
次期長野市総合計画策定とデジタルプラットフォーム「Nagano Canvas」による市民参加
長野市が2027年度開始の次期総合計画策定にあたり、無作為抽出6,000人への市民アンケート、全児童生徒対象アンケート、多世代の作業部会、デジタルプラットフォーム「Nagano Canvas」を組み合わせて市民参加を進めている取り組み。
長野市は、令和9年度(2027年度)を初年度とする次期長野市総合計画の策定にあたり、2025年8月にデジタルプラットフォーム「Nagano Canvas〜つながる、ひろがる、みんなの声〜」を開設した。市民は時間や場所に縛られずオンライン上で市の検討状況を確認し、意見を投稿できる。 (参考:デジタルプラットフォーム「Nagano Canvas」による意見聴取 - 長野市公式ホームページ)
Nagano Canvasは次期計画づくりにおける複数の参加チャネルの一つに位置づけられている。長野市は無作為抽出した市民6,000人へのアンケート、市内公立小中高生全員を対象とした児童生徒アンケート、多世代・多分野で構成される作業部会(ひと部会・まち部会・産業部会)によるワークショップも並行して実施し、複数の手法を組み合わせて次期計画の方向性を検討している。2026年8月時点で、Nagano Canvasでは4回目となるテーマ別の意見募集が進行中であり、総合計画審議会での検討も継続している。 (参考:次期長野市総合計画について(令和9年度〜) - 長野市公式ホームページ、Nagano Canvas プロジェクトページ - my groove)
長野市の現行計画である第五次長野市総合計画(平成29年度〜令和8年度)は令和8年度で計画期間が終了する。次期計画の背景には人口減少がある。令和5年に国立社会保障・人口問題研究所がまとめた推計によれば、長野市の総人口は2060年時点で約27万4千人になる見通しであり、市はこの推計を踏まえて令和7年4月に「長野市人口ビジョン」を改訂した。 (参考:次期長野市総合計画について(令和9年度〜) - 長野市公式ホームページ、長野市人口ビジョンを改訂しました - 長野市公式ホームページ)
次期計画は、人口が減る局面にあっても一人ひとりが幸福を実感しながら暮らせる状態、いわゆる「ウェルビーイング」の実現を目標に掲げており、誰もが読みやすい構成、データに基づく戦略的アプローチ、幅広い市民参画の実現を重視する方針が示されている。 (参考:Nagano Canvas「長野市のこれまでとこれから」記事 - my groove)
第五次総合計画では、豊野防災交流センターや災害支援ターミナルの整備といった防災分野の拠点整備、「みらいハッ!ケン」プロジェクトや教育支援センター「SaSaLAND」の開設といった子育て環境整備が進められてきた。次期計画は、こうした現行計画の到達点を踏まえつつ、気候変動や人口減少への対応、幅広い市民参画をどう実現するかが課題となっていた。 (参考:Nagano Canvas「長野市のこれまでとこれから」記事 - my groove)
次期計画の検討は長野市総合計画審議会を中心に進められており、その下部組織として「ひと部会」「まち部会」「産業部会」の3つの作業部会(分科会)が設置されている。各部会は年代・分野を問わない市民で構成され、2025年11月17日(産業部会)、18日(まち部会)、19日(ひと部会)にそれぞれ市役所で約2時間のワークショップを開催した。参加者は3〜4人程度の小グループに分かれ、「住みたい"まち"ってどんな"まち"?」をテーマに、ひと部会は「こども・若者」「教育」「福祉」「健康・医療」、まち部会は「環境」「防災・安全」「コミュニティ」「都市整備」、産業部会は「文化芸術・観光」「スポーツ」「商工業」「農林業」という分野別の切り口で議論した。とりまとめ結果はPDFとして公開されるとともに、Nagano Canvas上でも共有されている。 (参考:次期長野市総合計画について(令和9年度〜) - 長野市公式ホームページ、第3回作業部会(ワークショップ後編) - 長野市公式ホームページ)
2025年5月1日〜22日には、満18歳以上の長野市民6,000人を令和7年4月1日時点の住民基本台帳から無作為に抽出し、紙とWEBを併用した市民アンケートを実施した。続く同年10月1日〜17日には、市内の公立小中学校・高等学校に通う全児童生徒を対象としたWEBアンケートを実施し、将来この計画期間を実際に生きる子ども・若者の声も収集の対象に加えた。 (参考:次期長野市総合計画について(令和9年度〜) - 長野市公式ホームページ)
Nagano Canvasは2025年8月19日開始の第1回意見募集とともに公開され、以降テーマを段階的に絞り込みながら意見募集を継続している。第1回(2025年8月19日〜9月28日)は「10年後など将来も長野市に残したいもの」等2問を尋ね、52〜73件の回答が寄せられた。「残したいもの」の設問では、善光寺や歴史的なまち並み・文化(21.2%)、地域固有の食文化・農産物(19.3%)、市街地から見える山並みの風景(17.5%)、里山の自然環境(15.3%)、あたたかい地域のつながり(15%)、オリンピックレガシーへの誇り(5.1%)が上位を占めた。第2回(2025年12月2日〜2026年1月4日)は「ひと」「まち」「産業」の3分野別の設問を設け、各16〜29件の回答を得た。第3回(2026年4月8日〜5月10日)は「長野市の魅力度アップのためにやってみたいこと」を尋ね、29件の回答があった。2026年8月時点では、「あなたの『居場所』」をテーマとする第4回の意見募集が、Nagano Canvasとながの電子申請サービスの双方の窓口で継続されている。 (参考:デジタルプラットフォーム「Nagano Canvas」による意見聴取 - 長野市公式ホームページ、Nagano Canvas「10年後など将来も長野市に残したいもの」意見募集ページ - my groove)
次期計画づくりでは、無作為抽出による6,000人規模の市民アンケート(統計的代表性)、総合計画審議会と作業部会によるワークショップ(対面での熟議)、Nagano Canvasによるオンライン意見募集(時間・場所を問わないオープンな参加)という、性格の異なる3つの手法を並行して運用している。単一の手法では捕捉しにくい層をそれぞれが補い合う設計になっている点が特徴である。
Nagano Canvasの意見募集は一度きりのアンケートではなく、「残したいもの・暮らしやすさの条件」という大きな価値観の確認から始まり、「ひと・まち・産業」という分野別テーマ、「やってみたいこと」という具体的アイデア、「居場所」という個人の体験へと、2025年8月から1年以上にわたり段階的にテーマを絞り込みながら意見募集を重ねている。単発の意見聴取で終わらせず、継続的な接点を設計している点は、他の総合計画策定プロセスとの違いといえる。
成人向けの無作為抽出アンケートに加えて、市内公立小中高生全員を対象とする児童生徒アンケートを計画策定プロセスに正式に組み込んでいる。次期計画の期間を実際に生きることになる世代の声を、意見収集の初期段階から取り込む設計になっている。
作業部会のワークショップ結果は市公式サイトでのPDF公開に加え、Nagano Canvas上でも共有されている。通常は議事録や資料としてしか公開されない審議会・部会の検討過程を、一般市民が閲覧できるオンラインの場に載せることで、意見聴取のプロセスと審議のプロセスを接続している。
2026年8月時点で、Nagano Canvasのフォロワー数は176人、投稿された意見は742件、リアクション数は891件に達している。 (参考:Nagano Canvas プロジェクトページ - my groove)
4回にわたる意見募集の回答数は、第1回52〜73件、第2回16〜29件、第3回29件と、回ごとに数十件規模で推移している。回答数自体は長野市の人口規模と比べて多いとは言えないが、第1回の「残したいもの」の設問では、善光寺・歴史的まち並み(21.2%)、食文化・農産物(19.3%)、山並みの景観(17.5%)といった具体的な回答傾向が明らかになっており、次期計画の価値観整理に活用できる材料として蓄積されている。 (参考:Nagano Canvas「10年後など将来も長野市に残したいもの」意見募集ページ - my groove、デジタルプラットフォーム「Nagano Canvas」による意見聴取 - 長野市公式ホームページ)
次期計画は令和9年度(2027年度)開始予定であり、調査時点(2026年8月)では総合計画審議会での検討が続いている段階にある。したがって、Nagano Canvasや各種アンケートで集めた意見が最終的な計画内容にどう反映されるかについては、現時点では確認できていない。
総合計画のような自治体全体に関わる計画策定では、無作為抽出アンケートによる統計的代表性の確保と、デジタルプラットフォームによる参加のハードルの低さは、どちらか一方だけでは成立しにくい。長野市の事例は、性格の異なる複数の参加チャネルに役割分担させて運用する設計として、他自治体の計画策定プロセスにも応用可能である。
児童生徒アンケートを成人向け調査と並行して正式なプロセスに組み込む発想は、対象年齢の設定を変えるだけで実施できる汎用性の高い手法であり、将来世代の意見を計画の初期段階から反映させたい他自治体にとって参考になる。
一度に多くを問う単発アンケートではなく、大きな価値観から具体的な行動・場所へと段階的にテーマを絞り込みながら複数回にわたり意見を募る設計は、デジタルプラットフォームを持つ他自治体でも応用しやすい。回答数の多寡によらず、継続的な接点を持ち続けること自体が参加者との関係構築につながる。
Nagano Canvasの意見募集は回によって十数件から数十件程度の回答にとどまっている。デジタルプラットフォームは統計的代表性を代替するものではなく、無作為抽出アンケートなど他の手法と組み合わせて初めて意味を持つという点は、デジタル市民参加を検討する他自治体にとっても留意すべき示唆である。
2026年8月時点の調査内容に基づいて作成
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