
一般社団法人二子玉川エリアマネジメンツによる官民連携まちづくり
東京都世田谷区の二子玉川駅周辺で、玉川町会・東神開発・東急の三者が2015年に発足させたエリアマネジメント団体。世田谷区第1号の都市再生推進法人として、多摩川河川敷や兵庫島公園などの公共空間を収益事業で活用し、その利益を地域に還元する自立的な官民連携まちづくりを進めている事例。
一般社団法人二子玉川エリアマネジメンツは、東京都世田谷区の二子玉川駅周辺(玉川一〜四丁目、兵庫島公園を含む鎌田一丁目や二子玉川公園を含む上野毛二丁目の一部、約103ha)を対象に、住民・企業・行政が一体となったまちづくりを担う団体である。2015年に地元の玉川町会、玉川高島屋S・Cを運営する東神開発、二子玉川ライズを運営する東急(当時の東急電鉄)の三者で任意団体として発足し、2019年1月に一般社団法人化、2020年2月に世田谷区第1号の都市再生推進法人に指定された。
特徴は、河川敷や公園・道路といった公共空間を制度を使って利活用し、屋外広告や河川敷イベントなどの収益事業で得た利益をまちづくり活動へ還元する「自立的な循環」を志向している点にある。多摩川という地域最大の自然資産を軸に、水辺とまちなかをつなぐイベント、生態系保全、地域団体への助成、情報発信などを継続している。 (参考:二子玉川エリアマネジメンツとは(公式)、国土交通省・都市再生推進法人の取組事例)
二子玉川駅周辺は、2010年代の大規模再開発「二子玉川ライズ」によって街の姿が大きく変わった地域である。二子玉川ライズは総開発面積約12.1ha、延床面積約42万㎡におよぶ都内最大級の民間再開発で、第1期が2010年、第2期が2015年に竣工した。「水と緑と光」をコンセプトに、多摩川や国分寺崖線の自然環境と調和した商業・オフィス・住宅の複合市街地が形成された。 (参考:二子玉川ライズ 開発概要)
一方で、再開発区域内は運営事業者によるタウンマネジメントが機能していたものの、駅周辺全体、とりわけ多摩川の河川敷や兵庫島公園、商店街の道路といった「みんなの公共空間」を横断的に活かし、地域として主体的にまちを育てていく仕組みは十分ではなかった。再開発で来街者が増える中、地元に長く暮らす住民組織と、街を運営する企業、そして行政が、それぞれの立場を超えて一体的に動く受け皿が求められていた。こうした問題意識から、玉川町会・東神開発・東急の三者が話し合いを重ね、2015年のエリアマネジメント団体発足に至った。 (参考:二子玉川で住民主体のエリアマネジメントが本格化(新・公民連携最前線)、二子玉川でのエリアマネジメント活動について(世田谷区資料))
加えて、地域最大の資産である多摩川は、水辺の魅力であると同時に水害リスクとも隣り合わせである。2019年の台風19号(令和元年東日本台風)では玉川地区の低地で浸水被害が発生し、水辺と共生しながら防災意識を高めていくことも地域の課題として意識されるようになった。エリアマネジメンツはこの点も踏まえ、公共空間の賑わいづくりと並行して河川環境の保全や防災啓発に取り組む姿勢をとっている。 (参考:二子玉川でのエリアマネジメント活動について(世田谷区資料))
発足と方針づくり(2015〜2017年)
2015年4月の発足後、団体はいきなり事業に着手するのではなく、活動の方針を固めるために計6回のワークショップを開き、同年12月には3年間の活動計画をまとめた。2016年2月には活動を地域へ報告する第1回シンポジウムを開催(以降ほぼ毎年開催)、同年3月には公益還元活動「かわのまちアクション」として、多摩川に遡上する魚マルタウグイの産卵環境づくりを開始した。2016年11月には水辺公共空間でのキッチンカーによる社会実験を行い、以降も水辺ヨガや「TAMAGAWA BREW」など、河川敷を舞台にしたイベントを重ねながら、公共空間活用のノウハウと地域の合意形成を積み上げていった。 (参考:二子玉川でのエリアマネジメント活動について(世田谷区資料))
法人化と制度活用(2018〜2020年)
社会実験で得た手応えをもとに、2018年4月には、公共空間の活用をさらに前へ進める狙いから、都市再生推進法人の指定取得を目標に据えた。2019年1月に一般社団法人を設立し、2020年2月に世田谷区第1号の都市再生推進法人に指定された。この指定により、団体は公的な位置づけのもとで主体的に事業を展開できるようになった。2020年には区へ都市再生整備計画の素案を提案し、同年10月に世田谷区が「都市再生整備計画(二子玉川駅周辺地区)」を策定。「水辺空間の保全・創出を図るとともに回遊性のあるまちづくりを推進する」ことを目標に掲げた計画のもとで、公共空間活用の制度的な裏付けが整った。 (参考:二子玉川地区におけるエリアマネジメントの取組み(世田谷区)、都市再生整備計画(二子玉川駅周辺地区)(世田谷区))
収益事業と公共空間のオープン化(2020年以降)
2020年12月には二子玉川ライズの交通広場を使った屋外広告事業を開始し、自主財源づくりに乗り出した。2021年2月には国土交通省により、多摩川河川敷・兵庫島公園一帯が「河川空間のオープン化区域」に指定され、団体が占用主体として河川敷広場を「Mizube Fun Base」と名付けて運営できるようになった。週末のキッチンカー出店やアウトドアオフィスなど、河川敷の日常的な利活用がここから本格化した。並行して、コロナ禍で打撃を受けた商店街を支える「二子玉川まちみちテラス」(道路占用による沿道飲食店の路上利用)や、医療従事者への感謝を込めた「Futako Tamagawa Light It Blue Park」など、時勢に応じた企画も展開している。 (参考:多摩川河川敷・兵庫島公園一帯が河川空間のオープン化区域に指定(公式)、二子玉川でのエリアマネジメント活動について(世田谷区資料))
町会が中核に入る「住民主体」のエリアマネジメント
エリアマネジメントは開発事業者が主導する例が多いなかで、本事例は地元の玉川町会が一般社団法人の社員(構成主体)として中核に位置づけられている点が際立つ。玉川町会は玉川一〜四丁目の各町会で構成され、地域世帯の多くが加入する組織である。企業(東神開発・東急)の事業推進力と、町会が持つ地域の信頼・合意形成力を組み合わせている構図は、住民主体のまちづくりの一例として、全国各地から視察に訪れる例も多いという。 (参考:二子玉川で住民主体のエリアマネジメントが本格化(新・公民連携最前線)、二子玉川でのエリアマネジメント活動について(世田谷区資料))
「協議会」と「法人」の両輪体制
運営体制は、検討・協議を担う「二子玉川エリアマネジメンツ協議会」(決定機関)と、事業を実行する「一般社団法人二子玉川エリアマネジメンツ」(実行機関)が両輪となる構造をとる。協議会には玉川町会や二子玉川商店街振興組合、対象区域内の企業などが参加し、世田谷区はアドバイザーとして関わる。意思決定と事業実行の役割を分けることで、幅広い関係者の合意を得ながらも機動的に事業を進められるようにしている。 (参考:二子玉川でのエリアマネジメント活動について(世田谷区資料))
収益事業でまちづくりを自走させる仕組み
交通広場での屋外広告事業(防風スクリーンや柱巻きへの広告掲出)や河川敷の利活用事業といった収益事業を持ち、そこで得た資金を公共空間の維持管理や地域への還元活動、団体の運営費にあてる循環を組み立てている点も特徴的である。屋外広告の掲出にあたっては、デザインを自主的な審査会でチェックしたうえで表示し、その運用状況を毎年、東京都の審議会に報告するなど、収益と公共性の両立に配慮した運用を行っている。補助金に依存しきらず、自ら稼いで地域に返す構造は、エリアマネジメントの持続性という共通課題への一つの回答になっている。 (参考:国土交通省・都市再生推進法人の取組事例)
河川空間のオープン化の先進性
多摩川河川敷・兵庫島公園一帯の河川空間のオープン化は、国が直接管理する関東の河川では初の事例であり、都市再生整備計画に位置づけたうえでオープン化した点、都市再生推進法人が占用主体となった点も先行例が少ない。河川という管理主体の異なる公共空間を、まちづくりの舞台として制度的に取り込んだことは、水辺を持つ他地域にとって参照価値が高い。 (参考:多摩川河川敷・兵庫島公園一帯が河川空間のオープン化区域に指定(公式))
制度面では、世田谷区第1号の都市再生推進法人指定(2020年2月)、都市再生整備計画(二子玉川駅周辺地区)の策定と運用が進んでいる。同計画は第1期(令和2〜6年度)を終えて事後評価が行われ、第2期(令和7〜11年度)へと継続している。河川空間のオープン化区域指定(2021年2月)とあわせ、公共空間をまちづくりに使うための制度的基盤が段階的に確立された。 (参考:都市再生整備計画(二子玉川駅周辺地区)(世田谷区)、二子玉川地区におけるエリアマネジメントの取組み(世田谷区))
事業面では、河川敷広場「Mizube Fun Base」の運営、交通広場での屋外広告事業による自主財源の確保、生態系保全(マルタウグイの産卵床づくり)や護岸清掃といった公益還元活動が継続している。活動の報告と対話の場である「二子玉川エリアマネジメントシンポジウム」は2016年の第1回から回を重ね、2025年6月には10周年となる第10回を「過去を知り、未来を描く。」をテーマに、会場とオンラインのハイブリッドで開催した。 (参考:国土交通省・都市再生推進法人の取組事例、第10回二子玉川エリアマネジメントシンポジウム(futakoloco))
地域への波及として、2023年からは地域活動を支援する助成プログラム「フタコファンサポート」を開始し、コミュニティマルシェや映画上映会、多摩川河川敷での子ども向けイベントなど、地域団体による非営利・公益的な取り組みを継続的に後押ししている。2024年には東京都市大学と協力協定を結ぶなど、大学との連携にも広がりを見せている。稼いだ資金や公共空間を、自団体の事業だけでなく地域の担い手にも開いていく動きが定着しつつある。 (参考:フタコファンサポート2026 支援団体募集(公式)、二子玉川エリアマネジメンツとは(公式))
第一に、役割の異なる主体を「両輪体制」で組み合わせる設計は再現性が高い。合意形成を担う協議会と、事業を回す法人を分けることで、多様な関係者の納得と機動的な実行を両立できる。地縁組織(町会)・企業・行政の三者が、それぞれの強みを持ち寄る座組みは、開発事業者が主導しにくい地域でも応用の余地がある。
第二に、社会実験から制度活用へと段階的に積み上げるプロセスが参考になる。二子玉川では、いきなり大きな仕組みを作るのではなく、キッチンカーや水辺イベントなどの社会実験で実績と地域の理解を重ねたうえで、都市再生推進法人の指定、都市再生整備計画の策定、河川空間のオープン化へと制度を段階的に取り込んでいった。公共空間活用を目指す地域にとって、「実験で信頼を得てから制度を動かす」順序は示唆に富む。
第三に、収益事業を地域還元の原資にする自立モデルは、補助金頼みになりがちなエリアマネジメントの持続性という共通課題に対する一つの解である。広告や河川敷利用で得た収益を、清掃・環境保全・地域団体への助成に回す循環は、財源の自立と地域への裨益を同時に狙える。
一方で、留意点もある。二子玉川の収益基盤には、大規模再開発によって生まれた交通広場の広告価値や、多くの来街者という前提条件が存在する。また町会の高い組織力も土台にある。同じモデルをそのまま持ち込むより、自地域の公共空間・資産・担い手の実情に合わせて、どの収益源と制度を組み合わせられるかを見極めることが重要になる。属人的な熱意ではなく、協議会・法人・制度という「仕組み」に落とし込んで継続性を担保している点こそが、本事例から汲み取るべき本質だといえる。
2026年7月時点の調査内容に基づいて作成
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