
ぬまづみなと商店街 事務局移転
沼津港の観光商店街が事務局を駅ビル内の観光協会へ移転。駅という交通結節点に観光窓口を集約し、旅行商品化を加速させる組織改革の事例。
沼津港に約70店舗が集まる「ぬまづみなと商店街」が、2025年6月1日に事務局を港周辺からJR沼津駅ビル内の沼津観光協会へ移転させた。商店街の事務局を商店街エリア外に置くという、従来の常識を覆す組織改革である。
移転先は、JR沼津駅南口直結の駅ビル「アントレ」2階。沼津観光協会が運営する観光案内所と同じフロアに事務局を置くことで、観光客・旅行会社が最初に訪れる交通結節点に商店街の窓口機能を配置した。年間5万〜12万枚を販売する「食べ歩きクーポン」の旅行商品化を加速させる狙いがある。(参考:ぬまづみなと商店街公式サイト 事務局移転のお知らせ)
沼津港は1937年に開港し、魚市場が現在の千本港町へ移転したことで港町としての発展が始まった。戦後の1946年には魚問屋が朝食を提供するようになり、これが現在のグルメ観光の原点となっている。1991年に沼津港初の土産店「伊豆海屋」が開業し、観光地としての性格が強まった。1997年には「ぬまづみなと商店会」が発足し、2000年には飲食店モール「沼津みなと旬彩街」がオープンしている。(参考:KINKO沼津港113年の歴史)
現在の商店街は飲食店36店、土産物店25店など約70店舗で構成される。日本一深い駿河湾に面した沼津港では、マイワシ、ブリ、マグロ、カマスなど多彩な魚介が水揚げされ、海鮮丼や寿司、干物が商店街の看板商品となっている。静岡県はアジの干物の生産量日本一であり、沼津は全国の約3分の1を占める一大産地である。(参考:nippon.com 漁港巡り 沼津港、静岡県ガストロノミー 沼津ひもの)
沼津港には年間145万人以上の観光客が訪れるが、JR沼津駅から港までは約2.5km、バスで10〜15分の距離がある。観光客の多くは駅を起点に港へ移動するため、従来の港周辺にあった事務局では、旅の起点にいる観光客への情報提供や旅行会社との商談に不便があった。(参考:静岡県 沼津港みなとまちづくり推進計画)
商店街が販売する「食べ歩きクーポン」は年間5万〜12万枚の実績があり、主な購入者は旅行会社、イベント団体、ホテル・観光施設である。購入地域は東京、大阪、神奈川が上位を占める。このクーポン販売を拡大するには、旅行会社との接点を増やす必要があった。(参考:食べ歩きクーポン詳細)
沼津市は2021年に観光振興ビジョンを改定し、現行ビジョンの計画期間は2025年度末で終了する。2026〜2030年度の新ビジョンに向けて、官民一体での観光振興体制の強化が求められていた。商店街としても、市全体の観光戦略の中での位置づけを見直す時期にあった。(参考:沼津市観光振興ビジョン)
2025年6月1日、ぬまづみなと商店街協同組合は事務局を沼津観光協会内へ移転した。
移転前の事務局は、沼津市蛇松町の魚仲買商協同組合内に所在していた(電話:055-962-2882)。
移転後は、JR沼津駅南口直結の駅ビル「アントレ」2階に位置する沼津観光協会内に事務局を構えた。新しい連絡先は電話055-964-1300、営業時間は10:00〜18:00である。
(参考:事務局移転のお知らせ)
沼津観光協会は、駅ビル「アントレ」2階で沼津観光案内所を運営している。営業時間は9:00〜18:00(火曜日のみ17:00まで)、年中無休である。
観光案内所の主なサービスは以下の通り。
(参考:沼津観光案内所、沼津観光協会『沼津観光案内所』のススメ)
事務局移転に伴い、食べ歩きクーポンに付属する「沼津ラクーンよしもと劇場チケット」のファミリーマートチケット交換場所が変更された。
(参考:食べ歩きクーポン詳細)
従来の商店街運営では、事務局は商店街エリア内に置くのが通例だった。この事例では、観光客の旅の起点であるJR沼津駅に窓口を設置し、到着直後から商店街への送客を可能にした。
駅ビル内の観光案内所は改札口の正面に位置し、到着した観光客がすぐに立ち寄れる。「沼津に来たけれど、どこに行こうか」と迷う観光客に、港の魅力を直接伝えられる接点ができた。(参考:沼津駅ビル アントレ)
沼津観光協会の手ぶら観光サービスとの連携も重要な要素である。観光客は駅で荷物を500円で預け、身軽な状態で港へ向かえる。重量のあるアジ干物や海産物の購入も、帰りに駅で荷物を受け取れると分かっていれば心理的ハードルが下がる。
食べ歩きクーポンの申込はFAXまたはメール、決済は銀行振込、納品は郵送と、業務の大半がオンライン化されている。事務局の物理的な位置に依存しない運用が確立されていたことが、今回の駅ビル移転を可能にした前提条件といえる。
クーポンは1,000円券(500円×2枚つづり)と1,500円券(500円×3枚つづり)の2種類で、1枚から購入可能。団体は20〜2,500枚まで対応している。(参考:食べ歩きクーポン詳細)
事務局移転は2025年6月に実施されたばかりであり、定量的な成果は今後の評価を待つ必要がある。ただし、組織設計の観点からは以下の効果が見込まれる。
観光客接点の拡大 従来は港を訪れることを決めた人だけが情報を得られた。駅ビル移転後は、「港まで行くか迷っている」観光客にも商店街の魅力を伝えられるようになった。
旅行会社との商談効率化 クーポンの主要購入者である旅行会社にとって、駅ビル内の事務局は商談や資料受け取りが容易になる。東京・大阪・神奈川からの購入が多いことを踏まえると、移動のついでに立ち寄れる立地は営業面で有利に働く可能性がある。
観光専門組織との機能融合 商店街は店舗の質の向上、観光協会は誘客とプロモーションという役割分担が明確になった。観光マーケティングの専門性を商店街運営に取り込む体制が整った。
この事例は、「商店街の事務局は商店街内にあるべき」という固定観念からの脱却を示している。
以下の条件を満たす観光地型商店街では、同様のアプローチが有効と考えられる。
一方で、事務局が港から離れることで、商店街組合員との日常的な接点が減少するリスクもある。定期的な現地訪問、オンライン会議の活用、組合員向けアンケートなど、物理的距離をデジタル技術で補う運営体制の構築が求められる。
全国には温泉地、門前町、港町など、観光客向けの商店街が数多く存在する。それぞれの地域で「観光客の動線」を見直し、最適な窓口配置を検討することは、これからの商店街運営に求められる視点である。
2026年3月時点の調査内容に基づいて作成
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