
杉並区多世代が利用できる公園づくり基本方針
3,000㎡未満が9割を占める小規模公園群を、核となる公園を中心とした半径500mの「公園区」単位で束ね、公園ごとにメイン機能とサブ機能を割り振って機能を分担させる杉並区の方針。年1公園区・全4回のワークショップで撤去まで住民と決める実装の記録。
杉並区の公園等は345か所(2018年4月1日現在)あるが、その約9割は3,000㎡に満たない。ブランコとすべり台と砂場とベンチ、という似た構成の小さな公園が住宅地に点在している状態である。一つひとつを充実させようとしても敷地に限りがあり、一方で開園から30年以上経った公園が6割を超え、改修の順番が次々に回ってくる。
区が2019年(平成31年)1月に策定した「多世代が利用できる公園づくり基本方針」は、この状況に対し、1公園ずつ改修する発想から、複数公園で役割を分担する発想へと転換した。面積2,500㎡以上の公園32か所を「核となる公園」と定め、そこから半径約500mの範囲を「公園区」として設定。公園区の中の複数の公園を1セットとして扱い、それぞれにメイン機能とサブ機能を割り振って、セット全体で8つの公園機能を満たす。ある公園はボール遊び、隣は幼児、その隣は休息――という具合に、公園を横並びから役割分担へ組み替える考え方である。 (参考:杉並区多世代が利用できる公園づくり基本方針 本編)
方針の実装が始まったのは、策定から4年あまりが過ぎた2023年度(令和5年度)だった。年に1公園区を選び、6月から9月ごろにかけて全4回のワークショップを開き、10月下旬に改修計画を決定して現地に掲示、翌年度以降に設計・工事を行う。2023年度の済美公園区(9公園)を皮切りに、2024年度の井草公園区(7公園)、2025年度の西永福公園区(5公園)と進み、2026年度は天沼弁天池公園区(5公園)で実施中である。 (参考:杉並区多世代が利用できる公園づくり基本方針|杉並区)
本稿は、方針の設計そのものよりも、それを「どう住民と回しているか」に焦点を当てる。ワークショップだよりは全4回ぶんが毎年公開されており、住民の発言、区が提示した改修案、そして「希望はあったが実現が難しい」と区が判断した項目まで記録されている。撤去を含む判断を住民と共有する場が、どう組み立てられ、どこで揺れたのかを追う。
区立の公園等345か所を面積別に見ると、300㎡未満が19%、300~500㎡が21%、500~700㎡が14%、700~1,000㎡が10%、1,000~2,000㎡が18%、2,000~3,000㎡が8%。3,000㎡未満で約9割を占める。区が公園施設の整備状況を面積別に整理したところ、300㎡未満の公園には幼児対象遊具・児童対象遊具・ベンチ等しかなく、広場や球戯場・スポーツ施設、樹林・池といった施設が揃うのは3,000㎡以上を確保できた公園だった。機能の幅が面積に規定されている実態が、数字として確認された。 (参考:杉並区多世代が利用できる公園づくり基本方針 本編)
区民一人当たりの公園面積は2018年4月時点で2.07㎡。杉並区みどりの基本計画が長期的な目標とする5㎡の半分にも届かない。新規整備で量を増やす努力は続くが、住宅が密集した区内で用地を確保する速度には限界がある。 (参考:杉並区多世代が利用できる公園づくり基本方針 本編)
区立公園等は昭和43年(1968年)以降の整備が多く、開園から30年以上経過した公園が6割を超える。10年後には8割を超える見込みだった。公園施設も同様に老朽化し、フジ棚の塗装剥離、安全基準設定前のブランコ、段差のあるバリアフリー未対応のトイレなどが積み上がる。維持管理費は増加傾向で、2016年度(平成28年度)以降は年10億円を超えていた。
2015年度(平成27年度)に実施した遊具1,054基の健全度調査では、「健全な状態」と判定されたA判定はわずか6基。「概ね健全だが部分的に劣化」のB判定が384基、「全体的に劣化が進行し補修や更新が必要」のC判定が651基、「顕著な劣化があり更新が必要」のD判定が13基だった。区は2017年度(平成29年度)に公園施設長寿命化計画を作成し、事後保全型から予防保全型の管理へ切り替えている。すべてを一度に直せない以上、どの機能を残し、どの機能を隣の公園に委ねるかを決める必要があった。 (参考:杉並区多世代が利用できる公園づくり基本方針 本編)
方針策定にあたり、区は2017年度に4種類の調査を重ねている。
1つ目は駅前インタビュー調査。区内で乗降者数が最大のJR中央線荻窪駅前で、2017年12月3日・4日の2日間、午前9時から午後9時まで通行人に聞き取り、530件の回答を得た。週1回以上利用が38%、月1回以上が20%に対し、「ほとんど利用しない」が42%。利用しない理由は「公園に行く目的がない」が62%を占め、「魅力のある公園がない」17%、「公園に行く時間がない」6%が続いた。回答者の約6割が20〜64歳の現役世代である。
2つ目は公園現地インタビュー調査。2017年11月の3日間、妙正寺公園、済美公園、馬橋公園、井草森公園、柏の宮公園、桃井原っぱ公園など区内10公園で利用者に聞き、1,038件を集めた。滞在時間は30分以上1時間未満が約4割、普段利用する公園に満足と答えた人が58%。必要な施設として最も多かったのは「自由に遊べる広場」、次いで「休憩できる場所」で、不足している施設でも同じ2項目が上位に来た。
3つ目と4つ目は、公園利用が生活に密着する層への施設アンケートである。幼児本人への調査は難しいため区立保育園44園の職員に、児童については児童館40館の職員に、高齢者についてはいきいきクラブ65団体から推薦された325人に依頼した。回答は保育施設1,783件(392名)、児童館536件(175名)、高齢者335件(190名)。必要な施設は共通して「自由に遊べる広場」が最多で、加えて保育施設は「幼児向けの遊具」、児童館は「児童向けの遊具」、高齢者は「健康づくり器具」を挙げた。
区はこれらの結果を8つの公園機能――①多目的に利用できるオープンスペース、②球戯利用できる場、③幼児の遊び場、④児童の遊び場、⑤健康増進に寄与する場、⑥休息できる場、⑦みどりに触れ合える環境教育の場、⑧動植物の生息・移動中継に適した場――に翻訳して点数化し、現状の公園機能と重ねたレーダーチャートを作成した。区全体の平均では「広場」と「休息」でニーズが現状を上回り、逆に過剰な機能もあることが可視化された。同じ作業を32の公園区すべてについて行い、資料編に地区別の分析評価として収録している。 (参考:杉並区多世代が利用できる公園づくり基本方針 資料編、同 本編)
2017年6月に施行された「都市緑地法等の一部を改正する法律」は、公園利用の価値観が多様化するなかで既存の公園施設をどう活かすかという課題を背景に制定された。区は同法の趣旨を、既存公園の有効活用を求めるものと受け止め、方針策定の根拠のひとつに置いている。方針は都市緑地法に基づく都市公園の管理方針として、杉並区みどりの基本計画の一部に位置づけられた。 (参考:杉並区多世代が利用できる公園づくり基本方針 本編)
広場や球戯利用のように大きな空間を要する機能を確保するには概ね3,000㎡以上が望ましい――調査結果はそう示していた。しかし区内でそれを満たす公園は限られる。区は「2,500㎡以上あれば改修によって広場等を創出できる可能性がある」として基準を2,500㎡に下げ、該当する32公園を「核となる公園」に指定した。西永福公園(2,517.62㎡)や下高井戸西公園(2,501.81㎡)のように基準ぎりぎりの公園から、柏の宮公園(43,458.30㎡)や桃井原っぱ公園(40,000.00㎡)まで規模の幅は広い。
一方で、除外の基準も明示している。大田黒公園・杉並児童交通公園・成田西ふれあい農業公園は特殊な利用のため、玉川上水公園・桃園川緑道・和田堀公園(区立)は細長くオープンスペースが少ないため、三井の森公園や清水森公園は園内の大部分が樹林のため除外された。都立公園(善福寺公園、善福寺川緑地、和田堀公園)は区が管理しておらず機能の見直しができないため、対象外である。
この32公園それぞれから半径約500mの範囲が「公園区」となる。近隣公園の一般的な誘致距離である500mを、そのまま「機能を分担しあう単位」に読み替えた設定である。公園区は区全域を覆いきらず、空白地域も残る。区は空白地域について、規模の大きなオープンスペースの確保に努めるとともに、改修の機会に区民ニーズを把握して機能を増やしていく、としている。 (参考:杉並区多世代が利用できる公園づくり基本方針 本編、同 資料編)
方針は「地域に偏りがないよう配慮しながら、取組による効果が高い公園区から順次改修を進める」とし、改修にあたってはPDCAサイクルをもとに前の公園区の成果を次に活かすとしていた。実際に最初に選ばれたのは済美公園区である。同区は人口約29,771人に対し公園等面積が約13,425㎡、一人当たり約0.45㎡と、区平均2.07㎡を大きく下回っていた(いずれも2018年4月1日現在)。
杉並区実行計画(第2次)でも「誰もが利用しやすい公園改修」の事業として、2024年度から2026年度まで毎年「設計1公園区・工事1公園区」が事業量として明記されている。3か年で3公園区、という速度が計画上も固定されている。 (参考:杉並区多世代が利用できる公園づくり基本方針 資料編、杉並区実行計画(第2次)環境・みどり)
各年度のワークショップは、次の4段階で構成される。
第1回:公園の魅力や課題を見つけよう
参加者は各公園の「良い点」「課題点・気になる点」を付せんに書き、大きな図面の該当箇所に貼っていく。もう一つのワークとして、各公園の「現在の機能(使われ方)」にシールを貼り、いま実際にどう使われているかを全員で共有する。済美公園区の第1回(2023年7月8日)には34名が参加した。天沼弁天池公園区の第1回(2026年6月13日)には32名が集まっている。
第2回:これからの公園の使い方を考えよう
「どのような公園になったらよいか」という将来像を付せんに書き、グループで1枚の図面にまとめ、それが8つの公園機能のどれに当たるかを検討する。ここで各公園のメイン機能とサブ機能の案が固まる。だよりには、ワークショップで導かれた機能案と、並行して実施したアンケートで最も回答の多かった機能案が並べて掲載される。両者が食い違う場合もそのまま提示される。
第3回:公園の間取り・配置を考えよう
「新設・更新・撤去・移設」の4つの観点から、具体的にどの施設をどうするかを検討する。青線が新設・更新・改修、赤線が撤去・移設として図面に描き込まれる。ここで初めて「何をなくすか」が正面から議題になる。
第4回:計画案をつくろう
区がワークショップ・アンケート・近隣保育施設等へのヒアリングを踏まえて作成した改修案を提示し、意見交換する。だよりの図面には、区の案(青線・赤線)に加え、参加者から出た反論や条件が黄色枠で併記される。
参加者数は年度によって差がある。済美公園区は34名→28名→24名→21名、井草公園区は12名→14名→10名→13名、西永福公園区は15名→14名→13名→14名、天沼弁天池公園区は32名→26名(第2回まで)である。 (参考:済美公園区 第1回ワークショップだより、同 第2回、同 第3回、同 第4回、井草公園区 第1回、西永福公園区 第1回、天沼弁天池公園区 第1回)
ワークショップと並行して、公園区ごとにアンケートを実施している。第1回のだよりに二次元コードを載せ、そのだよりを核となる公園から半径500m内の区域に戸別配布するとともに、対象の各公園に現地掲示する。回答期間は2〜3週間程度である。
回答数は済美公園区が43名(2023年7月19日〜8月6日)、井草公園区が36名(2024年6月26日〜7月15日)、天沼弁天池公園区が84名(2026年6月24日〜7月3日)。設問は「最もよく利用する公園」から3番目までと、各公園に最も必要だと思う機能(1つ)およびその他に必要だと思う機能(最大3つ)で構成され、公園ごとの機能ニーズを票数として取り出せる形になっている。自由記述は原則全文が掲載される。 (参考:済美公園区アンケート結果、井草公園区アンケート結果、天沼弁天池公園区アンケート結果)
方針の資料編が示す公園区の構成と、実際にワークショップの対象となった公園は一致しない。井草公園区は資料編では9公園だが、井草森公園と井草三丁目緑地は他の公園区に含まれるため対象から外れ、7公園となった。済美公園区は資料編で11か所だが、定塚橋公園は済美公園区と方南公園区の2つに重複するため方南公園区の検討時に扱うこととし、都立和田堀公園は都立のため除外して、9公園で実施された。
逆に追加もある。西永福公園区は資料編では西永福公園・浜田山南公園・宮元公園・浜田山四丁目緑地の4公園だが、実際には大宮児童公園を加えた5公園で実施された。天沼弁天池公園区も資料編では4公園だが、清水一丁目公園を加えた5公園が対象となり、だよりでは「公園区周辺の以下5公園」と表記されている。2019年に引いた線が、現場の実態に合わせて調整されている。 (参考:杉並区多世代が利用できる公園づくり基本方針 資料編、済美公園区 第1回ワークショップだより、井草公園区 第1回、西永福公園区 第1回、天沼弁天池公園区 第1回)
3年目の西永福公園区(2025年度)で、進め方に二つの変更が入った。
一つは優先度の可視化である。第3回で参加者が施設ごとに優先度を検討し、A班(水色)・B班(黄緑)・C班(橙色)の★印としてだよりに記録された。第4回のだよりでも各項目に★が併記され、たとえば西永福公園のトイレ更新には★7つ、大宮児童公園のトイレ更新にも★7つ、宮元公園の植栽剪定・維持管理には★7つが付く一方、健康遊具の更新は★2つ、案内板の更新は★1つ、といった具合に濃淡が見える形になった。要望を並べるだけでなく、限られた予算の中でどれを先に、を住民側が示す仕組みである。
もう一つは実施可否の明示である。第4回のだよりでは、黒線・黒文字が「現時点では実施未定・可能であれば実施項目」を意味する凡例として導入された。防犯カメラの新設、パーゴラの日よけ、植栽の名札、掲示板の移設などが「※現時点では実施未定」と明記されている。浜田山南公園のトイレ更新には「今年度の工事契約に至らなかったため、来年度実施予定」という注記が入った。決まっていないことを決まっていないと書く運用である。 (参考:西永福公園区 第3回ワークショップだより、同 第4回)
10月下旬に改修計画を決定し、対象公園の現地に掲示するとともに区公式ホームページに掲載する。掲載される改修計画は、各公園の将来的な機能(メイン・サブ)と、新設・更新・改修(青線)/撤去・移設(赤線)を示した図面で構成される。その後、同年度中に詳細設計、翌年度に改修工事という流れになる。改修計画には「関係機関との調整や詳細設計の過程でやむを得ず改修計画の一部が変更となる可能性があります」という留保が明記されている。
2025年度に決定した西永福公園区の改修計画は、区の令和8年度発注予定(工事)に「西永福公園区施設改修工事(その1)」「同(その2)」の2件として計上されている。公園区という単位が、工事の発注単位としても使われている。 (参考:済美公園区改修計画、井草公園区改修計画、西永福公園区改修計画、令和8年度発注予定(工事))
方針は策定時から「今後、杉並区みどりの基本計画の改定にあわせ、計画に包含することを予定」とされていた。2026年6月に公表された新しい杉並区みどりの基本計画(計画期間:2026年度〜2030年度)では、具体的な取組「Ⅰ-2-4 区民ニーズに応える公園のリニューアル〈拡充〉」として、「多世代が利用できる公園づくり基本方針」を踏襲し、公園区単位でアンケート調査やワークショップ等を実施することが明記された。同時に「Ⅰ-2-3 地域に親しまれる公園づくり〈拡充〉」では、公園区の空白地域に敷地面積2,500㎡以上の核となる公園を整備する方針が加わっている。
新計画には、リニューアル後の維持管理ボランティアへの参加を促し、地域のコミュニティ形成につなげるという記述も追加された。改修で終わらせず、その後の関わりに接続する意図がうかがえる。 (参考:杉並区みどりの基本計画 第4章、同 第1章、杉並区みどりの基本計画|杉並区)
1. 合意の対象が「何をつくるか」ではなく「どの役割を担うか」
一般的な公園の住民参加は、その公園に何を置くかを話し合う。この方式では、まず公園区内の5〜9公園を並べ、それぞれのメイン機能・サブ機能を先に決める。西永福公園区の第2回では、浜田山南公園が「幼児が芝生(人工芝)で遊べる公園」「休憩できる公園」、大宮児童公園が「児童が楽しめる公園」「休息場所も充実した公園」、西永福公園が「広さを活かし多目的に活用できる公園」、浜田山四丁目緑地が「立ち寄って休憩できる公園」といった将来像に整理された。役割が決まってはじめて、施設の新設・撤去が論理的に導ける構造になっている。個々の公園への要望を積み上げる方式では出てこない「この公園は休息に特化してよい」という結論が、この順序だと出てくる。 (参考:西永福公園区 第2回ワークショップだより)
2. 撤去が議題に載り、そして最終回で揺り戻される
第3回で参加者が検討する4つの観点には「撤去」が含まれる。済美公園区では、済美児童遊園のすべり台撤去、堀ノ内二丁目公園のテレフォンベンチ撤去、松ノ木坂下公園の砂場・すべり台撤去、熊野橋児童遊園のトイレ撤去(近隣公園にトイレがあるため)などが検討された。
しかし第4回で区が改修案として提示すると、参加者から反対意見が出る。だよりには「砂場は幅広い年齢の子どもが利用できる施設のため、できれば撤去しないで欲しい」「砂場はよく利用しているため、撤去しないで欲しい」「子ども達に利用されているので撤去はやめて欲しい」といった発言が、区の撤去案と並べて記録された。井草公園区でも、パイプ柵の撤去案に対し「外側にフェンスを設置することで、見通しや公園の雰囲気が悪くなる。見通しを悪くしてまで、パイプ柵を撤去しなくて良いのでは」、切り株撤去案に対し「切り株は表面を削る等とし、すべて撤去しなくて良いのでは」という異論が併記されている。撤去の合意は一度では固まらない、という前提で最終回が設計されている。 (参考:済美公園区 第3回ワークショップだより、同 第4回、井草公園区 第4回)
3. 「できないこと」を理由とともに書く
済美公園区の第4回だよりには「ご希望がありましたが、実現が難しいご意見」という欄がある。谷中公園へのウッドデッキ設置と済美公園へのバスケットゴール設置について、「今回の公園の状況では、近隣への音の影響があることや、近隣との十分な距離を確保できないことから、設置が難しいと判断しました」と理由を添えて明示した。同じ欄には「その他引き続き検討するご意見」も設けられ、「どこの公園で何ができるのか」の案内板設置には「現地への案内設置(近くでボール遊びができる公園の紹介等)を検討します」、インクルーシブ系遊具やザイルクライミングの新設には「遊具を安全に利用するために必要な空間(安全領域)を確保できるか、確認した上で検討します」と回答している。要望を「検討します」で一括処理せず、却下・保留・採用を分けて理由を書く運用である。 (参考:済美公園区 第4回ワークショップだより)
4. 施設の話し合いが、ルールと運営への要望を吸い寄せる
アンケートの自由記述には、施設改修では解けない要望が集中する。天沼弁天池公園区(2026年)の自由記述では、ペット利用に関する意見が最大の塊を形成した。「荻窪ではどこの公園にも犬が入れない」「犬の散歩ができるようにしてほしい」「犬が入れる公園が1つもないので、原っぱ公園までいっている」「いつも武蔵野市まで犬連れ可能な公園に行っており、帰りに食料品等の買い物も武蔵野市で済ませている。杉並区で完結できると嬉しい」といった声が並ぶ。犬の飼い主の交流が地域の見守りや防犯に寄与するという主張、管理棟のある弁天池公園なら可能ではないかという提案も含まれる。
区は2024年7月からの試行を経て2025年4月に「新しい公園利用ルール」を本格実施し、犬の連れ込みを蚕糸の森公園・馬橋公園・井草森公園・塚山公園・桃井原っぱ公園・下高井戸おおぞら公園・柏の宮公園・桃園川緑道・馬橋児童遊園・区立ドッグラン広場の10施設で可能とした。ただしこの10施設に荻窪・天沼周辺の公園は含まれない。同じ要望は2023年の済美公園区のアンケートにも出ていた。施設のワークショップが、ルール・運営側の需要を検知する装置として働いている一方、その需要が地理的に満たされるまでには別のプロセスと時間を要している。 (参考:天沼弁天池公園区アンケート結果、新しい公園利用ルール|杉並区、済美公園区アンケート結果)
5. 誘致距離を合意形成の単位に転用した
半径500mという公園区の範囲は、都市公園法上の近隣公園の参考誘致距離をそのまま流用したものである。区は児童遊園・遊び場・いこいの森についても、利用実態が住区基幹公園に近いことから規模別に都市公園と同等とみなし、誘致距離範囲を適用している。この「500m」は、住民が日常的に歩いて回れる範囲であると同時に、だよりの戸別配布範囲、アンケートの対象範囲、ワークショップの参加者を募る範囲、そして最終的な工事の発注単位にもなった。技術的な計画指標が、そのまま参加と実装の単位として運用されている点は、他制度への応用が利く。 (参考:杉並区多世代が利用できる公園づくり基本方針 資料編、令和8年度発注予定(工事))
6. 先行事例との違いは「機能分担」ではなく「毎年の実装単位」
複数公園に役割を割り振る発想自体は先行例がある。足立区は2013年度(平成25年度)から「パークイノベーション」として、公園を「にぎわいの公園」と「やすらぎの公園」に大きく分類し、公園ごとに「児童の遊び」「休憩」などの機能を割り振ってテーマを設定する取組を進めてきた。モデル地域では町会・まちづくり推進員・スポーツ推進員・保育園関係者などとの地域懇談会を通じて計画を進めている。杉並区の方式が加えているのは、①核となる公園の面積基準(2,500㎡以上)と半径500mという定量的な線引き、②年1公園区・全4回という反復可能な実装単位、③各回の議論・住民の反論・却下理由までを含むだよりの毎回公開、の3点である。設計思想の新しさよりも、続けられる形にしたことが特徴といえる。 (参考:魅力ある地域の公園づくり「パークイノベーション」とは?|足立区)
方針の策定から7年、実装の開始から4年が経った時点の到達点は次のとおりである。
4公園区・26公園まで到達した
2023年度の済美公園区9公園、2024年度の井草公園区7公園、2025年度の西永福公園区5公園、2026年度の天沼弁天池公園区5公園。累計26公園がワークショップの対象となり、うち3公園区・21公園について改修計画が決定・公表されている。天沼弁天池公園区は2026年8月時点で第2回を終え、第3回(8月1日)・第4回(9月12日)を経て10月下旬に改修計画決定の予定である。 (参考:杉並区多世代が利用できる公園づくり基本方針|杉並区、天沼弁天池公園区 第2回ワークショップだより)
計画から工事までのサイクルが実際に回った
済美公園区では2023年10月下旬に改修計画を決定し、2024年度の改修工事が予定された。2024年11月には区議会議員のブログで、住民参加のワークショップを踏まえた改修として済美公園に健康遊具が新設され、耐久性や安全性を確かめる点検を経る段階にあることが報告されている。区の施設案内でも同公園に「背伸ばしベンチなどの健康遊具」があると紹介されている。2026年6月に公表された新しいみどりの基本計画には、公園リニューアルの取組の説明とともに「ワークショップで区民との話合いでできた健康器具広場」と題した写真が掲載された。2025年度の西永福公園区分は、2026年度の発注予定に2件の工事として計上されている。話し合い→計画→設計→工事→次の話し合い、という循環が形式だけでなく実際に動いている。 (参考:区立済美公園|杉並区議会議員 川原口ひろゆき、施設案内 済美公園|杉並区、杉並区みどりの基本計画 第4章、令和8年度発注予定(工事))
計画上の位置づけが強化された
2019年策定時、方針はみどりの基本計画の一部として位置づけられつつ、独立した個別方針だった。2026年6月の新しいみどりの基本計画では、具体的な取組の1項目として明示的に組み込まれ、扱いも「〈拡充〉」とされた。あわせて設定された指標「公園や広場に満足している区民の割合」は、2024年度区民意向調査の80.0%を2030年度に85.0%以上とする目標が置かれ、その実現に向けた主な取組の一つとしてこのリニューアル事業が挙げられている。方針の成否を測る区全体の物差しが、遅れて用意された形である。 (参考:杉並区みどりの基本計画 第3章、同 第4章)
参加者の規模と偏りは課題として残る
ワークショップの参加者は、済美公園区が34→28→24→21名、井草公園区が12→14→10→13名、西永福公園区が15→14→13→14名。人口1万人前後の公園区で、10〜30名規模の話し合いが改修計画の根拠となっている。アンケート回答数も済美公園区43名、井草公園区36名と限られる。天沼弁天池公園区は第1回32名、アンケート84名と他年度より多いが、それでも公園区人口(2018年時点で約14,911人)に対する比率は小さい。
年齢構成にも偏りがある。天沼弁天池公園区のアンケート回答84名の内訳は40〜64歳が37名、65歳以上が20名、30〜39歳が13名で、小学生は5名、12〜18歳は2名にとどまる。済美公園区の43名では小学生の回答は0名だった。自由記述には「実際に遊んでいる子どもたちの素直な声も聞いてほしい」という指摘も寄せられている。公園の主要な利用者である子どもの声は、区立保育園・児童館職員へのアンケート(方針策定時)や近隣保育施設へのヒアリング(各年度の改修案作成時)を経由して間接的に反映される構造になっている。 (参考:天沼弁天池公園区アンケート結果、済美公園区アンケート結果、井草公園区 第1回ワークショップだより、西永福公園区 第4回)
評価(PDCAのC)の公表は確認できない
方針は第4章で、改修後の公園区について「アンケート等によって改修後の公園区の公園利用の変化、区民ニーズの充足を検証」し、その結果を次の公園区に活かすとしていた。しかし、工事年度に入って久しい済美公園区(2024年度工事)や井草公園区(2025年度工事)について、改修後の利用に関する検証結果は、区公式ホームページの方針関連ページでは公表されていない。方法の改良(優先度の★、実施未定の明示など)は年度ごとに確認できるが、それが改修後の利用実態の検証を経たものかどうかは資料上たどれない。 (参考:杉並区多世代が利用できる公園づくり基本方針 本編、杉並区多世代が利用できる公園づくり基本方針|杉並区)
全域展開には時間がかかる
公園区は32区ある。実行計画で固定された「年1公園区」の速度では、2023年度から始めて4区が終わった段階であり、残り28区に単純計算で28年を要する。方針が「効果が高い公園区から順次」としているとおり、優先順位の高い公園区から着手する設計になってはいるが、区全体の公園ストックがこの方式で更新されるまでには相当の年数がかかる。なお、公園区に含まれない空白地域の公園は、この年次サイクルとは別に、通常の改修の機会に区民ニーズを把握して対応する扱いである。 (参考:杉並区多世代が利用できる公園づくり基本方針 資料編、杉並区実行計画(第2次)環境・みどり、同 本編)
1. 小さな公園の問題は「機能不足」ではなく「機能の重複」と捉え直せる
3,000㎡未満の公園に「広場が欲しい」「球戯場が欲しい」と要望しても、面積が答えを閉じてしまう。杉並区が行ったのは、要望の宛先を1公園から公園群へ移すことだった。同じ機能を持つ公園が半径500m内に3つあるなら、1つを幼児、1つを休息、1つをボール利用に振り分ければ、合計の機能数は増える。用地取得も新規整備もせずに使える手であり、公園ストックが多く、かつ小規模公園が中心の都市部の自治体には直接応用できる。前提となるのは、公園ごとの現況機能を同じ物差し(杉並区の場合は8機能)で棚卸しし、住民ニーズも同じ物差しで測って重ねる作業である。
2. 誘致距離は、計画指標であると同時に参加の単位になる
近隣公園の誘致距離500mは多くの自治体が計画に書いている数字だが、それを「機能を分担しあう範囲」「だよりを配る範囲」「ワークショップに呼ぶ範囲」「工事を発注する単位」として一貫して使った点に応用価値がある。参加の範囲を新たに定義し直す必要がなく、既存の計画体系と接続したまま運用できる。逆にいえば、参加の単位を先に決めれば、そこから逆算して情報提供の範囲と工事の括り方まで自動的に決まる。
3. 撤去の合意は一度では終わらない。揺り戻す場を先に用意する
住民参加で難しいのは「なくす」判断である。杉並区の4回構成では、第3回で撤去案を出し、第4回で区の改修案として提示し直す。その間に参加者は考え直す時間を持ち、第4回で反対を述べる。実際に砂場やすべり台の撤去案には毎年反対が出た。重要なのは、それらの反対がだよりに区の案と並べて記録され、翌年度以降の他公園区の参加者も読める形で残っていることである。撤去を1回のワークショップで決めようとすると、その場で押し切るか、諦めるかの二択になりやすい。揺り戻しを想定した回数配分と、反対意見をそのまま残す記録の仕方は、他の公共施設の再編(統廃合、機能移転)にも転用できる。
4. 「できない」に理由を書くと、次の要望の質が上がる
要望を「検討します」で受けるのが行政の定型だが、済美公園区の第4回だよりのように、却下(近隣への音の影響と距離が確保できないためバスケットゴール設置は困難)・保留(安全領域を確保できるか確認のうえ検討)・採用(案内板設置を検討)を分けて理由を書けば、参加者は次に何を提案すべきかを学習できる。西永福公園区で導入された「現時点では実施未定」の凡例も同種の工夫である。予算・安全基準・近隣条件という制約を先に共有することは、参加のコストを下げる。
5. 施設のワークショップは、ルール・運営の需要を検知する装置になる
天沼弁天池公園区のアンケートで最も多かったのは、遊具でもトイレでもなく「犬を入れられる公園がない」という声だった。これは施設改修では解けず、公園利用ルールの改定という別のプロセスで扱われる。杉並区は2025年4月にルールを改定して10施設で犬の連れ込みを可能にしたが、そこに荻窪・天沼周辺は含まれていない。ハード改修の参加の場に集まる要望のうち、どれがソフト(ルール・運営)の課題かを仕分け、担当部署に橋渡しする仕組みを最初から用意しておけば、「言ったのに何も変わらない」という参加疲れを防げる。逆に、ハードの話し合いを続けることで、ソフトの需要が地域単位で定量的に見えてくる、という副次的な効果もある。
6. 全域展開の年数を、着手前に計算して示す
公園区32区に対して年1区。この速度は実行計画に明記されており、算術的には全域到達まで30年前後を要する。「効果が高い公園区から順次」という優先順位づけがあるため、初期に効果の大きい部分から手を付ける設計にはなっている。同じ方式を検討する自治体は、対象単位の総数と年間処理能力から所要年数を先に出し、①優先度の判断基準を公開する、②並行実施できる体制を検討する、③対象外エリアへの対応方針を明示する、のいずれかを最初から用意しておくべきである。杉並区の場合、③については「公園区の空白地域では改修の機会に区民ニーズを把握する」と方針に書かれ、2026年のみどりの基本計画では空白地域に新たな核となる公園を整備する方向が加わった。
7. 評価を設計しないと、PDCAは記録されない
方針はPDCAサイクルを掲げ、Cを「アンケート等による改修後の検証」と定義していた。しかし現時点で、改修後の利用変化を検証した結果は公表資料として確認できない。ワークショップだよりや改修計画は毎年きちんと公開されているだけに、この非対称は目立つ。改修前の利用実態(現況機能、利用頻度、満足度)は各年度のアンケートで取得されているのだから、同じ設問を工事完了の1〜2年後に同じ範囲へ配れば、比較可能なデータが得られるはずである。参加型の改修は「住民の意見を聞いた」という手続の正しさで評価されがちだが、他地域が学ぶべきは手続よりも、機能分担が実際に利用行動を変えたかどうかである。評価の設問と実施時期を、最初の改修計画と同時に決めておくことが要る。
2026年08月時点の調査内容に基づいて作成
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