かれる。7つという数は同じだが、区分の軸が地理から生活場面に変わった。地図上のどこに何をするかではなく、どんな場所でどう関われるかを示す構成である。区民が「じぶんごと」として行動することを計画の眼目に据えた改定の方向と、章立ての変更は整合している。 (参考:杉並区みどりの基本計画(第5章)

一方で、地域ごとの現況分析が本編から消えた影響は評価が分かれうる。緑視率の地域別データは資料編に残るが、地域単位の方針は計画本文にはない。第5回検討委員会で委員が提案した「方針図を参考に各地域の方々と話し合いの場を設ける」という展開は、章の削除により計画上の足場を失ったことになる。

先行する参加の場の経験者を、次の計画づくりの語り手として再登板させた

第2回ワークショップの登壇者は、屋敷林・農地の所有者とサポーター、そして「グリーンインフラ杉並区民会議」と「杉並区気候区民会議」の参加者だった。いずれも杉並区が別の文脈で先に開いていた参加の場である。気候区民会議は、無作為抽出で選ばれた区民77人が2024年3月から8月まで全6回にわたり議論し、「エネルギー」「循環型社会」「みどり」「交通」の4テーマで33項目の意見提案をまとめた会議だった。第1回ワークショップの説明資料では、この気候区民会議のテーマ「みどり」についての提案(保護樹木、主体づくり、みどりの質・機能、新たな指標、区民の関わり方)が、今回の計画で扱う論点の見取り図としてそのまま提示されている。 (参考:杉並区気候区民会議の概要|杉並区杉並区みどりの基本計画改定ワークショップ(第1回)説明資料杉並区みどりの基本計画改定ワークショップ(第2回)説明資料

参加の場は、終わればそこで解散するのが普通である。杉並区はそれを、次の計画づくりの語り手という役割で再び登場させた。行政職員が制度を説明するのではなく、同じ立場で先に経験した区民が語ることになるため、新しい参加者にとっての心理的な距離が変わる。過去の参加事業の記録を、人の形で持ち越す方法である。

進行管理にPDCAとOODAを併記した

計画の進行管理は、PDCAサイクルに加えてOODA(観察・状況判断・決定・行動)ループを併用すると明記された。中長期の視点が欠かせない緑の施策はPDCAで継続的に改善しつつ、気候変動による猛暑・豪雨への対応、物価高騰への対応、利用者ニーズの変化による公園管理のあり方などは短期的にスピード感をもって対応する、という使い分けである。 (参考:杉並区みどりの基本計画(第5章)

ただし第5回検討委員会で複数の委員が求めた、計画策定後も区民とともに進めるための第三者委員会や地域別の推進会議については、計画本文に記載がない。区民・事業者・行政の役割は整理されたが、それを継続的に突き合わせる常設の場は、この計画では制度化されなかった。 (参考:杉並区みどりの基本計画(第5章)杉並区みどりの基本計画検討委員会(第5回)会議記録

調査時点の成果

計画は2026年5月に改定・公表され、2026年度から運用に入った。指標の達成状況はこれからの評価となるため、現時点で確認できるのは計画づくりの過程で生じた結果に限られる。

計画そのものの成果物

3基本方針・27取組(新規1・拡充15・継続11)で構成され、全27取組に「区民等の関わり方(例)」が併記された。前計画の5基本方針39施策から整理されている。指標は5本で、計画期間内の目標値は緑被率24.7パーセント、平均緑視率25.0パーセント、公園や広場に満足している区民の割合85.0パーセント以上、グリーンインフラを知っている区民の割合は上昇、みどりに関する登録団体に属している人数2,300人。緑被率25パーセントは前計画から引き継ぐ将来目標として維持された。 (参考:杉並区みどりの基本計画(第3章)杉並区みどりの基本計画(第4章)

参加のチャネル別の実績

2023年度の意見収集は、Webアンケート26名、公園でのオープンハウス2回で計167人(35人・132人)、区長との聴っくオフミーティング40名。同時期の検討委員会の傍聴者は各回3名(最終回は1名)。2025年度の区民ワークショップは4回開催。2026年のパブリックコメントは個人55件・延べ151項目(ホームページ49件、電子メール4件、窓口2件)で、団体からの提出は0件だった。 (参考:杉並区みどりの基本計画 検討委員会(第3回)資料杉並区みどりの基本計画検討委員会(第5回)会議記録「杉並区区民等の意見提出手続」の結果報告書

パブリックコメントによる計画修正

55件151項目の意見のうち、計画に反映された修正が複数明示された。生物多様性の記述の平易化と緑化指導への追記、木陰の創出・みどりのベルトづくりにおける暑熱対策の記述追加、改定の視点における気候危機の記述修正、公園改修後のボランティア参加を促す記述と区・ボランティア団体の協働に関する記述の修正、樹木が通行の妨げにならないことを含む安全性確保の記述修正などである。意見と区の考え方は全文が公開された。 (参考:(別紙1)区民等の意見の全文と区の考え方

前計画の到達点(改定の出発点)

15年間の実績として、緑被率21.99パーセント(目標25パーセント、策定時21.84パーセント)、公園や広場に満足している区民の割合80.0パーセント(目標80パーセント、策定時72.0パーセント)、接道部緑化率22.68パーセント(目標30パーセント、策定時23.03パーセント)。都市公園等面積は2007年度から2024年度までに約35.2ヘクタール増えて133.5ヘクタールとなった一方、区立公園の約8割は開園から30年以上が経過している。安定した緑地の割合は54.6パーセント(311.35ヘクタール/緑地面積570.29ヘクタール)。 (参考:杉並区みどりの基本計画(第2章)杉並区みどりの基本計画 資料編

留意点

当初の工程は2024年7月にパブリックコメント、同年11月に改定というものだった。実際には約1年半後ろにずれている。この間に区民ワークショップ4回が実施され、計画には「区民等の関わり方(例)」が加わり、地域別方針の章が外れたが、遅れとワークショップ追加の因果関係を区が説明した資料は確認できていない。またワークショップの参加者数や第3回・第4回の資料は公開されておらず、参加規模を検証することはできない。

他地域への示唆

1. 達成できない指標は、原因が構造にあるなら測定点ごと動かす

接道部緑化率が15年で0.35ポイント下がったのは、施策の量ではなく敷地細分化という構造の問題だった。杉並区はこの指標を静かに継続するのでも目標値を下げるのでもなく、指標から外し、歩行者が体感する緑の量(平均緑視率)に置き換えた。供給側で測っていたものを受け手側で測り直す判断である。前計画の指標を惰性で引き継ぐと、達成できない理由を毎年書き続けることになる。指標を替えるときは、なぜ前の指標では動かせなかったのかを公開の場で説明できるかが分かれ目になる。

2. 意見を集めたいなら、住民が来る場所に出向く

同じ期間・同じテーマで、Webアンケート26名に対し、公園で開いたオープンハウス2回は167人。緑や公園のように現場が明確なテーマでは、募集ページを開設して待つより、対象空間そのものに机を出す方が桁違いに人が集まる。公開の専門家委員会の傍聴が毎回3名だったことと合わせると、「開いている」ことと「届いている」ことは別だと分かる。会議の公開は説明責任の担保として必要だが、意見収集の手段としては期待できない。

3. 計画本文に「住民側の行動」の欄をつくると、書ける施策の性質が変わる

「区の取組」だけを書く計画は、区が予算と権限で実行できることしか書けない。杉並区は27取組すべてに「区民等の関わり方(例)」を置いたことで、「落ち葉や日照について理解します」のように、行政が単独では絶対に実現できないが計画の成否を左右する事柄を、計画上の位置を与えて書けるようになった。これは体裁の話ではない。民有地が緑の7割を占めるような、実行主体が行政の外にある分野では、住民側の行動を書く欄がないこと自体が計画の実効性を縛る。欄をつくることは、行政の守備範囲を正直に線引きすることでもある。

4. 素案ができてからの時間の使い方が、計画の性格を決めることがある

杉並区の場合、計画の内容は2024年3月の素案でほぼ固まっていた。そこから決定までの2年間に行われたのは、内容の追加ではなく、区民ワークショップ4回と各取組への関わり方欄の追記である。純粋な新規取組は1つしかない。専門家委員会は「何を書くか」を決める場としてよく機能するが、「誰が実行するか」を決める場にはなりにくい。両方が要る計画では、会議体を替えて二段階に分ける設計があり得る。ただし、その分だけ策定は遅れる。何を得るために遅らせるのかを、事前に説明できる形にしておく必要がある。

5. 過去の参加事業の「経験者」は、次の計画づくりの資産として使える

気候区民会議やグリーンインフラ区民会議の参加者を、次のワークショップの語り手として登壇させた設計は、特別な人材や予算を要さず、参加の場を複数持つ自治体であればどこでも再現できる。行政職員が説明する内容を、同じ立場の区民が経験として語り直すだけで、新しい参加者の受け取り方は変わる。参加者名簿を単発事業の記録として閉じず、次の場への出演者リストとして扱えるかどうかは、運用上の判断でしかない。

6. 関わり方を書き込むほど、続きを議論する場が要る

第5回検討委員会で複数の委員が、策定後も区民とともに進めるための第三者委員会や地域別の推進会議を求めたが、計画には常設の場が位置づけられなかった。全取組に「区民等の関わり方」を書き込む計画は、書いた分だけ、それが実際に起きているかを住民と突き合わせる場を必要とする。進行管理をPDCAとOODAで整理することと、誰と一緒に回すかを決めることは別の問題である。関わり方を明示する方式を採る自治体は、明示した相手と定期的に向き合う場を同じ計画の中で決めておくことを検討したい。

参照元


2026年08月時点の調査内容に基づいて作成

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