
井荻駅周辺地区まちづくり協議会
西武新宿線の立体化候補区間指定を機に、井荻駅周辺の住民が有志の勉強会から協議会を立ち上げ、5つの部会で約2年半・のべ80回超の議論を重ねて「まちづくり構想」を杉並区に提案した事例。構想は区の方針に引き継がれた一方、中核要求である駅周辺の南北分断解消は未実現のまま推移している。
井荻駅周辺地区まちづくり協議会は、東京都杉並区の西武新宿線井荻駅を中心とする約90ヘクタールの地区で、住民自身が地区の将来像をまとめ、杉並区まちづくり条例に基づく「まちづくり構想」として区に提案した住民組織である。2010年(平成22年)6月に町会・自治会、商店街振興組合、小学校PTAの代表による有志の勉強会として始まり、2011年(平成23年)9月17日の設立総会を経て正式に発足した。(参考:井荻駅周辺地区まちづくり構想)
協議会は全体会・運営委員会に加え、道路・交通/防犯・防災/商業・にぎわい/みどり・環境/企画・交流の5つの部会を置き、約2年半にわたって検討を重ねた。2014年(平成26年)4月に『井荻駅周辺地区まちづくり構想』を完成させ、杉並区長へ提案している。同時期に下井草・上井草の両協議会も構想を提案し、杉並区はこの3つの構想を踏まえて2016年(平成28年)2月に「西武新宿線沿線各駅周辺地区まちづくり方針」を策定した。(参考:杉並区「井荻駅周辺まちづくり」、西武新宿線沿線まちづくり通信 第6号)
住民の提案が行政の方針文書に引き継がれた一方で、構想が最優先に掲げた「西武新宿線の連続立体交差事業による南北分断の解消」は、提案から10年以上を経た調査時点でも井荻駅周辺では実現していない。住民主導のまちづくりが到達できた範囲と、事業の時間軸との間に生じたずれの両方が読み取れる事例である。
井荻駅周辺地区は杉並区の最北部に位置し、昭和初期の区画整理によって整然とした街区が形成された郊外住宅地である。1927年(昭和2年)の西武村山線(現・西武新宿線)開通で発展し、第二次世界大戦後、特に1960年代の高度経済成長期に宅地化が急速に進んだ。検討対象地区は井草4丁目・井草3丁目、下井草5丁目の全域と、井草2丁目・下井草4丁目それぞれの一部、上井草1丁目などにまたがり、南北約1キロメートル×東西約0.7キロメートル、面積は約90ヘクタールに及ぶ。2012年度(平成24年度)時点の人口は約12,400人、世帯数は約6,900世帯であり、この10年間で人口は107パーセント、世帯数は113パーセントと増加傾向にあった。(参考:井荻駅周辺地区まちづくり構想)
この地区の最大の構造的課題は、東西に走る西武新宿線と南北に走る環状八号線という2本の交通インフラによって、地区が4つに分割されていることである。環状八号線については1997年(平成9年)に西武鉄道を跨ぐ井荻陸橋(側道)が完成し、1999年(平成11年)に踏切が除却され、構想の記載によれば2001年(平成13年)に本線のトンネル化工事が完了したとされる。自動車交通は立体的に処理された一方で、歩行者と自転車には十分な配慮がなされず、地区の生活動線が分断された状態が残った。構想は「西武新宿線と立体交差化した環状八号線という交通インフラによって地区が4分割され、生活の利便性が奪われている」と、この状況を率直に記している。(参考:井荻駅周辺地区まちづくり構想)
具体的な不便は日常の細部に及んでいた。井荻駅には駅前広場がなくタクシー乗り場もない。駅周辺の歩行者用踏切は「開かずの踏切」であるうえ、幅員が接続する区道の3分の1程度しかなく段差もある。環八側道の地下通路はエスカレーターが上りのみで、しかも折り返して2段階で上る構造のため、目的の方向に出るには反対側へ下りることになる。地下に設けられた自転車駐車場は深く勾配がきつい。バス停留所は歩道が狭い箇所にあり、屋根もない。加えて住宅地でありながらミキサー車など大型車の通行が頻繁で、通学路の安全が課題となっていた。(参考:井荻駅周辺地区まちづくり構想)
一方で地区には、旧井草川を埋めた遊歩道の一部が「科学と自然の散歩みち」として親しまれ、6か所の屋敷林と生産緑地が残るなど、みどりの資産も蓄積されていた。1937年(昭和12年)に設置された工業技術院機械技術研究所の跡地は、1996年(平成8年)に井草森公園として整備されている。しかし宅地の細分化によるみどりの減少、商店街の空き店舗の増加、高齢者向け共同住宅の増加といった変化が同時に進行していた。(参考:井荻駅周辺地区まちづくり構想)
検討開始の直接的なきっかけは、2008年(平成20年)に東京都が西武新宿線の「野方~井荻駅付近」「井荻~東伏見駅付近」を鉄道立体化の事業候補区間として位置づけたことだった。区は2010年(平成22年)に沿線でアンケートを実施し、2011年(平成23年)には下井草・井荻・上井草の各駅周辺地区で住民主体のまちづくり協議会が相次いで設立された。(参考:杉並区「西武新宿線沿線まちづくり」、西武新宿線沿線各駅周辺地区まちづくり方針)
有志の勉強会から協議会設立へ
協議会はいきなり組織として立ち上がったわけではない。2010年(平成22年)6月から地元の町会・自治会や商店街振興組合、小学校PTAから代表が集まった勉強会が検討を重ね、1年3か月の助走を経て2011年(平成23年)9月17日に設立総会を開いている。その後は役員会、事務局会議、運営委員会と順に体制を整え、同年11月2日に「まちづくり協議会ニュース第1号」を配布して11月26日に第1回全体会を開催した。翌2012年(平成24年)2月7日の第2回全体会で部会分けと部会長決めを行い、テーマ別の検討体制に移行している。(参考:井荻駅周辺地区まちづくり構想)
5つの部会が分担して議論を積み上げる
検討の実質は部会が担った。構想の巻末に収録された活動経緯によれば、部会の会議回数は道路・交通部会26回、みどり・環境部会25回、防犯・防災部会12回、交流部会10回、商業・にぎわい部会9回にのぼる。これに道路・交通部会のバスワーキンググループ7回が加わり、部会レベルの会議だけで80回を超える。組織全体としても総会4回、全体会5回、運営委員会9回、事務局会議10回が記録されている。(参考:井荻駅周辺地区まちづくり構想)
机上ではなく現地と外部で確かめる
部会活動には現地確認と外部視察が組み込まれていた。道路・交通部会は4回、防犯・防災部会は3回、みどり・環境部会は3回の「まちあるき」を実施している。2012年(平成24年)11月14日には全体会として旧杉並中継所と井草森公園の防災施設を視察した。屋敷林の保全策を検討していたみどり・環境部会は、2013年(平成25年)5月1日に世田谷トラストまちづくりを見学し、同年8月5日には地区内の屋敷林を実地に見ている。この蓄積が、構想におけるナショナルトラストや市民緑地制度の参照につながった。(参考:井荻駅周辺地区まちづくり構想)
バス路線変更を関係機関との協議に持ち込む
道路・交通部会の下に置かれたバスワーキンググループは、駅前商店街を通過している路線バスの経路を環八側道でUターンする形に変更する案を検討し、実際に関係機関を訪ね歩いている。2013年(平成25年)1月28日に関東バスの路線変更走行実験を実施し、同年には東京都第三建設事務所を3回、関東バス株式会社、荻窪警察署交通課(課長への挨拶を経て交通規制係との打ち合わせ)を訪問した。同年11月21日には西武井荻商店街振興組合(環八西側沿道の組合員)との会議を開き、2014年(平成26年)3月20日の同振興組合第36回総会でバスルート変更が承認されている。住民組織が案を持って道路管理者・交通事業者・警察・商店街を順に回り、合意の一段階目まで到達した記録として具体性が高い。(参考:井荻駅周辺地区まちづくり構想)
素案を全戸に配って意見を集約する
協議会は会員内部の議論に閉じず、地域全体への周知と意見聴取を行っている。2013年(平成25年)4月29日に広報紙『井荻駅周辺地区まちづくり通信 vol.1』を発行し、会員自身の手でエリア内全戸に配布した。2014年(平成26年)3月6日には構想素案を掲載した vol.2 を発行し、検討対象地区の全戸6,850部に配布(業者委託により12日に完了)、3月20日まで意見を集約した。寄せられた意見は「地下通路等を改善し南北の交通をスムーズにしてほしい(同様意見他7件)」「環八から跨線橋下の側道を使うバスルートに変更してほしい(同様意見他2件)」といった形で件数とともに整理され、一件ずつ「協議会の考え方」を付して構想の資料編に収録された。(参考:井荻駅周辺地区まちづくり構想)
構想の完成と区への提案
2014年(平成26年)4月に構想が完成し、同月26日の総会を経て杉並区長へ提案された。まちづくりの目標は「ひとにやさしく、多世代がつながり、井荻らしさを活かしたまちづくり」で、道路・交通「ひと優先で、誰にでもやさしいまちづくり」、防犯・防災「子どもから高齢者まで安全で安心なまちづくり」、商業・にぎわい「多世代がつながる、個性あふれるまちづくり」、みどり・環境「歴史、文化、自然など、地域資産を大切にし、回遊できるまちづくり」、井荻地区全体「さらにまちづくりを推進するために」という5つの基本方針で構成されている。(参考:井荻駅周辺地区まちづくり構想、西武新宿線沿線まちづくり通信 第6号)
提案の一つひとつに「誰がやるか」を書き込んでいる
この構想の最も実務的な工夫は、分野別方針のすべての項目に担い手を示す記号を付けた点にある。「○=主に地域が取り組むこと」「□=主に地域が行政・関係機関に働きかけること」「◎=主に地域と行政・関係機関が協働で取り組むこと」の3種類で、たとえば「商店街を中心とした区域の安全性と利便性の向上」は○、「歩道とその周辺の安全対策」は□、「バス路線の変更、バス停留所の整備等」は◎と振り分けられている。住民提案がしばしば行政への要望リストに傾きがちななかで、地域自身が引き受ける宿題を明示することで、提案の性格を陳情から役割分担の宣言に近づけている。(参考:井荻駅周辺地区まちづくり構想)
住民組織が鉄道の構造形式まで踏み込んで比較した
みどり・環境部会は、鉄道立体化の方式について現状案を含む6つの構造形式を独自に比較検討し、断面略図付きで構想の資料編に収録している。A案(現状)、B案(橋上駅舎=下井草と同様)、C-1案(高架式・跨線橋を建替えて残す)、C-2案(高架式・跨線橋を撤去)、D案(地下走行)、E案(掘割方式)という整理で、それぞれに「高架下にスペースが生まれ一部利用可能となる」「低層住宅地なので視覚的な圧迫感と心理的な南北の分断がある」「駅ホームが地下深くになり、地上からのアクセスに難がある」といった評価が付されている。専門家の領域とされがちな構造選定に、日常の空間体験を評価軸として持ち込んだ点が特徴的である。同時に「本資料は、あくまでみどり・環境部会で独自に検討したものです」と明記し、位置づけを限定する慎重さも保っている。(参考:井荻駅周辺地区まちづくり構想)
「にぎわい=商業活性化」という前提を自ら疑った
商業・にぎわい部会は意見の集め方を部会内に閉じず、商店街のフリーマーケットに部会員自ら出向いて来場者から聞き取り(2012年5月には出店準備から参加)、協議会員向けアンケートも重ねた。その結果として到達したのが「井荻地区にとっての“にぎわい”は、商業の活性化だけではない」という共通認識である。この認識を起点に、部会の提案は商業振興そのものよりも、子どもの居場所、高齢者の活動の場、世代を越えて集える「寄り合い」的な場所、公共性の高いカフェといった「集える場の整備」に軸足を置く構成になった。駅前商店街を抜ければ閑静な住宅地という地区の性格を踏まえ、既製の商店街活性化の枠組みをそのまま当てはめなかった判断である。(参考:井荻駅周辺地区まちづくり構想)
分断された地区を4つに分けて別々に描いた
構想は、鉄道と環状八号線に区切られた4つのエリアをA〜Dと名付け、それぞれの特色を個別に記述している。A地区(北西部)は井草森公園と大規模駐車場、スーパーや家電量販店が集まる区域。B地区(北東部)は農地・緑地が多い低層住宅地だが、人が集う施設が乏しく、駅ホーム際の建設資材プラントが住環境上の懸念となっている区域。C地区(南東部)は駅前東側商店街に接し、区が選定した「残したい屋敷林」と井草地域区民センターがある区域。D地区(南西部)は駅前西側商店街に接し、柿木図書館の東側に住宅地の静穏と安全のために設けられた蛇行道路(スラローム道路)があり、生産緑地が多く緑被率が高い区域。分断という課題を抽象的に述べるのではなく、分断された結果として生じた4つの異なる地域像を書き分けたことで、地区ごとに処方が異なることが構想上で可視化されている。(参考:井荻駅周辺地区まちづくり構想)
沿線3駅が横並びで動いた
下井草・井荻・上井草の3協議会は2011年(平成23年)に相次いで設立され、2012年(平成24年)12月と2013年(平成25年)10月の2回にわたって交流会を開催、2013年9月には井草地域区民センターまつりで3協議会そろって広報活動を行った。そして2014年(平成26年)に3地区が同時期に構想を提案している。区はこれらを個別に扱わず、3構想と沿線地域の現況調査を突き合わせて1つの「まちづくり方針」に束ねた。単独の駅では扱いにくい沿線全体の交通ネットワークやみどりの連続性を、複数協議会の並走によって議論の俎上に載せた形である。(参考:井荻駅周辺地区まちづくり構想、西武新宿線沿線各駅周辺地区まちづくり方針)
構想は区の方針文書に引き取られた
最も明確な成果は、住民が作成した構想が行政の公式方針に接続されたことである。杉並区は2016年(平成28年)2月に「西武新宿線沿線各駅周辺地区まちづくり方針」を策定し、その冒頭で3協議会からの構想提案を策定の前提として明記した。方針が示す井荻駅周辺地区のまちの将来像は「みどり豊かな住環境を活かし、誰にもやさしく多世代がつながるまち」であり、協議会の目標「ひとにやさしく、多世代がつながり、井荻らしさを活かしたまちづくり」の骨格がほぼそのまま採用されている。方針は杉並区まちづくり基本方針(都市計画マスタープラン)の地域別方針(井草地域)の下位に位置づけられ、交通体系・土地・建物利用・住環境の3分野で方向性を定めている。住民提案が行政計画の階層構造の中に居場所を得た点は、提案の効果として確認できる。(参考:西武新宿線沿線各駅周辺地区まちづくり方針)
個別要望のうち実現が確認できるもの
構想は環八地下通路について「南側、北側の2箇所にエレベーターの設置を望みます」と求めていた。井荻駅の南北をつなぐ地下歩道には2016年にエレベーターが設置されたと記録されており、要望の一部は実現したとみられる(ただし区・都の公表資料では実施経緯を確認できていない)。バス路線の変更については、前述のとおり2014年(平成26年)3月に西武井荻商店街振興組合の総会で承認を得た段階までが構想に記録されているが、実際の路線変更の実施状況は公開資料からは確認できなかった。(参考:井荻駅周辺地区まちづくり構想、井荻駅 - Wikipedia)
中核要求である南北分断の解消は井荻駅では実現していない
構想が道路・交通分野の筆頭に掲げたのは「西武新宿線の連続立体交差事業の早期実現」だった。事業自体は前進しており、西武新宿線(井荻駅~西武柳沢駅間)連続立体交差事業は2021年(令和3年)11月26日に都市計画決定、2024年(令和6年)3月6日に事業認可を取得し、事業期間は2038年(令和20年)3月31日までとされている。約5.1キロメートルの区間を高架化し、19か所(うち杉並区内4か所)の踏切が除却される計画である。(参考:東京都建設局「西武新宿線(井荻駅~西武柳沢駅間)連続立体交差事業」、西武新宿線沿線まちづくり通信 第13号)
ただし、事業名に井荻駅の名を冠しているにもかかわらず、高架化区間の起点は杉並区上井草1丁目であり、高架駅となるのは上井草・上石神井・武蔵関・東伏見の4駅である。井荻駅自体は高架化の対象に含まれておらず、地上駅のまま残る。井荻駅を含む東側区間(野方駅~井荻駅付近、総延長約3.1キロメートル、解消される踏切13か所)は事業候補区間の位置づけにとどまり、構造形式は現在も検討中である。中野区が2014年(平成26年)5月に建設委員会へ報告した構造形式の比較検討でも、高架案・全線地下案・地下+高架案・高架+道路立体案という4案すべてが「地上駅の井荻駅に擦り付ける」ことを前提としていた。構想が掲げた「踏切をなくして南北を通行しやすく」という中核の目標は、提案から10年以上を経た調査時点でも井荻駅周辺では実現の見通しが立っていない。(参考:鉄道プレスネット「西武新宿線・井荻~西武柳沢の高架化『2025年度にも着工』へ」、東京都建設局「西武新宿線(野方駅~井荻駅付近)」、中野区建設委員会資料「西武新宿線(野方駅~井荻駅間)連続立体交差化に係る構造形式の調査検討の結果について」)
構想が求めた「井荻駅周辺をバリアフリー基本構想の重点整備地区に指定する」という提案についても、2023年(令和5年)3月に策定された杉並区バリアフリー基本構想が指定した重点整備地区・移動等円滑化促進地区は荻窪駅周辺、阿佐ケ谷駅周辺、富士見ヶ丘駅・高井戸駅周辺、方南町駅周辺の4地区であり、井荻駅周辺は含まれていない。(参考:杉並区バリアフリー基本構想)
協議会の活動は公開情報から追えなくなっている
杉並区の「井荻駅周辺地区まちづくり協議会」ページに掲載されているのは2014年の構想のみで、最終更新は2018年(平成30年)3月、「井荻駅周辺まちづくり」ページの最終更新は2022年(令和4年)6月である。区が発行する「西武新宿線沿線まちづくり通信」の直近3号(第13号・2024年3月、第14号・2025年3月、第15号・2026年3月)を見ても、内容は上井草駅北口駅前広場の整備事業と、下井草駅周辺の「(仮称)下井草まちづくりラボ」およびまちづくりオープンハウスが中心で、井荻駅周辺に関する記載はない。(参考:杉並区「井荻駅周辺地区まちづくり協議会」、西武新宿線沿線まちづくり通信 第14号、西武新宿線沿線まちづくり通信 第15号)
対照的に、同じ沿線の下井草では2024年度(令和6年度)から日本大学理工学部の関文夫教授、2025年度(令和7年度)からは国士舘大学理工学部の寺内義典教授の協力を得て「(仮称)下井草まちづくりラボ」が継続開催され、2025年度は第7回〜第10回で旧早稲田通りの安全化、駅前広場・交通結節点のあり方、みどりと景観をテーマに意見交換を行っている。2026年(令和8年)2月14日のオープンハウスには111名が来場した。上井草でも2025年(令和7年)7月13日に早稲田大学ラグビー蹴球部の「北風祭」に合わせて「まちづくり広場」が開催され、209名が来場している。事業の進捗と行政の関与が、地域住民の関与の場を支える構図がここに表れている。(参考:西武新宿線沿線まちづくり通信 第15号、西武新宿線沿線まちづくり通信 第14号)
提案書に担い手を書き込むと、住民側にも宿題が残る
○□◎という3記号で全項目に担い手を割り当てた手法は、そのまま他地域に持ち込める形式的な工夫である。行政に求めることと自分たちで取り組むことを同じ表の中で並べて書くと、提案が要望書に流れることを構造的に防げる。ただし記号を付けただけでは実行にはつながらない。井荻の経験が示すのは、担い手を書き込む作業と、書き込んだ担い手が実際に動き続けられる体制を用意する作業は別物だという点である。
構想の完成が、そのまま活動の終点になりうる
このリスクを最もよく認識していたのは協議会自身だった。構想の「井荻地区全体」の章には、まちづくり全般の相談窓口となる部署の設置を区に求めること、コンサルタント派遣の頻度や関与のあり方を見直すこと、そして「まちづくり協議会の継続や、受け皿となるまちづくり組織の設立を望みます」という記述が並ぶ。約2年半で走り切る密度の高い活動の後に何が必要かを、協議会は構想の中で先回りして書いていた。それでも公開情報で追える限り、その受け皿は形成されていない。構想の提案を最終ゴールではなく1つのフェーズの区切りと定義し、次のフェーズを担う場と行政側の窓口を提案時点で同時に設計しておくことが、同種の取り組みの分かれ目になる。(参考:井荻駅周辺地区まちづくり構想)
地域の合意形成のサイクルと、事業のサイクルは桁が違う
協議会は勉強会開始から構想提案まで約4年、設立からは2年半で結論に到達した。一方、連続立体交差事業は候補区間の位置づけ(2008年)から都市計画決定(2021年)まで13年、事業認可(2024年)を経て完成予定は2038年である。住民組織が持続できる時間の単位と、都市基盤事業が動く時間の単位には一桁近い差がある。この差を意識した構想の作り方として、井荻の構想が「連続立体交差事業の実現までに長期の時間を要するため、その間においても」という前提を明示し、地下通路のエスカレーター・エレベーター、踏切の暫定的な拡幅、案内板の整備、バス停の屋根といった短期に実現しうる項目と、立体化を前提とする長期の項目を分けて書いたことは参考になる。時間軸の異なる要求を1つの文書に混ぜず、二層に分けて書くことは、長期戦を戦う地域が成果を確認しながら活動を継続するための実務的な手立てとなる。(参考:井荻駅周辺地区まちづくり構想)
事業区間の「端」に置かれる地区は、便益の所在を先に確かめる必要がある
「西武新宿線(井荻駅~西武柳沢駅間)連続立体交差事業」という名称は、井荻駅周辺の住民に強い当事者意識を与える。しかし実際の高架化区間の起点は上井草1丁目で、高架駅となるのは西側の4駅であり、井荻駅の南北分断はこの事業では解消されない。事業区間の境界に位置する地区では、事業名の上では中心に見えても、実際の便益は隣接区間の事業化を待つことになりうる。地域が構想をまとめる段階で、事業の起終点の扱いと自地区が受ける便益の内容を関係機関に具体的に確認しておくことは、期待値を適正に設定し、活動を持続させる構えを決めるうえで重要である。
「にぎわい=商業活性化」を自ら疑い直す手順
商業・にぎわい部会が、部会の議論・フリーマーケットでの聞き取り・会員アンケートという3つの経路を経て「にぎわいは商業の活性化だけではない」という共通認識に至り、提案の軸を「集える場の整備」に移した過程は、住宅地としての性格が強い駅前を抱える地域にとって参照価値が高い。商店街振興という既製の枠組みは、当てはまらない地域に適用すると成果指標そのものが地域の実感とずれる。既製の目標を採用する前に、地域固有の「にぎわい」の定義を言語化する手順を挟むことが、その後の提案全体の妥当性を左右する。
2026年8月時点の調査内容に基づいて作成
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