
都立砧公園『みんなのひろば』インクルーシブ遊び場と砧公園マネジメントプラン
東京都が2020年に砧公園へ全国に先駆けて整備したインクルーシブ遊び場『みんなのひろば』。当事者参加の事前調査と開設後のモニタリングで遊び場を「育て」、2025年改定の砧公園マネジメントプランに位置づけた、誰もが遊べる公共空間づくりの事例。
東京都は2020年3月、世田谷区の都立砧公園内に、障害の有無や年齢・国籍を問わず誰もが一緒に遊べる遊具広場『みんなのひろば』を整備した。元アスレチック広場だった約3,200㎡を全面改修し、車いすのまま登れるスロープ付き複合遊具、背もたれ付きブランコ、感覚に配慮したシェルター遊具などを配置。都が全国に先駆けて整備した本格的なインクルーシブ遊び場で、「日本初のインクルーシブ公園」として広く紹介されている。(参考:砧公園 だれもが楽しめ、遊べるで進化し続ける「みんなのひろば」|世田谷くみん手帖、ユニバーサルデザイン遊具のある公園|公園へ行こう!)
特筆すべきは、遊具を設置して終わりではなく、開設後も利用者の声を継続的に集めて改善を重ねる「育てる」運営を行っている点である。運営を担う公益財団法人東京都公園協会は、弱視の子どもや車いす利用者などのモニタリングを反映し、フェンスの色分けや案内表示の追加といった細かな改修を続けてきた。この遊び場は、開園から約65年を経た総合公園の一角に、新たな価値を加えた取り組みとして位置づけられる。(参考:No.15 共に開く新たな扉(後編:公園を育てる)|みーんなの公園プロジェクト)
砧公園そのものは開園面積約39.2ha(都市計画面積67.0ha)の総合公園で、広大な芝生の「ファミリーパーク」や世田谷美術館、バードサンクチュアリを擁する。東京都建設局は2025年3月、今後10年程度を見据えた管理・整備方針として『砧公園マネジメントプラン』を改定し、防災機能の強化や生物多様性の保全とともに「インクルーシブな公園の創出」を重点取組の一つに明記した。(参考:砧公園マネジメントプラン(令和7年3月)|東京都建設局)
砧公園は、紀元2600年記念事業として昭和15年(1940年)に都市計画決定され、一時は東急電鉄に経営を委託したゴルフ場を経て、昭和32年(1957年)4月に開園した歴史ある公園である。武蔵野台地の端に位置し、ケヤキ林やサクラの名所、谷戸川沿いの緑を残す都心近郊の貴重な緑地として、犬の散歩やジョギング、家族のピクニックなど地域の日常利用に支えられてきた。(参考:砧公園マネジメントプラン(令和7年3月)|東京都建設局)
一方で、従来の公園の遊び場は、健常な子どもの利用を暗黙の前提として設計されることが多く、車いすや医療的ケアを必要とする子ども、感覚過敏のある子どもにとっては「行っても遊べない」「そもそも入りにくい」場所になりがちだった。障害のある子どもとその家族が、他の子どもと一緒に外遊びを楽しむ機会が制度的に確保されていないという課題が、当事者の側から長く指摘されてきた。(参考:砧公園が「インクルーシブ公園」に|東京すくすく(東京新聞))
この課題を政策の俎上に載せたのが、ダウン症の子どもを育てる龍円あいり都議(渋谷区選出)である。龍円都議は2018年の都議会一般質問で、障害の有無にかかわらず子どもが共に遊べるインクルーシブな公園の必要性を訴え、これが東京都によるインクルーシブ遊び場整備の政策的な起点となった。都立公園という広域の公共空間を、多様な子どもが自然に混ざり合える場に転換できるかが問われた。(参考:砧公園が「インクルーシブ公園」に|東京すくすく(東京新聞))
整備にあたって東京都は、遊具メーカー主導のカタログ発注ではなく、当事者や専門家の意見を設計に取り込むプロセスを踏んだ。計画段階では、障害のある子どもの関係者を中心に、行政・教育・医療・福祉の各分野の専門家からヒアリングを重ね、どのような遊具や環境が「共に遊ぶ」を可能にするかを検討した。設計には東京都東部公園緑地事務所(当時)の竹内智子氏らが関わり、「"誰でも"とは障がいだけでなく、世代・国籍・文化・身体の力・考え方・感じ方などが違うすべての人」という考え方が据えられた。(参考:砧公園にある未来の公園『みんなのひろば』全貌公開!|パラサポWEB、インクルーシブ公園の可能性|京都芸術大学WEB卒業研究展)
こうして2020年3月に開設された『みんなのひろば』には、幅広スロープで車いすでも登れる船型遊具「みらい号」、耐荷重に余裕をもたせ体を支えられる回転遊具「ぐるぐるマウンテン」、背もたれ・ベルト付きなど複数タイプのブランコ、離れた相手と声を交わせる伝声管「おはなしフラワー」、静かに気持ちを落ち着けられるシェルター遊具「きりかぶ」、触覚で楽しむ迷路などが配置された。地面は転倒時の衝撃を和らげるゴムチップ舗装で段差をほぼなくし、駐車場や園路からのアクセスも見直された。多目的トイレや障害者用駐車区画も近接して整備されている。(参考:砧公園にある未来の公園『みんなのひろば』全貌公開!|パラサポWEB、インクルーシブ公園の可能性|京都芸術大学WEB卒業研究展)
開設後は、外遊びの専門団体である一般社団法人TOKYO PLAYが2020年夏から秋にかけてプレイワーカーを配置しながら利用者アンケート・ヒアリング調査を実施し、その結果を都への報告書にまとめた。得られた声は具体的な改修に反映されている。たとえば、弱視の利用者から「出入口がフェンスと同じデザインで位置がわかりにくい」との声を受けてフェンスを2色に塗り分け、照明支柱にぶつかりそうになる声を受けてクッション材を拡張した。「子ども連れ以外は入りにくい」という声には、翌日には「0歳から300歳までだれでもどうぞ」という趣旨の案内表示を掲げて応えた。夏場には暑さ対策のヨシズを張るなど、ルールを増やすより現場の工夫で対応する姿勢がとられている。(参考:No.15 共に開く新たな扉(後編:公園を育てる)|みーんなの公園プロジェクト、ユニバーサルデザイン遊具のある公園|公園へ行こう!)
さらに運営は、公園管理者・地域活動団体・学習/調査者の三層が関わる体制へと広がった。管理者が日々の観察と対話で課題を拾い、TOKYO PLAYやNPO法人amigoといった団体が「のびのびアート」などのイベントや学びの場を提供し、企業・大学・自治体の視察や研究が知見を外へ広げる。2022年秋からは定員15名程度の予約制で見学会を10回以上実施し、改善の経緯や残る課題を来場者に共有している。こうした継続的な取り組みは、遊び場を「完成品」ではなく育て続ける対象と捉える運営思想を体現している。(参考:No.15 共に開く新たな扉(後編:公園を育てる)|みーんなの公園プロジェクト)
そして2025年3月、東京都建設局は「パークマネジメントマスタープラン」(2024年3月改定)に基づき、砧公園を含む42の都立公園で公園別マネジメントプランを改定した。砧公園マネジメントプランは、防災機能の強化を軸に据えつつ、重点取組の一つに「インクルーシブな公園の創出」を掲げ、プレーリーダーを活用して「だれもが遊べる児童遊具広場」で子どもが一緒に遊べるイベントを行う方針を明記した。個別の遊具整備が、公園全体の10年間の管理方針の中に制度的に位置づけ直された点が重要である。(参考:「公園別マネジメントプラン」を改定|東京都、砧公園マネジメントプラン(令和7年3月)|東京都建設局)
第一の特徴は、「作って終わり」ではなく「作った後に育てる」を運営の中心に据えている点である。多くのバリアフリー整備が竣工時点をゴールとするのに対し、砧公園では開設直後から利用者調査を組み込み、フェンスの色分けや案内表示といった小さな改修を積み重ねてきた。ハード(遊具・舗装)の完璧さより、現場での気づきに即応するソフトの運用を優先する姿勢が明確である。(参考:No.15 共に開く新たな扉(後編:公園を育てる)|みーんなの公園プロジェクト)
第二に、「制約の少なさ」を設計思想としている点が挙げられる。後に各地で整備された一部のインクルーシブ遊び場が、予約制・時間制・保護者同伴などの利用制限を設けたのに対し、砧公園『みんなのひろば』は原則として就学前後の子どもが自由に出入りできる。障害のある子とない子が特別なイベントとしてではなく、日常のなかで自然に混ざり合う環境をめざしている。(参考:インクルーシブ公園の可能性|京都芸術大学WEB卒業研究展)
第三に、当事者発の政策提起から個別整備、そして公園管理計画への組み込みまでが一続きになっている点である。都議会での問題提起(2018年)→当事者参加の設計→開設後モニタリング→マネジメントプランへの位置づけ(2025年)という流れは、単発の善意の事業に終わらせず、行政計画の中に定着させる筋道を示している。あわせて砧公園マネジメントプランでは、介助用電動車いすの寄贈受入なども公園の日常運営に組み込まれている。(参考:砧公園マネジメントプラン(令和7年3月)|東京都建設局、砧公園が「インクルーシブ公園」に|東京すくすく(東京新聞))
『みんなのひろば』は、砧公園マネジメントプランの中で「多くの遊具があり、こどもたちの人気スポットになっている」と記され、平日の主要な利用目的の一つに数えられるまでに定着した。公園全体の年間利用者数は、開設した令和2年度(2020年度)に約231.9万人を記録している。ただしこの時期は新型コロナ禍で屋外空間の需要が高まった局面と重なるため、みんなのひろば単独の効果とは切り分けて捉える必要がある。以降は令和3年度約217.9万人、4年度約173.1万人、5年度約131.5万人と、コロナ収束に伴い落ち着く方向にある。月別では例年、サクラの咲く3月と新緑の4月に来園が集中する。(参考:砧公園マネジメントプラン(令和7年3月)|東京都建設局)
定性的な成果としては、当事者の声を反映した具体的な改善が積み重なっていること自体が挙げられる。弱視者向けのフェンス色分け、案内表示の追加、暑さ対策など、利用者との対話が実際の改修に結びついた事例が公開・共有され、他の自治体や公園関係者の視察・研究の対象となっている。砧公園に続いて府中の森公園「もり公園にじいろ広場」が都立2例目として整備され、渋谷区・豊島区など区市のインクルーシブ公園整備にも波及した。龍円都議は2019年以降、都が得たノウハウの他自治体への共有や、整備を促すガイドライン・支援を都議会で求めており、モデルとしての横展開が進んでいる。(参考:ユニバーサルデザイン遊具のある公園|公園へ行こう!、No.15 共に開く新たな扉(後編:公園を育てる)|みーんなの公園プロジェクト)
他方で、残された課題も率直に指摘されている。学術的な分析では、遊具や舗装といった物理的なユニバーサルデザインは実現された一方、過去の排除体験に根ざす当事者の不安を和らげる「心理的なユニバーサルデザイン」は今後の課題とされる。また、遊び場単体は整備されても、ファミリーパーク全体の誘導サインや一部入口のスロープには段差が残るなど、公園全体のUD化は道半ばである。「人気スポット化」と「本当に誰もが来やすい環境」の間には、なお埋めるべき距離があることが認識されている。(参考:インクルーシブ公園の可能性|京都芸術大学WEB卒業研究展)
第一に、インクルーシブな公共空間は「整備」より「運営設計」で決まる、という示唆である。砧公園の価値は高価な特注遊具そのものよりも、開設後にプレイワーカーを介して利用者の声を集め、小さな改修に反映し続ける仕組みにある。この「モニタリング→即応改善」のループは特定の人物のカリスマに依存せず、調査・報告・改修という手続きに落とし込まれているため、他地域でも移植しやすい。逆に言えば、遊具導入だけを真似ても、運営体制がなければ「作って終わり」に陥りやすい。(参考:No.15 共に開く新たな扉(後編:公園を育てる)|みーんなの公園プロジェクト)
第二に、利用制限の設計が「インクルーシブの質」を左右する点である。予約制や時間制は安全管理には有効だが、障害のある子とない子が日常的に混ざり合う機会を狭める側面もある。砧公園が制約を最小化して自由な出入りを選んだ判断は、各地が自地域の条件(面積、見守り体制、近隣事情)に照らして「どこまで制限し、どこを開くか」を意識的に設計すべきことを示している。(参考:インクルーシブ公園の可能性|京都芸術大学WEB卒業研究展)
第三に、単発事業を計画に「定着」させる筋道である。当事者発の提起を個別整備で終わらせず、10年スパンの公園別マネジメントプランに「インクルーシブな公園の創出」として位置づけたことで、担当者の異動や一時的な熱意に左右されにくい継続性が担保された。他自治体でも、緑の基本計画や公園マネジメント計画といった上位計画に理念と具体施策を書き込むことが、取り組みを制度として残す鍵になる。あわせて、物理的整備の完了で満足せず「心理的なハードル」や「公園全体のUD化」といった次の課題を明示しておくことが、フラットな自己評価と次の一手につながる。(参考:砧公園マネジメントプラン(令和7年3月)|東京都建設局、インクルーシブ公園の可能性|京都芸術大学WEB卒業研究展)
2026年7月時点の調査内容に基づいて作成
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