
すぎなみのドッグラン(杉並区立ドッグラン広場)
区立公園に適地を確保できなかった杉並区が、都立和田堀公園の一角に区条例に基づく区立施設としてドッグランを開いた事例。運営は公園部局ではなく保健所が所管し、動物取扱業者であることを応募資格に、価格を100点中4点に抑えたプロポーザルで受託者を選んでいる。
杉並区は2024年3月30日、東京都が管理する都立和田堀公園(杉並区松ノ木一丁目1番4号)の中に、杉並区立ドッグラン広場を開設した。体重10kg未満を対象とする小型犬エリア500平方メートルと、10kg以上を対象とする中・大型犬エリア1,000平方メートルの2区画からなる。使用料は無料で、年度ごとの利用登録をすれば区外在住者も利用できる。 (参考:区立ドッグラン広場|杉並区、施設案内 区立ドッグラン広場|杉並区)
この事例の性格を決めているのは、二つの「ねじれ」である。第一に、施設が立つ土地は東京都のものだが、施設そのものは杉並区立ドッグラン広場条例(令和5年杉並区条例第81号)に基づく区立施設である。東京都は都内12の都立公園にドッグランを設置しているが、和田堀公園のそれは都の施設ではない。第二に、区の中で運営を所管するのは公園部局ではなく保健所である。区の資料は「施設の整備をみどり公園課が、運営を生活衛生課が所管しています」と明記している。 (参考:令和7年版(令和6年度実績)杉並区保健福祉事業概要、都立公園Q&A|東京都建設局)
この二つのねじれは偶然の産物ではなく、「区立公園には置けない」「囲いを用意するだけでは目的を果たさない」という二つの制約に対する設計上の答えになっている。以下ではその経緯と設計、開設後2年余りで見えてきた成果と課題を整理する。
杉並区は犬の多い区である。東京都保健医療局の令和6年度統計によれば、区内の犬の登録頭数は19,475頭で、23区では世田谷区、足立区、練馬区、大田区、江東区、江戸川区、葛飾区に次ぐ8番目にあたる。一方で狂犬病予防注射済票の交付は再交付を含めて14,220件にとどまり、登録頭数の7割強という水準にある。 (参考:令和6年度 犬の登録頭数・狂犬病予防注射頭数(東京都内区市町村別)|東京都保健医療局)
その一方で、犬は苦情の発生源でもある。区に寄せられた犬に関する相談は令和6年度で225件あり、内訳は汚物・汚水76件、鳴き声57件、失踪・迷い込み16件、放し飼い等6件などである。同年度には犬による咬傷事故も26件発生している。飼い主の需要と近隣の苦情が同時に存在する状態が、区の動物行政の出発点にあった。 (参考:令和7年版(令和6年度実績)杉並区保健福祉事業概要)
整備を求める声は住民から区に寄せられていた。しかし、その需要を受け止める空間が区立公園にはなかった。区が2024年3月に区民へ示した数字では、区内の公園は335か所と23区で7番目に多いが、区民1人当たりの公園面積は約2.25平方メートルで23区中19番目である。数は多いが1か所あたりが小さく、住宅に近い。区の公式情報サイトによれば、桃井原っぱ公園では平成10年代にドッグランが試験的に設置されたが、周辺のマンション・住宅事情や駐車場不足がネックとなり、常設化までは至らなかったという。 (参考:杉並区が常設「ドッグラン」 人と動物が共生する地域目指して|東京新聞デジタル、聴っくオフ・ミーティング報告書(令和6年3月23日)|杉並区、杉並区立ドッグラン広場|すぎなみ学倶楽部)
この行き詰まりは杉並区に固有のものではない。港区が令和6年3月に改定した「区立公園におけるドッグラン設置の基本的考え方」は、平成23年策定の旧方針が掲げていた3条件――ドッグラン以外にも十分な広場面積を残せる規模であること、公園利用者の理解を得られること、近隣住民の理解を得られること――を満たす候補地が見つからず、平成24年の港南緑水公園を最後に新設が進んでいないと率直に記している。同区は旧方針で標準面積を概ね1,000平方メートル以上、最低500平方メートルとしていたが、区立公園の規模ではこれを確保すると人が使う広場空間を大きく占有してしまうとして、令和6年3月に標準面積・最低面積そのものを見直した。面積要件と近隣の理解という二重の壁は、23区に共通する構造的な制約である。 (参考:区立公園におけるドッグラン設置の基本的考え方(令和6年3月改定)|港区)
杉並区が選んだのは、この二重の壁を区立公園の中で突破しようとするのをやめ、都立公園に場所を求める道だった。和田堀公園は昭和39年開園の総合公園で、開園面積は262,570.59平方メートル(令和6年6月1日現在)、令和5年度の年間利用者数は約130万人にのぼる。ドッグラン2区画の合計1,500平方メートルは、この公園面積の1%に満たない。 (参考:和田堀公園マネジメントプラン(案)令和7年2月|東京都建設局)
1. 基金の設置が先に立った
区は令和4年4月、ふるさと納税の使い道として「動物との豊かな共生社会をめざす寄附金」を創設した。その使途には「区営ドッグランの整備・運営」が、災害時のペット救護対策や飼い主のいない猫の不妊・去勢手術助成と並んで明記されている。施設が開くより2年近く前に、区はドッグランを動物愛護施策の一項目として位置づけ、財源の受け皿を用意していた。 (参考:動物との豊かな共生社会をめざす寄附金|杉並区)
2. 説明会と専門家の意見で運用ルールを固めた
整備場所は都立和田堀公園内、野球場の北側に決まり、開設前にはオープン型の説明会が開かれた。区議会議員のブログは、管理棟設置の課題が残って足踏みしていた状態を解消して説明会にこぎつけたこと、説明会では愛犬家から所管課長に多くの意見が寄せられたことを記している。区の事業概要も「運営に際しては、説明会のほか東京都獣医師会の獣医師や動物ボランティア等からの意見も踏まえ、利用方法や利用ルール等を定めています」としており、ルールづくりが行政単独の作業ではなかったことがうかがえる。 (参考:都立和田堀公園内にすぎなみのドックランがいよいよオープンします!|杉並区議会議員 山本ひろ子、令和7年版(令和6年度実績)杉並区保健福祉事業概要)
3. 条例可決から開設まで4か月弱で走り切った
杉並区立ドッグラン広場条例は議案第81号として保健福祉委員会に付託され、令和5年12月6日に原案可決された。区は翌7日に運営業務の受託者候補者選定委員会を設置し、13日に公募型プロポーザルを開始している。令和6年1月5日の締切には3事業者が応募し、1月9日から17日の第一次審査(書類)、2月2日の第二次審査(プレゼンテーション・ヒアリング)を経て受託者候補者が決まった。開設は3月30日である。条例の議決から開場まで4か月弱という日程を、条例可決の翌日に選定委員会を立ち上げることで成立させている。 (参考:令和5年第4回定例会議案・議決結果の一覧|杉並区、杉並区立ドッグラン広場におけるドッグラン運営業務公募型プロポーザル選定結果)
4. 運営者を「動物のプロ」に限定して公募した
プロポーザルの参加資格は、動物の愛護及び管理に関する法律に規定する第一種動物取扱業者または第二種動物取扱業者であること、また、ドッグラン運営・犬の訓練(しつけ方教室等)・犬の保管(一時預かり、保護・譲渡等)のうちいずれかの事業を1年以上運営または受託してきた実績も求められた。公園の維持管理実績ではなく、動物を扱う業としての資格と実績が入口条件になっている。 (参考:杉並区立ドッグラン広場におけるドッグラン運営業務公募型プロポーザル実施要領)
5. 事前登録を経て開場した
開設に先立ち、2024年3月26日から29日にかけて事前登録が受け付けられ、3月30日午前10時に開場した。区の事業概要によれば、この令和5年度中の延べ登録件数は679件である。 (参考:杉並区立ドッグラン広場(公式サイト)、令和7年版(令和6年度実績)杉並区保健福祉事業概要)
都立公園の側にも位置づけが書き込まれている
都立公園の一角を借りる形をとると、公園管理者が代替わりしたときに扱いが宙に浮きやすい。杉並区の場合、東京都建設局が令和7年2月にまとめた和田堀公園マネジメントプラン(案)の重点取組に「人と動物との快適な利用の推進」という項目が立ち、「地元区が設置したドッグランの運用について、地元区が適切に管理運営を行うよう、協力していきます」と明記された。都が10年程度を見据えて定める公園別の管理運営方針の中に、区施設への協力が一文として残っている。 (参考:和田堀公園マネジメントプラン(案)令和7年2月|東京都建設局)
長年この開設を求めてきた東京都議会議員は、これを「都立公園としては初の区立のドッグラン施設」と記している。都立公園にドッグランを置くこと自体は珍しくないが、その設置主体が地元区であるという形は例が乏しい。 (参考:待望の「杉並区立ドッグラン広場」が都立和田堀公園内に|東京都議会議員 まつば多美子)
この関係が成立した背景には、和田堀公園にもともと区の施設が複数入っていたという蓄積がある。同プランの主な公園施設欄には野球場(区運営)が挙げられ、園内図には区立郷土博物館、壁打ちテニス(杉並区)、区松ノ木運動場が記載されている。ゾーン別基本方針でも、野球場について「運営主体が異なることから、双方が連携を図りながら、連結部など施設利用と調和した管理を行う」と、都区が同居する前提の管理方針が書かれている。ドッグランは、この重層的な公園に加わった新しい層である。 (参考:和田堀公園マネジメントプラン(案)令和7年2月|東京都建設局)
価格を100点中4点に抑えたプロポーザル
公表された選定結果には、第一次審査100点の配点内訳がそのまま載っている。最も重いのは業務実績等の16点、次いで巡回業務の12点である。危機管理体制、意見・要望等への対応、従事者の体制がそれぞれ8点、基本方針・考え方、利用登録手続き、利用ルール、周知・広報、ドッグランを活用した事業、杉並どうぶつ相談員等との連携、環境への配慮、人材育成、欠員の対応がそれぞれ4点と続く。見積金額は4点しかない。価格ではなく現場に人を置き続けられるかどうかで順位が決まる設計になっている。 (参考:杉並区立ドッグラン広場におけるドッグラン運営業務公募型プロポーザル選定結果)
選定委員会の構成も、公園の発注とは異なる。委員5名のうち、会長を務めた公益社団法人東京都獣医師会杉並支部長、公益財団法人日本動物愛護協会常務理事、特定非営利活動法人社会動物環境整備協会副理事長の3名が動物分野の外部専門家であり、区側は杉並保健所長と都市整備部土木担当部長の2名である。第二次審査を含む総合計208点満点で、最上位の事業者は164.6点(79.1%)、次点は136.6点(65.7%)、もう1者は第一次審査100点満点中55.0点で二次に進めなかった。受託したのは区内に事務所を置く公益財団法人ヒューマニン財団である。 (参考:杉並区立ドッグラン広場におけるドッグラン運営業務公募型プロポーザル選定結果)
「1時間に1回」の巡回を仕様に書き込んだ
業務内容説明書は、運営者に対して1時間に1回を目安とした定期巡回を求め、混雑が見込まれる時間帯には、その場にとどまって様子を見ることも定めている。巡回中は、ルールを守らない利用者への声かけや、犬の飼い方に関する助言、混雑時の入場調整、未登録者への対応などを行うことになっており、あわせて「巡回中は利用者等とコミュニケーションを取り、要望やニーズを把握する」と規定されている。開場前と閉場後にはそれぞれ30分程度をかけて、ごみ・ふんの除去、扉やフェンスなど設備の破損確認、危険物の有無を点検する。定期清掃は夏場の6〜8月が月2回、それ以外の月は月1回のペースで年間15回以上組まれており、受付担当と巡回・清掃担当をそれぞれ1名以上確保したうえで、現場を束ねる運営業務責任者を1名置く体制とした。従事者には犬の取り扱いに関する業務経験が求められる。 (参考:杉並区立ドッグラン広場におけるドッグラン運営業務公募型プロポーザル実施要領)
区委嘱ボランティアと既存事業を接続している
仕様には、区が委嘱する杉並どうぶつ相談員(杉並区動物適正飼養普及員)と事業者側が折に触れて情報交換を重ね、啓発活動で協力し合う仕組みが盛り込まれている。相談員は令和6年度末時点で88名が委嘱されている。また区は令和4年度から、区立・都立を問わず公園を会場として定員10頭の少人数制で「杉並区犬のしつけ方教室」を開いており、令和6年度は8回・74頭が参加した。ドッグランは、この既存の啓発事業に常設の会場を与える施設としても位置づけられている。 (参考:杉並区立ドッグラン広場におけるドッグラン運営業務公募型プロポーザル実施要領、令和7年版(令和6年度実績)杉並区保健福祉事業概要、杉並どうぶつ相談員制度|杉並区)
登録制を仕組みで担保している
利用登録には犬鑑札またはマイクロチップ登録証明書、狂犬病予防注射済票、本人確認書類の提示が必要で、登録できるのは16歳以上の飼い主または同居家族に限られる。登録証の有効期限は、提示した狂犬病予防注射済票の交付年度の翌年度6月末までである。入口は二重扉で、扉のロックは暗証番号式になっており、運営者は2025年7月1日、登録更新の期限に合わせて暗証番号を変更した。青色の前年度登録カードは6月末で使えなくなり、窓口へ返却する仕組みになっている。人員による確認ではなく、期限と暗証番号の更新サイクルを一致させることで未更新者を締め出す運用である。 (参考:杉並区立ドッグラン広場(公式サイト)、リーフレット「杉並区立ドッグラン広場」(令和7年10月発行)|杉並区)
周辺環境への配慮をルールに明文化している
区が配布するリーフレットの注意事項には、「周辺には住宅があります。ドッグラン内及び周辺での犬の絶え間ない鳴き声や人の会話が騒音とならないよう、周辺環境に配慮してください」に加え、「周辺には様々な動植物が生息・生育しています。生き物たちの豊かな個性とつながりを大切にしてください」と記されている。和田堀公園は善福寺川沿いに広がる「水と緑の拠点」であり、済美山自然林はバードサンクチュアリ、和田堀池はカワセミの生息地でもある。都のマネジメントプランが目指す姿として掲げるのは生物多様性の保全と防災機能の強化であり、ドッグランの利用ルールはその文脈の中に置かれている。 (参考:リーフレット「杉並区立ドッグラン広場」(令和7年10月発行)|杉並区、和田堀公園マネジメントプラン(案)令和7年2月|東京都建設局)
子どもの入場を犬の管理より厳しく制限している
入場ルールでは、飼い主1名につき飼い犬1頭まで、同伴者は7歳から15歳に限り1名までとされ、7歳未満の子どもは保護者同伴であっても入場できない。生後6か月未満の子犬、生理期間中のメス犬、闘犬類、噛み癖のある犬、病気・けがをしている犬も入場できない。おやつやボール・おもちゃの使用は原則禁止だが、「エリアや時間帯を限定して施設スタッフが許可した場合を除く」という例外が設けられており、現場判断の余地が残されている。 (参考:リーフレット「杉並区立ドッグラン広場」(令和7年10月発行)|杉並区)
登録件数は初年度に約5.7倍へ
区の事業概要によれば、延べ登録件数は令和5年度679件(開設直前の事前登録と開設2日間)から、令和6年度は3,845件へと増えた。区内の犬の登録頭数19,475頭と単純比較はできない(区外在住者も登録できるため)が、区の飼い犬の総数に対して無視できない規模の登録が短期間で積み上がったことは読み取れる。区の公式情報サイトは、令和6年度の登録が8月末時点で約1,600件だったと伝えており、年度後半にも登録が伸び続けたことになる。 (参考:令和7年版(令和6年度実績)杉並区保健福祉事業概要、杉並区立ドッグラン広場|すぎなみ学倶楽部)
開設直後から週末の利用が集中
視察に訪れた練馬区議会議員の報告によれば、開設翌月の2024年4月の利用は1日平均約60頭、土日は約160頭だった。区の公式情報サイトも土・日・祝日の利用が特に多いと伝え、このドッグランを利用するために近隣へ引っ越してきた利用者がいることにも触れている。平日と週末で3倍近い差があり、混雑時の入場制限を仕様に書き込んだ判断は実態と整合している。 (参考:杉並区が設置運営する都立和田堀公園内のドッグランの視察に行って来ました|西田まちこ(練馬区議会議員)、杉並区立ドッグラン広場|すぎなみ学倶楽部)
囲いの外へ出るイベントが定着しつつある
運営者は登録者向けの主催イベント「パックウォーク和田堀公園」を実施している。2024年12月14日には15組(登録犬とその家族4名まで)を定員に開催され、2026年1月24日にも15組を定員として、ドッグランの中・大型犬エリアに集合し、都立和田堀公園周辺を休憩を含め80分程度歩くプログラムが組まれた。ドッグランを囲いの中で完結させず、公園と周辺のまちに出ていく動線をつくる試みである。運営状況の日常的な発信には公式Instagramが使われている。 (参考:杉並区立ドッグラン広場(公式サイト))
開設1年目に地面の追加工事が必要になった
一方で、草地のフィールドは想定より早く手当てを要した。2025年1月23日・24日にドッグラン内の土壌改良等工事に関する測量が行われ、2月6日と2月12日から28日、3月1日から14日、3月17日にかけて、舗装整備工事と利用登録窓口の照明等工事のため休場している。さらに3月13日には「悪天候等による工事の遅れ」を理由に再開が3月18日へ延期された。開設からおよそ10か月で、実質1か月を超える全面休場を伴う地面の整備が入ったことになる。工事の問い合わせ先は区みどり公園課南公園緑地事務所、運営休場の問い合わせ先は杉並保健所生活衛生課管理係と、整備と運営で窓口が分かれている。 (参考:杉並区立ドッグラン広場(公式サイト))
運営時間と交通手段には制約が残る
2025年10月からは、広場内の十分な明るさを確保できないという安全上の理由で閉場時間が見直され、11月・12月は午後4時、1月から3月と9月・10月は午後5時、4月・5月・8月は午後6時、6月・7月は午後7時となった(開場は通年午前7時)。照明を持たない施設であるため、冬季の夕方以降は使えない。また専用駐車場はなく、週末や祝日は公園の駐車場が埋まりやすいことから、区は車以外での来場を呼びかけている。区外在住者にも開放している施設として、アクセス手段の制約は残ったままである。 (参考:杉並区立ドッグラン広場(公式サイト)、リーフレット「杉並区立ドッグラン広場」(令和7年10月発行)|杉並区)
トラブル対応は利用者側に置かれている
リーフレットの注意事項は「ドッグランでの事故やトラブルは、当事者同士で解決してください」と明記している。1時間に1回の巡回とスタッフの常駐窓口を用意しながらも、犬同士のトラブルの責任は利用者が負うという整理である。有人運営とリスク分担の線引きが、開設当初から文書として示されている点は、同種施設を検討する自治体が参照しやすい形になっている。 (参考:リーフレット「杉並区立ドッグラン広場」(令和7年10月発行)|杉並区)
1. 適地がないなら、自前の公園ストックの外に出る
港区の資料が示すとおり、区市町村立の公園でドッグランの面積要件と近隣理解を同時に満たす場所を探し続けても、10年単位で答えが出ないことがある。杉並区の解は、探索の対象を都道府県立などの大規模公園へ広げることだった。ただしこれは「大きな公園に頼めば済む」という話ではない。杉並の場合、和田堀公園にはすでに区立の野球場・郷土博物館・運動場が入り、都区が同居する管理の作法が蓄積していた。連携の実績がある公園を先に見つけ、そこに新しい機能を足す順序が現実的である。(参考:区立公園におけるドッグラン設置の基本的考え方(令和6年3月改定)|港区)
2. 受付窓口は新築せず、既存施設に間借りする
区議会議員のブログは、この事業が管理棟設置の課題で足踏みしていたことに触れている。最終的に利用登録窓口は、ドッグラン本体から離れた区立松ノ木運動場管理棟内に置かれた。仕様書が求めた業務スペースは6畳ほどの広さで、エアコンと照明、電話回線があれば足りるという最小限の設備要求だった。登録制を採る以上どこかに窓口が要るが、その規模は極めて小さい。新築を前提にすると事業全体が止まる論点を、既存の区立施設の一室で解いている。 (参考:杉並区立ドッグラン広場におけるドッグラン運営業務公募型プロポーザル実施要領)
3. 「囲いをつくる工事」と「人が立つ運営」を分けて発注する
杉並区は整備をみどり公園課、運営を生活衛生課が所管し、運営は動物取扱業者要件を付けたプロポーザルで発注した。価格の配点を100点中4点に抑え、巡回業務に12点、業務実績に16点を割り当てた配点表が公開されている。ドッグランを「フェンスで囲った広場」ではなく「適正飼養を伝える現場」として運営したいのであれば、公園の維持管理契約とは別建てで、動物を扱う実務の資格と体制を問う発注にする必要がある。この配点表は、そのまま他自治体が参照できる形で公開されている。(参考:杉並区立ドッグラン広場におけるドッグラン運営業務公募型プロポーザル選定結果)
4. 登録制は狂犬病予防注射の受診動線になりうる
杉並区では登録頭数19,475頭に対して注射済票の交付が14,220件と、7割強にとどまる。ドッグランの利用登録は狂犬病予防注射済票の提示を要件とし、有効期限を「提示した注射済票の交付年度の翌年度6月末」と定めているため、ドッグランを使い続けたい飼い主は毎年注射を受けざるを得ない。動物愛護行政の側が運営を持つ意味は、こうした行政目的と施設の運用ルールを一本の線でつなげられる点にある。無料で開放する施設であっても、登録条件の設計次第で行政課題の解決に寄与しうる。(参考:令和6年度 犬の登録頭数・狂犬病予防注射頭数(東京都内区市町村別)|東京都保健医療局)
5. 囲いの中に閉じない仕掛けを最初から用意する
ドッグランは、利用者どうしが顔見知りになる場を生む一方で、公園の他の利用者や近隣とは接点を持たないまま孤立しやすい。杉並区立ドッグラン広場は、登録者限定のパックウォークで公園周辺を歩くプログラムを年1回程度実施し、囲いの外へ出る動線をつくっている。公式サイトが掲げる目標も「多様な人々と犬が憩い、学び、交流を生みだす場(プラットホーム)づくり」「杉並区・都立和田堀公園の魅力増進に貢献する広場づくり」であり、ドッグラン単体の便益ではなく公園全体への貢献が明示されている。同種施設が近隣の理解を得続けるうえで、この位置づけの言語化は再現性のある工夫である。 (参考:杉並区立ドッグラン広場(公式サイト))
6. 地面の材質は初期設計と維持費の両方で効く
草地は柔らかく犬の脚に優しい一方、利用が集中すれば踏圧で荒れる。杉並区の場合、開設から約10か月後に土壌改良の測量と舗装整備工事が入り、実質1か月を超える全面休場が生じた。さらに定期清掃・草刈りによる休場が月1〜2回、年15回以上組まれている。無料開放のドッグランは初期整備費だけで語られがちだが、地面の維持と、そのための休場をあらかじめ運営計画に織り込んでおく必要がある。この点は、開設前に見積もりにくく、開設後に必ず現れる論点である。(参考:杉並区立ドッグラン広場(公式サイト))
7. 財源の受け皿を施設より先につくっておく
杉並区は施設開設の2年前にあたる令和4年4月、ふるさと納税の使い道として「動物との豊かな共生社会をめざす寄附金」を設け、区営ドッグランの整備・運営を明示した使途に組み込んだ。使用料無料を続ける施設ほど、一般財源以外の裏づけを持つかどうかが継続性を左右する。施設整備の議論と並行して、寄附の受け皿と使途表示を先に整えておく設計は、他地域でも取りうる手順である。 (参考:動物との豊かな共生社会をめざす寄附金|杉並区)
2026年8月時点の調査内容に基づいて作成
この記事は公開情報に基づき、AIを用いた詳細調査により作成されました。記事内容への修正依頼、お問合せ等は以下までお寄せください。
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