
ららぽーと沼津シェアサイクル導入
地元ゼネコン・加和太建設が運営するシェアサイクル「ハレノヒサイクル」を大型商業施設に導入し、来訪者の行動範囲を広げる官民連携の取り組み。
静岡県沼津市では、2022年4月から市内13カ所でシェアサイクルサービス「ハレノヒサイクル」が展開されている。沼津市、地元ゼネコンの加和太建設、システム提供のOpenStreetの三者協定に基づく官民連携事業である。ららぽーと沼津をはじめ、沼津駅北口駐輪場、沼津市役所、沼津港、沼津御用邸記念公園などの主要拠点にステーションが設置され、電動アシスト自転車を好きな場所で借りて好きな場所に返却できる仕組みが整えられている。(参考:沼津市公式サイト)
ハレノヒサイクルは、加和太建設が2018年に三島市で開始したシェアサイクル事業である。鮮やかな黄色の車体が特徴で、「この自転車に乗った日は楽しい日」というコンセプトを掲げている。2021年にはグッドデザイン賞を受賞した。沼津市への展開により、三島市・沼津市など静岡県東部7市町と神奈川県箱根町を含む広域ネットワークが形成され、観光客や住民の移動手段として機能している。(参考:ハレノヒサイクル公式サイト、加和太建設note)
沼津市の人口は1995年をピークに減少が続いている。2015年には1975年から維持していた20万人を割り込み、約19.5万人にまで減少した。中心市街地では大型店の相次ぐ撤退や、近隣市町における大型商業施設の出店により商業の求心力が低下している。(参考:沼津市中心市街地活性化基本計画)
交通面では、乗合バスの利用が減少傾向にあり、維持が困難となっている路線も存在する。車を持たない高齢者や学生にとって移動が不便な地域が生まれている。また、75歳以上の後期高齢者の増加に伴い、公共交通機関のさらなる充実が求められている。(参考:沼津市都市マスタープラン)
こうした状況を受け、沼津市は「過度な自動車への依存を低減するとともに、市民の暮らしの質の向上や観光客の移動のしやすさを高め、エリア価値の向上に寄与させる」という政策目標を掲げ、新たな都市交通システムとしてシェアサイクルを位置づけた。(参考:沼津市公式サイト)
一方、運営主体の加和太建設は、1946年に兵庫県明石市で近畿土建株式会社として創業し、1962年に加和太建設株式会社に社名変更して本社を三島市に移転した地元ゼネコンである。土木・建築業だけでなく「元気なまちをつくる」事業として、まちの素敵な場所を結ぶ移動手段の整備に着目し、2018年から三島市でシェアサイクル事業を開始していた。(参考:加和太建設公式サイト、加和太建設まちづくり)
加和太建設は、2018年の三島市公募をきっかけにシェアサイクル運営を開始した。「人の暮らしを豊かにするコンパクトなまち」の実現には「シェアサイクルは有効な移動手段になるはず」という認識のもと、OpenStreetと協力してシステムを構築した。三島市内の主要観光地や駅周辺にステーションを設置し、サービスを展開した。(参考:HELLO CYCLING note)
この取り組みは「ハレノヒプロジェクト」の一環として位置づけられた。ハレノヒプロジェクトは、フリーマガジン「ハレノヒマガジン」、シェアサイクル「ハレノヒサイクル」、マルシェ「ハレノヒマルシェ」の3つの施策で構成され、地域住民がまちの魅力を再発見し、愛着を深めることを目指している。黄色い自転車とカゴが特徴的で、「この自転車に乗った日は楽しい日」という感覚を大切にしている。(参考:加和太建設note)
2021年10月、ハレノヒプロジェクトは「地域の取り組み・活動カテゴリー」でグッドデザイン賞を受賞した。「まちを好きな人を増やすことがまちを元気にするために大切」という理念と、デザインの力を活用し、住民が「ここで何かをしたい」と思える環境づくりを実現している点が評価された。(参考:加和太建設note)
2022年4月1日、沼津市、加和太建設、OpenStreetの三者間で「シェアサイクルの活用推進に関する協定」が締結された。これにより、沼津市内13カ所にステーションが整備された。主な設置場所は、沼津駅北口駐輪場、沼津市役所、沼津港、沼津御用邸記念公園、淡島マリンパーク、ららぽーと沼津などである。(参考:沼津市公式サイト)
ららぽーと沼津のステーションは、施設西側の「やまの広場側 自転車駐輪場」に設置された。ららぽーと沼津は2019年10月4日に開業した静岡県東部初のららぽーとで、開業時214店舗の大型商業施設である。敷地面積約11万9,816㎡、店舗面積約6万4,000㎡、駐車台数約3,600台を誇る。この商業施設の集客力を活かし、来訪者が周辺観光地や市街地へアクセスする拠点として機能させることで、施設単体の集客にとどまらない地域回遊の促進を目指した。(参考:ららぽーと沼津公式サイト、三井不動産プレスリリース)
2024年4月時点で、ハレノヒサイクルは静岡県内7市町(三島市・沼津市・裾野市・伊豆市・清水町・函南町・長泉町)で展開されている。さらに、2024年4月26日からは神奈川県箱根町の芦ノ湖周辺でも本格的な事業を開始した。箱根町では2023年4月から2023年10月まで実証実験を行い、観光客を中心に多くの利用があったことから本格運用に移行した。(参考:HELLO CYCLINGプレスリリース)
沼津市は2024年5月の自転車月間に合わせ、30分無料クーポンを配布した。広報ぬまづ5月1号やステーション掲示でクーポンコードを公開し、HELLO CYCLINGアプリ内でコードを入力することで、期間内に一人一回利用可能とした。サービス認知度向上と利用体験機会の創出に取り組んだ。(参考:沼津つーしん)
運営コスト増加と車両台数拡大に伴い、2025年3月3日から料金改定が実施された。従来の15分100円、12時間1,500円から、15分120円、12時間2,500円へと変更された。(参考:沼津市公式サイト)
全国チェーンではなく、地元ゼネコンが運営主体である点が特徴的である。加和太建設は1946年設立、従業員327名、売上高180億円(2024年12月期)の地域に根ざした企業である。単なる収益事業ではなく「まちづくり」の一環としてシェアサイクルを展開しており、この地域愛着に基づく継続的コミットメントがサービスの持続可能性を支えている。(参考:加和太建設公式サイト)
大型商業施設は本来、自動車での来訪を前提に郊外に立地することが多い。しかし、ららぽーと沼津のシェアサイクル導入は、商業施設が地域交通ネットワークの一部として機能する可能性を示した。来訪者の行動範囲を広げ、商業施設単独の集客から「地域回遊の起点」へと役割を拡張している。
グッドデザイン賞受賞が示すように、単なる移動手段ではなく「まちを彩るオブジェ」としてデザインされた点が成功要因の一つである。鮮やかな黄色の車体は視認性が高く、サービス認知度向上にも寄与している。「この自転車に乗った日は楽しい日」というコンセプトは、移動手段を超えた体験価値を提供している。(参考:加和太建設まちづくり)
運営事業者は利用データを分析し、利用者を大きく二つに分類している。一つは通勤・通学向けの「TOWN利用」で、鉄道駅へのアクセスとして機能する。もう一つは観光地周遊の「SIGHTSEEING利用」で、沼津市では沼津港と沼津駅の往復が主流である。ららぽーと沼津のステーションは、この両方の利用シーンに対応できる立地にある。(参考:HELLO CYCLING note)
HELLO CYCLINGアプリを通じた完全キャッシュレス運用により、利用者はスマートフォンだけで自転車を借りられる。クレジットカードやPayPayなど多様な決済手段に対応し、観光客にも利用しやすい環境を整備している。24時間365日利用可能で、15分単位から借りられる柔軟な料金体系も特徴である。(参考:沼津市公式サイト)
沼津市内13カ所にステーションを整備し、面的な移動ネットワークを構築した。ららぽーと沼津を含む主要施設でいつでも借りられ、どこでも返却できる環境を実現している。
沼津市単独ではなく、静岡県内7市町および神奈川県箱根町を含む広域ネットワークとして展開することで、観光圏全体の利便性を向上させている。箱根町での実証実験では、観光客を中心に多くの利用があり、一次交通の補完や交通渋滞緩和、観光消費拡大につながることが確認された。(参考:HELLO CYCLINGプレスリリース)
ハレノヒプロジェクトは2021年にグッドデザイン賞を受賞。鮮やかな黄色の車体デザインは「この自転車に乗った日は楽しい日」というメッセージを視覚化し、移動手段を超えた「まちを彩るオブジェ」としての役割を評価された。(参考:加和太建設note)
なお、具体的な利用者数や利用回数などの実績データは公開されていない。
大型商業施設は集客力があるものの、従来は施設内での消費に閉じがちであった。シェアサイクルステーションを設置することで、施設来訪者の行動範囲を広げ、周辺観光地や市街地への回遊を促進できる。商業施設が地域交通ネットワークの結節点として機能する新しいモデルを示している。
地元に根ざした企業が運営主体となることで、単なる収益事業を超えた地域貢献の視点が組み込まれやすい。長期的な地域愛着に基づくコミットメントは、サービスの持続可能性を高める要因となる。
単一自治体での展開では利用シーンが限定されるが、近隣市町と連携することで観光圏全体の利便性が向上する。特に観光地が複数の自治体にまたがる場合、広域ネットワークの構築が利用価値を高める。
単なる移動手段としてではなく、「まちを彩るオブジェ」としてデザインすることで、サービス認知度向上と利用意欲の喚起につながる。視認性の高い色使いやコンセプトの明確化は、マーケティング効果も期待できる。
無料クーポンの配布など、自治体が利用促進キャンペーンを行うことで、サービスの認知と初回利用体験のハードルを下げられる。こうした段階的なアプローチが、継続利用者の増加につながる。
2026年3月時点の調査内容に基づいて作成
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