
づなっちを活用した飯綱高原プロモーション事業~地域キャラクターによる観光振興と情報発信~
長野市芋井地区の飯綱高原観光協会が、1998年長野五輪会場だったスキー場の閉鎖後に休眠していた地域キャラクター「づなっち」の着ぐるみを修理し、8件のイベント出張とInstagram新設で飯綱高原の認知度向上を図った令和7年度の取り組み。
長野市芋井地区にある一般社団法人飯綱高原観光協会は、令和7年度、経年劣化していた地域キャラクター「づなっち」の着ぐるみを修理・クリーニングし、地域内外8件のイベントへ出張参加させるとともに、新たにInstagramアカウントを開設して継続的な情報発信を行った。飯綱高原のシンボルだったスキー場が2020年に閉鎖して以降、露出機会が乏しくなっていたキャラクターを再び「使える状態」に戻し、SNSと現地イベントの両輪で飯綱高原をあらためて知ってもらう機会を増やすことを狙った、小規模なプロモーション事業である。 (参考:支所発地域力向上支援金事業(令和7年度実績・評価)- 長野市公式ホームページ、支所発地域力向上支援金事業実施報告書(自己評価))
飯綱高原は長野市中心部の北方に位置する芋井地区の高原地で、1965年開業の飯綱高原スキー場を中心に発展してきた。同スキー場は1998年長野冬季五輪でフリースタイルスキー(モーグル・エアリアル)の競技会場にもなった、地域を象徴する観光資源だった。しかし積雪量の減少や周辺スキー場との競合、市町村合併に伴う戸隠スキー場との重複などを背景に利用者が減少し、市は年間約1億円の運営費を負担し続けた末、2020年2月16日をもって同スキー場の営業を終了した。 (参考:飯綱高原スキー場 - Wikipedia、長野五輪レガシー・旧飯綱高原スキー場跡地の「無料の雪遊び場」を守るため、クラウドファンディングを実施|NEWSCAST)
キャラクター「づなっち」は、このスキー場のマスコットとして2014年に誕生した。飯綱高原の北にそびえる飯綱山に伝わる「飯綱三郎天狗」(八天狗の一柱とされ、戦国期には武田・上杉・北条氏らが武運祈願の対象としたとも伝わる)をモチーフにしたカラス天狗の男の子で、誕生日は2月11日、左手には天狗のヤツデを持つ設定になっている。しかし2020年のスキー場閉鎖に伴い、づなっちの活動は年1回の「づなっち祭り」への登場を除いてほぼ休止状態となっていた。 (参考:づなっちって何者??|アマネ@飯綱高原(note))
一方、スキー場跡地の一部は2020年12月から、地元有志が「飯綱高原づなっち広場」として整備し、常駐スタッフを置かない無料の雪遊び場(そり・初心者向けスキー)として運営を続けてきた。だが運営は寄付とボランティアに頼る綱渡りの状態で、圧雪車の故障など維持費の負担も増していた。飯綱高原観光協会内で結成された30〜50代の地元出身者・移住者らによる「づなっち後援部」は、この広場の存続に向けたクラウドファンディングと並行して、キャラクターそのものの露出を取り戻す活動にも着手した。もっとも、づなっちの着ぐるみ自体が経年劣化で頭部の毛が抜け内部ベルトも破損するなど、そのままではイベント出演に耐えない状態であり、露出を増やす以前に「着ぐるみを再び使える状態に戻す」ことが最初の課題になっていた。 (参考:閉鎖スキー場の一部が無料の雪遊び場 長野市の「飯綱高原づなっち広場」存続を目指す地元の奮闘|信濃毎日新聞デジタル、飯綱高原 づなっち広場|ながの観光net、支所発地域力向上支援金事業実施報告書(自己評価))
1. 着ぐるみの修理・クリーニング
事業の起点として、経年劣化したづなっちの着ぐるみの修理を行った。全体のクリーニングに加え、抜け落ちていた頭部の毛を新規作成し、破損していた内部の装着ベルトも修理した。これにより、イベントへの出演や着用者の長時間活動に耐えられる状態まで着ぐるみを回復させた。事業費の大半は、長野市の芋井支所発地域力向上支援金でまかなわれている。 (参考:支所発地域力向上支援金事業実施報告書(自己評価))
2. 8件のイベントに顔を出したづなっち
修理を終えたづなっちは、2025年8月から2026年2月にかけて、飯縄火祭り(2025年8月10日)、信越五岳トレイルランニングレース2025(同9月15日)、Smile festival(同9月21日)、黒姫クラフト祭り(同9月28日)、芋生区民運動会(同10月12日)、飯綱町雪まつり2026(2026年1月24日)、づなっち祭り(同2月11日)、Nagano forest village Winter Fair(同2月22日)の8件のイベントに出張参加した。参加イベントは飯綱高原地元の祭りや運動会にとどまらず、隣接する信濃町の黒姫クラフト祭りや、飯綱町(上水内郡)の雪まつりなど、飯綱高原観光協会の活動圏の外側にある催しにも及んでいる。 (参考:支所発地域力向上支援金事業実施報告書(自己評価)、飯綱町雪まつり2026|Go NAGANO長野県公式観光サイト)
3. づなっち公式Instagramの開設と継続的な発信
づなっち公式のInstagramアカウント(zunacchi.iizuna)を新たに開設し、着ぐるみの活動写真やイベント告知を中心に定期投稿を行った。プロフィール欄では「旧飯綱高原スキー場で生まれた、鴉天狗の男の子!」という自己紹介とともに、後述するづなっち広場のクラウドファンディングへの支援も呼びかけており、着ぐるみ・イベント出張・SNS発信の3施策を一体的に運用する形をとっている。 (参考:支所発地域力向上支援金事業実施報告書(自己評価))
この事業と並行して、づなっち後援部は2025年12月15日から2026年2月28日にかけて、づなっち広場の今後3シーズン分の運営費確保を目的としたクラウドファンディングを実施した。目標金額150万円に対し、最終的に195人から201万2,500円(達成率134%)の支援を集めている。着ぐるみ・イベント出張・SNSという「キャラクターの露出」を担う本事業と、広場の運営資金を担うクラウドファンディングとは、実施主体・時期を共有しながらも役割の異なる二本立ての取り組みとして進められた。 (参考:旧飯綱高原スキー場の軌跡・づなっち広場とづなっちを未来に繋げたい。|For Good、づなっち広場クラウドファンディング開始のお知らせ|飯綱高原観光協会)
1. 施設ではなくキャラクターという「軽い資産」を再生の起点にした
スキー場という核となる観光施設が失われた後、その代替施設を新設するのではなく、既存のマスコットキャラクターという最も低コストで再生可能な資産に着目し、小規模な修理費でイベント出演可能な状態まで復旧させた。年間約1億円規模の運営費がかかっていたスキー場と比較すると、桁違いに小さな投資で「地域の顔」を取り戻した点は、施設喪失後の観光地が採り得る現実的な選択肢の一つを示している。
2. あえて活動圏の外側のイベントに出張し、新規層への露出を狙った
づなっちの出張先には、飯綱高原の地元行事だけでなく、隣接する信濃町の黒姫クラフト祭りや、上水内郡飯綱町の雪まつりといった、飯綱高原観光協会の管轄外にある他自治体のイベントも含まれている。地元イベントへの参加は既存の支持層との関係強化に留まりやすいのに対し、あえて活動圏の外に越境することで、飯綱高原をまだ知らない層への接点づくりを意図した動きと解釈できる。
3. 単年度の公的補助と継続運営費のクラウドファンディングを役割分担させた
本事業(着ぐるみ修理・イベント出張・SNS新設)は市の単年度小口補助でまかなわれた一方、づなっち広場という物理的な場の維持費(3シーズン分)は同じ団体が別途クラウドファンディングで調達している。単一の資金源にキャラクター再生と場の維持の両方を負わせるのではなく、性質の異なる資金調達手段を組み合わせて役割分担させている点は、限られた行政予算の中でキャラクター発の地域プロモーションを継続させる上での工夫といえる。
Instagramでの新規リーチ獲得
新設したInstagramアカウントは154件の投稿を行い、フォロワー337人を獲得した。12月12日から3月12日までの集計期間で閲覧数は合計45,397回に達し、フォロワーではないユーザーの閲覧が占める割合も、月ごとに6〜7割台という高い水準を保った。既存フォロワーへの発信にとどまらず、まだづなっちを知らない新規層にも投稿が届いていたことが確認できる。 (参考:支所発地域力向上支援金事業実施報告書(自己評価))
8件のイベント出張による多様な層との接点創出
飯縄火祭りや信越五岳トレイルランニングレースといったスポーツ・伝統行事の来場者、芋生区民運動会に集う地域住民、飯綱町雪まつりや黒姫クラフト祭りに訪れる他自治体の観光客・家族連れなど、異なる属性の来場者と直接触れ合う機会を8回にわたって創出した。飯綱高原観光協会の団体自己評価では、この一連の活動を「予定どおり」(事業の内容・効果とも標準評価)と位置づけている。 (参考:支所発地域力向上支援金事業実施報告書(自己評価))
市の事業評価は「普通」水準、次年度以降の継続に期待
長野市芋井支所による事業評価では、必要性・効果・将来性の3項目がいずれも5段階中「3(普通)」と評価されている。支所長の総合評価コメントでは、づなっちによるPR活動とSNS発信が飯綱高原の魅力発信・認知度向上に資する取り組みであるとしつつ、関連グッズ作成などの今後の計画を踏まえ「今後も引き続き活動を継続することで飯綱高原の知名度・集客力向上等への効果を期待する」としており、単年度の再生活動そのものを高く評価するというより、継続を前提とした期待にとどまる評価となっている。 (参考:支所発地域力向上支援金 事業評価(芋井支所))
関連するづなっち広場クラウドファンディングの成立
本事業と時期を重ねて実施された、づなっち広場の運営費確保のためのクラウドファンディングは、目標150万円に対し195人から201万2,500円(達成率134%)を集めて成立した。両施策の因果関係を直接示す情報源はないものの、キャラクターの露出拡大とクラウドファンディングが同じ団体・同じ時期に並走したことは、飯綱高原観光協会の再生活動全体への関心の高まりを示す一つの傍証といえる。 (参考:旧飯綱高原スキー場の軌跡・づなっち広場とづなっちを未来に繋げたい。|For Good)
核となる観光施設を失っても、キャラクター資産は低コストで再生できる
老朽化や採算悪化で主要施設を廃止せざるを得ない地域は少なくないが、その地域が育ててきたマスコットキャラクター自体は、着ぐるみの修理といった小規模投資で再稼働させることができる。施設という「箱」を失った後も、キャラクターという「顔」を残し続けることで、地域の物語や記憶を途切れさせずに次の展開へつなぐ選択肢になり得る。
地元イベントだけでなく、あえて域外のイベントに出張する
地域キャラクターの露出戦略は地元の祭りへの参加にとどまりがちだが、本事例のように隣接自治体のイベントへ意図的に出張することで、既存の関係者との関係強化ではなく、その地域を知らない新規層への接点づくりを狙うことができる。この手法は特定の場所や人に依存せず、他地域でも再現しやすい。
単一の資金源に頼らず、性質の異なる財源を組み合わせる
単年度・小口の行政補助はキャラクター再生のような「初期投資」に、継続的な運営費はクラウドファンディングのような「反復調達」に、それぞれ役割を分けて充てる設計は、限られた自治体予算の中で地域プロモーションを持続させるための現実的な資金構成の一例となる。
評価は「普通」でも、継続性を前提とした投資判断があり得る
本事業に対する市の評価は必要性・効果・将来性いずれも中位(5段階中3)にとどまっており、単年度の取り組みだけで観光振興上の劇的な効果を主張できる段階ではない。裏を返せば、初年度に飛躍的な成果が出なくても、着ぐるみという基盤設備が整った状態を土台に翌年度以降の活動実績を積み上げていくという、時間軸を長く取った評価の仕方が、地域キャラクターを用いたプロモーション施策には適している可能性を示している。
2026年8月時点の調査内容に基づいて作成
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