
つくば中心市街地まちづくり戦略・リーディングプロジェクトとエリアマネジメント
つくば市が中心市街地まちづくり戦略の8つのリーディングプロジェクトとして進める官民連携エリアマネジメント。磯崎新設計のつくばセンタービル・センター広場のリニューアルと、市が筆頭株主のまちづくり会社「つくばまちなかデザイン」による交流拠点co-en運営を軸に、自走するエリア経営を目指す取り組みと、その経営課題を整理した事例。
つくば中心市街地まちづくり戦略は、つくば市が2020年5月に決定した、つくば駅周辺の中心市街地を対象とする総合的なまちづくりの基本方針である。2018年9月にまとめた「つくば中心市街地まちづくりヴィジョン」に基づき、概ね5年間に市が先頭に立って優先的に進める8つの事業を「リーディングプロジェクト」として位置づけた。8つは、①つくばセンタービルリニューアル、②つくばセンター広場リニューアル、③中央公園リニューアル、④地域と連携したパブリックスペースの活用、⑤官民連携によるエリアマネジメントの推進、⑥つくばの玄関口のおもてなし機能向上、⑦イノベーション拠点の創出、⑧スマートシティの推進、である。ハード(公共空間の再整備)とソフト(運営・活用の仕組み)を一体で組み替え、行政だけでなく民間開発や市民主体の活動といった多様なプレーヤーの連携を誘発することを狙う。 (参考:つくば中心市街地まちづくり戦略 - つくば市、新・公民連携最前線(日経BP))
8つのプロジェクトのうち⑤の「エリアマネジメントの推進」は、戦略全体を持続的に動かす担い手づくりにあたる。市は2019年に設置した「つくば中心市街地エリアマネジメント検討委員会」の提言を踏まえ、2021年4月に市が筆頭株主となるまちづくり会社「つくばまちなかデザイン株式会社」を設立した。同社は2022年に交流拠点「co-en」を開業し、リニューアルした広場の指定管理や地下駐車場の運営、エリアでのイベント支援などを束ねている。本事例の特徴は、計画(ヴィジョン・戦略)・器(公共空間の再整備)・担い手(自走するまちづくり会社)をセットで設計した点にある。一方で、収益で公費依存を減らす「自走」は設立から数年を経てなお道半ばであり、その過程は同様の手法を検討する自治体にとって学びの多い事例である。 (参考:働く人を支援する場の創出 - つくば市、つくばまちなかデザイン株式会社)
つくば市の中心市街地は、国の研究学園都市として計画的に整備された区域である。その象徴が、1983年に建築家・磯崎新の設計でつくばセンタービルとつくばセンター広場として一体的に整備されたエリアで、広場はローマのカンピドリオ広場をモチーフとし、ポストモダン建築を代表する作品として知られる。研究機関の集積と計画的な街区を背景に、つくば駅周辺は研究学園都市の玄関口として機能してきた。 (参考:つくばセンタービル及びつくばセンター広場のリニューアル - つくば市)
しかし2005年のつくばエクスプレス開通以降、駅利用者の動線や中核施設のあり方が変化し、中心市街地を取り巻く環境は大きく動いた。駅前の大規模商業施設「クレオ」は全店舗の営業を終え、2018年2月に建物が閉鎖。あわせて駅周辺の国家公務員宿舎の処分も進み、商業の核とまとまった居住人口を同時に失う構造変化に直面した。つくば駅周辺は研究学園都市の中心でありながら、にぎわいの空洞化と、まちを誰がどう運営するかという担い手の不在が課題として浮かび上がった。 (参考:つくば中心市街地まちづくりヴィジョン - つくば市、新・公民連携最前線(日経BP))
こうした危機感を背景に、市は中心市街地の将来像をゼロから問い直す検討に着手した。論点は、空いた施設をどう埋めるかという個別の再開発にとどまらず、研究学園都市ならではの資源(科学技術・人材・公共空間)を生かして、まちの魅力と価値を継続的に高める「経営」の仕組みをどう築くか、という点に置かれた。これが、ヴィジョン策定からリーディングプロジェクトの選定、そしてエリアマネジメント組織の設立へとつながる一連の取り組みの出発点となった。 (参考:つくば中心市街地まちづくりヴィジョン - つくば市)
市はまず、2018年9月に「つくば中心市街地まちづくりヴィジョン」をまとめた。対象はつくば駅を中心に概ね東西南北の大通りに囲まれたエリアで、「リラックス×遊び心」「科学技術の恩恵×新たな価値の創発」「ローカル×持続可能性」という3つの将来像を掲げ、SDGsの視点を取り入れて策定された。策定にあたっては、中心市街地のアイデア募集(252件)、居住者アンケート(580件)、オープンハウスでの意見聴取(565件)、約105名が参加したまちづくりシンポジウムなど、市民・来街者の声を段階的に集める手順を踏んでいる。 (参考:つくば中心市街地まちづくりヴィジョン - つくば市)
このヴィジョンを行動計画に落とし込んだのが、2020年5月に決定した「つくば中心市街地まちづくり戦略(つくば駅周辺基本方針)」である。戦略は、概ね5年間で市が優先的に取り組む事業として前述の8つのリーディングプロジェクトを掲げた。センタービル・センター広場・中央公園という三つの中核空間のリニューアルを軸に据えつつ、パブリックスペースの活用、エリアマネジメント、玄関口機能、イノベーション拠点、スマートシティを並走させる構成で、空間整備と運営・産業・技術の各側面を一つのパッケージとして束ねた点に特徴がある。市はこれらを「市が先頭に立って進める」と位置づけ、その先に民間開発や市民主体の活動の活発化を誘発することを目指した。 (参考:つくば中心市街地まちづくり戦略 - つくば市、新・公民連携最前線(日経BP))
戦略の中で、空間整備と並んで重視されたのが「誰がまちを継続的に運営するのか」という担い手の問題だった。市は2019年7月、まちづくりの有識者で構成する「つくば中心市街地エリアマネジメント検討委員会」を設置。「まちを育てる、まちを経営する」エリアマネジメントのあり方を、全5回の議論を通じて検討し、その結果を提言書として市長に提出した。市はこの提言を踏まえ、つくば駅周辺で官民が連携し、つくばならではの資源を活用してまちの魅力と価値を高める取り組みを実行・推進するエリアマネジメント団体の設立に向けて準備を進めた。 (参考:第2回つくば中心市街地エリアマネジメント検討委員会 会議録 - つくば市、働く人を支援する場の創出 - つくば市)
組織設計で意図されたのは、行政の手続きの枠にとどまらない「迅速かつ柔軟に取り組める体制」であり、補助に頼り切らず「収益を上げて自走できる組織」だった。つくば駅周辺には、企業・団体が集まる既存の「つくばセンター地区活性化協議会」もあったが、イベントや環境整備の任意の協議体とは別に、事業として収益を生みながらまちを動かす主体が必要と判断された。こうして2021年4月1日、市と地元企業の出資による「つくばまちなかデザイン株式会社」が設立された。資本金は1億2,100万円で、出資はつくば市が議決権の約49.6%を握る筆頭株主、関彰商事と沼尻産業が各約24.8%、ほかにLIGHTzが参加する構成となった。代表取締役には、住宅・不動産分野でリノベーション事業を手がけてきた内山博文が就いた。同社が予定した事業は、センタービルでの働き方を支える場の整備・運営、科学や自然を生かした体験・憩いの場の創出、まちなか情報の発信、エリアマネジメントの事務局機能などである。 (参考:新・公民連携最前線(日経BP)、つくばまちなかデザイン第4期事業報告 - つくば市、NEWSつくば)
担い手の設立と並行して、中核空間のリニューアルが動き出した。その第一弾が、つくばセンタービル1階東側の旧アイアイモール(飲食店街)跡地、延床約2,000平方メートルを改修して2022年5月7日に開業した交流拠点「co-en(コ・エン)」である。co-enは、コワーキング、貸しオフィス、シェアキッチンを備えたカフェ&バー、イベントスペース、ギャラリー、物販・チャレンジ支援の各機能を一体化し、起業家・クリエイター・市民が出会い、働き、活動する場として設計された。運営はつくばまちなかデザインが担い、整備には約3億2,000万円の改修費を投じ、民間都市開発推進機構の支援を受けたリノベーション事業として進められた。 (参考:NEWSつくば、co-en 公式サイト)
センタービルとセンター広場本体のリニューアルは、市が複数回にわたり市民意見を集めながら計画を練り上げた。2020年6月のWEBアンケート(約80件)に始まり、2020年12月のオープンハウス(来場約109人)、2021年10月の意見募集(約50件)、利用団体向け説明会(約43件)、2022年2月の改修計画説明会(約27件)と、設計段階を追って意見聴取を重ねた。寄せられた意見を反映し、当初2基で検討されていた広場のエスカレーターを1基に変更するなどの修正が加えられた。2024年2月にはセンタービル内に市民活動拠点「コリドイオ」がオープン。これは市民センター・消費生活センター・国際交流拠点を一体化した施設で、名称は市民公募で決まった。イタリア語で「回廊」を意味し、磯崎新がカンピドリオ広場をモチーフに設計したセンター広場へと続く回廊という由来が込められている。一連のリニューアル工事は2024年4月に完了した。 (参考:つくばセンタービル及びつくばセンター広場のリニューアル - つくば市、コリドイオ - つくば市、NEWSつくば)
ハードの更新後、つくばまちなかデザインは「使われ続ける公共空間」をつくる運営側の役割を広げていった。2023年4月からはリニューアルしたつくばセンター広場の指定管理者となり、広場を使ったイベントやパフォーマンスを呼び込む受け皿を担うようになった。市やつくばセンター地区活性化協議会と連携した「つくばぺデカフェプロジェクト」では、ペデストリアンデッキや広場でのイベント開催を支援し、2024年度には40件を超えるイベントを後押しした。夏季には広場で子ども向けの水遊びイベントを自主事業として催すなど、日常的なにぎわいづくりも試みられている。あわせて同社は、2021年6月から地下駐車場を運営し、つくばセンター地区活性化協議会の事務局を担うなど、エリア全体のマネジメント機能を一手に引き受ける体制を整えた。 (参考:つくばまちなかデザイン第4期事業報告 - つくば市、つくばまちなかデザイン株式会社)
第一の特徴は、まちづくりを「計画・器・担い手」の三層でセット設計した点である。多くの中心市街地活性化は、計画策定や施設整備が先行し、運営の担い手づくりが後追いになりがちだが、つくば市はヴィジョン(2018年)→戦略・8リーディングプロジェクト(2020年)→運営会社の設立(2021年)という順序を意図的に組み、空間の再整備と運営主体の立ち上げをほぼ同時に進めた。センタービル・センター広場という器のリニューアルと、それを使い倒すco-en・指定管理・イベント支援の仕組みが、同じ主体(つくばまちなかデザイン)に集約されている構造は、整備した公共空間が「つくって終わり」にならないための一つの設計解を示している。 (参考:働く人を支援する場の創出 - つくば市、つくば中心市街地まちづくり戦略 - つくば市)
第二に、エリアマネジメントの担い手を、補助に依存しない「自走する事業会社」として最初から構想した点である。任意団体や協議会ではなく、市が約半分を出資しつつ地元企業が経営に関与する株式会社という形態を選び、co-enの賃料・サービス収入、駐車場運営、受託事業などを収益源として組み立てた。行政の単年度予算に縛られず、収益を再投資しながらまちを継続運営するという発想は、エリアマネジメントの「経営」という言葉に実体を与えようとする試みといえる。ただし後述のとおり、この自走の前提は調査時点で十分に実現できておらず、構想と実態の差そのものが本事例の重要な論点になっている。 (参考:新・公民連携最前線(日経BP)、NEWSつくば)
第三に、研究学園都市を象徴する建築資産の継承と機能更新を両立させようとした点である。磯崎新が設計したセンタービル・センター広場は、つくばのアイデンティティそのものであり、その改変には市議会や市民から建築の価値を損なう懸念も示された。市は段階的な意見聴取を重ね、エスカレーターの基数削減など計画を修正しながら、回廊「コリドイオ」の命名に設計思想を引き継ぐなど、歴史的な空間の文脈を保ちつつ現代の利用に合わせて更新する道を探った。象徴的な公共空間を抱える都市が、保存と活用のバランスをどう取るかという普遍的な問いに向き合った事例でもある。 (参考:NEWSつくば、コリドイオ - つくば市)
一方で、最大の課題は運営会社の「自走」が実現していない点にある。つくばまちなかデザインは設立以来赤字が続き、2024年度(第4期)は売上高約1億1,826万円に対し経常損益が約3,258万円の赤字となった。当初は4年目での黒字化を計画していたが、収益の柱の一つだった自動配送ロボットの受託事業(年約6,000万円規模)が2024年1月に失われたことなどが響いた。市が筆頭株主であることから、議会では経営収支や、約3億1,600万円の社債の償還能力(2031年度に約1億4,600万円の償還が控える)への懸念が継続的に提起されている。同社は2025年度から2027年度にかけて営業黒字へ転じる3か年事業計画を示しているが、収益事業で公費依存を減らすという設立時の構想は、調査時点でなお検証の途上にある。 (参考:NEWSつくば、つくばまちなかデザインの経営状況について - つくば市)
まちづくり会社の「自走」は、設立時の計画通りには進みにくい。 つくばの事例は、エリアマネジメントを担う事業会社を立ち上げる構想と、それが実際に収益で自立するまでの距離が大きいことを率直に示している。とりわけ、収益の柱を本業(公共空間の運営・拠点運営)の外側の受託事業に頼ると、その契約が切れた途端に経営が傾くリスクがある。担い手会社を設計する自治体は、初期の事業計画を楽観で固めず、本業からの安定収益が育つまでの数年を、出資や事業環境の面でどう支えるかをあらかじめ織り込む必要がある。経営状況を議会・市民に定期的に開示し、3か年計画として軌道修正を可視化するつくば市の手順自体は、官民連携会社のガバナンスとして参考になる。 (参考:NEWSつくば、つくばまちなかデザインの経営状況について - つくば市)
空間整備と運営主体の育成は、時間軸を分けて設計する価値がある。 つくばは器のリニューアル(〜2024年)とほぼ同時に運営会社(2021年〜)を立ち上げたが、ハードは数年で完成する一方、運営組織が事業として成熟するにはより長い時間を要する。整備の完了をゴールにせず、その後に運営主体が収益と実績を積み上げる「育成期間」を計画に組み込むことで、施設の遊休化や運営の息切れを防ぎやすくなる。計画・器・担い手をセットで設計するという発想は有効だが、三者の成熟スピードの違いを見込んだ伴走が前提となる。 (参考:働く人を支援する場の創出 - つくば市)
段階的な計画体系(ヴィジョン→戦略→主体)は、合意形成と実行をつなぐ。 つくばは、抽象的な将来像(ヴィジョン)、優先順位を絞った行動計画(戦略・8リーディングプロジェクト)、それを動かす組織(まちづくり会社)という三段の構造を順序立てて整えた。理念だけでも、個別事業の寄せ集めでもなく、両者を橋渡しする「優先プロジェクトの束」を中間に置いたことで、何を先にやるかが市民・民間・行政の間で共有しやすくなる。中心市街地の再生に取り組む自治体にとって、計画を実装へつなぐ段階設計のモデルとして応用可能性が高い。 (参考:つくば中心市街地まちづくり戦略 - つくば市)
象徴的な公共空間の更新には、保存と活用を両立させる対話のプロセスが要る。 磯崎新設計のセンタービル・センター広場という建築資産を抱えるつくばは、その価値を惜しむ声と、現代の使い勝手への要請の間で、複数回の意見聴取を経て計画を調整した。象徴的な空間ほど改変への異論は強くなるが、設計段階を区切って意見を集め、エスカレーターの削減のように具体的な修正で応える手順は、歴史的な空間を抱える都市が機能更新を進める際の現実的な進め方を示している。 (参考:つくばセンタービル及びつくばセンター広場のリニューアル - つくば市、NEWSつくば)
2026年6月時点の調査内容に基づいて作成
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