
豊洲MiCHiの駅(日本初の都市型道の駅・ミチノテラス豊洲)
清水建設が江東区豊洲の複合街区「ミチノテラス豊洲」内に整備した、日本初の「都市型道の駅」豊洲MiCHiの駅。交通結節・賑わい・情報発信・防災の4機能を備え、オープンスペースを次世代モビリティや自動運転の実証フィールドとして開放。民間主導のスマートシティを先導する事例。
「豊洲MiCHiの駅」は、清水建設が東京都江東区豊洲六丁目(ゆりかもめ市場前駅前)の自社開発街区「ミチノテラス豊洲」内に整備した、日本初をうたう「都市型道の駅」である。郊外や幹線道路沿いに設けられる従来の「道の駅」が担ってきた、交通結節・休憩(憩い)・情報発信・地域連携/防災といった機能を、都市部の交通結節点に再構成した点が特徴となっている。具体的には、バスのりばの上空に約1,700㎡のデッキを架け、高速バスやBRT、鉄道、タクシー、シェアモビリティ、歩行者・自転車を立体的に束ねるモビリティハブとして機能させている。(参考:清水建設プレスリリース(2020年)、シミズの設計本部 作品紹介)
豊洲MiCHiの駅は、総延床面積約12万㎡・総投資約600億円の複合街区「ミチノテラス豊洲」の一部として整備された。街区はオフィス棟「メブクス豊洲」と、豊洲エリアで最大級の規模を誇るホテル「ラビスタ東京ベイ」で構成される。豊洲MiCHiの駅は2022年2月に供用を開始し、街区全体は同年4月15日にグランドオープンした。単なる交通広場にとどまらず、オープンスペースを次世代モビリティや物流など最先端サービスの検証・実装の場として開放し、民間主導のスマートシティ「豊洲スマートシティ」を先導する拠点と位置づけられている。(参考:清水建設プレスリリース(2022年)、清水建設が600億円を投じ、豊洲でオフィスとホテルを一体開発(BUILT/ITmedia))
豊洲が立地する東京臨海部は、タワーマンションやレジャー施設が集積する一方で、域内の公共交通が新交通ゆりかもめと路線バスにほぼ依存しており、人口規模に対して移動手段が十分でないという課題を抱えていた。豊洲スマートシティの対象エリア(豊洲1〜6丁目)は居住人口約3.7万人・就業人口約4万人を擁し、来街者も多いことから、回遊性とラストワンマイルの移動を支える二次交通の整備が求められていた。(参考:豊洲スマートシティ 公式サイト、Luup インタビュー)
豊洲エリアは国土交通省のスマートシティ「先行モデルプロジェクト」、東京都「スマート東京」の先行実施エリアに選定されており、先端技術を都市実装するモデル地域となっていた。清水建設はこの地を「都心で唯一のグリーン・フィールド(実証に適した未成熟地)」と位置づけ、従来のゼネコン業務の枠を超えて街のサービス運営まで担う「デジタルゼネコン」への進化を志向していた。新たなサービスを継続的に検証・実装できる物理的・データ的な基盤をどう街区に組み込むかが、開発上の中心課題だった。(参考:EMIRA「清水建設が豊洲で進めるスマートシティ」)
そのうえで、郊外の概念である「道の駅」を都市に持ち込むという発想が、課題解決のフレームとして据えられた。交通結節点に休憩・情報発信・賑わい・防災の機能を複合させることで、人が滞留・回遊する拠点を生み出し、そこを起点に次世代モビリティやデータサービスを試す——この「都市型道の駅」というコンセプトが、施設の設計思想の出発点となっている。(参考:清水建設プレスリリース(2020年))
推進体制として、2019年11月に「豊洲スマートシティ推進協議会」が設立された。豊洲にゆかりのある民間企業を中心に組成され、連絡会には東京都・江東区・芝浦工業大学が加わる産官学の枠組みとなっている。協議会は「観光」「モビリティ」「データプラットフォーム」の3つのワーキンググループを置き、分野横断でサービスを展開する設計とした。(参考:豊洲スマートシティ 公式サイト)
施設整備は段階的に進んだ。2020年4月に「日本初の都市型道の駅」整備を公表し、2021年8月にオフィス棟メブクス豊洲が先行開業。2022年2月に豊洲MiCHiの駅が供用を開始し、成田空港接続の高速バスが運行を始めた。羽田空港直行バスや東京BRTの発着も計画され、交通結節機能が順次拡充されていった。デッキの高さで豊洲ぐるり公園へと歩いて回遊できる動線が形成された。(参考:清水建設プレスリリース(2022年)、シミズの設計本部 作品紹介)
二次交通の導入も並行して進められた。2022年1月、推進協議会はLuupと、小型電動モビリティの利用環境を整える連携協定を締結し、江東区の新事業特例制度の認定を受けて、電動キックボードと小型電動アシスト自転車のシェアリングを豊洲エリアで開始した。豊洲エリア内の各所にポートを配置することで、公共交通を補う短距離移動の足を確保していった。(参考:Luup プレスリリース)
2022年4月15日のグランドオープンでは「街びらきイベント」が開催され、約1万人が来場した。建物OSと連携した自動走行ロボットが来場者を乗り場まで案内し、自動運転車の試乗実証や、新設の浮き桟橋からのミニクルージング体験などが行われた。同時に開催された「豊洲場外マルシェ」は、豊洲市場の生鮮品と全国の地方産品を集めたマーケットとして、以降は毎月第三土曜日に定期開催されるソフト施策として定着していった。(参考:東京都デジタルサービス局 note、JTB 事例(豊洲場外マルシェ))
技術基盤としては、建物OS「DX-Core」と都市デジタルツインが街区に実装された。DX-Coreは、空調・照明・カメラ・エレベーター・自動ドア・ロボット・デジタルサイネージといった設備やアプリを、開発メーカーを問わず連携させる共通基盤であり、スマートフォンを動かす基本ソフト(OS)のように、メーカーの異なる機器やアプリをつなぐ土台となる役割を担う。これにより、APIを介して新規サービスを後から追加・更新できる構造が確保された。豊洲MiCHiの駅のオープンスペースは、こうした基盤の上で自動運転やオンデマンド交通などを試す実証フィールドとして継続的に活用されている。たとえば2025年には、MONET Technologiesが豊洲を含む11カ所・110ルートで、レベル2の自動運転車両(トヨタ・シエナ改造車)による移動サービスを無料で提供している。(参考:EMIRA「清水建設が豊洲で進めるスマートシティ」、MONET Technologies プレスリリース)
第一の特徴は、「道の駅」という既存の公共的フレームを都市に翻訳した発想にある。道の駅は本来、郊外・幹線道路沿いで交通休憩・情報発信・地域連携・防災を担う制度的存在だが、本事例はその4機能(交通結節・憩い/交流・情報発信・災害時対応)を都市の交通結節点に移植した。馴染みのある概念を借りることで、複合的な拠点機能の必要性を関係者や来街者に分かりやすく伝える効果が見込める設計となっている。(参考:清水建設プレスリリース(2020年))
第二に、民間ディベロッパー(ゼネコン)が主導し、自社開発街区のオープンスペースを公共的なモビリティハブ兼実証フィールドとして開放している点である。自治体予算による公共事業ではなく、民間開発の中に実証基盤を内包させることで、行政の単年度予算や事業期間に縛られにくい、継続的なサービス検証・更新の場を確保している。これは「リビングラボ」を街区そのものに埋め込んだ構造と言える。(参考:EMIRA「清水建設が豊洲で進めるスマートシティ」)
第三に、ハードの交通結節とソフトのデータ基盤を最初から一体で設計している点が挙げられる。建物OS「DX-Core」と都市デジタルツインにより、混雑状況の可視化や人流シミュレーションを行い、交通・観光・防災・ヘルスケアといった複数領域のデータを横断的に扱う設計とした。さらに、シェアモビリティの移動データをデータベース化し、「ポートに人が集まる時間帯にキッチンカーを誘導する」といった、交通データと街の賑わい施策を結びつける運用も試みられている。交通結節点を、データを生み出し活用する起点として位置づけている点が独自性である。(参考:EMIRA「清水建設が豊洲で進めるスマートシティ」、Luup インタビュー)
施設・サービスは計画通りに立ち上がり、運用が継続している。豊洲MiCHiの駅は2022年2月に供用を開始、街区は同年4月にグランドオープンし、街びらきイベントには約1万人が来場した。設計面では2022年度グッドデザイン賞および第64回BCS賞を受賞している。(参考:東京都デジタルサービス局 note、シミズの設計本部 作品紹介)
ソフト面では、豊洲場外マルシェが毎月第三土曜日の定期開催として定着し、20回以上が実施された。運営に携わるJTBは「毎月開催していることで該当エリアの認知度が高まり、恒常的な賑わいにつながるイベントになってきている」と評価しており、単発のオープニングで終わらせず継続的な集客装置として機能させている。(参考:JTB 事例(豊洲場外マルシェ))
二次交通とデータ活用でも具体的な手応えが出ている。Luupの導入では、移動データの蓄積により、豊洲駅と豊洲市場を結ぶ動線をはじめとする具体的な移動パターンが把握され、観光施設への回遊促進に活用されている。自動運転については、MONETが2025年1月に臨海副都心の公道で実施した実証で約1,200人が利用し、回答者の8割以上が「継続利用を希望」と回答。この結果を受けて同年8月には豊洲を含むエリアへ運行範囲を拡大し、11カ所・110ルートでの提供へと発展させている。実証で得た利用者評価を次の展開につなげる循環が回り始めている点は、拠点を実証フィールドとして整備した狙いに沿った成果と言える。(参考:Luup インタビュー、MONET Technologies プレスリリース)
本事例から得られる示唆の一つは、「道の駅」のような既存の公共的フレームを別の文脈に翻訳する発想の有効性である。馴染みのある制度概念を借りることで、複合機能を持つ拠点の意義を関係者間で共有しやすくなる。既存の交通結節点(駅前広場やバスターミナル)に、休憩・情報発信・賑わい・防災の機能を後付けで複合させるという要素は、規模を問わず多くの地域で分解して応用できる考え方である。
二つ目は、ハードの拠点整備とソフトのデータ基盤を一体で設計し、拠点を「完成形」ではなく継続的な実証・更新の場として捉える視点である。建物OSや都市デジタルツインのような大規模なシステムをそのまま再現するのは難しいが、「設備やサービスを後から追加・更新できる共通基盤を最初に用意しておく」「シェアモビリティ等の移動データを賑わい施策に結びつける」といった設計思想は、規模に応じて取り入れられる。実証で得た利用者評価を次の運行範囲拡大の根拠にする——というデータと意思決定の循環は、他地域の社会実験設計でも再現性が高い。
三つ目は、賑わいのソフト施策を定期化し、ハードの拠点価値を育てる運用である。本事例では、開業イベントで終わらせずマルシェを毎月の定例イベントとして継続することで、認知度向上と恒常的な賑わいにつなげている。拠点は作って終わりではなく、定期的なプログラムによって人の滞留と回遊を育てる必要があることを示している。
一方で留意すべき点もある。本事例は総投資約600億円の大規模再開発という資本前提と、民間ディベロッパーの主導があって成立している側面が強く、その全体像をそのまま地方の小規模なまちづくりに移植するのは現実的ではない。再現性を考える際は、規模に依存する部分(街区開発・自社OSの自前構築)と、規模に依存しない部分(既存結節点への機能複合、データと施策の接続、ソフト施策の定例化、二次交通の段階的導入)を切り分け、後者の要素を自地域の条件に合わせて取り出す姿勢が重要となる。
2026年6月時点の調査内容に基づいて作成
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