
台東区 新モビリティ導入検討・グリーンスローモビリティ実証実験(上野・谷中エリア)
この記事は、my grooveを運営する株式会社Groove DesignsがAIを活用し独自に調査・作成したものです。
台東区が2023年の体験会を経て2024年秋、観光地の上野エリアと狭あい道路の多い谷中エリアで異なる狙いのグリーンスローモビリティ実証実験を実施。満足度87〜90%を確認しつつ運賃モデルなど事業化の論点も見えた二段階検証の事例。
台東区は、地域の魅力を高め、住民や来街者にとっての使いやすさを向上させる目的で、時速20km未満の電動車を活用する「グリーンスローモビリティ」を含む新たなモビリティの導入検討を進めてきた。2023年11月に上野恩賜公園で複数事業者のモビリティを試乗できる体験会「NEW MOVE! FROM UENO」を開催し、その結果を踏まえて2024年9月に観光地である上野エリア、同年10月に狭あい道路の多い住宅地である谷中エリアで、それぞれ異なる目的を設定した固定ルートの実証実験を実施した。 (参考:モビリティ体験会「NEW MOVE! FROM UENO」へ協力(ヤマハ発動機))
上野エリアでは観光客の回遊促進、谷中エリアでは住民の生活の足としての利便性・安全性の検証という、性格の異なる2つの地区で目的別にモビリティを走らせ、乗車実績とアンケートで効果を定量的に確認した点が特徴である。台東区議会への報告では、両エリアとも80%台後半から90%台の満足度が得られた一方、本格導入や事業採算性についての結論は調査時点では示されていない。 (参考:【東京都台東区】TAJIMA NAOを使用した実証実験(上野エリア)(タジマモーターコーポレーション)、第4回定例会が開催されました(公明党台東総支部))
台東区の観光客数は増加が続いており、令和6年(2024年)は約4,121万人(日本人約3,481万人、外国人約640万人)と前年比6.7%増、うち外国人観光客は45%増と急伸した。上野エリアは上野恩賜公園を中心に美術館・博物館・動物園などの文化施設が集積する台東区の主要観光地だが、観光客が上野駅と有名観光地を直行するにとどまり、周辺エリアまで足を延ばさない傾向が課題として認識されていた。 (参考:令和6年台東区観光統計(台東区)、上野で新移動サービス 小型EV実証実験、15日まで(東京新聞TOKYO Web))
一方の谷中エリアは、関東大震災や戦災の被害を免れたことで江戸期以来の路地や町屋が残る寺町として知られるが、その裏返しとして幅員の狭い坂道が連なり、大型車両の乗り入れには適さない。谷中を含む地域包括支援センター「やなか」圏域の高齢化率は25.02%と区平均(22.39%)を上回り、高齢者のうち単身世帯の割合も35.9%に達する。谷中二・三・五丁目は木造住宅が密集する防災上の課題を抱える地区として密集住宅市街地整備促進事業の対象にもなっており、大規模地震時の建物倒壊・延焼による避難困難が懸念されてきた。狭あい道路が多い住宅地というまちの成り立ちそのものが、既存の路線バスでは対応しきれない移動手段の空白を生んでいた。 (参考:研究員のひとり言(モビまち研コラム)(日建設計総合研究所、Wayback Machineアーカイブ)、台東区内の高齢者・高齢者世帯の現状(台東区)、密集住宅市街地整備促進事業(谷中二・三・五丁目)(台東区)、谷中地区 地区計画(台東区))
こうした性格の異なる2つの課題に対し、台東区は最初から特定の車両・運行形態を前提とせず、まず様々なモビリティを試す体験会で地域ニーズと車両特性を把握したうえで、エリアごとに目的を分けた実証実験へ段階的に進む方法を取った。なお台東区は並行して、コミュニティバス「めぐりん」を所管する地域公共交通会議でAIを使ったオンデマンド交通の実証実験を通じて交通に関する基礎データを集める検討を進めており、新モビリティの導入検討は区の交通政策全体の見直しの一部に位置づけられる。 (参考:台東区地域公共交通会議(台東区))
1. モビリティ体験会「NEW MOVE! FROM UENO」(2023年11月)
台東区が主催し、株式会社日建設計総合研究所が事務局を務めるかたちで、2023年11月25日・26日に上野恩賜公園で開催された。トヨタ自動車、TISTOU、4FRAMES、ヤマハ発動機が協力し、ヤマハ発動機はコンパクトなオープン型グリーンスローモビリティ「AR-07」と、時速6kmで座って移動できるパーソナルモビリティ「NeEMO」を提供した。竹の台広場には試乗者以外も休憩・交流できる「ラウンジモビリティ」も設置され、モビリティを単なる移動手段としてでなく、公共空間の使い方の一つとして体験してもらう場となった。悪天候にもかかわらず多くの来場者が試乗し、「公園内での移動が楽しい」といった好意的な反応が得られた。 (参考:モビリティ体験会「NEW MOVE! FROM UENO」へ協力(ヤマハ発動機))
2. 上野エリア実証実験(2024年9月)
2024年9月4日から15日まで、竹の台広場を起点に上野駅公園口・鶯谷駅・寛永寺・東京国立博物館を巡る周回ルート(1周約1時間15分)で実施された。1日6便を45分間隔で運行し、料金は無料、事前予約は不要とした。車両は空調付きボックス型で定員6名のタジマモーターコーポレーション製「NAO-6J」と、車椅子対応のオープン型で定員7名のシンクトゥギャザー製「eCOM-4」の2種類を使い分け、観光客が有名観光地と駅の間を素通りしがちな回遊パターンを踏まえ、周辺エリアへの回遊を促すことを狙いとした。 (参考:上野で新移動サービス 小型EV実証実験、15日まで(東京新聞TOKYO Web)、台東区が上野エリアで2種類のグリーンスローモビリティを実証実験(ロボファン)、【東京都台東区】TAJIMA NAOを使用した実証実験(上野エリア)(タジマモーターコーポレーション))
3. 谷中エリア実証実験(2024年10月)
続く2024年10月16日から27日まで、谷中エリアで「TAJIMA NAO」を使用した2回目の実証実験を実施した。こちらも無料・事前予約不要だが、目的は上野とは異なり、坂が急で道幅の狭い路地の多い谷中では、大型車両が入りにくい住宅地の生活の足として使えるかどうか、地域住民のニーズと運行の安全性を検証することに主眼が置かれた。 (参考:【東京都台東区】2回目のグリスロ実証実験を開始(タジマモーターコーポレーション)、東京都台東区のお知らせ|グリーンスローモビリティの実証実験(Yahoo!くらし)、研究員のひとり言(モビまち研コラム)(日建設計総合研究所、Wayback Machineアーカイブ))
4. 区議会への結果報告(2024年12月)
2つの実証実験の結果は、同年12月の台東区議会の交通対策・地区整備特別委員会に報告された。乗車実績やアンケート結果が定量的に整理され、地域の利便性・魅力向上の可能性、走行の安全性、周辺交通への影響の小ささが確認された一方、運賃を含む事業性の検討が今後の課題として付記された。 (参考:第4回定例会が開催されました(公明党台東総支部))
1. 「体験→実証」という段階を踏んだ検証プロセス
台東区はいきなり特定の車両や運行形態を前提とした実証実験に入るのではなく、まず2023年11月の体験会で複数事業者・複数タイプのモビリティを住民・来街者に試してもらい、反応や適性を把握したうえで、翌年の実証実験へと進んだ。車両選定を先に決めてから需要を検証するのではなく、需要と車両特性の相性を先に見極めてから固定ルートでの実証に絞り込む順序を取っている点は、限られた予算と期間で新しいモビリティ施策を検討する自治体にとって参考になる進め方である。
2. 観光地と住宅密集地という対照的な2エリアを同一区内で同時期に検証
上野(観光回遊促進)と谷中(狭あい道路が多い住宅地での生活の足)という、課題の性格がまったく異なる2つのエリアを同じ秋のシーズンに実証した点が特徴である。それぞれのエリアに合わせて目的・車両・評価軸を作り分けたことで、「グリーンスローモビリティ」という同一の技術が、観光文脈と生活交通文脈という異なる政策課題に対してどう機能するかを、単一自治体内で比較できるデータが得られた。
3. 上野エリアでの車両特性を使い分けた比較設計
上野エリアでは、空調付きの箱型車両(NAO-6J)と、車椅子対応とされるオープン型車両(eCOM-4)という異なる特性の2車種を同じルートで並行運行した。1つの車両形式に絞らず、乗り心地や乗降のしやすさが異なる車両を同時に走らせたことで、利用者がどちらの形式を好むか、車椅子利用者を含めたアクセシビリティ面でどのような違いが出るかを、同一条件下で比較できる設計になっている。
4. 竹の台広場のモビリティハブ化
2023年の体験会では、単に試乗させるだけでなく、竹の台広場に試乗者以外も利用できる休憩・交流スペース「ラウンジモビリティ」を併設した。モビリティの導入を移動手段の整備にとどめず、広場という公共空間の使い方そのものをアップデートする機会として位置づけている点は、モビリティ政策と公共空間活用を組み合わせた工夫といえる。
台東区議会への報告によれば、1便あたりの平均乗車人数は上野7.8人、谷中5.1人だった。利用者アンケートでは満足度が上野87.9%、谷中90.4%と両エリアとも高く、グリーンスローモビリティがあることで外出意欲が高まると答えた割合も上野80.8%、谷中87.1%に上った。利用者に占める区内在住者の割合は上野11.8%、谷中39.9%で、上野は主に来街者が、谷中は主に地域住民が利用したという結果は、それぞれの実証実験が狙った目的(観光回遊促進/生活の足の検証)と整合している。利用目的では「試しに利用した」が上野55.6%・谷中53.5%と双方で最多だったが、上野では「観光」目的が23.2%、谷中では「日常の移動」目的が14.6%を占め、エリアごとの利用実態の違いも表れた。 (参考:第4回定例会が開催されました(公明党台東総支部))
一方で、想定運賃についての回答は「ガイドなしで100円」を支持する割合が上野39.7%・谷中53.8%、「ガイド付きで201〜500円」を支持する割合が上野44.8%・谷中42%にとどまり、無料の実証実験下での高い満足度に対して、有料化した場合に見込める需要規模には一定の慎重さがうかがえる結果となった。台東区都市づくり部の担当者は、産学官連携の研究会「モビまち研」の視察会で、次年度以降は運行の長期化や広告収入の確保、有料運行、モビリティハブの検討を進めたい考えを示す一方、谷中エリアについては地元住民との対話を通じて検討を継続する方針を述べている。 (参考:研究員のひとり言(モビまち研コラム)(日建設計総合研究所、Wayback Machineアーカイブ))
調査時点(2026年9月)では、この実証実験を受けた本格導入や追加の実証実験の実施を示す公式発表は確認できず、当時の告知ページも区公式サイト上での所在を確認できなかった。実証段階での満足度・安全性は高く評価された一方、運賃モデルを含む事業化の是非については、調査時点でなお検討段階にあると捉えるのが妥当である。
住宅密集地型のグリーンスローモビリティについては、神奈川県相模原市の丘陵住宅団地「若葉台地区」の事例が参考になる。人口約2,000人・高齢化率50%超という若葉台地区では、2023〜2024年度の実証運行を経て2025年4月から「わかば号」として本格運行を開始したが、その運行形態は道路運送法上の許可・登録を要しない、地域ボランティアドライバーによる無償運送である。谷中エリアのように住民の日常移動を支える性格のグリーンスローモビリティは、必ずしも商業運行事業者を必要とせず、地域住民が担い手となる無償運送の枠組みで持続的な運行に移行できる可能性を示している。 (参考:グリーンスローモビリティ「わかば号」(相模原市))
観光回遊促進型については、栃木県日光市の事例が対照的な運行モデルを示す。日光東照宮から西町エリアまでを結ぶ定時定路線を東武バス日光が運行し、1回200円(小学生100円)を現金・交通系ICカード・PayPay・日光MaaSなど複数の決済手段で支払える仕組みを整えている。上野エリアのような観光回遊型のグリーンスローモビリティを無料の実証実験から持続的なサービスへ発展させるには、既存のバス事業者など運行ノウハウを持つ主体と、複数の決済手段に対応した有料運行の仕組みが選択肢になりうる。 (参考:観光交通で注目の「グリーンスローモビリティ」、国内事例を専門家が解説(トラベルボイス))
台東区の事例から得られる最大の示唆は、「グリーンスローモビリティ」という同じ技術・制度枠組みであっても、観光回遊促進と住宅地の生活交通支援とでは、目指すべき運行主体・料金モデル・評価指標がまったく異なるという点である。同一自治体内であっても両者を一つの実証実験でまとめて検証するのではなく、目的に応じて評価軸を作り分けたうえで、それぞれ異なる持続可能性のモデル(商業事業者による有料運行、あるいは住民主体の無償運送)を検討する必要がある。あわせて、満足度だけでなく想定運賃への回答をアンケートに組み込み、無料の実証段階からすでに事業化の判断材料となる支払意思データを収集していた点も、他地域が実証実験を設計する際に取り入れやすい実務上の工夫といえる。
2026年9月時点の調査内容に基づいて作成
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