
IoTを活用した見守りサービス(オッタバイ・Qottaby)
福岡市が九州電力送配電・株式会社ottaと連携し、市内約3,000カ所のBLEビーコン基地局で子どもと高齢者・認知症の人を見守る「オッタバイ」「Qottaby」。政令指定都市として初の全域導入から高齢者領域への転用までの経緯と、他地域への示唆を整理する。
福岡市は2019年、通学路の安全確保を目的としたIoT子ども見守りサービス「オッタバイ」を全市展開した。児童本人にGPS端末を持たせて常時追跡する方式ではなく、市内の学校・コンビニエンスストア・商業施設・郵便局・交番・電柱など約3,000カ所に設置した固定「基地局」の近くを、児童が携帯する小型端末が通過した記録から居場所を把握する仕組みである。技術基盤は九州電力送配電株式会社と株式会社ottaが提供している。 (参考:福岡市公式サイト、九州電力送配電プレスリリース)
同じ基地局ネットワークは2021年12月、満40歳以上の高齢者・認知症の人を対象とした見守りサービス「Qottaby」の基盤としても活用が始まった。技術を提供する株式会社ottaは2014年10月に広島県で創業したスタートアップで、実証フィールドを求めて2016年10月に本社を福岡市へ移転した経緯を持つ。「福岡発」というより、実証環境を積極的に受け入れた福岡市の姿勢が誘致につながった事例といえる。 (参考:株式会社otta 沿革、九州電力送配電プレスリリース)
通学路における子どもの安全確保は全国の自治体に共通する課題であり、多くの自治体はGPS端末の貸与という方式を取ってきた。福岡市と九州電力(当時、現・九州電力送配電)は2017年12月14日、ビーコン技術を使った見守りサービスの実証実験を発表した。この時点ですでに対象を「小学生や高齢者」の双方として想定していた点が特徴で、子ども見守りに限定せず、将来的な高齢者領域への応用を当初から視野に入れていたことがうかがえる。同月21日には、福岡市が実証フィールドを提供する「実証実験フルサポート事業」への採択が発表された。 (参考:九州電力プレスリリース(2017年12月14日)、株式会社otta)
高齢者領域では、福岡市はすでに訪問系企業など26社でつくる「福岡見守るっ隊」による異変時の通報や、365日24時間電話を受け付ける「見守りダイヤル」など、人的な見守り施策を運用していた。しかし、認知症の人が外出先で行方不明になった場合に居場所を継続的に把握するという点では、人手による見守りだけでは対応が難しい課題が残っていた。福岡市は2020年11月から2021年3月にかけてビーコン技術を活用した外出見守りの実証事業を行い、有効性を確認した上で本格サービス化に進んだ。 (参考:福岡市公式サイト「見守り推進プロジェクト」、九州電力送配電プレスリリース)
1. 実証実験の開始(2017年12月)
九州電力は2017年12月14日、ビーコン端末を使った見守りサービスの実証実験を福岡市内で行うと発表した。同月21日には福岡市の「実証実験フルサポート事業」への採択が発表され、市内の小学生・高齢者を対象とした検証が始まった。
(参考:九州電力プレスリリース、株式会社otta)
2. 連携協定の締結と全域展開(2019年8月〜10月)
2019年8月16日、福岡市と九州電力は「IoTによる子ども見守り事業に関する連携協定」を締結した(協定期間は2022年3月31日まで)。プレスリリースでは「全市的な見守りシステムの導入は政令指定都市初の取組み」と位置づけられている。同年10月からは株式会社ottaの基盤を用いた全市展開に着手し、2020年度中に市内の全小学校へ段階的に広げていく方針が打ち出された。
(参考:九州電力プレスリリース、株式会社otta、西日本新聞me)
3. 基地局網の整備と端末配布の仕組み
コンビニやスーパーなどの商業施設をはじめ、郵便局・交番・市役所関連施設・自動販売機・電柱、さらに学校まで、身近な生活動線上に約3,000カ所の固定基地局を全校区にわたって配置した。端末は申込みから約2週間後に自宅へ配送される。行政サービスとしての利用は無料で、保護者がスマートフォンの地図上で継続的に位置を確認できる有料サービスも選択できる。当初の無料端末は電池寿命が最長1年で年1回程度の交換が必要だったが、2025年度以降に配布される端末は最長6年に延伸され、小学校在学中はほぼ交換不要になった。住民のスマートフォンに専用の「見守り人アプリ」を入れてもらうことで、そのスマホ1台1台を歩く基地局に変え、固定基地局が届かない場所での検知網を補う仕組みも取り入れている。
(参考:福岡市公式サイト)
4. 高齢者・認知症の人向けQottabyの開始(2021年12月)
2020年11月から2021年3月にかけての実証事業を経て、2021年12月7日にQottabyの街中見守りサービスが本格開始された。対象は市内在住の満40歳以上で、料金は端末1個の「まちなか」プラン(初期登録4,800円・月額680円)と、端末2個の「まちなかダブル」プラン(初期登録7,000円・月額980円)の2種類。認知症(疑いを含む)の人は初期登録手数料が減免される。子ども向けに整備した基地局ネットワークを、そのまま高齢者見守りにも転用した形である。
(参考:九州電力送配電プレスリリース)
5. 運用の検証とネットワークの拡張(2023年〜)
2023年2月20日、福岡市立千早小学校で福岡市と九州電力送配電が共同で「児童捜索シミュレーション」を実施した。低学年児童が行方不明になったという想定のシナリオで、Qottabyを使った所在確認から福岡県警察による捜索、発見までを通しで演習し、関係機関の連携手順を確かめる内容だった。同年2月9日には、西鉄・ネクスト・モビリティと連携し、市内で運行するオンデマンドバス「のるーと」(東区アイランドシティ、西区壱岐南エリア)に見守り人アプリを搭載したタブレットを積み、移動基地局として活用する取り組みも本格化させている。
(参考:Qottaby公式サイト「児童捜索シミュレーション」、Qottaby公式サイト「のるーと」との連携)
1. GPS端末ではなくビーコン基地局ネットワークを選択
GPS端末貸与型は常時通信のためバッテリー消費が大きく、頻繁な充電・交換が必要になりやすい。福岡市が採用したBLEビーコン方式は、児童が基地局の近くを「通過」した記録を残す仕組みのため端末側の消費電力を抑えられ、2025年度以降の端末では電池寿命が最長6年まで延びている。基地局という面的なインフラを整備する初期コストと引き換えに、端末側の運用負担を下げる技術選択だといえる。
(参考:福岡市公式サイト)
2. 一つのインフラを子どもと高齢者の両方に転用
2017年の実証実験段階から対象を「小学生や高齢者」の双方として想定していたように、この事業は当初から単一世代向けのインフラとして設計されていない。約3,000カ所の基地局網は子ども見守り用に整備が先行したが、そのネットワークをそのまま高齢者・認知症の人向けQottabyの基盤に転用することで、追加のインフラ投資を抑えながらサービス対象を広げている。
(参考:九州電力プレスリリース(2017年)、九州電力送配電プレスリリース(2021年))
3. 電力インフラ企業を介した全国横展開モデルの一つ
株式会社ottaは自治体に直接サービスを売り込むのではなく、地域の電力会社を通じてプラットフォームを提供する方式を各地で採っている。九州電力送配電が「Qottaby」の名で提供する福岡市の仕組みは、その一例である。電柱をはじめとする既存インフラや地域での信頼関係を持つ電力会社と組むことで、基地局の設置・保守を面的に展開しやすくなる構造になっている。
(参考:株式会社otta 沿革、九州電力送配電プレスリリース)
4. 移動体を活用した基地局網の拡張
固定基地局に加え、オンデマンドバス「のるーと」のような移動体に見守り人アプリを搭載することで、固定設置が難しいエリアの検知精度を補う取り組みも進めている。地域住民向けの「見守り人アプリ」と合わせ、公共交通・市民の協力を組み合わせて基地局網を面的に広げていく発想は、機器を配布するだけにとどまらない特徴である。
(参考:Qottaby公式サイト)
1. 政令指定都市として初の全域導入
福岡市と九州電力の連携協定プレスリリースでは、「全市的な見守りシステムの導入は政令指定都市初の取組み」と位置づけられている。2019年10月の全域展開開始により、市内全小学校区を対象とした大規模なIoT見守りネットワークが構築された。
(参考:九州電力プレスリリース)
2. 「全国初」は箕面市が先行、福岡市の意義は都市規模での実証
株式会社ottaのビーコン見守りモデル自体は、福岡市に先立つ2016年2月、大阪府箕面市が「全国初」と銘打って市内全域の全小中学生約1万1,000人を対象に導入している(実証実験自体が全市規模で、実証と全域展開がほぼ一体で進められた)。福岡市の取り組みは時期としては後発だが、人口規模がはるかに大きい政令指定都市でも同じ方式が機能することを示した点、また九州電力送配電という大規模インフラ企業との連携によって基地局網の設置・保守体制を確立した点に意義がある。株式会社ottaは2025年1月時点で、全国39自治体・延べ20万人以上の子どもの見守りに同社の基盤が使われてきたと公表している。
3. 実運用を想定した訓練の実施
2023年2月の「児童捜索シミュレーション」では、所在確認・捜索・発見に至る各段階の役割分担を福岡市・九州電力送配電・福岡県警察の三者で洗い直し、実際に事案が起きた際の対応力を点検する機会になった。
(参考:Qottaby公式サイト)
4. 定量的な効果指標は限定的
一方で、福岡市におけるオッタバイ・Qottabyの登録者数や利用率、実際に行方不明者の発見につながった件数といった定量データは、福岡市・九州電力送配電・株式会社ottaのいずれからも公開情報としては確認できなかった。児童捜索シミュレーションは実際の事案対応ではなく訓練であり、事業の効果を数値で裏付ける一次情報は今回の調査範囲では見つからなかった。事業の意義を評価する上での限界として留意する必要がある。 (参考:福岡市公式サイト、Qottaby公式サイト、株式会社otta 企業情報)
1. 技術方式は都市規模とベンダーの選択肢を踏まえて検討する
GPS端末貸与型は個々の端末で常時位置を追跡できる一方、通信・充電の負担が大きい。福岡市のようなビーコン基地局ネットワーク型は基地局の面的整備という初期投資が前提になるが、端末側の運用負担を抑えられる。なお、ビーコン活用型の見守りサービスは株式会社otta系列だけでなく、兵庫県加古川市のようにミマモルメ・ALSOK等の異なる事業者が提供する例もあり、技術方式だけでなくベンダーの選択肢も含めて比較検討する余地がある。
2. 単一インフラの多世代転用という発想
子ども見守り用に整備した基地局網を高齢者・認知症の人向けサービスにそのまま転用したことは、単一目的でインフラ投資を終わらせない再現性のあるモデルといえる。新規にインフラを整備する際、当初から複数の対象世代への応用を視野に入れて設計することで、追加投資を抑えながら事業領域を広げられる可能性がある。
(参考:九州電力送配電プレスリリース)
3. 都市規模に応じた展開プロセスの選び方
箕面市が実証実験自体を全市規模で一体的に進めたのに対し、福岡市は実証実験(2017年)→連携協定の締結(2019年)→段階的な全域展開(2019〜2020年度)→高齢者領域への拡張(2021年)という、より多段階のプロセスを踏んでいる。人口規模が大きく関係者・利害調整の対象が広い政令指定都市では、実証で効果を確かめてから協定・本格展開へと段階を踏む進め方が、合意形成の面で現実的な選択肢になり得る。
4. 部局間の連携・情報公開は今後の課題になり得る
福岡市の「見守り推進プロジェクト」(福祉局所管)のページには、Qottaby・株式会社otta・九州電力送配電への言及がない。福祉部局が担う人的な見守り施策と、市民局・事業者主導のIoT見守り施策が制度上分かれて運用されている状況は、利用者・住民から見た分かりやすさや、施策間の相乗効果を高める余地があることを示している。また、登録者数や発見事例といった効果を示す定量データが公開されていない点も、同種の事業を検討する自治体が事前にKPI設計や情報公開の仕組みを組み込む必要性を示唆する。
2026年08月時点の調査内容に基づいて作成
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