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Fukuoka Growth Next×スタートアップカフェ一体化
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福岡市が2017年に開設した官民共働型スタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next」と、2014年開設の創業相談窓口「スタートアップカフェ」を2024年4月に一体運営化。裾野拡大と選抜支援を両輪とする新プログラムで創業から成長までを切れ目なく支援する体制を構築した事例。

概要

福岡市中央区の旧大名小学校跡地では、2017年4月に開設された官民共働型スタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next(FGN)」と、2014年10月に開設された創業相談窓口「スタートアップカフェ」が、それぞれ別組織として運営されてきた。2024年4月、福岡市はこの2つの拠点の運営を一体化し、創業前の相談段階から入居・成長段階までを切れ目なく支援する体制を構築した(参考:Fukuoka Growth Next運営委員会事務局プレスリリース)。

運営は福岡市と、福岡地所・さくらインターネット・GMOペパボの民間3社に加え、新たに参画したフォースタートアップスを含む4社による官民共働体制で継続している。一体化と同時に「Fukuoka Growth Network(FGNet)」と「High Growth Program」という2つの新プログラムを開始し、入居企業に限らない裾野の広い支援と、成長段階にある企業への集中支援を両輪で提供する設計へと転換した(参考:Fukuoka Growth Next運営委員会事務局プレスリリース)。

2023年3月末時点で、FGN入居期間中に資金調達に成功した企業は延べ85社・365億円超、新規雇用創出は1,262名、スタートアップカフェの起業相談件数は2万件超、創業支援実績は801社にのぼる(参考:Fukuoka Growth Next運営委員会事務局プレスリリース)。

背景・課題

福岡市は2012年、高島宗一郎市長が「スタートアップ都市・福岡」を宣言し、シアトル視察で得た「都市機能がコンパクトな港町から世界的企業が生まれる」という着想をもとに、支店経済からの脱却と本社機能立ち上げ支援を成長戦略の中核に据えた(参考:創業手帳)。2014年5月には国家戦略特区「グローバル創業・雇用創出特区」の指定を受け、同年10月には創業準備から人材確保までをワンストップで相談できる「スタートアップカフェ」を開設した(参考:創業手帳BRIDGE)。

2017年4月には、統廃合で使われなくなった旧大名小学校の校舎を活用し、コワーキングスペースや専門家相談機能を備えた官民共働型施設「Fukuoka Growth Next」を開設した。2019年10月には東京のベンチャーキャピタルと共同で「FGN ABBALabファンド」を立ち上げ、創業初期の資金調達を東京に依存せざるを得なかった構造的な課題に対応した(参考:福岡地所note:Fukuoka Growth Next)。2020年7月には、内閣府「スタートアップ・エコシステム拠点都市」の中でも東京・中部・関西と並ぶ4つの「グローバル拠点都市」の一つに、福岡スタートアップ・コンソーシアムとして選定された(参考:天神経済新聞)。

FGNは開設から7年間で、2022年6月のヌーラボ上場、2023年12月のQPS研究所上場(2024年3月15日時点で時価総額1,300億円超)という実績を積み上げ、2023年度までに「企業価値10億円超の企業100社創出」という第2期目標を達成した(参考:note:Fukuoka Growth Next)。一方で、九州大学が持つ医療分野などの研究シーズとの連携が薄いことや、海外展開を目指す企業向けの英語対応支援が不足していることが課題として残っていた(参考:note:Fukuoka Growth Next)。福岡で働く人のうちスタートアップに携わる人の割合は約0.5%にとどまり、全国平均の1.3%、東京の8%と比べて低い水準にある(参考:さくマガ)。FGN事務局長の池田貴信氏は、投資家の孫泰蔵氏から「スタートアップが伸びていないなら、支援者側も成長していないのではないか」という趣旨の指摘を受けたことが、支援体制そのものを見直す転機になったと振り返っている(参考:note:Fukuoka Growth Next)。

創業相談窓口(入口)と成長支援施設(その先の伴走)が別々の場所・別々の運営主体で存在していたことも、企業が段階を移行する際に情報や関係性が引き継がれにくいという運営上の課題だった。これらを踏まえ、福岡市は2023年12月4日に第3期の運営体制を発表し、2024年4月からFGNとスタートアップカフェの運営を一体化することを決定した(参考:福岡地所プレスリリース)。

取り組みのプロセス

1. 運営体制の再編と新規事業者の参画

2023年12月4日、福岡地所・さくらインターネット・GMOペパボの継続3社に加え、フォースタートアップスが4社目の共同運営事業者として新たに参画することが発表された。同社からは正社員1名がFGNに配属され、専門役員がアンバサダーとして東京のネットワークを福岡に展開する役割を担う。同時に2024年春入居分のスタートアップ募集も開始された(参考:フォースタートアップス)。

2. スタートアップカフェの全面リニューアルと運営統合

2024年4月、スタートアップカフェの運営主体はFGN運営委員会に切り替わり、福岡市中央区大名のFGN1Fに全面リニューアルした店舗として再オープンした。従来の創業相談機能に加え、資金調達手法や各種専門分野に精通したコンシェルジュを新たに配置し、創業準備段階から成長段階まで一貫して相談できる窓口とした(参考:福岡県行政書士会福岡中央支部)。

3. 「Fukuoka Growth Network」による支援対象の拡大

2024年5月27日、FGN入居企業や卒業企業に限定せず、福岡市内のスタートアップ全般をオンデマンドで支援するネットワーク「Fukuoka Growth Network(FGNet)」の運用を開始した。コワーキングスペースの無償利用、ベンチャーキャピタルや金融機関の紹介リスト提供、財務・知的財産・採用戦略に詳しい専門家への相談窓口、割引ツールや補助金情報の提供などを、施設への入居という物理的制約なしに受けられる仕組みとした(参考:Fukuoka Growth Next運営委員会事務局プレスリリース)。

4. 「High Growth Program」による選抜企業への集中支援

同時に、福岡を代表する高成長企業への飛躍が期待される約10〜12社を毎年度選抜し、ベンチャーキャピタルや先輩起業家、各領域の有識者による伴走支援、資金調達や事業提携のマッチング、展示会出展支援などをカスタマイズして提供する「High Growth Program」を開始した。採択企業は毎年、継続の可否が見直される仕組みで、2025年度はTensor Energy、AUTHENTIC JAPAN、トイポ、aiESG、OYASAIなど12社が採択された(参考:Fukuoka Growth Next運営委員会事務局プレスリリース)。

5. 大学連携とソーシャルスタートアップ支援の追加

九州大学をはじめ、九州・沖縄・山口の22の大学・団体が参加する大学発スタートアップ創出プラットフォーム「PARKS」(2022年設立)との連携を強化し、研究シーズの事業化支援に取り組んでいる。PARKSは国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の「スタートアップ・エコシステム共創プログラム」にも採択されている(参考:九州大学)。あわせて経理・人事・労務などのバックオフィス業務支援や、社会課題解決に取り組む「ソーシャルスタートアップ」向けの支援メニューも新たに設けられた(参考:Fukuoka Growth Next運営委員会事務局プレスリリース福岡市)。

6. プログラム成果の対外発信

2025年10月7日には、スタートアップフェス「RAMEN TECH」の一環としてHigh Growth Program採択企業によるデモデイをFGN内で開催し、現地とYouTube Liveのハイブリッド形式で実施した(参考:Fukuoka Growth Next運営委員会事務局プレスリリース)。2026年1月30日には東京・麻布台ヒルズで成果報告イベント「Fukuoka Growth Night in Tokyo」を開催し、採択企業が投資家やビジネスパートナー候補にピッチを行った(参考:note:Fukuoka Growth Next)。

この事例の特徴

入口と成長支援の一体運営による断絶の解消

多くの自治体では、創業相談窓口とインキュベーション施設・成長支援プログラムが別組織・別拠点で運営され、企業が段階を移行する際に支援の継ぎ目が生じやすい。福岡市の事例は、この2つの機能を同一運営委員会・同一施設内に統合することで、創業前の相談履歴やニーズを成長支援側に引き継ぎやすくした点に特徴がある。組織再編そのものを施策の中心に据えている点は、単発の新規プログラム導入とは異なるアプローチといえる。

「箱」ではなく「人による橋渡し」に重心を置く運営思想

FGNの運営スタッフは、高速インターネット環境や相談員の配置だけでは起業家は集まらないという考え方から、自らを経営の専門家ではなく、起業家の課題を把握して適切な専門家やプログラムに橋渡しする役割と位置づけている。入居企業からは、外部専門家を通じて基礎知識を習得できたことや、地元製造企業を的確に紹介してもらえたこと、紹介前にスクリーニングされているため無駄なつながりが少ないことなどが評価されている(参考:WIRED.jp)。

裾野拡大と選抜支援を両輪とする二段階構造

FGNetによる支援対象の全域拡大(裾野拡大)と、High Growth Programによる少数精鋭への集中支援(選抜支援)を並行して運用している点も特徴的である。限られた運営リソースを「広く浅く」と「狭く深く」の両方に意図的に配分し、支援対象の裾野を広げながら、地域を代表する高成長企業を意図的に育てる設計になっている。

外部有識者の指摘を起点にした定期的な体制の見直し

FGNは開設から現在までを第1期・第2期・第3期と区切り、期ごとに目標と体制を再設計してきた。第2期の「企業価値10億円超の企業100社創出」という定量目標を達成した後も現状に満足せず、投資家からの外部評価を踏まえて支援の質そのものを問い直した点は、行政系支援施設が陥りやすい前例踏襲を避ける仕組みとして注目できる。

調査時点の成果

資金調達・雇用創出の実績(2023年3月末時点)

FGN入居期間中に資金調達に成功した企業は延べ85社、調達総額は365億円を超え、新規雇用創出数は1,262名に達している。スタートアップカフェの起業相談件数は2万件を超え、創業支援実績は801社にのぼる(参考:Fukuoka Growth Next運営委員会事務局プレスリリース)。

上場企業の輩出

2022年6月にヌーラボが、2023年12月にQPS研究所がそれぞれ上場した。QPS研究所は2024年3月15日時点で時価総額1,300億円超に達しており、福岡発のスタートアップとして大規模な企業価値創出を実現した最初の事例となっている(参考:note:Fukuoka Growth Next)。

入居企業数の推移

入居企業数は2023年12月時点で187社、開設7周年を迎えた2024年時点では199社に増加した(参考:Fukuoka Growth Next運営委員会事務局プレスリリースnote:Fukuoka Growth Next)。

High Growth Program採択企業の事業成果

2025年度採択企業12社は、2026年1月時点で具体的な事業成果を報告している。再生可能エネルギー分野のTensor Energyは2027年10月期のパイプラインが8億円を超え、山岳遭難者捜索サービス「ココヘリ」を手がけるAUTHENTIC JAPANは年間経常収益(ARR)8億円超・営業キャッシュフローの黒字化を実現し、ベトナムや台湾への事業展開を進めている。地域密着型アプリを展開するトイポはユーザー数200万人を突破し、売上は168%成長、2.8億円の資金調達にも成功した。ESG評価サービスのaiESGは前年比200%の売上成長を継続し、都市型スマート農業のOYASAIは大阪・沖縄・東京へと展開エリアを広げている(参考:note:Fukuoka Growth Next)。これらは一体化後の新支援体制が始まって1〜2年程度で確認された成果であり、選抜型プログラムの効果を測る初期的な指標といえる。

他地域への示唆

創業相談窓口とインキュベーション・成長支援機能を別々の組織や拠点で運営している自治体は少なくない。福岡市の事例が示すのは、両者を同一の運営体制に統合することで、企業のライフステージを跨いだ情報や関係性の引き継ぎが可能になるという設計思想である。施設の新設や大規模な予算投入を伴わずとも、既存の複数機能の運営主体を一本化するという組織上の再編だけで、支援の一貫性を高められる可能性がある点は、他地域でも応用しやすい。

FGNの運営思想は、コワーキングスペースという「ハード」の提供だけでは起業家の課題解決にはつながらず、起業家の課題を把握し適切な専門家やプログラムに橋渡しする専任スタッフという「ソフト」への投資が、施設の価値を左右することを示している。これは特定の建物や立地に依存しない再現性のある要素であり、既存の創業支援施設を持つ他自治体が運営の質を見直す際の着眼点になりうる。

また、支援対象を「入居企業」に限定せず市内全域のスタートアップにオンデマンドで開放する仕組み(FGNet)と、少数の高成長企業に絞った集中支援(High Growth Program)を併存させる二段階構造は、限られた運営リソースを持つ自治体が「支援の裾野拡大」と「象徴的な成功事例の創出」という異なる目的を同時に追求する際のモデルとして参考になる。

大学発シーズの事業化支援については、福岡市単独で九州大学との連携を深めるだけでなく、九州・沖縄・山口の22機関が参加する広域プラットフォーム「PARKS」に参画する形をとっている点も注目できる。単一の自治体・大学だけでは研究シーズの層の厚みに限界がある場合、都道府県境を越えた広域連携によって規模を確保するアプローチは、大学発スタートアップ創出を目指す他地域にとっても検討の余地がある。

参照元

2026年08月時点の調査内容に基づいて作成

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