
若槻自然遺産巡り散策コースマップ作成事業
長野市若槻地区の住民自治協議会が2012年度からの環境調査・住民推薦による候補選定・参加型見学会を重ねて2015年度に自然遺産ガイドマップを作成。年2〜3回の散歩会を約8年続けた経験を踏まえ、2023年度に7つの散策コースマップを新たに制作し全戸配布した。
長野市北部、三登山(923m)の山麓に広がる若槻地区で、住民自治協議会「コミわか」(若槻地区住民自治協議会)が2012年度から地域内の自然資源を発掘・評価する取り組みを続け、2015年度に「若槻自然遺産ガイドマップ」を作成した。その後、掲載スポットを紹介する「若槻自然遺産散歩会」を年2〜3回開催して普及に努めてきたが、住民がいつでも自由に歩けるコース情報へのニーズが高まったことを受け、2023年度には散歩会の経験を凝縮し、7コースにまとめた「若槻自然遺産巡り散策コースマップ(歩いて出会う若槻の自然)」を新たに制作し、2024年3月に全戸配布した。 (参考:若槻地区住民自治協議会 コミュニティわかつき|環境部)
若槻地区は、長野市北部を南北に走る旧北国街道沿いに稲田・徳間・若槻東条・上野・田中・田子・吉など11の区が連なるエリアで、人口約1.96万人、高齢化率30%超(長野市全体の高齢化率とほぼ同水準)の住宅・商業地域である。かつての桑畑やりんご畑は宅地化が進み、若槻大通りやサンロードなどの幹線道路沿いには商業施設が集積する一方、三登山の山裾には里山の緑や湧水、ため池が今も点在している。 (参考:若槻地区住民自治協議会 コミュニティわかつき|若槻地区の概要)
住民自治協議会の環境部自然環境部会(旧・自然活用部会)は、都市化とともに身近な自然への住民の関心が薄れつつあることに危機感を抱き、2012年度に「若槻環境調査」を開始した。最初の一歩として昭和の森公園で里山の生態を調べるところから着手し、地区に残る貴重な自然や見慣れた風景を次世代に引き継ぎたいという問題意識を、住民同士で少しずつ共有していった。2013年度からは自然遺産候補の選定に着手し、地区内の各区に推薦を依頼したところ、部会推薦を含め22件の候補が寄せられた。2014年度はこれら候補地の現況調査と評価のため、一般募集による参加者とともに見学会を重ね、多くの感想・意見を集めた。この3年間の積み上げを経て2015年度、長野市の「地域やる気支援補助金」の交付を受け、部会内に専門委員会「若槻自然遺産委員会」を設け、「若槻自然遺産ガイドマップ」(第1期登録・18件)を編集・刊行し全戸配布した。 (参考:若槻自然遺産ガイドマップ(PDF))
しかしガイドマップは名所解説が中心で、掲載スポットを実際にどう歩けばよいかという実践的な情報は含まれていなかった。この課題を埋めるため、部会は「若槻自然遺産散歩会」と称する現地散策会を年2〜3コースずつ開催してガイドマップの普及に努めたが、散歩会は開催日時・定員が限られるイベント形式であり、参加できなかった住民がいつでも自由にガイドマップ掲載地を歩ける手段は用意されていなかった。散歩会を重ねるうち、散策の手本となるルートをまとめた冊子がほしいという要望が住民の間で繰り返し聞かれるようになり、それが2023年度の散策コースマップ制作事業に直接つながった。 (参考:若槻自然遺産巡り散策コースマップ(PDF))
自然環境部会は2012年度に若槻環境調査を開始し、2013年度には地区内の自然遺産候補の選定に着手した。区ごとに推薦を依頼する方式をとったことで、部会推薦を含め22件の候補が集まった。2014年度はこれらの候補地について、一般募集で参加者を募った見学会を重ねて現況調査と評価を行い、住民から幅広い感想・意見を収集した。 (参考:若槻自然遺産ガイドマップ(PDF))
2015年度、長野市の「地域やる気支援補助金」の交付を受け、部会内に専門委員会「若槻自然遺産委員会」を設置。それまでの調査・選定の成果を集約し、土京川のホタル、県内唯一の特別な公園という位置づけの昭和の森公園、昭和10年建設の鬼岩トンネルと奇岩群、若槻十三湖と呼ばれる13のため池、湧水群・鉱泉群、桜の名所、市指定の保存樹木・樹林(5か所)、眺望スポットなど計18件を第1期登録として掲載したA5判8ページの「若槻自然遺産ガイドマップ」を刊行し、全戸配布した。 (参考:若槻自然遺産ガイドマップ(PDF))
ガイドマップ刊行後、掲載スポットを実際に歩いて知ってもらう場として「若槻自然遺産散歩会」を毎年2〜3コース開催し、ガイドマップの普及を図った。散歩会の実施を重ねる中で、住民がいつでも自由に歩けるコースとしての情報整備を求める要望が寄せられるようになった。 (参考:若槻自然遺産巡り散策コースマップ(PDF))
2023年度、若槻地区住民自治協議会の環境部自然環境部会が担当事業として冊子づくりの予算措置を得たことで、散歩会で積み重ねた経験をもとに地区内の主要な自然遺産を巡る7つの散策コースが編み出された。髻山・三登山林道コース(4.5km/3時間)、山千寺と旧水道道路コース(4km/3時間)、田子池と保存樹林・樹木コース(3km/2.5時間)、水の恵:溜池群巡りコース(6.5km/3.5時間)、徳間池と保存樹林・樹木コース(5km/3時間)、昭和の森とサクラ巡りコース(3.5km/2.5時間)、街中オアシス巡りコース(4.5km/3時間)の7コース(合計約31km)で構成される「若槻自然遺産巡り散策コースマップ(歩いて出会う若槻の自然)」を制作し、2024年3月に発行、全戸配布した。あわせて住民自治協議会の公式サイトへ掲載し、市立若槻公民館でも入手できるようにした。 (参考:若槻自然遺産巡り散策コースマップ(PDF)、若槻地区住民自治協議会 コミュニティわかつき|環境部)
2012年度の環境調査開始から2023年度のコースマップ完成まで、単発の事業ではなく「調査(2012年度)→住民推薦による候補選定(2013年度)→参加型見学会での現況調査・評価(2014年度)→ガイドマップ化(2015年度)→散歩会による実践(2015年度以降)→コース化(2023年度)」という約10年間の連続したプロセスを踏んでいる。各段階の成果物(22件の候補リスト、18件のガイドマップ掲載地、7コースのマップ)が次の段階の土台になっており、単年度の予算や補助金の範囲でできる取り組みを積み重ねて一つの成果物に結実させている点が特徴的である。
自然遺産の候補選定は住民自治協議会が一方的に決めるのではなく、地区内の各区に推薦を依頼する方式をとり22件の候補を集めた。さらに現況調査・評価の段階でも一般募集による住民参加の見学会を重ねており、「何を地域の自然遺産とみなすか」という価値判断そのものを住民参加のプロセスで形成している点は、行政や専門家が一方的に選定する一般的な観光マップ作りとは異なるアプローチである。
ガイドマップを作って終わりにせず、「若槻自然遺産散歩会」という反復的な実践を8年近く挟んでから、その経験知をコースマップという成果物に転換している。これにより、机上でルートを引くのではなく、実際に歩いた距離・所要時間・見どころの順序といった実用的な情報を反映したコース設計になっている。
紹介される自然遺産は、ホタルやカタクリの群生といった生態系だけでなく、稲積一里塚の赤松(慶長9年〈1604年〉築造の一里塚。慶長16年〈1611年〉の街道整備で街道筋が西に移動し役割を終えた)や若槻山城本郭跡といった歴史資源、明治天皇巡幸の際に供されたと伝わる「御膳水」、農業用水を担ってきたため池群(若槻十三湖)、市指定の保存樹木・樹林など幅広い。例えば田子池はかつて市内でスケートが最初に行われた場所と伝えられ、昭和期にはオリンピック選手が滑走した逸話も残るが、近年は地球温暖化の影響で結氷しなくなったという。また山千寺の「信玄駒つなぎの桜」は、樹齢500年ほどとされる枝垂桜で、武田信玄が戦勝祈願の参拝時に馬をつないだという言い伝えに由来する。7コースはこうした複合的な地域資源を地理的なまとまりごとに再編集し、単一テーマではなく歩きながら複数の文脈に出会える設計になっている。 (参考:若槻自然遺産巡り散策コースマップ(PDF)、若槻自然遺産ガイドマップ(PDF)、若槻地区住民自治協議会 コミュニティわかつき|若槻地区の概要)
若槻地区の全世帯を対象に「若槻自然遺産巡り散策コースマップ」が配布され、距離3〜6.5km、所要時間2.5〜3.5時間の7コース(合計約31km)が整備された。住民自治協議会の公式サイトへの掲載と市立若槻公民館での配架を通じて、全戸配布後に転入した住民や地区外からの来訪者も入手できる体制が整っている。あわせて、先行して作成した「若槻自然遺産ガイドマップ」も公式サイトに掲載され、名所解説(ガイドマップ)と実践的な周遊案内(コースマップ)を組み合わせて提供する形になった。 (参考:若槻地区住民自治協議会 コミュニティわかつき|環境部)
なお、コースマップ配布後の利用者数や散策実施回数、住民の認知度・満足度といった定量的な効果測定の結果は、調査時点では公式サイト上で確認できなかった。自然環境部会は継続的に会報「コミわか広場」で活動報告を行っており、事業自体は現在も継続中である。 (参考:若槻地区住民自治協議会 コミュニティわかつき|環境部)
「候補選定→参加型の現地評価→ガイドマップ化→実践→コース化」という多段階のプロセスは、他地域でも一度に完璧な散策コンテンツを作ろうとせず、まず候補の洗い出しと評価という下地作りに数年単位の時間をかける設計として参考になる。年度ごとの補助金や部会予算の範囲でできる小さな取り組みを積み重ねることで、単年度の予算制約に左右されにくい継続的な地域資源発掘の仕組みとなる。
ガイドマップ刊行後すぐにコースマップを作るのではなく、散歩会という反復的な実践を約8年間挟んでからコース化した順序は、マップ制作が先行し実際の周遊行動が後追いになりがちな一般的なパターンとは逆である。実践のフィードバックを踏まえたコース設計は、他地域で散策マップや観光ルートを作る際にも、先に少人数での試走・モニターツアーを重ねてからコンテンツ化するという再現可能な手法として応用できる。
自治体や専門家が一方的に「これが地域の自然遺産だ」と選定するのではなく、地区内の各区からの推薦(22件)と一般募集による見学会評価という二段階の住民参加プロセスを組み込んでいる。地域資源の「価値づけ」自体を住民合意で行う仕組みは、特定の個人の知見や熱意に依存せず組織的に継続できる点で、他地域でも再現性が高いアプローチといえる。
2026年8月時点の調査内容に基づいて作成
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