
下高井戸駅周辺地区街づくり・地区計画策定(しもたかブック)
杉並区と世田谷区の区境にまたがる下高井戸駅周辺で、地元協議会が描いた将来像「しもたかブック」を出発点に、街並み誘導型地区計画へと落とし込んだ20年の取り組み。壁面後退の見返りに容積と高さを返す設計と、両区で決定時期が分かれた経緯を追う。
下高井戸駅は京王線と東急世田谷線が交わる乗換駅で、駅前から広がる商店街は杉並区と世田谷区の区境をまたいで一体的に形成されている。この地区で、地元の街づくり協議会が描いた将来像を、行政の法定計画へと段階的に翻訳していく取り組みが20年にわたって続けられてきた。
契機は東京都が2013年度に着手した京王線連続立体交差事業である。笹塚駅〜仙川駅間の約7.2kmを高架化し25か所の踏切を除却する事業で、下高井戸駅も高架駅となる。線路が上がれば駅前の空間構成が根本から変わる。その変化を受け止める準備として、杉並区は2013年度に「下高井戸駅周辺地区まちづくり方針」を、世田谷区は2014年1月に「下高井戸駅周辺地区地区街づくり計画」を策定した。 (参考:京王電鉄「事業の概要」、下高井戸駅周辺地区の街づくり|世田谷区)
2021年7月、地元の下高井戸駅周辺地区街づくり協議会が「みんなでつくる明日のしもたかブック」をまとめた。法的拘束力を持たないかわりに、まちの魅力・課題・将来像を具体的に描いたビジョン集である。両区はこのブックに掲げられた将来像の実現を明示的な出発点に据え、2023年度から街づくり懇談会を計7回開催してルールづくりを検討した。
その結果、世田谷区は2026年6月15日、約7.9haを5つの地区に区分し駅前広場2か所を新設する「下高井戸駅周辺地区地区計画」を決定告示した。一方で杉並区は、地元住民による共同化検討の進行を理由に地区計画の策定時期を延期し、2026年8月時点でも方向性の検討を続けている。同じビジョンと同じ懇談会を共有しながら、決定のタイミングは区境で分かれた。 (参考:下高井戸駅周辺地区(地区計画)|世田谷区、下高井戸駅周辺まちづくり|杉並区)
下高井戸商店街は甲州街道の宿場町を起源とし、1913年の京王線開業、1925年の世田谷線開業を経て駅前に店舗が集まって形成された。2019年時点で組合員247名・約300店舗を数え、飲食店と食品取扱店が全体の37%を占める。踏切の北側には生鮮三品を扱う店が集中して「食の街」を、南側には飲食店やチェーン店が並び日本大学文理学部へと続く「文教の街」を、駅東側の下高井戸シネマが「文化の街」を形づくる。商店街エリアは東西約700m・南北約500mで、街区のほぼ中央に区立松沢小学校が位置する。 (参考:全国商店街支援センター事例集「下高井戸商店街振興組合」)
一方で市街地の物理的な条件には課題があった。地区計画の告示文は、地区内に3階建て以下の建物が多く旧耐震基準の建物も複数残っていること、幅員6m未満の道路が多いことを挙げ、土地利用と防災の両面で課題があると明記している。ここに京王線の高架化、鉄道付属街路、都市計画道路補助128号線、駅前広場の整備が同時に進むため、土地利用の変化に対応する必要があった。 (参考:下高井戸駅周辺地区地区計画 計画書(世田谷区告示第453号))
両区は2022年8月18日から9月5日にかけて、商業系用途地域および補助128号線沿道から20mの範囲の居住者・就業者・土地建物所有者を対象にアンケートを実施した。配布2,935件に対し回答516件、回答率は約18%である。結果からは、住民が感じている課題の輪郭がはっきり読み取れる。
取り組むべき項目としては「安心して歩くことのできる歩行者空間を確保する」(必要・やや必要が計87%)、「災害時等も安全に通行できる道路を整備する」(同87%)、「魅力的な街並みを整備する」(同84%)が上位に並んだ。自由意見には「テンプレート化された地区計画ではなく、他所とは差別化された地区計画によって個性のある街づくりが必要」「下町のような雰囲気は残し、他のまちと同じような特徴のないまちにするのは避けてほしい」といった声が寄せられている。 (参考:まちづくりのルール(地区計画)に関するアンケート調査結果のご報告)
もうひとつの、数字に表れにくい課題も指摘されていた。街づくりアドバイザーを務めた饗庭伸・東京都立大学教授は第7回懇談会で、「下高井戸は建物が住宅になるか商店になるか、せめぎ合っている状態」であり、多くの商店街では商店がマンションに置き換わって住宅化が進んでいると述べている。一度住宅に転じた敷地は元に戻らず住宅地化が加速するため、商業の受け皿を制度として確保したうえで住宅との共存を図る必要がある、というのが検討の前提に置かれた認識である。 (参考:下高井戸駅周辺地区 街づくり通信 第10号)
1. 協議会の設立と構想の提案(2006年〜2010年)
下高井戸駅周辺地区街づくり協議会は2006年に設立された。2010年には「まちづくり構想」を両区に提案し、これが2013年の杉並区まちづくり方針、2014年の世田谷区地区街づくり計画へとつながっている。協議会は運営委員会とまちづくり企画チームで構成され、街区ごとの勉強会と情報共有しながら活動する体制をとる。 (参考:みんなでつくる明日のしもたかブック)
2. 街区単位の勉強会が並走(2014年〜)
行政計画の策定と並行して、2014年以降は街区ごとに個別の検討組織が立ち上がった。下高井戸駅北口地区再開発準備会(2014年)、下高井戸駅北口周辺地区まちづくり勉強会(2015年)、松原3丁目29番街区共同化を考える会(2016年)、松原3丁目30番街区共同化を考える会(2017年)である。地区全体のビジョンを扱う協議会と、具体の敷地で建替え・共同化を扱う勉強会が、別レイヤーとして並走する構造になった。 (参考:みんなでつくる明日のしもたかブック)
3. しもたかブックの作成と協定登録(2021年〜2022年)
2017年・2018年には商店街振興組合による「しもたかGO」、2019年にはまちづくりワークショップ、2020年にはオープンハウスが重ねられ、その積み上げの上に2021年7月、協議会が「みんなでつくる明日のしもたかブック」(第1版)を発行した。基本理念は「まちの情緒やつながりを大切にして、暮らしやすい未来を創る」。目標を3つ(商店街のあちこちでふれあいが生まれるまち/街と人、人と人のつながりを育むまち/防災力が高く、多彩な活動が生まれるまち)に整理し、それぞれに3つの方向性と具体の取り組み案をぶら下げる構成をとっている。 (参考:みんなでつくる明日のしもたかブック)
ブックは自らの位置づけを図で明示している点が特徴的だ。「法的拘束力は弱いが決められることは多様」なしもたかブックと、「内容は限定されるが法的拘束力が強い」地区計画を対置し、その中間に地区街づくり計画・まちづくり方針を置く。ビジョンが法定計画の代わりではないことを、最初から前提にしていた。2022年6月6日、このブックは世田谷区街づくり条例第44条に基づく区民街づくり協定(登録番号5、登録期間は2027年3月31日まで)として登録された。 (参考:みんなでつくる明日のしもたかブック、北沢地域の区民街づくり協定|世田谷区)
4. 街づくり懇談会(2023年6月〜2025年5月)
両区は対象範囲をブック作成時より広げ、商業系用途地域および補助128号線沿道周辺の住民・事業者・地権者を対象に、街づくり懇談会を計7回開催した。段階の踏み方は明確である。
| 回 | 開催日 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 第1回 | 2023年6月27日 | 街の現状・課題と街づくりの方向性 |
| 第2回 | 2023年10月7日 | 街歩きを通じた将来像の検討 |
| 第3回 | 2023年12月15日 | 空間活用の方法の検討 |
| 第4回 | 2024年6月29日 | 実現手法・必須ルールの説明 |
| 第5回 | 2024年10月5日 | ルール案の検討 |
| 第6回 | 2024年12月7日 | 実現化手法とルールの深度化 |
| 第7回 | 2025年5月31日 | 素案(たたき台)の説明と質疑(参加者40人) |
第7回では「古い木造住宅の場合、建替えが必要か」という質問に対し、区が「地区計画で強制的に建替えさせることはない。自身の都合や時期で建替え、その際にルールに則ってほしい」と回答するなど、ルールの適用範囲を具体的に確認するやりとりが行われている。 (参考:下高井戸駅周辺まちづくり|杉並区、街づくり通信 第10号)
5. オープンハウス形式の活動報告会(毎年度)
懇談会とは別に、毎年度オープンハウス形式の活動報告会が開かれた。来場者数は2024年3月開催が108名、2025年2月〜3月開催が180名、2026年2月開催が115名である。議論に参加する場(懇談会)とは別に、通りがかりに立ち寄って内容を確認できる場を常設した形になる。 (参考:下高井戸駅周辺まちづくり|杉並区)
6. 都市計画手続き(2025年8月〜2026年6月/世田谷区)
世田谷区は懇談会の結果を素案としてまとめ、法定手続きに入った。
(参考:下高井戸駅周辺地区の街づくり|世田谷区、街づくり通信 第11号、街づくり通信 第12号、街づくり通信 第13号)
7. 杉並区は策定を延期(2025年7月)
同じ懇談会を共催してきた杉並区は、2025年7月の街づくり通信で、地区計画の策定時期を延期する方針を公表した。杉並街区では住民主体で共同化も視野に入れたまちづくりの検討が別途進んでおり、区はその結論を待つ形で検討を続けるとしている。世田谷区が素案説明会を開いた2025年8月時点で、杉並街区では説明会そのものが実施されなかった。 (参考:街づくり通信 第10号、下高井戸駅周辺まちづくり|杉並区)
1. 壁面後退を「規制」ではなく「交換」として設計した
商店街沿道に適用されたのは街並み誘導型地区計画である。地権者に壁面後退(商店街軸70cm、回遊軸50cm、高さ10.5mを超える部分は2m)を求めるかわりに、建築基準法の前面道路による容積率制限と道路斜線制限を緩和する。区が示した試算では、幅員5.3mの道路に面する商業地域(指定容積率400%)の敷地で、現状は道路幅員による制限で318%までしか使えないところ、壁面後退により算定上の幅員が6.7mとなって402%となり、指定容積率400%まで使い切れるようになる。後退で失う面積を、上に積める床で返す構造を数字で提示している点が特徴的だ。
2. 「にぎわい空間」を高さのインセンティブに結びつけた
高さの最高限度は原則16mだが、敷地面積の3%以上の「にぎわい空間」を壁面後退部分に接して平坦に設けると、商業地区では22m(敷地500㎡以上なら25m)、近隣商業地区では19mまで緩和される。にぎわい空間には具体の要件が課されている。1か所あたり奥行0.8m以上・間口1.5m以上で、かつ間口が奥行以上であること。避難経路、店舗や住宅の出入口、自動車車庫・駐輪場と重複できないこと。門・フェンス・車止め・自動販売機等を置けないこと。「セットバックしたら駐輪場になった」という形骸化を防ぐ要件が定められている。 (参考:下高井戸駅周辺地区地区計画 計画書)
3. 1階の住宅用途を制限して、商店街の連続性を守る
商店街軸・回遊軸の壁面線に面する敷地では、建築物の1階部分を住宅・共同住宅・寄宿舎・下宿およびこれらに附属する自動車車庫の用途に供することが禁じられた(住宅等への出入口は除く)。2階以上の住宅は建てられる。建替えのたびに1階が住戸やエントランスに置き換わり商店街が途切れていく現象に対して、都市計画のルールで直接手当てした形である。あわせて風俗営業等の用途、ナイトクラブ、倉庫業を営む倉庫も制限された。 (参考:下高井戸駅周辺地区地区計画 計画書)
4. 住民ビジョンと法定計画の役割分担を、住民側の文書が自ら定義している
しもたかブックは自らを「法的拘束力はないが、具体的なまちづくりの将来像を描ける」ものと位置づけ、地区計画を「内容は限定されるが法的拘束力が強い」ものとして図示している。さらに巻末の資料編では、街並み誘導型地区計画・社会実験・エリアマネジメント・ルールづくり(自由が丘の街並み形成指針)・コミュニティカフェといった手法を解説しており、住民が手法の選択肢を理解したうえで議論に入る設計になっている。行政が住民に制度を教えるのではなく、住民側の文書に制度解説が組み込まれている。
5. 合意形成の摩擦を、そのまま記録として公開している
案に対して提出された意見書3通のうち複数は、計画策定プロセスそのものへの異議だった。「地域懇談会の意見を反映しなければならない法的根拠を示せ」「利害関係者全員の話し合いで策定された計画案でないことを認めよ」「都市計画手続きを中止せよ」といった要旨である。区は「都市計画法第16条第2項は意見を求める手続きを義務付けるものであり、内容を必ず反映することを求める趣旨ではない」と回答したうえで、2025年10月および2026年1月の都市計画審議会で、一部の地権者へ懇談会の案内が届いていなかったという運営上の不備を説明したことも記載されている。壁面後退についても「70cmには法的・科学的根拠がない」「整備費用の負担は憲法第29条第3項に反する」という主張に対し、区が「特定の方に特別の犠牲を課する場合には該当しない」「助成制度を設ける予定はない」と回答した内容がそのまま掲載された。 (参考:街づくり通信 第13号)
6. 区境をまたぐ共同検討でありながら、決定は分かれた
杉並区と世田谷区は、方針・計画の策定、懇談会の共催、街づくり通信の共同発行まで足並みを揃えてきた。第10号までの通信は両区の連名で発行されている。しかし第11号以降は世田谷区単独の発行に切り替わり、地区計画の決定も世田谷区のみとなった。共同で進めることと、同時に決定することは別だという事実が、そのまま記録に残っている。 (参考:下高井戸駅周辺地区 街づくり通信 第10号、街づくり通信 第11号)
決定された地区計画の内容(2026年6月15日/世田谷区告示第453号)
対象は世田谷区松原三丁目、赤堤四丁目、赤堤五丁目各地内の約7.9ha。地区は特性に応じて5つに区分された。
| 地区 | 面積 | 位置づけ |
|---|---|---|
| 商業地区 | 約3.6ha | 駅周辺。にぎわい創出とコミュニティ形成、回遊性向上 |
| 近隣商業地区 | 約3.1ha | 日大通り・公園通り沿道。商業・業務施設の連続性確保 |
| 沿道商業地区 | 約0.5ha | 補助128号線・駅前広場沿い。商店街とのつながり確保 |
| 幹線道路沿道地区 | 約0.4ha | 幹線道路沿道。防災性の高い市街地形成 |
| 沿道住宅地区 | 約0.3ha | 住環境維持と小規模店舗・事務所の立地 |
地区施設として駅前広場を2か所新設する。駅前広場1号は約815㎡で「歩行者が憩い、交流できる滞留空間」、駅前広場2号は約500㎡で「タクシー・鉄道等利用者等の乗降や乗換えを円滑化し、交通結節点機能の強化を図る」ものと方針が書き分けられている。歩行者系と交通系を分けて配置した設計である。
建築物のルールとしては、敷地面積の最低限度50㎡、壁面の位置の制限と壁面後退区域における工作物設置の制限、高さの最高限度(前述)、形態・色彩・意匠の制限(点滅光源の使用禁止を含む)、垣・さくの構造の制限(生垣またはネットフェンス)が定められた。加えて、京王線高架化に合わせて駅の南北をつなぐ歩行者回遊軸を設定すること、グリーンインフラの観点を踏まえた雨水貯留浸透施設の整備を促進すること、既存樹木の保全と敷地内緑化を推進すること、脱炭素地域づくりの視点を踏まえることが方針として盛り込まれている。 (参考:下高井戸駅周辺地区地区計画 計画書、下高井戸駅周辺地区(地区計画)|世田谷区)
参加のプロセスに関して確認できた数値
区は意見書への回答のなかで、2023年6月以降に街づくり懇談会等を計9回開催したと説明している。 (参考:下高井戸駅周辺まちづくり|杉並区、街づくり通信 第13号)
成果として言い切れない部分
第一に、地区計画は告示日以降の建築行為から適用されるため、街並みや商業環境の変化はこれから生じるものであり、調査時点ではルールが整備された段階にとどまる。第二に、杉並区側は地区計画の策定に至っていない。区境の北側では、地元住民による共同化を含む検討が別軸で進んでおり、両区で同一のルールが適用される状態にはなっていない。第三に、アンケートで51%が「存在を知らない」と答えたしもたかブックの認知度がその後どう変化したかを示すデータは公表されていない。 (参考:下高井戸駅周辺まちづくり|杉並区、街づくり通信 第13号)
1. 沿道の後退を求めるなら、返すものを数字で示す
商店主にとって壁面後退は売り場面積の減少に直結する。実際、意見書でも「後退により1階店舗の売り場面積が削減され、今後の商売に影響がある」という主張が出された。この事例が用意した答えは、街並み誘導型地区計画による容積率と高さの緩和である。「318%→400%」「16m→22m」という具体の数字で見返りを提示したことで、議論は理念論ではなく損得の比較に落ちる。同種の商店街ルールを検討する地域にとって、抽象的な「良好な街並みの形成」より先に用意すべきものが何かを示している。 (参考:下高井戸駅周辺地区 街づくり通信 第11号)
2. インセンティブの要件を、形骸化しない粒度まで書き込む
「にぎわい空間」の要件——敷地面積の3%以上、1か所あたり奥行0.8m以上・間口1.5m以上、間口は奥行以上、避難経路や出入口や駐輪場と重複不可、可動しない工作物の設置禁止——は、公開空地が実質的に使えない残余空間になるという失敗を防ぐ要件構成になっている。空地率だけを要件にすると細長い隙間や車庫前が算入されてしまうが、間口と奥行の関係まで規定すれば人が滞留できる形状に誘導できる。インセンティブ型のルールを設計する際に移植しやすい書き方である。
3. 商店街の「1階」を用途規制で直接守るという選択肢
商店街の衰退は、店舗の閉店より先に「建替え時に1階が住宅になる」形で進行することが多い。この地区計画は、壁面線に面する敷地の1階部分について住宅等の用途を制限し、2階以上は許容するという線引きを採用した。住宅供給を否定せず、通りに面する層だけを商業用途に確保する考え方は、住宅化圧力の高い都市部の商店街に広く応用できる。ただし1階を店舗に限定することは空き店舗リスクを地権者側に残すため、テナント誘致や個店支援といったソフト施策とセットで設計する必要がある。饗庭教授は懇談会で「地区計画は器であり、そこにどんな料理を盛るかは今後皆さんが考えること」と述べている。
4. 住民ビジョンは法定計画の代替ではなく、前段として位置づける
しもたかブックが自らの法的拘束力の弱さを図で明示し、地区計画との役割分担を宣言していたことは、その後の展開を考えると重要な設計だった。ビジョンづくりが「これで決まった」という誤解を生むと、法定手続きの段階で「約束が違う」という反発を招く。ビジョンは合意の方向を示すものであり、拘束力を持つルールは別途の手続きを経て決まる——この関係を住民側の文書が先に定義しておくことは、後続の摩擦を減らす。
5. 行政界をまたぐ共同検討は、「同時決定」を前提に組まない
杉並区と世田谷区は13年にわたって共同で検討を進めたが、決定のタイミングは分かれた。理由は行政間の不和ではなく、杉並街区で共同化・再開発を含む地元検討が別途動いており、地区計画を先に固めることが地元の選択肢を狭めかねなかったためである。区境をまたぐ地区で共同検討を組む場合、共有すべきは将来像と情報であって、意思決定のスケジュールまで一体化させると、片方の事情がもう片方の足を止めることになる。共同のビジョン+各主体のタイミングという分離は、現実的な設計として参考になる。
6. 参加のチャネルは、機能ごとに分けて重ねる
この事例では、議論の場(懇談会・計7回)、広く浅く意見を集める場(アンケート・回答516件)、通りがかりで確認できる場(オープンハウス・年100〜180名)、法定手続きの場(説明会・縦覧・意見書)が並行して用意された。それでも回答率は18%、報告会の来場は年100人台にとどまる。参加規模の現実的な水準を踏まえたうえで、どのチャネルで何を得るのかを分けて設計しておくことが、「意見を聞いたのに反映されていない」という不信を減らす。
7. 反対意見と行政の見解を、そのまま公開する
策定プロセスへの異議、壁面後退への反対、そして一部地権者に案内が行き届いていなかったという行政側の不備——世田谷区はこれらを街づくり通信に掲載し、都市計画審議会でも説明した。都合の悪い経緯を伏せる選択もあり得たが、公開したことの意味は今後にある。地区計画は決定して終わりではなく、これから一件ずつの建替え協議が続く。その場面で「あのとき何がどう決まり、どんな反対があり、区がどう答えたか」が誰でも確認できることは、長期的な信頼の基盤になる。合意形成の記録を残す範囲を、賛成の記録だけに絞らないという判断は、他地域でも取りうる選択である。
2026年8月時点の調査内容に基づいて作成
この記事は公開情報に基づき、AIを用いた詳細調査により作成されました。記事内容への修正依頼、お問合せ等は以下までお寄せください。
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