
アイランドシティ自動運転バス実証実験2025
福岡市東区アイランドシティで2025年11月に実施された自動運転バス実証実験。エストニア製車両「MiCa」が住宅・学校・病院・公園を結ぶ6停留所を周回し、利用意向98%という高い社会受容性が確認された。
福岡市東区の人工島・アイランドシティで、2025年11月9日から21日にかけて自動運転バスの実証実験が実施された。実施主体は東京都港区に本社を置くBRJ株式会社で、エストニアのAuve Tech社が開発した小型EVバス「MiCa」(乗車定員8名うちオペレーター1名、最高時速20km未満)を使用。香椎照葉一丁目、照葉小中学校東、アイランドアイ南、こども病院前、アイランドシティ中央公園、照葉パビリオンの6停留所を結ぶ約17分の周回ルートを、1日7便・無料で運行した。(参考:福岡アイランドシティDAYS、BRJ株式会社プレスリリース)
実験の目的は、既存交通を補完する持続可能な新しい交通体系の確立に向け、利用者アンケート・交通流動モニタリング・走行データの収集分析を通じて自動運転技術の社会受容性・安全性・運行実現性を評価することにあった。実験期間中に公表された中間アンケート(回答99人、11月9〜13日分)では、将来の自動運転サービス利用について「希望する」79%、「どちらかというと希望する」19%と合計98%が肯定的に回答し、「乗車中に危険を感じなかった」との回答も93%に達するなど、短期間の実証としては高い受容度が確認された。(参考:BRJ株式会社プレスリリース(中間報告))
アイランドシティは博多湾東部に造成された総面積401.3haの人工島で、計画居住人口18,000人に対し、2025年8月時点で約5,800世帯・約16,100人が暮らす。地区の運営は2012年10月に設立された公民学連携組織「UDCIC(アーバンデザインセンターアイランドシティ)」が担い、福岡市・地元事業者団体・九州産業大学や九州大学などの学術機関が参加している。(参考:UDCイニシアチブ「UDCIC」、福岡アイランドシティDAYS「UDCICについて」)
2025年に「まちびらき20周年」を迎えたアイランドシティでは、住宅・商業・医療・教育などの機能が島内に点在する一方、公共交通は路線バスへの依存度が高く、鉄道延伸の見込みもない。住宅地区から中心部の病院など施設間の移動には徒歩で15分以上、往復では約30分を要する区画もあり、既存交通を補う移動手段の整備が課題となってきた。(参考:日本経済新聞「バス頼みの福岡・人工島」、日本経済新聞「アイランドシティ20年(下)」)
この課題への対応として、西鉄グループは2019年からAI活用型オンデマンドバス「のるーと」をアイランドシティで運行しており、2025年8月時点も継続中である。自動運転バスの実証実験は、こうした既存の移動手段の補完策の延長線上に位置づけられる新たな一手といえる。(参考:のるーと公式サイト)
なお福岡市では、2023年に福岡空港内(西鉄)、同年にJR箱崎駅周辺(福岡市・九州大学・UR都市機構等で構成する「FUKUOKA Smart EASTモビリティ推進コンソーシアム」)でそれぞれ自動運転バスの実証実験が行われており、アイランドシティの実証はこれに続く、既存住宅市街地を舞台とした事例という位置づけになる。(参考:西日本鉄道株式会社プレスリリース、FUKUOKA Smart EASTモビリティ推進コンソーシアム)
実証実験の実施主体はBRJ株式会社である。同社は2020年12月設立(資本金4億8,100万円)の交通事業者で、久留米市での小型モビリティシェア「TOCKLE」の実証など、各地で地域交通の実証事業を手掛けてきた実績を持つ。今回は公民学連携組織UDCICがエリアマネジメントを担うアイランドシティを舞台に、エストニア・Auve Tech社製の車両「MiCa」を用いて実証を実施した。(参考:BRJ株式会社プレスリリース)
MiCaは運転席・ハンドルを持たない設計で、計7基のLiDARと8台のカメラで周辺環境をセンシングし、障害物や自車位置を判定しながら走行する。車両自体は高度な自動運転(レベル4相当)に対応する仕様を持つが、今回の実証ではオペレーターが同乗し、信号交差点などでは進行の判断を行うレベル2の運行方式が採用された。ルートは住宅街・小中学校・こども病院・中央公園・イベント施設を結ぶ6停留所の周回型で設計され、1周約17分、1日7便が無料で運行された。(参考:福岡アイランドシティDAYS、BRJ株式会社)
実証運行開始前日の11月8日には、アイランドシティ「まちびらき20周年」記念イベント第2週「TERIHA Weekend」の中で車両が一般展示され、地域住民が実際の車両に触れる機会が設けられた。翌11月10日にはメディア向け試乗会も開催され、地域メディア・全国メディアを通じた情報発信が行われた。(参考:福岡アイランドシティDAYS「まちびらき20周年イベント」、BRJ株式会社)
運行期間の11月9〜21日を通じて、利用者アンケート・交通流動モニタリング・走行データの収集が継続的に行われた。BRJ株式会社は実験終了を待たず、11月9〜13日分のアンケート回答(99人)を集計した中間報告をプレスリリースとして期間中に公表しており、実証の進捗を段階的に可視化する運営が取られた。(参考:BRJ株式会社プレスリリース(中間報告))
MiCaは技術的にはレベル4相当のセンサー構成を備えるが、今回の実証ではオペレーター同乗によるレベル2運行にとどめられた。これは車両の技術的な性能実証よりも、住宅・学校・病院が混在する生活市街地で、歩行者や自転車、既存車両と自動運転バスが共存できるかという社会的な受容性の検証に重心を置いた設計と捉えられる。(参考:EVsmart Park)
単独の交通実証としてではなく、「まちびらき20周年」記念イベントの中に車両展示を組み込むことで、追加の広報コストを抑えながら住民が実際に車両を見る・触れる機会を作り出した点が特徴である。イベント来場者という母集団に対して自然な形で認知形成を図る設計になっている。(参考:福岡アイランドシティDAYS)
2週間弱という短期の実証であるにもかかわらず、実験終了を待たずに中間アンケート結果を公表した点も特徴的である。利用意向98%、安全性評価93%という数値を実証の途中段階で開示することで、地域住民や自治体関係者に対する説明責任を早期に果たす運営がとられている。(参考:BRJ株式会社プレスリリース(中間報告))
停留所は住宅(香椎照葉一丁目)、学校(照葉小中学校東)、医療(こども病院前)、公園(アイランドシティ中央公園)、イベント施設(照葉パビリオン)を結ぶ構成となっており、通学・通院・公園利用といった住民の日常的な移動動線を意識したルート設計になっている。空港や再開発地区での実証に多い単一目的地間の往復運行とは異なり、複数の生活拠点を周回でつなぐ点が特徴である。(参考:福岡アイランドシティDAYS)
中間アンケート(回答99人、11月9〜13日分)では、将来の自動運転サービス利用について「希望する」79%、「どちらかというと希望する」19%の合計98%が肯定的な回答を示した。また「乗車中に危険を感じなかった」との回答が93%に達し、「危険を感じた」は7%にとどまった。短期間の実証としては、利用意向・安全性認識の両面で高い評価が得られたといえる。(参考:BRJ株式会社プレスリリース(中間報告))
実際に試乗した記者は、走行自体は概ねスムーズであったとしつつ、まだプログラムに沿って走っている印象を受けたと述べており、短期間の実証だけで自動運転技術の安全性や完成度を実用レベルまで高めるのは容易ではないとの見方を示している。(参考:EVsmart Park)
本記事執筆時点(2026年8月)で、実証実験全体を通じた総利用者数、走行データの詳細な分析結果、恒久運行への移行可否についての公式な最終報告は確認できていない。中間アンケートの98%・93%という数値も、11月9〜13日という限られた期間・99人という限られた回答者に基づくものであり、季節や天候、回答者層の偏りによる影響が残る可能性がある点には留意が必要である。
福岡市はすでに2023年に福岡空港(大規模施設内)、JR箱崎駅周辺(再開発エリア)で自動運転バスを実証しており、アイランドシティは既存の住宅市街地を舞台とした実証としてこれに続く事例である。特性の異なる複数エリアで段階的に実証を重ねることで、地域特性ごとの適用可能性を比較検証できる。他地域が自動運転バスの導入を検討する際も、一度に恒久運行を目指すのではなく、エリア特性の異なる短期実証を積み重ねて比較可能なデータを蓄積していくアプローチが参考になる。
アンケートで得られた98%の利用意向・93%の安全性評価は、無人運行ではなくオペレーターが同乗し要所で判断を担うレベル2方式であったことが結果に影響している可能性がある。技術的にはより高度な自動化が可能な車両であっても、社会実証の初期段階ではあえて人的な関与を残すことで住民の心理的な受容ハードルを下げるという設計判断は、他地域が自動運転モビリティを導入する際の初期フェーズの参考になりうる。ただし、この結果をもって無人運行時の受容性まで示されたと解釈することはできず、運行方式を変更する段階では改めて受容性を検証する必要がある点には注意が必要である。
「まちびらき20周年」記念イベントに車両展示を組み込むことで、追加の広報コストを抑えながら住民の認知・体験機会を創出した手法は、独自の周知イベントを新たに企画する体力がない自治体・事業者にとって参考になる。地域で定期的に開催されるイベントが存在する場合、新規モビリティの実証周知はそうした既存の機会との連携によって効率化できる。
茨城県境町のように自動運転バスの常時運行を実現している自治体や、愛媛県松山市のように2026年早期のレベル4運行を目指す自治体が存在する一方、アイランドシティの実証は2週間弱の期間限定にとどまる。恒久運行化に向けては、短期実証で得られる好意的なアンケート結果だけでなく、複数季節にわたる走行データの蓄積、費用負担の在り方、「のるーと」など既存交通との役割分担の整理といった追加の検証課題が残ることは、同様の実証を計画する他地域にとっても踏まえておくべき論点である。(参考:EVsmart Park)
2026年8月時点の調査内容に基づいて作成
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