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AI搭載ロボットによる庁舎案内業務実証実験(杉並区役所「ロボコット」本格導入)
AI搭載ロボットによる庁舎案内業務実証実験(杉並区役所「ロボコット」本格導入)

AI搭載ロボットによる庁舎案内業務実証実験(杉並区役所「ロボコット」本格導入)

AI搭載ロボットによる庁舎案内業務実証実験(杉並区役所「ロボコット」本格導入)

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杉並区役所は2020年11月、自律走行型と据置対話型のAI案内ロボット2種類を庁舎案内業務で3週間にわたり比較実証実験した。定量データに基づき据置型「ロボコット」を選定し、2021年4月から本庁舎1階に本格導入した経緯と検証結果を紹介する。

概要

杉並区役所は2020年11月10日から27日までの3週間、AI搭載ロボットによる庁舎案内業務の実証実験を実施した。自律走行式のロボットが庁内を誘導する「分野A」と、据え置き型ロボットが対話で案内する「分野B」の2分野を同時に検証し、性質の異なる2社の技術を客観的に比較する設計とした点が特徴である。 (参考:AI搭載ロボットによる庁舎案内業務実証実験の実施について(総務財政委員会資料)

分野Aでは、NECネッツエスアイ株式会社が提供する自律走行型ロボット「YUNJI SAIL」を、分野Bでは株式会社MILIZEが提供し、タケロボ株式会社が製造する据え置き型AIコミュニケーションロボット「ロボコット」を採用した。両ロボットとも日本語・英語・中国語・韓国語の4言語に対応し、住民票の取得やマイナンバーカード申請などの窓口案内、区政情報の提供を行った。 (参考:AI搭載ロボットによる庁舎案内業務実証実験|杉並区公式ホームページNECネッツエスアイ プレスリリース

実証実験の結果、区は令和3年度当初予算に本格導入費用を計上し、2021年4月から本庁舎1階に「ロボコット」を2台配置する本格導入を決定した。一方、自律走行型の「YUNJI SAIL」は、庁舎の構造上、誘導機能を十分に活かせないと判断され、本格導入は見送られた。 (参考:AI搭載ロボットによる庁舎案内業務実証実験結果報告書

背景・課題

杉並区役所本庁舎1階の総合案内は、年間約15万件の来庁者対応を行っており、案内の対象は庁舎内の各窓口や施設にとどまらず、近隣の民間施設や駅・バスなどの交通案内まで幅広く含まれていた。総合案内には委託スタッフが常時5人程度配置され、うち1人が案内窓口を担当し、残る4人がフロア内での来庁者誘導に当たるなど、限られた人員で多くの来庁者に対応する状況が続いていた。 (参考:AI搭載ロボットによる庁舎案内業務実証実験結果報告書自治体が案内AIと誘導ロボットに熱視線、職員減対策で導入相次ぐ|日経クロステック

こうした状況を踏まえ、区は2020年1月から、窓口対応の一部をロボットに任せることで業務効率と区民サービスの向上につながるか、その実現可能性を見極める検討を始めた。検討の過程では、総合案内と関係部署への聞き取りに加え、ロボット提供事業者を訪ねたり、先進的に取り組む他自治体に視察・照会したりしたほか、来庁者数の推移データをもとに現状の課題も洗い出した。 (参考:AI搭載ロボットによる庁舎案内業務実証実験結果報告書

新型コロナウイルス感染症の拡大により非対面・非接触型のサービス提供が求められる時期でもあり、タッチレスで対応できる音声認識AIロボットへの関心が高まっていたことも、実証実験実施の背景にあった。 (参考:株式会社MILIZE プレスリリース(PR TIMES)

取り組みのプロセス

1. プロポーザル方式による2事業者の選定

区は、確かな技術力と実績を備えた事業者と組むため公募型プロポーザルを実施し、2020年8月26日の審査を経て2社を選び出した。自律走行式AI搭載ロボットによる庁舎案内・誘導業務分野(分野A)にはNECネッツエスアイ株式会社、AI搭載ロボットによる総合案内業務分野(分野B)には株式会社MILIZEが選ばれた。なお、分野Bで採用された「ロボコット」は、杉並区での実証実験に先立つ2020年10月、23区で初めて品川区役所に試験導入された実績もあった。 (参考:AI搭載ロボットによる庁舎案内業務実証実験の実施について(総務財政委員会資料)品川区「AIで窓口案内「ロボコット」試験導入」

2. 異なる方式の2ロボットを同一庁舎で並行検証

実証実験は2020年11月10日から27日まで(土日・祝日を除く、午前9時〜午後4時30分)、本庁舎1階の西棟玄関付近に自律走行型の「YUNJI SAIL」を、中棟総合案内付近に据え置き型の「ロボコット」を設置して行われた。「YUNJI SAIL」は32インチの大型ディスプレイを搭載し、来庁者が画面上で15箇所の行き先ボタンを選ぶと、周囲の人や障害物を検知・回避しながら、目的地付近まで自動で走行して案内する。「ロボコット」は高さ45cm・幅45cm・奥行20cm、重量4kgの据え置き型端末で、12インチのタッチパネルを備え、マイクに話しかけると音声認識によって該当窓口を検索し、画面表示と音声の両方で案内する仕組みで、庁舎内の窓口対応Q&Aとして1,063件、庁舎外施設向けQ&Aとして110件のデータを事前に登録・学習させた。 (参考:AI搭載ロボットによる庁舎案内業務実証実験結果報告書

3. 職員同行の有無で利用行動を分けて検証

実証実験期間は、来庁者への積極的な利用促進や説明、アンケート収集を事業者スタッフが行う「フェーズ1」(11月10日〜20日の9日間)と、後半の4日間は日常運用に近い状況を再現するためスタッフからの声かけを控え、「ロボコット」の設置位置も総合案内から本庁舎南側玄関付近へ移すという条件で実施した「フェーズ2」(11月24日〜27日の4日間)の2段階に分けて設計された。単に利用実績を集計するだけでなく、職員によるサポートがある場合とない場合とで利用行動がどう変化するかを比較できる構成とした点が、この実証実験の設計上の特徴である。 (参考:AI搭載ロボットによる庁舎案内業務実証実験結果報告書

4. 定量データに基づく効果検証と本格導入の判断

区は、事業者が記録する「ロボット利用状況記録表」と来庁者への「AI搭載ロボットに関するアンケート」を用いて、利用者数・年代・満足度などを定量的に集計した。加えて「ロボコット」については、来庁者からの問いかけとその回答の対話ログを全数確認し、AIの正答率を独自に算出した。これらのデータをもとに、区は令和3年度当初予算編成に向けて、課題への対応策の実現可能性と費用対効果を検討し、「ロボコット」2台の本格導入を決定する一方、「YUNJI SAIL」については本庁舎の広さや構造上、誘導機能を十分に活かせないとして本格導入を見送った。導入後は、4月中に窓口ごとのQ&Aリストを整備し、5月からは窓口に立つ現場の職員が自らロボットへの情報登録・更新を行う運用体制とした。 (参考:AI搭載ロボットによる庁舎案内業務実証実験結果報告書東京・杉並区の庁舎に総合案内ロボット、区民サービスは向上する?|ニュースイッチ

この事例の特徴

1. 単一機種の決め打ちではなく、異なる方式を同時比較する検証設計

杉並区は、自律走行型と据え置き対話型という設計思想の異なる2つのロボットを、同じ庁舎・同じ期間に並行して検証した。これにより、どちらか一方の技術ありきで進めるのではなく、来庁者の反応や運用実績を横並びで比較したうえで導入可否を判断できる体制を整えた。 (参考:AI搭載ロボットによる庁舎案内業務実証実験結果報告書

2. 「見守りなし」の利用環境をあえて再現したフェーズ設計

実証実験の前半(フェーズ1)では職員が積極的に利用を呼びかけたのに対し、後半(フェーズ2)ではロボットの設置場所を総合案内から離し、声かけを行わない環境をつくった。その結果、フェーズ2ではロボットの1日当たり利用者数がフェーズ1に比べて大きく減少し、職員が声をかけて利用を促さない限り、ロボットは自然には使われにくいという傾向が明らかになった。実証実験中の見かけの好成績にとどまらず、実運用に近い条件をあえて作り出して弱点を洗い出した点は、本事例の設計上の工夫といえる。 (参考:AI搭載ロボットによる庁舎案内業務実証実験結果報告書

3. AIの回答を定量的に検証し、既存の指標と比較

「ロボコット」については、実証実験中の対話ログ838件全件を確認し、正答631件、誤答・要確認141件、不明66件という内訳から正答率81.7%を算出した。報告書はこの結果を、当時報じられていたAIチャットボットの正答率の目安(およそ8割)やスマートスピーカーの音声応答実績(63.4%〜87.9%)という既存の水準と照らし合わせ、「今回の実証実験では高い正答率を得られた」と評価している。導入担当者の主観的な感触ではなく、既存の外部指標と比較可能な数値で技術水準を確認した点は、他自治体が同種のAIサービスを評価する際の参考になる。 (参考:AI搭載ロボットによる庁舎案内業務実証実験結果報告書

4. 一定の性能を示しながらも、庁舎の物理的制約を理由に導入を見送る判断

自律走行型「YUNJI SAIL」は、実証実験中に衝突事故やケガがなく、目的地までの誘導を確実にこなすなど一定の性能を確認できた。しかし区は、本庁舎1階の広さや構造では可動範囲が制約され、自律走行の特長を十分に活かせないと判断し、性能評価だけでなく設置環境との適合性を最終判断の軸に置いた。 (参考:AI搭載ロボットによる庁舎案内業務実証実験結果報告書

調査時点の成果

1. 3週間で延べ701名が利用

実証実験期間中、「YUNJI SAIL」は310名、「ロボコット」は391名、合計701名の来庁者に利用された。実験に立ち会った事業者スタッフが目視で確認したところ、20代以下から70代以上まで幅広い年代の利用が確認された。QRコードによる情報持ち出し機能も用意されたが、比較的若い年代の利用割合が高かったものの、全体的な利用件数自体は少なかった。 (参考:AI搭載ロボットによる庁舎案内業務実証実験結果報告書

2. アンケートでは据え置き型が高い満足度

利用者アンケートの回収数は「YUNJI SAIL」130件(回収率41.9%)、「ロボコット」304件(回収率77.7%)だった。「これからも利用したいか」という総合評価で上位2段階(★4・★5)を選んだ割合は、「YUNJI SAIL」が63.0%、「ロボコット」が82.1%となり、いずれも高い評価を得たが、「ロボコット」がより高い満足度を示した。行き先の発見しやすさでも、「ロボコット」は93.7%が「概ね見つかった」「見つかった」と回答している。 (参考:AI搭載ロボットによる庁舎案内業務実証実験結果報告書

3. AIの正答率81.7%を確認

「ロボコット」が実証実験中に受けた質問838件のうち、正答は631件で、正答率は81.7%だった。区はこの数値を既存のAIサービスの公表実績と比較したうえで「高い正答率が得られた」と評価し、対話ログをもとにAIへ追加学習させることで、さらなる精度向上が見込めるとした。 (参考:AI搭載ロボットによる庁舎案内業務実証実験結果報告書

4. テレビ・新聞など7件のメディアに取り上げられる

実証実験は、フジテレビ「Live News イット!」や読売新聞・朝日新聞の朝刊、J:COMのニュース番組、日経クロステックなど、2020年11月から2021年1月にかけて少なくとも7件の主要メディアに取り上げられた。行政サービスへのAI活用という切り口が、社会的な関心を集めたことがうかがえる。 (参考:AI搭載ロボットによる庁舎案内業務実証実験結果報告書

5. 令和3年度、本庁舎への本格導入を実現

区は実証実験の結果を踏まえ、令和3年度当初予算に本格導入費用を計上し、2021年4月から本庁舎1階に「ロボコット」2台を配置した。導入にあたっては、実証実験で洗い出した「目的別に行き先を検索できる案内機能の拡充」といった課題への対応も進められた。 (参考:AI搭載ロボットによる庁舎案内業務実証実験結果報告書東京・杉並区の庁舎に総合案内ロボット、区民サービスは向上する?|ニュースイッチ

他地域への示唆

1. 複数ベンダー・複数方式を同一条件で比較する検証手法

杉並区の実証実験は、単独の事業者や機種を前提とせず、プロポーザルで選定した性質の異なる2社の技術を、同一庁舎・同一期間で横並びに検証した。似た機能を持つロボットやAIサービスの導入を検討する自治体にとって、特定ベンダーの提案のみで判断せず、複数の選択肢を同条件で比較できる仕組みを持つことは、機種選定の客観性を高めるうえで参考になる。 (参考:AI搭載ロボットによる庁舎案内業務実証実験の実施について(総務財政委員会資料)

2. 「見守りなし」を想定したフェーズ設計による実効性の検証

実証実験の後半で職員による積極的な利用促進を止め、本格導入後に近い環境をあえて再現したフェーズ2の設計は、実証実験期間中だけの好成績に惑わされず、実運用時の課題を事前に洗い出す方法として、他分野のICT実証実験にも応用できる。特に、職員の付き添いがなくなった際に利用者数がどう変化するかを定量的に把握したことで、「利用促進の仕組みづくり」という具体的な次の課題が明確になった。 (参考:AI搭載ロボットによる庁舎案内業務実証実験結果報告書

3. 定量指標を軸にした導入判断と、性能が高くても見送る合理性

区は、AIの正答率や利用者アンケートの満足度など複数の定量データをそろえたうえで、費用対効果と庁舎の物理的環境という2つの観点から機種を選定した。自律走行型ロボットが一定の性能を示しながらも、庁舎構造との適合性を理由に導入を見送った判断は、新しい技術を「導入すること」自体を目的化せず、自庁舎の環境に合った技術を選ぶという姿勢の参考になる。限られた予算の中でロボットやAIサービスの導入を検討する自治体にとって、性能評価と設置環境評価を分けて検討する視点は再現性が高い。 (参考:AI搭載ロボットによる庁舎案内業務実証実験結果報告書

4. 課題を類型化し、対応策とセットで次段階につなげる進め方

報告書は、確認できた事実をもとに「安全対策」「利用者数の増加」「操作説明」「案内機能」「アナウンス機能」「可動範囲」といった課題を機種ごとに整理し、それぞれに対応策を明記したうえで本格導入の可否を判断している。実証実験の結果を単なる「成功・失敗」の二択で終わらせず、課題を分解して対応策とセットで示すこの進め方は、他自治体が実証実験の成果を次の意思決定につなげる際のフォーマットとして応用できる。 (参考:AI搭載ロボットによる庁舎案内業務実証実験結果報告書

参照元


2026年8月時点の調査内容に基づいて作成

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