
NEC×杉並区 AI技術を活用した交通流・人流分析実証実験
杉並区は2022年2月〜4月、国指定史跡「荻外荘」周辺の道路灯カメラ映像をNECのAI技術で解析し、車種・速度・車線はみだしなどを常時収集する実証実験を実施。人手調査に比べ業務時間を90%以上削減した。
東京都杉並区は2022年2月14日から4月28日にかけて、杉並区が所有し国指定史跡「荻外荘」(荻窪二丁目43番19号先)近くに立つ道路灯に取り付けたカメラの映像を、日本電気株式会社(NEC)およびNECソリューションイノベータ株式会社のAI技術で解析する実証実験を実施した。安全・安心なまちづくりの実現に向けた行政DXの一環として位置づけられている。 (参考:NEC、杉並区の安全・安心なまちづくりに向けてAI技術を活用し交通流・人流を分析する実証実験を実施|NEC)
実験では、NECソリューションイノベータが開発した、車両の動きを解析対象とする映像解析エンジン「FieldAnalyst for Vehicles」を利用し、道路灯カメラの映像から通行する車両数・歩行者数に加え、車両の種類(乗用車・トラック・バス・二輪車・自転車の別)、走行速度、進行方向、車線をはみ出した走行の有無といった項目を匿名化した統計情報として常時収集した。区はこれまで人手で行っていた交通量調査と比べ、業務時間を9割以上圧縮できたとしている。 (参考:NEC、杉並区の安全・安心なまちづくりに向けてAI技術を活用し交通流・人流を分析する実証実験を実施|NEC)
この実証は単発の取り組みではなく、杉並区が2019年から続けてきたスマート街路灯活用の3段目にあたる。街路灯の管理効率化・河川監視(2019年)、河川監視・道路冠水把握のためのIoT街路灯システム運用(2021年)という防災目的の投資基盤を、交通・人流分析という別の行政課題に転用した点が特徴である。
政策決定の根拠となるデータ収集、いわゆるEBPM(Evidence-based Policy Making:証拠に基づく政策立案)の重要性が自治体の間で高まる中、杉並区もデータに基づいた安全・安心でウォーカブルなまちづくりを目指し、従来から人手による交通流・人流データの測定を実施してきた。ただし目視によるカウントが中心となる人手測定はコストと時間の制約が大きく、調査できる期間・時間帯が限られるうえ、取得できるデータの種類も乏しく精度にばらつきが生じるという難点を抱えていた。具体的には、これまでの測定は数年に1回、1日12時間という限られた頻度・時間枠でしか実施できていなかった。 (参考:NEC、杉並区の安全・安心なまちづくりに向けてAI技術を活用し交通流・人流を分析する実証実験を実施|NEC)
この課題に対応する布石は、防災分野で既に敷かれていた。杉並区は2019年8月から12月にかけ、既存の街路灯にそのまま取り付けられるヘッドモデル型の機器一式(照明、ネットワークカメラ、照度・温湿度・振動傾斜を検知するマルチセンサー、水位センサー)を善福寺川周辺の街路灯12灯に導入し、街路灯の管理効率化と河川監視の実証をNECと共同で行った。 (参考:NEC、杉並区で「スマート街路灯」の実証を開始|NEC)
その評価・検証を踏まえ、2021年8月には「IoT街路灯システム」の本格運用に移行した。神田川・善福寺川沿いの街路灯5基へカメラを取り付けて水位の映像をYouTubeで公開する一方、浸水被害の実績がある阿佐ヶ谷駅前周辺の街路灯5基には冠水センサーを組み込み、異常を検知すると区職員の端末へアラートメールが届く体制を整えた。 (参考:NEC、杉並区へ「IoT街路灯システム」を納入|NEC)
このように、区はカメラ・センサーを備えた街路灯という共通インフラと、街路灯管理システムを運用するNECとの継続的な関係を既に持っていた。2022年の実証実験は、この基盤の上に、防災用途とは異なる「交通流・人流分析」という新しい分析エンジンを載せる形で実施されたものである。
1. スマート街路灯の実証(2019年8月〜12月)
杉並区とNECは、既存の街路灯に後付けするヘッドモデル型のスマート街路灯を善福寺川周辺など12灯に設置し、街路灯の照明状態やカメラ映像、各種センサーの計測値を区役所のパソコン上の地図から一括して把握できる体制を検証した。異常が起きた際には自動でアラームが届く機能もあわせて確認し、この結果が後続のIoT街路灯システムの土台となった。 (参考:NEC、杉並区で「スマート街路灯」の実証を開始|NEC)
2. IoT街路灯システムの本格運用開始(2021年8月)
実証結果を踏まえ、区はカメラ映像・冠水センサー情報・設置機器の稼働状況などをクラウド環境で一元管理する「IoT街路灯システム」の運用を開始した。用途ごとに地域BWAや省電力の無線規格であるSigfoxを使い分ける構成とし、通信コストを抑えながらシステムを構築・運用している。 (参考:NEC、杉並区へ「IoT街路灯システム」を納入|NEC)
3. AI交通流・人流分析の実証実験(2022年2月14日〜4月28日)
史跡・荻外荘周辺にある区管理の道路灯カメラが捉えた映像データを、NECソリューションイノベータの解析エンジン「FieldAnalyst for Vehicles」にかけて分析した。取得したのは車両数・歩行者数のほか、車種、速度、移動方向、車線はみだしといった詳細データで、これらを匿名化した統計データとして可視化した。カメラで撮影した映像はデータ分析のみに使用され、分析後は破棄された。データ送信にはNECの「映像クラウドサービス」を活用し、設置機器の最小化や設定作業の容易化、プライバシー保護・セキュリティを考慮した伝送、遠隔地の機器稼働管理を実現している。 (参考:NEC、杉並区の安全・安心なまちづくりに向けてAI技術を活用し交通流・人流を分析する実証実験を実施|NEC)
1. 防災用インフラを別の政策課題に転用した
この実証の独自性は、新規のハードウェア投資を前提とせず、2019年の管理効率化実証・2021年の河川監視運用で既に整備・実績のあった街路灯カメラという共通インフラを、交通流・人流分析という別の行政課題に転用した点にある。ハードウェアは共通で、載せる分析エンジン(FieldAnalyst for Vehicles)と用途を切り替える構成であり、単一目的のためにセンサー・カメラを新設するより投資効率の高いアプローチといえる。
2. プライバシー・セキュリティを設計に組み込んだ
住民の生活道路を撮影する実証である以上、プライバシーへの配慮は実施可否を左右する要素になる。杉並区の実証では、撮影した映像を分析後に破棄する運用と、匿名化した統計データのみを出力する設計を採用し、データ伝送にはプライバシー保護・セキュリティを考慮したNECの映像クラウドサービスを用いた。カメラを使った政策データ収集を検討する自治体にとって、映像そのものを残さない設計は住民説明のうえでも参考になる要素である。
3. 単一のセンサーで複数種類のデータを同時取得した
従来の人手調査では、車両数・歩行者数・車種・速度・車線はみだしといった項目をそれぞれ別の調査手法で個別に取得する必要があった。今回の実証では単一のカメラ映像とAI解析エンジンの組み合わせにより、これら複数種類のデータを同時かつ常時収集できるようにした点も特徴である。
業務時間を9割以上圧縮した
杉並区とNECは、人手作業と比べて業務時間を9割以上圧縮できたと公表している。あわせて、従来は数年に1回・1日12時間という限られた頻度でしか実施できなかった測定が、日程・時間に制約されずに実施可能になったとしている。 (参考:NEC、杉並区の安全・安心なまちづくりに向けてAI技術を活用し交通流・人流を分析する実証実験を実施|NEC)
車道・歩道整備のポイントを明確化できたとしている
区は、車種・速度・移動方向・車線はみだしなどの詳細データを常時収集できるようになったことで、どの車道・歩道を優先的に手直しすべきかが見えるようになったとし、集めたデータを根拠に道路の整備・工事計画の立案を進められるようになったと説明している。 (参考:NEC、杉並区の安全・安心なまちづくりに向けてAI技術を活用し交通流・人流を分析する実証実験を実施|NEC)
その後の具体的な整備効果は公表情報からは確認できない
一方で、この実証実験を踏まえて杉並区が実際にどのような道路整備・交通安全対策を実施し、それが交通安全指標や住民満足度にどう反映されたかについては、本稿執筆時点でNEC・杉並区双方から追加の公表資料が確認できなかった。公表されている成果は、実証期間中の業務効率化効果とデータ収集能力の向上にとどまり、政策実装後の効果検証は今後の公表を待つ必要がある。
1. 単一目的のセンサー投資を、多目的化できる設計にしておく
杉並区の事例は、防災(河川監視・冠水把握)のために整備したカメラ付き街路灯インフラを、後から交通・人流分析という別の用途に転用したものである。他自治体が街路灯や公共施設にカメラ・センサーを導入する際、当初の目的(防災、防犯など)だけでなく、将来的に分析エンジンを載せ替えることで別の行政課題にも応用できるかを検討しておくと、追加の大規模投資を抑えながら政策データの収集手段を拡張できる可能性がある。
2. カメラ活用の政策データ収集では、映像を残さない設計が合意形成を助ける
生活道路や住宅地に近い場所でカメラを使った調査を行う場合、映像そのものを保存せず、分析後に破棄し匿名化した統計データのみを扱う設計は、住民の受容性を高める実務的な工夫として他地域でも参照できる。カメラ導入の是非を議論する際、取得するデータの種類(統計データか映像か)と保存期間を明確にすることが、説明責任を果たすうえでの起点になる。
3. 人手調査の制約を数値で示すことが、AI化投資の説明材料になる
杉並区の事例では「数年に1回、1日12時間」という人手調査の具体的な制約を示したうえで、AI化によって90%以上の業務時間削減と常時測定への転換を実現したことを対比させている。このように従来手法の限界を定量的に明示し、そのうえで新技術導入の効果を比較する説明の型は、他自治体が同種の投資判断を庁内・議会に説明する際の材料として応用できる。
4. 実証実験の効果報告だけでは、政策効果の検証にはならない
本事例で確認できるのは実証実験期間中の業務効率化効果であり、その後の道路整備や交通安全対策の実施状況、効果検証については公表情報から追跡できなかった。実証実験を本格的な政策・予算につなげる際には、実証終了後にどのような指標で効果を測定し、いつ結果を公表するかをあらかじめ設計しておくことが、実証止まりで終わらせないために重要な論点として残る。
2026年8月時点の調査内容に基づいて作成
この記事は公開情報に基づき、AIを用いた詳細調査により作成されました。記事内容への修正依頼、お問合せ等は以下までお寄せください。
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