
中央通りを軸としたまちづくり勉強会
長野駅と善光寺を結ぶ中央通り(善光寺表参道)のうち歩行者優先化が及ばなかった区間を対象に、長野市とUDC信州が2023年度から開催する官民連携の勉強会。現状把握とビジョン共有を段階的に積み重ね、2026年5月の社会実験実施へとつなげたプロセスを追う。
中央通りを軸としたまちづくり勉強会は、長野駅と善光寺を結ぶ中央通り(善光寺表参道)のうち、長野駅前交差点から新田町交差点(もんぜんぷら座付近)までの区間を対象に、長野市が2023年度(令和5年度)から開催している官民連携の勉強会である。長野市都市計画課が主催し、UDC信州(信州地域デザインセンター)が事務局運営を支援している。 (参考:長野市の「第8回中央通りを軸としたまちづくり勉強会」に参加しました! - UDC信州)
対象区間は、2004年から2008年にかけての社会実験を経て2015年に歩行者優先化整備が完了した南側区間(新田町交差点〜大門南交差点)とは異なり、長期にわたり「未整備区間」として残されてきた北側区間である。勉強会は令和5年度に現状把握、令和6年度にビジョンの構築・共有を行い、その後の社会実験の検討へとつなげる段階的な進行で運営された。 (参考:第三期長野市中心市街地活性化基本計画 - 長野市)
この勉強会での議論の蓄積は、2026年5月に実施された「長野駅善光寺口みらいストリート」社会実験(区間を絞った車両通行規制・歩道拡幅の実証実験)として具体化されており、行政主導のハード整備計画に先行して住民・事業者とビジョンを共有するプロセスの一例となっている。 (参考:長野駅善光寺口で社会実験が実施されます! - UDC信州)
長野市の中央通り(善光寺表参道)は、JR長野駅から善光寺に至る長野市都心部の南北軸である。1998年の長野オリンピックに向けた市内道路整備をきっかけに商業施設の郊外移転が進み、大型店の撤退が続いたことから、地元商店街が危機感を強めた。2002年、地元商店街が主体となった勉強会が始まり、道路の活用方法をめぐる検討が行政と共に進められた。 (参考:長野市中央通り - 国土交通省)
こうした議論の過程で、長野市がかねて温めていた歩行者優先化の構想に注目が集まり、2004年から2008年にかけて計7回の社会実験が実施された。実験では歩道を広げて青空カフェや臨時の物品販売などを展開し、車両の通行を制限した結果、実験を重ねるにつれ歩行者・自転車の通行量は実験前より伸び、参加者の8割前後が歩行者優先化を好意的に受け止めたという結果も出ている。2006年には学識経験者や商工関係者らで構成する計画策定検討委員会が設置され、2015年3月に新田町交差点から大門南交差点までの約700m区間(車道幅員9m→6m、歩道幅員各4.5m→6m、可動式ボラードによる仕切り)の整備が完了した。 (参考:長野市中央通り - 国土交通省、長野中央通り - Wikipedia)
一方、長野駅前交差点から新田町交差点までの北側区間(約690m)は歩行者優先化整備の対象から外れたまま残された。長野市中心市街地活性化基本計画では、この未整備区間の存在を「まちなかの回遊を促す歩きたくなるまちづくり」の課題として位置づけ、居心地の良い歩行者空間・滞留空間の整備というハード面の取組と、にぎわい創出に向けた利活用というソフト面の取組を一体的に進める必要性を指摘している。 (参考:第三期長野市中心市街地活性化基本計画 - 長野市)
2022年2月、長野市は長野駅から新田町交差点にかけての一帯(面積約72ha)を対象範囲とする「長野中央西地区市街地総合再生基本計画」を策定した。同計画は、老朽化した建物や利用されない土地が増えているという課題に対応し、官民連携でまちづくりを進めるためのガイドラインであり、重点プロジェクトの一つとして「中央通りウォーカブル推進事業」を位置づけた。スケジュールでは、令和4年度から令和8年度までの5年間を「推進体制構築・整備計画策定・社会実験」の期間、令和8年度から令和13年度までを「道路整備・滞在快適性等向上施設整備」の期間としている。 (参考:長野中央西地区市街地総合再生基本計画の策定 - 長野市、長野中央西地区市街地総合再生基本計画(案) - 長野市)
この計画には「事業の推進にあたっては、沿道の商店会とともに勉強会を開催し、沿道を含めた道路の空間づくり、整備後の道路空間の活用、景観形成などについて研究を進め、今後、様々な主体の参加を促しながらエリアマネジメントによるまちづくりに発展させていく」と明記されており、これに基づいて2023年度から開催されているのが本事例の勉強会である。単独の自治体だけでは確保が難しい専門人材や継続的な伴走支援を補うため、長野県・UR都市機構・東京大学・信州大学が公民学連携で2019年8月に設立した広域型の中間支援組織UDC信州が、長野市都市計画課とともに事務局を担う体制がとられた。 (参考:第三期長野市中心市街地活性化基本計画 - 長野市、UDC信州とは - UDC信州)
令和5年度(2023年度):現状把握のフィールドワーク
まちあるきを中心としたフィールドワークを通じて、中央通り沿道の魅力と課題の抽出が行われた。対象区間は5つの区間に分けて検討され、各区間の特性を踏まえた議論の土台が作られた。 (参考:長野市の「第8回中央通りを軸としたまちづくり勉強会」に参加しました! - UDC信州)
令和6年度(2024年度):将来ビジョンの構築・共有
現状把握を踏まえ、中央通りの将来像(ビジョン)を構築・共有する議論が進められた。2025年3月25日に開催された第8回勉強会では、1/50スケールの空中写真を使ったワークショップが行われ、5区間ごとに参加者がテーブルを囲んで意見交換した。議論では、長野駅前区間の歩行者空間化、ペデストリアンデッキの設置、ウォーカブル空間の600m圏を意識したモビリティ配置、新田町周辺へのモビリティハブ設置など、具体的な空間活用案が提案された。 (参考:長野市の「第8回中央通りを軸としたまちづくり勉強会」に参加しました! - UDC信州)
2025年8月:道路愛称「善光寺表参道」の決定
長野駅前交差点から善光寺交差点までの約1.5km区間(市道長野西944号線・市道長野中央通り)について、道路愛称名「善光寺表参道」が正式決定された。以降、市の計画文書でも中央通りに代えて「善光寺表参道」の名称が用いられるようになっている。 (参考:道路愛称名「善光寺表参道」の決定 - 長野市)
2026年5月:社会実験「長野駅善光寺口みらいストリート」の実施
勉強会での検討を踏まえ、2026年5月3日から4日にかけて「長野駅善光寺口みらいストリート」社会実験が実施された。長野駅前交差点から末広町交差点までの「みらいアートエリア」では歩道を広げる形での利活用が2日間、末広町交差点から西友南石堂店南交差点までの「グルメエリア」では歩行者天国としての利活用が初日のみ試行された。善光寺口商店会と長野市都市計画課を事務局とする実行委員会が主催し、ウエルカムガーデンやベンチなどの休憩施設の設置、参加型アートイベント、キッチンカーの出店が行われ、信濃毎日新聞の報道によれば多くの人出でにぎわったという。同年内には善光寺御開帳期間にあわせた追加実施も予定されている。 (参考:GWに長野駅前の善光寺表参道で歩行者優先の社会実験 - 信濃毎日新聞、歩きたくなる長野市街地へ社会実験 歩道広げ休憩スペース設置 - 信濃毎日新聞)
令和8年度以降:道路本体整備への移行
長野市中心市街地活性化基本計画では、「中央通り歩行者優先道路化事業」(延長約690m、幅員18〜22m、事業主体:長野市)が令和8年度から着手予定の事業として位置づけられている。事業内容は道路空間の再配分と美装化であり、国の社会資本整備総合交付金を活用して令和9年度までの実施が見込まれている。あわせて、歩行者利便増進道路(ほこみち)制度を活用し、民間事業者がオープンカフェ等を展開する「もんぜん青空テラス事業」も同時期に計画されている。 (参考:第三期長野市中心市街地活性化基本計画 - 長野市)
1. 積み残された区間への「二段構え」の取り組み
2004〜2008年の社会実験は南側区間の歩行者優先化を実現させたが、長野駅寄りの北側区間は未整備のまま20年近く残された。今回の勉強会は、その積み残し区間を長野中央西地区市街地総合再生基本計画に重点プロジェクトとして明記し直し、新たな座組みで着手し直した点に特徴がある。一部区間の整備で終わらせず、未完の区間を上位計画に位置づけ直して仕切り直す進め方は、同種の「整備半ば」のプロジェクトを抱える他自治体にも参考になりうる。 (参考:長野中央西地区市街地総合再生基本計画の策定 - 長野市)
2. ハード整備に先行するビジョン共有プロセス
2004年の社会実験は「まず実験してみる」形で始まったのに対し、今回の勉強会は令和5年度の現状把握、令和6年度のビジョン共有という2年間の対話フェーズを経てから、社会実験・整備計画策定に進む設計になっている。ハード整備の前に関係者間で将来像を言語化・共有する期間を明確に区切ったことは、事業への理解を段階的に積み上げる進行管理のモデルといえる。 (参考:長野中央西地区市街地総合再生基本計画(案) - 長野市)
3. 広域型中間支援組織による伴走
事務局は長野市都市計画課単独ではなく、UDC信州が共同で担っている。UDC信州は長野県・UR都市機構・東京大学・信州大学が連携して2019年8月に設立した広域型の都市デザインセンターであり、単一の市町村では確保しにくい専門人材や知見を、複数の自治体のまちづくりに横断的に投入する仕組みを持つ。人口規模の小さい自治体でも専門性の高い伴走支援を受けられる体制は、地方都市における公民連携の一つのモデルとなる。 (参考:UDC信州とは - UDC信州)
4. 縮尺模型・空中写真を用いた具体性のあるワークショップ
抽象的な意見交換にとどまらず、1/50スケールの空中写真の上に区間ごとの提案を書き込むワークショップ手法を採用した点も特徴である。ペデストリアンデッキやモビリティハブといった具体的な空間要素を地図上で検討することで、参加者間の合意形成を空間的なイメージレベルまで引き上げている。 (参考:長野市の「第8回中央通りを軸としたまちづくり勉強会」に参加しました! - UDC信州)
ビジョンの構築・共有と継続的な開催
令和5年度の現状把握を経て、令和6年度にかけて中央通りの将来像(ビジョン)の構築・共有が進められた。2025年3月時点で少なくとも8回の勉強会が開催されており、区間ごとの具体的な活用案(駅前歩行者空間化、ペデストリアンデッキ、モビリティハブ設置など)が積み上げられている。 (参考:長野市の「第8回中央通りを軸としたまちづくり勉強会」に参加しました! - UDC信州)
社会実験の実施という具体的なアクションへの接続
勉強会での検討は、2026年5月の「長野駅善光寺口みらいストリート」社会実験として具体化された。長野駅前交差点から西友南石堂店南交差点までの区間を2エリアに分け、歩道拡幅と歩行者天国による歩行者空間化をそれぞれ実証し、報道でも「多くの人でにぎわった」と伝えられている。議論を重ねるだけでなく実空間での検証という次の段階に進んだことは、この時点での明確な到達点である。 (参考:歩きたくなる長野市街地へ社会実験 歩道広げ休憩スペース設置 - 信濃毎日新聞)
行政計画への事業化と定量目標の設定
2026年3月17日に内閣総理大臣認定を受けた第三期長野市中心市街地活性化基本計画(計画期間:令和8年4月〜令和13年3月)では、中央通り歩行者優先道路化事業(延長約690m)が令和8年度着手予定の個別事業として明記され、国の社会資本整備総合交付金の活用も位置づけられた。同計画は目標指標の一つとして、善光寺表参道及び権堂アーケード沿い1階部分の空き店舗数を令和6年の17件(空き店舗率5.3%)から令和12年に13件(空き店舗率4%)へ削減する数値目標を設定している。この空き店舗数削減の事業効果は主に空き店舗等活用事業など個別の商業支援施策に紐づけられているが、同計画は「歩きたくなるまち」という上位目標のもとで、中央通り歩行者優先道路化事業と空き店舗活用施策をあわせて回遊性向上に資する取り組みとして位置づけている。勉強会での対話が、具体的な予算事業・数値目標を伴う認定計画として結実したことは、実装フェーズへの接続を示す成果として評価できる。 (参考:第三期長野市中心市街地活性化基本計画 - 長野市)
道路愛称の統一による認知形成
2025年8月には、長野駅から善光寺までの約1.5km区間の道路愛称が「善光寺表参道」に正式決定された。勉強会が対象とする区間を含む通り全体の呼称が統一されたことで、来街者や事業者に向けた認知形成の基盤が整った。 (参考:道路愛称名「善光寺表参道」の決定 - 長野市)
1. 「整備半ば」の区間を上位計画に明記して仕切り直す
一部区間だけ整備が完了し、残りの区間が長年手つかずのまま残るケースは、道路・公園・商店街など多くの自治体で見られる典型的な状況である。今回の事例は、未整備区間を市街地再生計画という上位計画に明記した上で、新たな勉強会という座組みを立ち上げて再起動させた。過去の経緯に引きずられず、計画文書への明記という形で優先順位を公式に再設定する手法は、停滞したプロジェクトを持つ他地域でも再現しやすいアプローチである。
2. 対話フェーズと実装フェーズを時間軸で明確に分離する
現状把握(1年目)、ビジョン共有(2年目)、社会実験・整備計画策定(3年目以降)と段階を年度単位で区切った進行管理は、性急に社会実験や設計に進むのではなく、関係者の理解を段階的に積み上げる手法として、特定の個人の主導力に依存せず他地域でも再現可能である。
3. 広域型中間支援組織との連携による専門性の確保
UDC信州のように県域規模で活動する中間支援組織と連携する体制は、専属の都市デザイン専門職を抱えにくい中小規模の自治体にとって、外部の専門性を継続的に取り込む現実的な選択肢となる。単発のコンサルタント委託と異なり、複数自治体の知見が横断的に蓄積される点も、他地域が参考にできる要素である。
4. 対話の成果を数値目標・予算事業に接続する
勉強会での議論を空き店舗率の削減目標や、具体的な交付金事業(中央通り歩行者優先道路化事業)に接続したことで、対話が単なる意見交換で終わらず、内閣総理大臣認定を受けた行政計画上の実装コミットメントとして残った。ワークショップの成果を上位計画の個別事業・数値目標に落とし込む工程を意識することは、他地域での合意形成プロセスにも応用できる。
2026年8月時点の調査内容に基づいて作成
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