
Smart East PoC Program 2024(箱崎地区スマートシティ実証実験)
福岡市・九州大学・UR都市機構等のコンソーシアムが箱崎キャンパス跡地とその周辺で毎年実施する実証実験公募プログラムの2024年度版。児童見守りGPSや高齢者見守りセンサー、自動運転バスなど複数分野の実証を、常設の調整窓口を介して段階的に積み重ねている。
Smart East PoC Program 2024は、福岡市・九州大学・UR都市機構・福岡地域戦略推進協議会(FDC)でつくる「FUKUOKA Smart EAST推進コンソーシアム」が、九州大学箱崎キャンパス跡地とその周辺(箱崎商店街、筥崎宮周辺、箱崎駅周辺)を実証フィールドとして毎年度実施している公募型実証実験支援プログラムの2024年度版である。2024年6月から12月末まで先端技術を持つ民間事業者を公募し、2024年6月から2025年3月にかけて採択案件の実証実験を順次実施した。 (参考:福岡地域戦略推進協議会「Smart East PoC Program2024の募集を開始します」)
同プログラムは単発の実証実験ではなく、2018年に発足したFUKUOKA Smart EASTが少子高齢化などのまちづくり課題を最先端技術で解決するために、少なくとも2021年度から毎年度継続して実施してきた枠組みの一つである。児童の見守りGPSデータ活用や高齢者の見守りセンサー、自動運転バスなど、2024年度の実施期間中にも複数分野の実証が積み重ねられた。 (参考:Fukuoka Smart Eastとは)
九州大学は施設の老朽化とキャンパスの分散立地を解消するため、箱崎キャンパスを2005年から西区の伊都キャンパスへ順次移転し、2018年に移転を完了した。これにより、JR博多駅から5分という都心近接地に、東京ドーム約10個分に相当する約50ヘクタールの大規模な更地が生まれた。全国の都市部でもまとまった規模の空地が都心近くに生まれることは異例であり、跡地の活用方針が福岡市にとって重要な政策課題となった。 (参考:九州大学箱崎キャンパス跡地のまちづくり - 福岡市)
福岡市と九州大学は2015年3月に跡地利用計画を、2018年7月にはグランドデザインを策定した。跡地利用事業者の公募は2023年に始まり、2024年4月に優先交渉権者(住友商事を代表とする8者)が決まったものの、正式な事業者決定は2026年3月、まちびらきの第1期は2028年度、まちの概成は2036年度を見込むなど、更地が確保されてから本格的な建物整備が始まるまでには長い年月を要する計画となっている。 (参考:九州大学箱崎キャンパス跡地のまちづくり - 福岡市)
本格整備までの長い準備期間を単なる遊休地として放置するのではなく、福岡市・九州大学・UR都市機構・FDCは2018年にFUKUOKA Smart EAST推進コンソーシアムを設置し、跡地周辺の箱崎商店街や箱崎駅周辺、筥崎宮周辺を含めた既存市街地を、まちびらき前から先端技術の実証フィールドとして活用する方針を掲げた。少子高齢化などの地域課題に対応しながら、暮らしやすさと都市機能の質を高め、他都市の手本となるようなまちの実現を目指すというビジョンが、この継続的な実証プログラムの土台になっている。 (参考:Fukuoka Smart Eastとは)
Smart East PoC Programは、対象技術を持つ民間事業者からA4約5枚の企画書をメールで受け付ける、参加費無料の年次公募として運営されている。審査は「先進性」「事業化可能性」「市場性」「社会性」「実証可能性」の5項目で行われ、採択された事業者に対してコンソーシアムは施設管理者・地域関係者との調整、一般モニターの募集、メディア対応、PR・安全対策費用の支援を行う。一方で実証実験そのものの費用は原則として応募者負担であり、コンソーシアムは実証の「調整コスト」を肩代わりする役割に徹している。 (参考:福岡地域戦略推進協議会「Smart East PoC Program2024の募集を開始します」)
2024年度は2024年6月から12月末まで随時公募を行い、採択された実証実験は2024年6月から2025年3月末にかけて順次実施された。対象エリアは箱崎キャンパス跡地周辺に加え、箱崎商店街、筥崎宮周辺、箱崎駅周辺の生活圏全体に及ぶ。 (参考:福岡地域戦略推進協議会「Smart East PoC Program2024の募集を開始します」)
ソニーグループ・ソニーネットワークコミュニケーションズは、児童見守りGPS端末「amue link」の移動履歴データを匿名化・集約し、地域の安全性向上に活用する「交通事故のない安全な街づくりトライアル」を箱崎小学校で実施した。初回(2024年1月19日〜2月11日)は1〜4年生の希望者57名が参加し、日本初の試みとして実施された。2025年度実施期間に該当する時期には第2弾(2025年1月20日〜2月4日)が1〜3年生の希望者を対象に実施されており、単年で終わらず複数年度にわたって継続・改良されている。 (参考:福岡地域戦略推進協議会「児童の見守り端末から得られたデータを街の安全性向上に活かす『交通事故のない安全な街づくりトライアル』」、福岡地域戦略推進協議会「児童の見守り端末から得られたデータを街の安全性向上に生かすトライアル」)
パナソニック コネクトは2025年3月28日・29日、箱崎公民館で天井設置型センサーによる居室見守りシステムのデモンストレーションを公開実施した。在室者の位置や姿勢のほか、呼吸や心拍の状態をセンサーで推定し、転倒や心拍数の急な落ち込みなどの変化を検知すると見守り役へ知らせる仕組みで、誰でも見学できる形で実証が行われた。 (参考:福岡地域戦略推進協議会「センサーにより居室での見守りができるシステムの実証実験」)
福岡市・九州大学・UR都市機構・FDCが連携するFUKUOKA Smart EASTモビリティ推進コンソーシアムは、2019年から小型自動運転車・自動運転バスの実証を継続してきた。第1回実証実験(2023年11月22日〜12月3日)はJR箱崎駅周辺で8か所の乗降スポットを設けた片道約1.8kmの往復ルートをエストニア製車両「MiCa」(公道走行は日本初)で運行し、第2回実証実験(2024年2月〜3月)では乗降スポットを5か所に絞り込んだ周回約3.7kmのルートを車両「ARMA」で運行、乗降スポットや商業施設情報を表示するデジタルマップも併用した。ルート構成や車両、デジタルツールを回を追うごとに切り替えながら検証を重ねる手法がとられている。 (参考:FUKUOKA Smart EASTモビリティ推進コンソーシアム「事業概要」、福岡地域戦略推進協議会「複数の乗降スポットを設けた自動運転バス運行の実証実験」)
2024年度に先立ち、2019年9月〜10月には日本初となるケーブルテレビを活用したオンライン診療の実証実験が貝塚病院・ココカラファイン薬局奈多店で行われ、訪問診療を受ける60歳以上の患者を対象に、スマートフォンではなくテレビ画面を使った遠隔診療・服薬指導が試みられた。また2021年度の採択案件では、箱崎商店連合会・株式会社まちのわ・ニシム電子工業・九州電力の4者が「歩いて楽しめる街づくり」実証実験(2022年3月)を実施し、沿道に速度感知センサーと案内表示板を設置して歩行者の安全性を高める取り組みと、キャッシュレス商品券アプリ「ハコぽっぽ」に位置情報と連動した機能を加える取り組みを組み合わせて行った。こうした先行事例の積み重ねの上に、2024年度の各実証が位置づけられている。 (参考:福岡地域戦略推進協議会「ケーブルテレビを活用したオンライン診療の実証実験」、九州電力「箱崎商店街における『歩いて楽しめる街づくり』の実証実験」)
一般的な大規模再開発では、事業者決定からまちびらきまでの数年〜十数年間、更地はほぼ活用されないまま維持されることが多い。本事例では、2018年の跡地確定から2028年度のまちびらきまでの長い準備期間そのものを、先端技術の実証フィールドとして能動的に使う時間軸戦略がとられている。土地が更地である間だけでなく、周辺の既存市街地(商店街や小学校区、公民館)も含めて実証の舞台としている点が特徴である。
実証実験を企画する民間企業にとって最大の障壁は、技術そのものよりも、地域住民・施設管理者・学校・自治会との合意形成や安全対策の調整コストであることが多い。Smart East PoC Programでは、この調整機能をコンソーシアムが恒常的に担い、企業は実証費用を負担する一方で、地域との関係構築という重いプロセスを毎回ゼロから積み上げる必要がない。この役割分担により、単発の大企業だけでなく、比較的小規模な事業者でも参入しやすい設計になっている。
自動運転バスは乗降スポット数やルート、車両を回ごとに変えながら段階的に検証範囲を広げ、児童見守りGPSトライアルも対象学年を絞り込みながら複数年度にわたって繰り返されている。実証実験を一度きりのイベントとして終わらせず、前回の結果を踏まえて次回の設計を調整する反復型のプロセスが、複数分野で共通して見られる。
実証の対象は実験施設ではなく、箱崎小学校の児童、商店街の来街者、公民館を利用する高齢者など、実際にその地域で生活する人々である。技術を切り離された環境で試すのではなく、住民の日常的な生活動線の中に実証を組み込むことで、実際の利用文脈に近い形での検証を可能にしている。
本記事作成時点で、2024年度の実証実験について定量的な効果測定結果を公表した資料は確認できなかった。ただし、事実として確認できる範囲では、以下の点が2024年度の実施期間(2024年6月〜2025年3月)を通じて積み重ねられている。
児童見守りGPSデータの街の安全性向上への活用、高齢者の居室見守りセンサー、自動運転バスの運行実証など、交通安全・高齢者福祉・モビリティといった異なる社会課題領域にまたがる実証が、同一の年度実施期間の中で並行して行われた。
自動運転バスは第1回(8スポット・片道1.8km・MiCa車両)から第2回(5スポット・周回3.7km・ARMA車両・デジタルマップ併用)へとルート構成と車両を切り替え、児童見守りGPSトライアルも初回(1〜4年生57名)から第2弾(1〜3年生の希望者)へと対象範囲を調整しており、単発の実証で終わらせず前回の実施結果をふまえて設計を更新する運用が確認できる。
Smart East PoC Programは2024年度で終了せず、2025年度も同様の枠組みで公募・実施が継続されている。2025年度の実施期間にはAIロボットによる自律移動・会話を伴う介護業務支援や、スマートフォンと連動した自動ドア・エレベーター・ロボットによる宅配業務支援といった新規テーマの実証が行われ、コンソーシアムはCEATEC2024・CEATEC2025にも出展するなど、対外発信を伴いながら実証の蓄積を継続している。 (参考:FUKUOKA Smart EAST ニュース一覧)
大規模な移転・統合を契機にまとまった低未利用地が生まれるケースは、大学や工場、庁舎の移転統合など他地域でも起こりうる。本事例が示すのは、事業者決定やまちびらきまでの準備期間を「まだ何もできない期間」として消極的に扱うのではなく、実証実験を通じて次のまちの姿を先行的に試す期間として積極的に位置づける発想である。土地そのものが更地の間だけでなく、周辺の既存市街地も含めて実証フィールドとする視点は、跡地単体の活用にとどまらない応用が可能である。
個々の実証実験ごとに企業が独自に地域との関係を一から構築する方式は、属人的な関係性に依存しやすく、他地域での再現が難しい。本事例のように自治体・大学・都市再生機構といった複数機関が常設のコンソーシアムを組み、調整機能を制度として持つ仕組みは、特定の担当者やキーパーソンに依存せず、他地域の産学官連携でも設計として移植しやすいモデルである。
A4約5枚の企画書、参加費無料という応募条件の軽さは、大企業だけでなく中小規模の事業者やスタートアップの参入も可能にする。一度きりの大規模イベントで実証を集中させるのではなく、毎年度定例的に公募を行うことで、実証事例を継続的に積み上げるパイプラインとして機能させている点は、単発の実証実験フルサポート事業を検討する他地域にとっても参考になる運用設計である。
実証実験がしばしば陥る課題は、一度の実証で終わり、その結果が次につながらない「PoCで終わる」現象である。本事例の自動運転バスや児童見守りGPSトライアルのように、同一テーマを複数回・複数年度にわたって実施し、前回の結果を踏まえて対象範囲や技術構成を調整していく設計は、単発の実証を社会実装に向けた反復プロセスの一部として位置づける具体的な手法として、他地域の実証実験プログラムにも応用できる。
2026年8月時点の調査内容に基づいて作成
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