
つくば中央公園リニューアル(段階的な市民参加による駅前公園の再整備)
つくば駅に隣接する約3.8haの中央公園を市民参加で再整備するプロジェクト。アンケート・ワークショップ・利用実態調査を重ね、「基本的な考え方」「基本計画」「基本設計」の各段階で意見募集とオープンハウスを挟んで市民の声を反映。要望の多い遊具を公園の自然環境とのトレードオフを示しながら判断するなど、段階的な合意形成のプロセスを構築した事例。
つくば中央公園は、つくばエクスプレスのつくば駅に隣接する面積約3.8ヘクタール(38,316平方メートル、うち池の面積7,432平方メートル)の近隣公園である。1985年(昭和60年)の科学万博を控えた時期に開園し、大池と噴水、芝生広場、江戸時代の古民家を移築した「さくら民家園」、レストハウスなどを擁する。歩行者専用道路を介して中央図書館・茨城県つくば美術館・つくばエキスポセンターといった文化施設に囲まれ、つくばの「顔」となる中心市街地のシンボル的な公園だが、開園から約40年が経過し、施設の老朽化と市民ニーズの変化への対応が課題となっていた。 (参考:つくば中央公園リニューアル基本計画(案)、中央公園リニューアルについて - つくば市)
つくば市は本公園の再整備を「つくば中心市街地まちづくり戦略」が掲げる8つのリーディングプロジェクトの一つに位置づけ、2023年度から市民・利用者・周辺事業者を対象とした複数の調査を重ねてきた。特徴は、計画を一度に決め打ちするのではなく、「基本的な考え方(案)」(2025年1月)→「基本計画」(2025年8月)→「基本設計(案)」(2026年6月)と段階を踏んで具体化し、その各段階でパネル展示型の「オープンハウス」と書面・オンラインの「意見募集」を挟んで市民の声を反映していく点にある。リニューアルのコンセプトは「まちと人をつなぐ、グリーンアーバンパーク」。公園を7つのエリアに分け、芝生・池・木陰といった既存の自然環境を活かしながら、座り場・屋根付きスペース・テラスなどを段階的に整備する計画で、工事は基本・実施設計を経て2028年度(令和10年度)以降に順次着手する予定である。 (参考:つくば中央公園リニューアル基本計画(案)、中央公園リニューアルについて - つくば市)
つくば市は、つくば駅周辺の魅力あるまちづくりを進めるため、2018年(平成30年)7月に「つくば中心市街地まちづくりヴィジョン」、2020年(令和2年)5月に「つくば中心市街地まちづくり戦略」を策定した。戦略では市が先頭に立って優先的に進める8つのリーディングプロジェクトを定めており、中央公園リニューアルはその3番目に位置づけられている。あわせて、駅前のつくばセンタービル(リーディングプロジェクト1。コワーキング拠点「co-en」としてリニューアル)やセンター広場の再整備とともに、駅前の公共空間を面的に刷新する一連の取り組みの一角を担っている。 (参考:つくば中央公園リニューアル基本計画(案)、中央公園リニューアルについて(事業者向け) - つくば市)
中央公園は、水と緑が広がる立地のポテンシャルを十分に活かしきれていないという課題を抱えていた。市が実施した利用環境評価やアクティビティ調査では、つくば駅から公園への最短ルート上に本来の園路ではない滑りやすい通り道ができていること、入口部分にサインやモニュメントが過剰に配置されて緑の景観を阻害していること、照明やサインが継ぎ足しで設置され色温度やデザインがばらばらで夜間に暗く不安を感じる場所があること、公園の規模に対してくつろげる座り場が少なく芝生広場のベンチは2基のみであることなどが具体的な課題として整理された。 (参考:つくば中央公園リニューアル基本計画(案))
市民・利用者・関係者からの声でも、「子どもが楽しめる環境がない」「カフェやレストランがほしい」「テーブルやベンチが少ない」「ウォーキングやランニングコースがない」「夜が暗い・街灯が少ない」「トイレが使いにくい」「図書館や美術館との関係性が希薄」など、多様な要望と不満が寄せられた。一方で、自然豊かでゆっくり安らげる公園環境そのものは評価されており、リニューアルでは「賑わいや利便性の向上」と「既存の自然環境・憩いの価値の保全」をどう両立させるかが、計画上の中心的な論点となった。 (参考:つくば中央公園リニューアル基本計画(案))
つくば市は2023年度(令和5年度)、対象者の属性を分けた複数のアンケートと調査を並行して実施した。市内在住・在勤・在学者を対象とした市民アンケート(Web)に516件、つくば駅周辺の従業者アンケートに65件、駅周辺事業者アンケートに13団体、対面の中央公園利用者アンケートに49件の回答が集まった。あわせて、市民が直接議論する対面のワークショップ(参加30名)、駅周辺事業者との意見交換会(22団体)に加え、誰がどの場所をどのように使っているかを把握する利用動態調査(利用者数・通過者数・年齢層・滞在時間・同伴者・活動内容など)を行い、「声」と「実態」の両面から公園の現状を捉えた。 (参考:つくば中央公園リニューアル基本計画(案))
2024年度(令和6年度)には、設計に向けてさらに踏み込んだ調査を重ねた。周辺施設関係者へのヒアリング(8団体)、公園利用者・団体へのヒアリング(10件)、人と空間の関係から公園内を評価する利用環境評価、具体的な使われ方を見るアクティビティ調査、公園に隣接する図書館・美術館等の関係者を集めた意見交換会(7団体)を実施。これらの調査結果と上位計画のキーワードを突き合わせ、安全性・快適性・利便性・地域性・多様性・協働性といった観点から課題とニーズが体系的に整理された。 (参考:つくば中央公園リニューアル基本計画(案))
市は調査結果を踏まえ、2025年1月に「中央公園リニューアルに向けた基本的な考え方(案)」を公表した。これは「現在の環境を活かした駅前の憩いの空間」「つくばらしさや魅力を感じられる場」「まちとつながり、にぎわいを生む拠点」という3つの方向性を示すもので、これに対する意見募集(Web)には50件の回答が寄せられた。市民からは「ベンチが少なくくつろげる場がほしい」「子どもと過ごせる場がほしい」「レストハウスを活用してほしい」「街灯が少なく夜が暗くて怖い」「防災に関する取組が必要」といった具体的な声が集まった。 (参考:つくば中央公園リニューアル基本計画(案))
これらを反映して、市は2025年5月に「中央公園リニューアル基本計画(案)」をまとめ、6月13日から19日まで中央公園レストハウスでオープンハウス(パネル展示)を開催。会場では職員に質問でき、アンケートでも意見を述べられるようにし、あわせて6月22日まで「いばらき電子申請システム」や窓口での意見募集を行った。この段階の意見募集とオープンハウスの結果を踏まえ、計画には小規模遊具の検討と災害時の井戸活用に関する記述が追加され、2025年8月に「中央公園リニューアル基本計画」として策定された。市議会の一般質問でも、子どもの遊び場の充実や、停電時にも使える井戸水機能、水遊び場への日よけ設置などが取り上げられ、市は意見募集の結果を踏まえて検討すると答弁している。 (参考:テラス空間や屋根付スペースなど検討 中央公園改修へ つくば市が基本計画案 - NEWSつくば、【令和7年6月定例会議】一般質問の成果報告 - 川久保みなみ、つくば中央公園リニューアル基本計画(案))
参加の周知にあたっては、市ホームページ・市の情報アプリ・SNS・広報紙に加え、つくば特別支援学校や障害児通所支援事業所等にもチラシを配布し、対面のワークショップに参加できない人にはオンライン(電子申請)や書面でのアンケートで意見を集約する設計とした。多様な立場の市民が意見を届けられるよう、参加経路を意図的に複線化している。 (参考:【令和7年6月定例会議】一般質問の成果報告 - 川久保みなみ、中央公園リニューアルについて - つくば市)
2026年度(令和8年度)に入ると、市は基本計画を具体化した「基本設計(案)」を取りまとめ、再び市民に諮るプロセスを踏んだ。2026年6月11日から17日まで中央公園レストハウスでオープンハウスを開催し、6月21日まで意見募集を実施。計画段階だけでなく設計段階でも市民の確認と意見の機会を設けることで、抽象的な方針が具体的な設計に落ちる過程の透明性を確保している。 (参考:中央公園リニューアルについて - つくば市、中央公園リニューアルについて(事業者向け) - つくば市)
基本計画では公園を7つのエリアに分け、特性を活かした整備内容を定めている。南入口エリアにはフォトスポットを兼ねるロゴモニュメントの設置と過剰なサイン・モニュメントの再配置、芝生広場エリアには電源設備を備えた屋根付きスペース(小規模な催しにも対応、屋根の規模・素材は検討中)、図書館・美術館隣接エリアには木陰を活かした座り場と屋外で本を楽しめる取組、大池南エリアには池の噴水とエキスポセンターのロケットを同時に望むテラス空間、レストハウス本館には池の景色を遮っていたギャラリー用パネルの可動式化と休憩スペースの拡充などが盛り込まれた。あわせて、座り場・サイン・照明・植栽・トイレの改善を公園全体で横断的に進め、江戸時代中期の伝統的な民家を移築したさくら民家園は、茅葺屋根の葺き替えなどの保全とあわせて利活用の促進を図る。工事はエリアを区切って段階的に進め、全面封鎖は行わない方針が示されている。 (参考:つくば中央公園リニューアル基本計画(案)、テラス空間や屋根付スペースなど検討 中央公園改修へ つくば市が基本計画案 - NEWSつくば、民家園など改修 中央公園リニューアルで新年度設計 - 日本建設新聞社)
第一の特徴は、再整備を「一度の計画決定」ではなく、複数の段階に分けて公開と意見聴取を繰り返す「段階ゲート型」のプロセスで進めている点である。「基本的な考え方(案)」→「基本計画(案)」→「基本設計(案)」という具体化の各段階で、必ずパネル展示型のオープンハウス(対面)と電子申請・窓口による意見募集を挟む。抽象度の高い方針から具体的な設計へと議論が降りていく過程で市民が繰り返し関与できるため、計画が固まってから「実は反対」となる事態を避けやすく、計画の正統性と納得感を積み上げる構造になっている。 (参考:つくば中央公園リニューアル基本計画(案)、中央公園リニューアルについて - つくば市)
第二に、調査手法が「声」と「実態」の双方をカバーしている点である。属性別のアンケート(市民・従業者・事業者・利用者)やワークショップ、ヒアリングといった意見の聴取に加え、利用動態調査やアクティビティ調査によって、誰がどの場所をどう使っているかという行動データを収集している。要望をそのまま並べるのではなく、実際の使われ方に照らして課題の優先順位を判断する材料を揃えている点が、エビデンスに基づく公共空間デザインの実務として参考になる。 (参考:つくば中央公園リニューアル基本計画(案))
第三に、市民の「要望の多さ」と公園の「固有の価値」とのトレードオフを明示し、その判断理由を計画書で公開している点である。アンケートでは「子どもが楽しめるものが少ない」という声が最多で、遊具設置の要望が多く寄せられた。これに対し市は、芝生や池が広がる中央公園の環境を変える必要がある大型遊具の設置は行わない方針を維持しつつ、意見募集やオープンハウスの結果を踏まえて小規模遊具を検討対象に追加した。「要望が多いから採用する」のでも「方針だから却下する」のでもなく、何を守り何を加えるかを理由とともに示す姿勢は、参加型計画における専門的判断と市民意見の調停の好例といえる。 (参考:つくば中央公園リニューアル基本計画(案)、【令和7年6月定例会議】一般質問の成果報告 - 川久保みなみ)
第四に、参加できない層への能動的なリーチを設計に組み込んでいる点である。市ホームページやSNSでの周知に加えて、つくば特別支援学校や障害児通所支援事業所等にチラシを配布し、対面の場に来られない人にはオンライン・書面のアンケートを用意した。参加の機会を「来られる人」に限定しないための実務上の工夫が、計画段階から意識されている。 (参考:【令和7年6月定例会議】一般質問の成果報告 - 川久保みなみ)
本事業は2026年6月時点で基本設計の段階にあり、工事は2028年度(令和10年度)以降に順次着手する予定である。したがって、リニューアルの空間的な効果(来園者数の変化や賑わいの創出など)はまだ検証段階にない。現時点で確認できる成果は、合意形成と計画策定のプロセスそのものにある。
一方で課題も残る。工事着手が2028年度以降であり、計画から効果発現までの期間が長いため、その間に市民の関心や利用実態が変化するリスクがある。また、ワークショップ参加30名・市民アンケート516件といった参加規模は、つくば市の人口規模に照らせば一部の市民にとどまり、意見の代表性には留意が必要である。市内の洞峰公園で見られたような継続的な市民参加を支える常設のデジタル基盤は用いられておらず、参加は各計画段階の意見募集に依存している。工事完了後も市民の関与をどう持続させるかは、今後の運営に委ねられる論点である。 (参考:つくば中央公園リニューアル基本計画(案)、中央公園リニューアルについて - つくば市)
大規模な公共空間の再整備は、「段階ごとの公開+意見聴取」で正統性を積み上げられる。 本事例は、計画を一度に決めるのではなく「考え方→基本計画→基本設計」と具体化のステップを分け、その都度オープンハウスと意見募集を挟んだ。各段階で関与の機会があることで、議論が抽象から具体へ降りる過程に市民が伴走でき、計画確定後の反発を抑えやすい。公園に限らず、広場・道路・公共施設の再整備にも応用できる進め方である。 (参考:中央公園リニューアルについて - つくば市)
「声」だけでなく「使われ方の実態」を調べることが、要望の取捨選択の根拠になる。 アンケートやワークショップで集まる要望は総花的になりやすい。本事例では利用動態調査やアクティビティ調査を併用し、どの場所が実際にどう使われているかを把握した上で整備内容を組み立てている。意見聴取と行動観察を組み合わせる手法は、限られた予算で優先順位を判断する際の説得力を高める、再現性のあるアプローチである。 (参考:つくば中央公園リニューアル基本計画(案))
要望と固有価値が衝突するときは、判断理由の公開が信頼を保つ。 遊具設置の要望が最多であっても、芝生と池という公園の核心的価値を守るために大型遊具は見送り、代わりに環境を大きく変えない小規模遊具を意見募集を経て加える——という判断のプロセスと理由を、市は計画書で明示した。参加型計画では「集めた意見をどう扱うか」が信頼を左右する。採否の結論だけでなく根拠を返す姿勢は、住民参加を形骸化させないために他地域でも参考になる。 (参考:つくば中央公園リニューアル基本計画(案)、【令和7年6月定例会議】一般質問の成果報告 - 川久保みなみ)
参加の経路を複線化し、来られない層に能動的に届ける。 対面ワークショップだけでは、就労世代・子育て世代・障害のある市民など、その場に来にくい層の声が抜け落ちやすい。本事例は、特別支援学校や障害児通所支援事業所へのチラシ配布、オンライン(電子申請)・書面アンケートの併用によって参加経路を複線化した。参加者数の絶対量だけでなく、参加者の「幅」を確保する工夫は、計画の代表性を高める実務として汎用性が高い。同じ市内でも、洞峰公園が常設のデジタル参加基盤(my groove)を介して継続的に意見を集めているのに対し、中央公園は計画段階ごとの意見募集を軸とする——という対比は、参加手法の選択肢として両者を比較検討する材料にもなる。 (参考:【令和7年6月定例会議】一般質問の成果報告 - 川久保みなみ、中央公園リニューアルについて - つくば市)
2026年6月時点の調査内容に基づいて作成
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