
第三期長野市中心市街地活性化基本計画「門前都市ながの」
長野市が2026年3月に内閣総理大臣認定を取得した第三期中心市街地活性化基本計画。善光寺表参道を軸とする237haで51事業を展開し、人口動態の回帰分析と事業別効果の積み上げによる定量的な目標設定など、データに基づく計画運営を実践する。
長野市は2026年3月17日、「第三期長野市中心市街地活性化基本計画」について内閣総理大臣の認定を取得した。この日は横手市、浜松市、伊勢市、松山市など全国11市町村の計画が同時に認定された「第49次」の認定であり、長野市の計画も全国的な中心市街地活性化の枠組みの中に位置づけられている。 (参考:第三期長野市中心市街地活性化基本計画 - 長野市公式ホームページ、令和7年度に認定された中心市街地活性化基本計画 - 内閣府地方創生推進事務局)
計画期間は2026年4月から2031年3月までの5年間で、「歴史を紡ぎ 未来を創造するまち『門前都市 ながの』」をテーマに掲げる。長野駅から善光寺に至る善光寺表参道を軸とする中心市街地約237haを対象に、「多様な都市機能の充実による、誰もが生きがいを感じて暮らせるまちの実現」「門前町の歴史や文化を活かしつつ、新たな魅力を生み出せるまちの実現」「日常と非日常が行き交う、歩いて楽しめるまちの実現」という3つの基本方針の下、4つの目標・5つの目標指標を設定し、新規34事業を含む計51事業を推進する。 (参考:長野市中心市街地活性化基本計画 概要版)
長野市の中心市街地活性化基本計画はこれが3期目にあたる。国認定の第一期計画(2007〜2012年度、全54事業)、第二期計画(2012〜2017年度、全44事業)に続き、2017年度から2025年度までは市独自の「長野市中心市街地活性化プラン」(全39事業)で取り組みを継承してきた。第三期計画は、このプランの実績評価と2024年度に実施した市民アンケートの結果を踏まえて策定されている。 (参考:長野市中心市街地活性化プラン - 長野市公式ホームページ、長野市中心市街地活性化基本計画(全編))
第二期計画の認定期間終了後、長野市は第二期計画の内容を継承する市独自の「中心市街地活性化プラン」(2017年10月〜2026年3月、全39事業)で活性化に取り組んできた。プランに位置づけた39事業のうち、計画期間内に完了したのは17事業、実施中が20事業、未着手が2事業だった。未着手事業の要因としては、想定していた低未利用地が民間主体で高度利用されることになった「権堂地区にぎわい滞留空間整備事業」や、沿道の土地利用計画変更で道路の在り方の再検討が必要になった「千歳町通りふれあいの道整備事業」が挙げられている。 (参考:長野市中心市街地活性化基本計画(全編))
目標指標では、プランが掲げた5指標のうち、善光寺仁王門前の歩行者・自転車通行量(目標26,000人/日に対し実績31,951人/日)と、中央通り・権堂アーケード沿いの空き店舗数(目標21件に対し実績17件)の2指標は達成した。一方、総人口に対する中心市街地の人口比率(目標2.65%に対し実績2.55%)、中心市街地6地点の歩行者・自転車通行量(目標108,000人/日に対し実績101,449人/日)、もんぜんぷら座・生涯学習センター・権堂イーストプラザ市民交流センターの年間利用者数(目標550,000人に対し実績343,406人)の3指標は未達成に終わった。特に交流施設の利用者数は、新型コロナウイルス感染症の影響で2020年度に大きく落ち込んだ後、対面からオンラインへ会議・セミナーの手段が移行した影響もあって、コロナ禍前の水準まで回復していない。 (参考:長野市中心市街地活性化基本計画(全編))
2024年度、18歳以上の長野市民から5,000人を無作為抽出してまちづくりアンケートを実施し、2,476件の回答を得た。プランの4方針それぞれについて「実現できていると思うか」を尋ねたところ、「そう思う」「ややそう思う」の合計が最も高かったのは「行きたくなるまち(門前町としての歴史・文化)」で59.7%、次いで「巡りたくなるまち(歩きたくなる空間)」が32.7%、「住みたくなるまち(住環境)」が32.6%だった一方、「交わりたくなるまち(世代を超えた交流の場)」は16.7%にとどまり、4方針の中で最も評価が低かった。この結果は、第三期計画で「生きがいを感じるまち」という目標を新設し、市民交流施設の利用促進を重点課題として位置づける根拠の一つになっている。 (参考:長野市中心市街地活性化基本計画(全編))
こうした実績評価とアンケート結果を踏まえ、第三期計画では中心市街地活性化に向けた課題を4点に整理している。第一に、マンション建設による居住人口の下支えが期待される一方、コロナ禍で落ち込んだ公共施設の利用者数が回復していない「まちなか居住と交流の促進」。第二に、門前に点在する魅力的な個店などの地域資源の存在感が来訪者に伝わりきっておらず、回遊行動が中心市街地全体に広がっていない「地域資源の活用促進」。第三に、担い手不足による個店の減少やインバウンド・若者ニーズへの対応不足という「魅力ある商業環境の充実」。第四に、善光寺表参道(中央通り)のうち長野駅から新田町交差点までの区間が歩行者優先道路化未整備のままである「まちなかの回遊を促す歩きたくなるまちづくり」である。 (参考:長野市中心市街地活性化基本計画 概要版)
第三期計画では、独自プランの区域216haを踏襲しつつ、新たに「城山公園一帯」(約14.5ha)と「西鶴賀町一帯」(約6.5ha)を加え、対象エリアを約237haに拡大した。城山公園一帯は、2020年策定の「城山公園再整備基本構想」に基づき2021年に噴水広場などの再整備が進められてきたエリアで、長野県立美術館などの文化施設と一体になった「観光・文化・レクリエーションの拠点」と位置づけられている。西鶴賀町一帯は、権堂アーケード東側に位置し、2018年12月に始まった「西鶴賀エリアリノベーション」により、若者を中心に新規出店の機運が高まっていたエリアである。同事業は長野市中心市街地活性化協議会と長野県建築士会ながの支部が手を組んで進めてきた取り組みだ。先行して積み重ねられてきた遊休不動産活用の実践を町一帯へ波及させ、住民同士のつながりを厚くしながら回遊性も高める狙いで区域に追加された。 (参考:長野市中心市街地活性化基本計画(全編))
第三期計画は、独自プランで使っていた指標を継承しつつ、一部を見直し・追加して4目標・5指標を設定した。目標値の算出方法が特徴的で、まず2017〜2024年度(コロナ禍の2020〜2022年度を除く)の実績値を回帰分析し、2030年度(令和12年)のベースライン推計値を求めたうえで、個別事業による効果を定量的に積み上げる方式をとっている。例えば「中心市街地の人口」の目標値9,800人は、回帰分析による推計値9,526人に、長野駅前B-1地区市街地再開発事業で整備予定の共同住宅178戸に令和6年時点の中心市街地の平均世帯人数1.77人を乗じた315人を加えて算出されたものだ。同様に「中心市街地内のホテルの宿泊者数」は、観光庁の宿泊旅行統計調査のデータを基準に、長野灯明まつりなど集客イベントの拡充による増加分20,500人を積み上げて目標値895,000人としている。 (参考:長野市中心市街地活性化基本計画(全編))
51事業(新規34事業)は、4つの目標ごとに整理されている。「住みたくなるまち」では長野駅前B-1地区市街地再開発事業や北石堂町共同住宅等整備事業などの住宅供給・都市機能更新、「生きがいを感じるまち」ではもんぜんぷら座・長野市芸術館の運営や、こども広場「じゃん・けん・ぽん」など子育て世代の交流拠点運営、「訪れたくなるまち」では長野灯明まつりや善光寺表参道まち歩きなどの観光イベント、インバウンド等対応店舗支援事業、事業承継促進事業などの商業支援、「歩きたくなるまち」では中央通り歩行者優先道路化事業(第II期)や、城山公園・TOiGO広場・セントラルスクゥエア・南千歳町公園・長野駅東口公園という5つの公共空間の活用事業、自動運転バス導入事業などが位置づけられている。 (参考:長野市中心市街地活性化基本計画 概要版)
計画の推進主体である長野市中心市街地活性化協議会は、2006年9月27日に株式会社まちづくり長野と長野商工会議所を中心に設立された法定組織で、2025年4月末時点で会員数35を数える。商店街振興組合や不動産関連団体、信州大学の研究室、地元金融機関などが協力会員として名を連ねる。協議会には任期2年のタウンマネージャーが置かれ、総会・運営会議・個別プロジェクト検討会議を通じて基本計画との整合性確認や関係機関の調整、各プロジェクトの推進支援にあたっている。 (参考:長野市中心市街地活性化基本計画(全編))
多くの中心市街地活性化基本計画では、目標値の設定根拠が「過去の傾向を踏まえて」といった定性的な説明にとどまりがちだが、第三期計画は「回帰分析によるベースライン推計値+個別事業による増加数」という形で、どの事業がどれだけの効果を生むと見込んでいるかを数式で明示している。人口指標であれば住宅整備事業の予定戸数に平均世帯人数を乗じる、宿泊者数指標であればイベント拡充による来訪増を積み上げるといった具合で、事業と指標の因果関係を計画書上で追跡できる設計になっている。
「事業承継促進事業」(中小企業の事業承継コンサルティング費用等を補助)は、目標4「歩きたくなるまち」の指標である空き店舗数削減に直接ひも付けられている。個店経営者の高齢化による廃業を防ぐことが、まちなかの空き店舗を減らし回遊性を維持することにつながるという論理を明示的に計画へ組み込んでおり、補助金の目的とKPIの対応関係が曖昧になりがちなソフト事業の中で、評価可能性を意識した設計といえる。 (参考:長野市中心市街地活性化基本計画(全編))
西鶴賀町一帯の区域追加は、2018年から協議会と建築士会が民間主導で進めてきたリノベーションまちづくりの実績を追認する形で行われた。先に現場で小さく実践し、成果が積み上がった段階で正式な計画区域に組み込むという順序は、行政計画が民間の自発的な取り組みを後追いで制度に位置づける一つのモデルとして参考になる。
「自動運転バス導入事業」は、バス乗務員不足により市街地循環バスや路線バスが減便・廃線を余儀なくされる可能性を見据え、2025年度から可能性調査を開始し、2026〜2027年度に国土交通省の自動運転社会実装推進事業を活用して試験運行から本格導入を目指す事業である。中心市街地の回遊性維持という文脈での位置づけだが、バス運転士不足は全国の地方都市に共通する課題であり、中心市街地活性化の枠組みの中に公共交通の担い手不足対策を明確に組み込んだ点は、同様の課題を抱える他都市にとっても示唆的である。 (参考:長野市中心市街地活性化基本計画(全編))
第三期計画は2026年4月に始まったばかりであり、計画に基づく51事業の効果はこれから検証される段階にある。2026年8月時点で確認できる成果は、内閣総理大臣認定の取得という到達点そのものであり、これにより中心市街地活性化交付金など国の支援措置の活用が可能になった。 (参考:第三期長野市中心市街地活性化基本計画 - 長野市公式ホームページ)
前身の独自プラン期(2017〜2025年度)の実績を振り返ると、善光寺仁王門前の歩行者・自転車通行量と中心市街地の空き店舗数の2指標は目標を達成した一方、人口比率・回遊性・交流施設利用者数の3指標は未達成に終わった。特に交流施設利用者数はコロナ禍からの回復が遅れ、目標値の6割強にとどまった。この未達成の経緯が、第三期計画における「生きがいを感じるまち」という目標の新設や、長野市芸術館を指標対象施設に加えるといった指標見直しに直接反映されており、前計画の評価結果が次期計画の設計に組み込まれるサイクルが機能していることが確認できる。 (参考:長野市中心市街地活性化基本計画(全編))
西鶴賀町一帯では、区域追加に先立つ2018年からのリノベーションまちづくりにより、拠点となる「9軒長屋」を中心に食堂そら、Santa Cruz、下町食堂つるよしなど複数の飲食店が営業するに至っており、2025年11月にも株式会社まちづくり長野主催で「空き家探検ワークショップ」が開催されるなど取り組みは継続している。これは第三期計画そのものの成果ではないが、区域拡大の判断を裏づける実績として位置づけられる。 (参考:西鶴賀エリアリノベーション - 株式会社まちづくり長野、ごーやねっと)
「人口目標=ベースライン推計値+特定事業による増加数」という積み上げ方式は、他の自治体が中心市街地活性化基本計画や立地適正化計画のKPIを設定する際にも応用できる。目標値の妥当性を対外的に説明しやすくなるだけでなく、計画期間中に事業の進捗が遅れた場合、どの指標にどの程度の影響が出るかを逆算しやすいという実務上の利点もある。
長野市では、独自プランの進捗を外部有識者で構成する「長野市中心市街地活性化基本計画評価専門委員会」に定期的に報告し、フォローアップを重ねてきた。この委員会への報告と市民アンケートの結果が、次期計画の目標体系や重点事業の見直しに反映される仕組みは、単年度の事業評価にとどまらない中長期的なPDCAの実例である。特に、定量指標では捉えにくい「まちへの満足度」を方針別・年代別クロス集計で把握し、目標の優先順位づけに活用している点は、定量・定性の両輪で計画を検証する手法として他地域でも再現可能である。 (参考:長野市中心市街地活性化基本計画(全編))
事業承継支援と空き店舗数、子育て支援施設の運営と人口指標というように、直接的な公共投資を伴わないソフト事業であっても、既存のハード系KPIとの関連づけを明示する手法は、補助金の効果検証が曖昧になりがちな商業振興・福祉的施策の評価可能性を高める工夫として参考になる。
エリアの将来像を行政が単独で構想するのではなく、西鶴賀町一帯のように民間・協議会主導のリノベーション実践が一定の実績を積んだ段階で正式な計画区域に組み込む進め方は、制度が現場の変化を追認しながら拡張していくアプローチとして、他都市の中心市街地活性化計画の改定時にも応用の余地がある。
2026年8月時点の調査内容に基づいて作成
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