
AIコンシェルジュ for LGWAN実証実験
TACT社のAI電話自動応答システムを杉並区役所で試行した実証実験。土のう貸出・防災無線案内・街路灯通報の3業務のうち、管理番号で特定できる街路灯の故障通報のみが24時間受付のAIコールとして本格導入された選別の経緯を追う。
株式会社TACT(USEN-NEXT HOLDINGSグループ)が提供する自治体向けAI電話自動応答システム「AIコンシェルジュ® for LGWAN」を用いて、杉並区役所は2023年8月10日から12月31日まで、区職員を対象とした実証実験を実施した。対象としたのは「土のうの貸出・回収の事前受付」「防災無線放送内容のご案内」「街路灯のランプ切れに関する通報受付」の3業務で、区民向けサービスとして展開する前に、まず職員自身が使い勝手や実用性を検証する段階を踏んだ。 (参考:杉並区で『AIコンシェルジュ®』を用いた安心・安全なまちづくりにDXで貢献する実証実験を開始|TACT)
実証実験の結果、3業務のうち「管理番号を保持する施設の受付」に一定の効果が見込まれたことから、2024年7月1日、街路灯の故障・ランプ切れ通報の受付についてのみ本格導入された。専用番号(050-3537-0435)で24時間365日、土日・祝日を含めて通報を受け付ける仕組みである。一方、土のう貸出・回収や防災無線案内については、その後の本格導入を示す公表情報は確認できていない。3業務を並行して試し、効果が見込めた1業務だけを選んで本格運用に進めるという、絞り込み型のAI導入プロセスが本事例の骨格である。 (参考:杉並区でAIコールによる「街路灯の故障修理受付」を7/1より開始|TACT)
杉並区は区内に約3万4000基の街路灯を管理しており、球切れや点滅、つきっぱなしといった不具合は、区道・私道であれば杉並土木事務所維持グループ街路灯担当(平日午前8時30分〜午後5時、祝日・年末年始を除く)に、灯柱のプレートに記された管理番号と所在地を伝えて連絡するのが従来の方法だった。夜間・休日は区役所代表窓口が窓口になるが、担当部署に直接つながる時間帯は平日日中に限られていた。 (参考:街路灯|杉並区公式ホームページ)
一方、実証実験の対象に含まれた他の2業務には、AI導入以前から代替手段が存在していた。土のうは区役所駐車場入口に「土のうストッカー」が設置されており、区民が事前連絡なしに自由に持ち出せる自己完結型の運用になっている。防災行政無線の放送内容についても、フリーダイヤル(0120-170-100)にかけると放送内容を自動音声で再生する「防災行政無線電話応答サービス」が、区公式ページの更新日(2018年8月2日)から見て少なくとも2018年には存在していた。3業務はいずれも住民からの問い合わせ・要望に応える窓口ではあるものの、既存インフラの成熟度が異なる状態からAI実証実験が始まっている。 (参考:施設案内 杉並区役所駐車場入口(土のうストッカー)|杉並区公式ホームページ、防災行政無線電話応答サービス|杉並区公式ホームページ)
杉並区が行政サービスにAIを試すのは、この実証実験が初めてではない。2020年11月には来庁者案内業務でAI搭載ロボットの実証実験を行い、比較検証の結果、据置型の「ロボコット」を2021年4月から本庁舎1階に本格導入した。2022年にはNECと共同で、街路灯に設置したカメラ映像を使う交通流・人流分析の実証実験も実施している。AIコンシェルジュ for LGWANの実証実験は、こうした一連のAI活用検討の延長線上に位置づけられる。 (参考:AI搭載ロボットによる庁舎案内業務実証実験(令和2年11月実施)|杉並区公式ホームページ、NEC、杉並区の安全・安心なまちづくりに向けてAI技術を活用し交通流・人流を分析する実証実験を実施|NEC)
「AIコンシェルジュ® for LGWAN」自体は、TACT社が2021年10月から提供を開始したサービスで、行政専用ネットワークLGWAN上で稼働するため、職員が日頃使う端末からそのまま応答内容を設定できる仕組みになっている点を特徴とする。杉並区の実証実験が始まった2023年8月の時点で、同サービスは羽村市(国民健康保険税の納付案内、2023年5月開始)や港区(住民税の納税案内、2023年4月開始・23区初)など、複数の自治体で先行導入・実証が進んでいた。杉並区の取り組みは、この普及の流れのなかで、税務・徴収系ではなく道路インフラの維持管理系の業務に対象を広げた事例といえる。 (参考:行政向けボイスボット『AIコンシェルジュ® for LGWAN』の提供開始|TACT、東京都港区で23区初のAIコール「納税案内電話」を『AIコンシェルジュ® for LGWAN』を用いて4/17より開始|TACT、AIコール「納税案内電話(国民健康保険税など)」を『AIコンシェルジュ® for LGWAN』を用いて令和5年5月15日より開始しました|羽村市公式サイト)
実証実験は2023年8月10日から12月31日まで、約5か月間にわたり杉並区役所内で実施された。対象は区民ではなく区職員で、土のうの貸出・回収の事前受付、防災無線放送内容の案内、街路灯のランプ切れに関する通報受付という3つの業務について、AIコンシェルジュ for LGWANの実用性・有用性を検証する内容だった。区民向けの本番運用に入る前に、まず庁内で使い勝手や回答精度を確認する段階を独立させた設計である。 (参考:杉並区で『AIコンシェルジュ®』を用いた安心・安全なまちづくりにDXで貢献する実証実験を開始|TACT)
実証実験の結果を踏まえ、区は3業務を横並びで全面導入するのではなく、対象を絞り込んだ。TACTの発表によれば、「管理番号を保持する施設の受付に一定の効果が見込まれた」ことが、街路灯の故障・ランプ切れ通報受付を本格導入する根拠となった。街路灯には管理番号を記したプレートが取り付けられており、通報者が管理番号を音声で伝えれば、AIが該当する街路灯を特定できる。この構造化された識別情報の有無が、3業務のなかで街路灯だけが選ばれた分岐点になったとみられる。 (参考:杉並区でAIコールによる「街路灯の故障修理受付」を7/1より開始|TACT)
2024年7月1日、街路灯の故障修理受付ダイヤル(050-3537-0435)が本格稼働した。土日・祝日を含む24時間365日、いつでも街路灯の球切れやつきっぱなし、点滅といった不具合を通報できる。区の広報紙「広報すぎなみ」(令和6年9月1日号)でも同じ番号と受付時間が案内されており、稼働開始から数か月後の時点でも公式な住民向けチャネルとして周知が図られていたことが確認できる。 (参考:杉並区でAIコールによる「街路灯の故障修理受付」を7/1より開始|TACT、街路灯が故障などしているときはご連絡ください(広報すぎなみ 令和6年9月1日号)|マイ広報紙)
AIコール本格導入と同じ2024年7月、区は道路・公園の不具合をスマートフォンから位置情報・写真付きで通報できるアプリ「My City Report(MCR)」の運用も始めた。区が管理する道路は総延長およそ680キロメートル、公園は約340カ所にのぼるが、これまでは電話やメールでの連絡が中心だったため、位置や損傷の程度が伝わりにくく、現地確認に手間取ることが多かった。電話で完結するAIコンシェルジュと、写真・位置情報を伴うアプリ通報という特性の異なる2つのチャネルを、同時期に整備した形になる。 (参考:道路通報システム「My City Report(MCR)」|杉並区公式ホームページ、東京都杉並区、市民協働投稿サービス「My City Report for citizens」を導入|My City Reportコンソーシアム)
1. 区民向けの前に、職員が使う実証実験を独立させた
多くの自治体のAIコール導入事例が、開始当初から住民向けサービスとして発表されるのに対し、杉並区は約5か月間、区職員を対象とした検証フェーズを独立させた。住民に影響が出る前に、認識精度や運用上の課題を庁内で洗い出せる設計であり、いきなり全区民に開放してトラブルが起きるリスクを抑える段階的な進め方といえる。 (参考:杉並区で『AIコンシェルジュ®』を用いた安心・安全なまちづくりにDXで貢献する実証実験を開始|TACT)
2. 3業務を並行検証し、1業務に絞って本格導入した
土のう貸出、防災無線案内、街路灯通報という異なる性質の3業務を同時に走らせ、効果が見込まれた業務だけを選んで本格運用に進めた点が本事例の骨格である。全業務を横並びで導入するのではなく、パイロットの結果によって対象を絞り込む姿勢は、限られた予算・人員のなかでAI活用を進める自治体にとって、リスクを抑えた意思決定のモデルになる。 (参考:杉並区でAIコールによる「街路灯の故障修理受付」を7/1より開始|TACT)
3. 「管理番号の有無」という具体的な選定基準
本格導入の可否を分けたのは、対象業務に対する抽象的な評価ではなく、「管理番号を保持する施設の受付」という具体的な条件だった。街路灯には一意の管理番号が付与されており、通報者がその番号を音声で伝えるだけでAIが対象物を特定できる。一方、土のう貸出や防災無線案内は、個々の要望が定型化しにくく、管理番号のような一意の識別子で処理しづらい業務だったと考えられる。音声AIに向く業務を選ぶ際の実務的な判断軸として、他の自治体にも応用できる観点である。 (参考:杉並区でAIコールによる「街路灯の故障修理受付」を7/1より開始|TACT)
4. 既存の対応手段があった業務ほど、AI化が進まなかった
土のう貸出は事前連絡なしで持ち出せる「土のうストッカー」が、防災無線案内は2018年時点で存在が確認できるフリーダイヤル自動再生サービスが、それぞれAI実証実験の前から存在していた。これに対し、街路灯の故障通報は平日開庁時間内の電話という制約が唯一の窓口だった。既存の対応手段の有無・利便性という観点で見ると、AI化によって解決される課題の大きさが業務ごとに異なっていたことが、結果的な選別につながった可能性がある。 (参考:施設案内 杉並区役所駐車場入口(土のうストッカー)|杉並区公式ホームページ、防災行政無線電話応答サービス|杉並区公式ホームページ)
街路灯通報のAIコールは、24時間受付として本格運用に移行した
2023年8月〜12月の実証実験を経て、2024年7月1日から街路灯の故障・ランプ切れ通報を受け付ける専用ダイヤル(050-3537-0435)が本格稼働した。土日・祝日を含む24時間365日対応で、従来は平日午前8時30分〜午後5時に限られていた通報の受付時間が大幅に拡大したことになる。区の広報紙でも2024年9月時点で同じ番号・受付時間が案内されており、少なくとも稼働開始から数か月間は公式サービスとして周知が続いていたことが確認できる。 (参考:杉並区でAIコールによる「街路灯の故障修理受付」を7/1より開始|TACT、街路灯が故障などしているときはご連絡ください(広報すぎなみ 令和6年9月1日号)|マイ広報紙)
土のう貸出・防災無線案内は本格導入に至った公表情報が確認できない
実証実験の対象だった3業務のうち、公式に本格導入が確認できたのは街路灯の通報受付のみである。土のうの貸出・回収の事前受付、防災無線放送内容の案内について、その後AIコンシェルジュ for LGWANを用いたサービスが開始されたという発表は見当たらない。実証対象3業務中1業務、3分の1にとどまったという事実は、本事例をフラットに評価するうえで押さえておくべき点である。 (参考:杉並区で『AIコンシェルジュ®』を用いた安心・安全なまちづくりにDXで貢献する実証実験を開始|TACT、杉並区でAIコールによる「街路灯の故障修理受付」を7/1より開始|TACT)
定量的な効果データは非公表
実証実験・本格導入のいずれについても、通報件数、応答精度、対応時間の短縮幅といった定量的な効果指標は、TACT・杉並区双方の公表資料から確認できなかった。「一定の効果が見込まれた」という定性的な表現にとどまっており、具体的な数値による検証結果は非公表である。 (参考:杉並区でAIコールによる「街路灯の故障修理受付」を7/1より開始|TACT)
調査時点の公式案内では、AIコールへの言及が見当たらない
杉並区公式サイトの街路灯案内ページ(2026年7月15日更新)では、街路灯の不具合連絡先として杉並土木事務所維持グループ街路灯担当(平日)と区役所代表(夜間・休日)のみが案内されており、AIコンシェルジュの専用ダイヤル(050-3537-0435)についての記載は見当たらなかった。AI本格導入とMy City Report導入を合わせて告知した区の告知ページ(2024年7月1日付「道路・公園・街路灯の通報システムをご案内します」)も、調査時点ではアクセスできない状態になっている。2024年7月の本格導入、同年9月の広報紙掲載という経緯は確認できる一方、調査時点の主要な区民向け案内チャネルでAIコールへの言及が確認できないことも、あわせて記録しておく必要がある。この変化の理由(運用終了か、案内ページの整理によるものか)は、公開情報からは判断できない。 (参考:街路灯|杉並区公式ホームページ)
1. 複数業務を並行実証し、効果が見えた対象に絞って本格化する
新しい技術を導入する際、対象業務を一つに決め打ちするより、性質の異なる複数業務を同時に実証し、効果が見込める業務だけを選んで本格導入する方が、限られた予算・人員でのリスクを抑えられる。杉並区は3業務を並行して試し、1業務に絞り込んだ。全業務を一律に展開して検証コストを膨らませるより、再現性のある判断軸(本事例では「管理番号の有無」)を先に立てて絞り込む方が、他の自治体でも再現しやすい。
2. 「一意の識別子で特定できる業務か」を、AI音声対応の選定基準にする
音声AIによる自動応答が向くかどうかは、住民サービスとしての重要度だけでなく、業務が構造化されたデータ(本事例では街路灯の管理番号)を持つかどうかにも左右される。管理番号や設備台帳番号のように、通報者が口頭で伝えられて、かつシステム側で一意に照合できる識別子が存在する業務は、AI電話応答との相性がよい。逆に、要望の内容が個別性の高い自由記述に近い業務は、同じ技術を使っても効果が出にくい可能性がある。対象業務を選定する初期段階で、この観点を評価軸に加える価値がある。
3. 既存の対応手段の有無を、投資判断の前提として棚卸しする
杉並区の事例では、土のう貸出(自由に持ち出せるストッカー)や防災無線案内(既存のフリーダイヤル自動再生サービス)に、AI導入以前から一定の代替手段が存在していた。新しい技術を検討する際、対象候補となる業務それぞれについて、既存の対応手段がどこまでカバーできているかを棚卸ししておくと、AI化によって解決される課題の大きさを業務間で比較しやすくなる。代替手段がすでに機能している業務にAIを重ねても、投資対効果は相対的に小さくなりやすい。
4. 住民向け本番運用の前に、庁内利用の期間を独立させる
杉並区は約5か月間、区職員のみを対象とした実証実験の期間を設けてから、住民向けの本格運用に移行した。住民に開放する前に庁内で使い勝手や回答精度の課題を洗い出す設計は、AI音声対応に限らず、新しい住民サービスチャネルを導入する際に広く応用できる考え方である。
5. 本格導入後も、案内チャネルの一貫性を保つ運用体制を用意する
本事例では、本格導入や広報紙での周知は確認できた一方、調査時点の公式案内ページではAIコールへの言及が確認できず、導入時の告知ページも参照できなくなっていた。新しいサービスを立ち上げるだけでなく、その後も主要な案内チャネル(公式サイトの案内ページ、FAQ、パンフレット等)に一貫して反映され続ける運用体制がなければ、住民への周知が薄れ、サービスの認知・利用が伸び悩むリスクがある。本格導入時点だけでなく、その後の情報更新の仕組みも合わせて設計しておく必要がある。
2026年8月時点の調査内容に基づいて作成
この記事は公開情報に基づき、AIを用いた詳細調査により作成されました。記事内容への修正依頼、お問合せ等は以下までお寄せください。
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