
SKIP九大学研都市駅前モビリティハブ
福岡市西区の九大学研都市駅前で、既存のバス待合所を改装し2025年1〜2月に実施したモビリティハブ実証実験。九州電力・昭和自動車・AMANE・学生発ベンチャーMobiValetが役割分担する共創プラットフォーム型の座組みで、レンタサイクルやコワーキングスペース等を一体提供した。
福岡市西区の九大学研都市駅前で、既存の路線バス待合所を改装し、レンタサイクルやEVスクーターシェアリング、コワーキングスペース、地元店舗のポップアップショップを一体的に提供するモビリティハブ「SKIP」の実証実験が、2025年1月22日から2月28日にかけて行われた。事業は、バス事業者の昭和自動車株式会社と九州電力株式会社が福岡市の「交通に関する民間企画提案募集」に共同提案したことを契機に実現し、都市開発支援会社のAMANE、九州大学発の学生ベンチャーMobiValet、福岡市、公益財団法人九州大学学術研究都市推進機構(OPACK)が、それぞれ異なる役割を担う共創プラットフォームとして運営された。
(参考:国土交通省「九大学研都市駅前を拠点としたモビリティハブ事業」、福岡市 交通に関する民間企画提案募集)
実証期間中はレンタサイクル利用者127名、1日平均3.3人の利用実績があったほか、バス利用者へのアンケートでは86%が待ち時間の負担軽減を実感したと回答するなど、既存の路線バス利用者の体験改善につながる結果が確認された。
(参考:国土交通省「九大学研都市駅前を拠点としたモビリティハブ事業」)
九州大学の箱崎キャンパスから伊都キャンパスへの移転を契機とするまちづくりで九大学研都市駅前周辺には新たな市街地が生まれ、転入者の増加を背景に人口が集まってきた。一方で、人口減少・少子高齢化の進行や公共交通の縮小が目立ち始めている、と福岡市の都市計画マスタープランは同地域を位置づけている。
(参考:国土交通省「九大学研都市駅前を拠点としたモビリティハブ事業」)
九大学研都市駅は、九州大学伊都キャンパスや福岡市西区北崎エリア(糸島半島東部)へ向かう際の乗換拠点としての性格も持つが、観光目的のマイカー利用が周辺の混雑を招いている点が課題として指摘されていた。
(参考:国土交通省「九大学研都市駅前を拠点としたモビリティハブ事業」、福岡市西区「北崎」地域紹介ページ)
こうした課題を受け、福岡市は都市交通基本計画の改定にあたり、2024年3月18日から7月31日にかけて「交通に関する民間企画提案」を公募し、実現性の高い交通施策の提案を民間事業者に呼びかけた。昭和自動車は、自社が保有する九大学研都市駅前のバス待合所をモビリティハブとして整備し、ラストワンマイルの交通手段を充実させることで自家用車利用を低減し公共交通利用を促進する提案を、九州電力を共同提案者として提出した。この提案を含む10件が、市との実現に向けた対話のフェーズに進んだ。
(参考:福岡市 交通に関する民間企画提案募集、福岡市 交通に関する民間企画提案募集の結果)
1. 民間提案の採択と体制構築(2024年3月〜)
福岡市の民間企画提案募集を経て昭和自動車と九州電力の共同提案が実現に向けた対話の対象となった後、事業は両社に加え、都市開発の事業支援を手がけるAMANE、九州大学発の学生団体モビラボが2022年に法人化した合同会社MobiValetが参加する4者の共創プラットフォームとして体制が組まれた。福岡市とOPACKはこれに連携する立場で関与した。
(参考:国土交通省「九大学研都市駅前を拠点としたモビリティハブ事業」、AMANE「九州電力様 モビリティハブ構築支援」)
2. 役割分担に基づく事業設計
4者の役割は明確に分担された。九州電力は事業全体の構想・企画を担い、人流や交通データの分析結果をもとに、待合所の改修や什器配置といったハブの空間デザインを検討した。昭和自動車は自社が保有する既存のバス案内所をフィールドとして提供するとともに、SNS等での認知拡大や運行データの提供を担った。AMANEは地域の需要を踏まえたサービス内容の企画立案や、現地の運営体制づくり、日々のマネジメント業務を担った。MobiValetはレンタサイクル事業やコワーキングスペースの現地運営実務を担当した。福岡市は認知拡大支援と地域事業者の紹介、OPACKは実証事業の導入促進で後押しした。
(参考:国土交通省「九大学研都市駅前を拠点としたモビリティハブ事業」)
3. 実証運行(2025年1月22日〜2月28日)
既存のバス待合所を改装したモビリティハブ「SKIP」では、通勤・通学用と観光用のレンタサイクル、EVスクーターシェアリングという用途別の3種類のモビリティに加え、コワーキングスペースの運営、地元店舗によるポップアップショップの出店を一体的に提供した。利用料金は600円/2時間からで、予約はWebサイトまたは窓口で受け付けた。認知向上を主目的とする実証期間中は、サービスの多くが無料提供を基本とした。
(参考:国土交通省「九大学研都市駅前を拠点としたモビリティハブ事業」、九州電力 公式Facebook投稿)
1. 異業種4者による役割分担型の共創プラットフォーム
本事例の特徴は、電力会社(九州電力)、バス事業者(昭和自動車)、都市開発支援会社(AMANE)、学生発ベンチャー(MobiValet)という専門性の異なる4つの主体が、「共創プラットフォーム」として明確に役割分担した座組みにある。データ分析・空間構想、フィールド・広報、サービス組成・現地運営、モビリティ実務という機能を担い手ごとに分けて設計することで、単独の事業者では実現しにくい複合機能のハブを構築した。
(参考:国土交通省「九大学研都市駅前を拠点としたモビリティハブ事業」)
2. 既存インフラの改装による実証
新たに施設を建設するのではなく、昭和自動車が保有する既存のバス待合所を改装する形で整備した点も特徴である。既存の交通結節点をベースにすることで、用地確保を伴わずにモビリティハブとしての機能を検証することができた。
(参考:福岡市 交通に関する民間企画提案募集)
3. 移動サービスに閉じない複合収益モデルの試行
レンタサイクルやEVスクーターといった移動サービスに加え、コワーキングスペースの利用料やポップアップショップの出店料など、モビリティ以外の収益源を組み合わせたビジネスモデルを実証期間中から試行した点も特徴的である。単一の運賃収入に依存しない拠点運営の可能性を、実データを取りながら検証している。
(参考:国土交通省「九大学研都市駅前を拠点としたモビリティハブ事業」)
1. レンタサイクル利用実績
2025年1月22日から2月28日までの実証期間中、レンタサイクルの利用者数は127名、1日平均3.3人であった。
(参考:国土交通省「九大学研都市駅前を拠点としたモビリティハブ事業」)
2. 既存バス利用者の体験改善
利用者アンケートでは、バス利用者のうち86%が待ち時間の負担が減ったと回答し、そのうち36%は待合所の整備によって快適になったと回答した。またレンタサイクルについては、徒歩では遠く、バスの便も悪い場所への移動手段として評価する声が目立ち、既存の路線バスを補う存在として機能している様子がうかがえた。
(参考:国土交通省「九大学研都市駅前を拠点としたモビリティハブ事業」)
3. 複合収益源の実証
実証期間中の収入は、レンタサイクルの運賃収入に加え、出店者からの場所代、コワーキングスペースの利用に伴う料金という3つの収益源から構成された。サービスの多くを無料提供とした認知向上フェーズにもかかわらず、複数の収益源を組み合わせた事業モデルが実際に機能することを示すデータが得られた。
(参考:国土交通省「九大学研都市駅前を拠点としたモビリティハブ事業」)
なお事業者側は、今後は地域住民が集う交流の場や、他の移動手段への乗換拠点としての活用を目指す方針を2025年3月時点の報告書で示しているが、本記事の調査時点では実証終了後の本格運用開始に関する公式な続報は確認できていない。
(参考:国土交通省「九大学研都市駅前を拠点としたモビリティハブ事業」)
1. 既存資産を持つ交通事業者との連携が実証の前提条件
本事例が短期間で実証にこぎつけられた背景には、昭和自動車が既存のバス待合所というフィールドを保有していたことがある。モビリティハブを検討する他地域においても、新規に用地・施設を確保するのではなく、地域のバス事業者や鉄道事業者が保有する待合所・駅前施設を出発点とすることで、実証までのハードルを下げられる可能性がある。
(参考:福岡市 交通に関する民間企画提案募集)
2. 自治体・交通事業者以外の主体を巻き込む座組み
電力会社のデータ分析力、都市開発支援会社の現地運営ノウハウ、学生発ベンチャーの実務対応力を組み合わせた座組みは、自治体や交通事業者だけでは持ちにくい機能を外部から補う手法として参考になる。特に、大学周辺エリアでは学生団体・ベンチャーが現地運営の担い手になり得ることを示した点は、大学立地都市における再現性のある示唆といえる。
(参考:国土交通省「九大学研都市駅前を拠点としたモビリティハブ事業」、AMANE「九州電力様 モビリティハブ構築支援」)
3. 「待ち時間の負担」を可視化する評価軸
本事例のアンケート結果が示す「バス利用者の86%が待ち時間の負担軽減を実感した」という数値は、モビリティハブの効果を新規サービスの利用者数だけでなく、既存の公共交通利用者の体験改善という軸で測定した点に価値がある。モビリティハブ整備の成果指標を検討する他地域にとって、新規需要の創出効果に加えて既存利用者への波及効果を測る視点は参考になる。
(参考:国土交通省「九大学研都市駅前を拠点としたモビリティハブ事業」)
2026年8月時点の調査内容に基づいて作成
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