
東京都市大学×二子玉川エリアマネジメンツの産学公民連携
二子玉川ライズで9年間拠点「夢キャンパス」を運営した東京都市大学が、閉館後も地域との接点を絶やさぬよう2024年に二子玉川エリアマネジメンツと連携協定を締結。防災・環境・モビリティの研究を水辺空間や地域イベントに実装する、拠点に依存しない産学公民連携の事例。
東京都市大学(学校法人五島育英会)と一般社団法人二子玉川エリアマネジメンツは、2024年6月7日、二子玉川地域のまちづくりで協力する連携・協力協定を締結した。協定は、地域活性化、人材育成、情報発信などを柱とし、防災・環境保全・公共交通といった具体的なテーマで産学公民が協働することを掲げている。 (参考:大学プレスセンター、一般社団法人二子玉川エリアマネジメンツ)
この協定の背景には、大学が2015年から2024年まで二子玉川ライズに構えていた地域拠点「二子玉川夢キャンパス」の蓄積がある。拠点を閉じたあとも地域との関係を継続・発展させるために、両者は関係を協定という形で結び直した。以降、大学の複数の研究室が二子玉川エリアマネジメンツの運営する水辺空間や地域イベントに参画し、研究成果を地域の場で実装する動きが続いている。 (参考:大学プレスセンター、一般社団法人二子玉川エリアマネジメンツ)
二子玉川エリアマネジメンツは、玉川一〜四丁目周辺の住民・事業者・地権者らによる検討を経て2015年4月に設立された組織である。2019年1月に一般社団法人格を取得し、2020年2月には世田谷区から都市再生推進法人として指定された。兵庫島公園を中心とした多摩川の水辺空間の活用や、二子玉川ライズ内の情報発信拠点「FUTAKO FUN BASE」の運営(2019年開設)、マルタウグイの産卵床を整備したり、野川沿いの護岸を清掃したりするなど、地域の生態系保全につながる活動など、地域の価値を維持・向上させる取り組みを担ってきた。世田谷区はアドバイザーとして参画している。こうした活動を広げるほど、防災・環境・公共空間の設計といった専門的な知見や、活動を支える次世代の担い手の確保が課題となっていた。 (参考:世田谷区)
一方の東京都市大学は、2015年6月から2024年2月まで二子玉川ライズに「二子玉川夢キャンパス」を運営していた。「地域と連携、社会に発信」をモットーに、研究教育活動、地域との連携活動、子どもへの学習支援、大学グループ連携の4本柱で活動し、地域に開かれた学びの場として機能してきた。しかし約9年の運営を経て、この常設拠点は2024年2月末に閉館した。地域に根を張ってきた大学にとって、物理的な拠点を失ったあとも、研究の社会実装の場や学生の実地学習の機会をどう地域につなぎ続けるかが課題となった。二子玉川エリアマネジメンツと大学は、拠点運営期から必要に応じて共同でイベントを実施してきた間柄であり、その関係を制度として明確にし、より迅速に動ける体制をつくることが、双方の課題解決に向けた出発点となった。 (参考:二子玉川夢キャンパス アーカイブ、一般社団法人二子玉川エリアマネジメンツ)
協定締結に先立つ2024年6月1日、諫川輝之准教授が指導する都市安全環境研究室と、斉藤圭准教授(現・教授)が指導する環境プランニング研究室に所属する学生19人が、二子玉川エリアマネジメンツ主催「二子玉川ネイチャーズディ2024」の運営スタッフとして加わった。会場となった多摩川河川敷(二子玉川公園前)では環境保全や防災に関連したワークショップや外遊び体験などが催され、学生たちは会場づくりやのぼり旗・看板の設置、来場者への声かけ、アンケート回答の呼びかけなどを分担した。学生にとっては、エリアマネジメント運営の一端を実地で経験する機会となった。 (参考:東京都市大学 都市生活学部)
こうした協働の実績を土台に、2024年6月7日、両者は連携・協力協定を締結した(6月26日に松本代表理事と野城智也学長が書面を取り交わし)。協定は連携事項として、地域の活性化や貢献活動を後押しすること、人材の育成・交流を進めること、地域や活動の情報を発信すること、そのほか目的達成に必要な協力を行うことの4点を掲げている。防災、環境保全、船を活用した公共交通の検討といったテーマで協働していくことが示された。野城学長は「今までも近隣にあることから様々な繋がりがあったが、今後は更に関係性を深めていきたい」とコメントしている。 (参考:大学プレスセンター、一般社団法人二子玉川エリアマネジメンツ)
協定後の代表的な実装が、2024年10月に兵庫島公園内の水辺空間「Mizube Fun Base」で開催された産学連携イベント「Mizube "BUS" Base with 都市大」である。エアコン付きの路線バス車両を水辺に設置し、暑さ寒さをしのげる交流・飲食スペースかつ研究公開の場として活用した。都市交通・住まい・防災・AIなどの研究成果を一般に開く学び場シリーズ「Mizubeダイガク」を軸に、ユニバーサルデザイン、住宅生産、都市安全環境の各研究室が中心となって企画・運営を担い、ほかの学部や大学も協力する形で開催された。この「ミズベバスベースによる地域活性化の実践的活動」は、西山敏樹研究室・諫川輝之研究室・二子玉川エリアマネジメンツらの取り組みとして、2024年9月にイノベーションホープ賞を受賞している。 (参考:東京都市大学 都市生活学部、都市生活学部生も参画する産学連携プロジェクトの表彰について(東京都市大学 都市生活学部))
第一の特徴は、常設拠点の撤退を連携の終わりにせず、協定によって関係を結び直した点である。大学が9年間運営した「夢キャンパス」という物理的拠点を閉じたあと、拠点撤退後に関係が途切れるケースは少なくないと考えられるが、この事例では拠点というコストのかかる器を持たないまま、協定という枠組みで関係を持続させた。拠点に依存しない産学公民連携のかたちを示している。
第二に、都市交通・モビリティを専門とする研究室が、路線バス車両を「動く交流・学びの空間」として水辺に転用した発想がある。移動手段そのものを研究対象とする大学の知見が、二子玉川エリアマネジメンツの持つ河川敷・公園という公共空間と結びつくことで、単なるイベント出展ではない、研究の社会実装フィールドが生まれている。「船を活用した公共交通の検討」という協定テーマも、水辺のまちならではのモビリティ課題に踏み込むものだ。
第三に、防災・環境・モビリティ・AI・住宅といった複数研究室の専門性が、地域のイベントや水辺空間の運営に面として接続されている点である。学生は運営ボランティアとして地域の現場に入り、エリアマネジメントの実務を体験する。大学にとっては教育・研究の場、地域にとっては担い手と専門知の供給源となる、双方向の関係が設計されている。
調査時点(2026年7月)で確認できる成果は、主に連携の枠組みづくりと具体的な協働の積み重ねである。2024年6月の協定締結後、ネイチャーズディへの学生19名の運営参加、水辺空間での「Mizube "BUS" Base」の開催など、複数の共同事業が実施された。「ミズベバスベースによる地域活性化の実践的活動」は2024年9月にイノベーションホープ賞を受賞しており、取り組みが外部からも一定の評価を受けたことがうかがえる。 (参考:東京都市大学 都市生活学部)
2025年6月1日には、二子玉川ライズ スタジオ&ホールで第10回二子玉川エリアマネジメントシンポジウム「過去を知り、未来を描く。二子玉川のこれまでとこれから」が開催され、会場とオンラインを合わせて約180名が参加した。ここでは野城智也学長、西山敏樹教授、西山研究室の程原菜生院生が登壇し、連携協定の成果や学生による街への関わり方が報告された。松本代表理事は開会挨拶で「2024年度は東京都市大学との連携協定のほか、新たな取り組みをはじめ、地域の方々と協働する活動を増やした」と振り返っており、協定が地域の協働活動の広がりに寄与したことが確認できる。一方で、防災や公共交通といったテーマでの取り組みは検討・実装の途上にあり、まちづくりへの中長期的な効果はこれからの蓄積を待つ段階にある。 (参考:一般社団法人二子玉川エリアマネジメンツ、東京都市大学 都市生活学部)
この事例が他地域に示す最大の教訓は、大学の地域拠点を「畳んだあと」の関係設計である。大学が地域にサテライト拠点を構える動きは各地にあるが、運営コストや大学の方針変更によって拠点が閉じると、地域との関係も途切れやすい。二子玉川の事例は、拠点という器がなくても、協定と具体的な協働事業の積み重ねによって関係を持続できることを示している。拠点の有無ではなく、双方に実益のある活動を継続できるかが、産学連携を長続きさせる鍵になる。
もう一つの示唆は、都市再生推進法人などのエリアマネジメント組織が持つ「公共空間を使いこなすノウハウ」と、大学が持つ「研究シーズ」を掛け合わせる有効性である。河川敷や公園の占用・活用の権限と実務を担うエリマネ組織は、大学にとって研究を社会に実装する得がたいフィールドとなる。逆に大学は、専門知と学生という担い手をエリマネ組織に供給する。公共空間活用を進めたい地域にとって、近隣の大学は連携先候補として検討に値する。
留意点として、こうした大学連携は特定の研究室や教員の関心・ネットワークに依存しやすい構造がある。二子玉川の事例でもモビリティ研究室が中心的役割を担っており、キーパーソンが替わったときにも連携が継続する仕組み——複数研究室の関与、協定という制度的な裏付け、地域側の受け皿の整備——をあわせて設計しておくことが、再現性と持続性を高めるうえで重要になる。
2026年7月時点の調査内容に基づいて作成
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