
飯綱高原森林博物館 官民協働の森林整備・環境学習事業
長野市の市有林「飯綱高原森林博物館」で、JT長野支社と地域住民組織「草刈りバスターズ」が県の森林の里親制度を活用し、老朽化した遊歩道の整備と市内小中学生向けの環境学習会を継続する官民協働の事例。担い手不足に悩む中山間地域の課題解決モデルとしても注目される。
長野市芋井地区の飯綱高原にある「飯綱高原森林博物館」は、1989年、約4.6ヘクタールの市有林に実験林が設けられて以来、7区画の試験区と800メートルにおよぶ散策路を備える施設として運営されている。令和5年度(2023年度)から、日本たばこ産業株式会社長野支社と地域住民組織「草刈りバスターズ」(芋井地区住民自治協議会)が、遊歩道の下草刈りや倒木処理といった森林整備を継続的に担う協働の仕組みが動き出した。2023年7月27日には長野市と日本たばこ産業株式会社長野支社が、長野県の「森林(もり)の里親促進事業」の枠組みで正式契約を締結し、企業からの寄附金を財源に、老朽化していた看板3基と木橋8基の改修が2025年度に完了している。あわせて市内小中学生向けの環境学習会も不定期に開催され、施設整備と環境教育を一体で運用する事例となっている。 (参考:飯綱高原森林博物館 - 長野市公式ホームページ)
飯綱高原森林博物館は開設から30年以上が経過し、シラカバ林やハンノキ林(湿地)、ハルニレ林、カラマツ林、ドイツトウヒ林、広葉樹林に加え、令和元年(2019年)の台風で被害を受けた区域を観察する自然林復元区を含む7つの試験区で構成されている。遊歩道や案内看板、木橋といった付帯施設も年数を経て老朽化が進んでおり、継続的な維持管理が必要な状態にあった。 (参考:飯綱高原森林博物館 - 長野市公式ホームページ)
一方、施設が位置する芋井地区では、高齢化と人口減少により、地域住民が担ってきた道路周辺の草刈り作業(県道・市道あわせて85km、年5〜6回、延べ約2,000人規模で実施)の継続が難しくなっていた。2022年に長野市の市民協働サポートセンターが開いた意見交換会では、地域活性化推進員から「10年後、住民の半分ができなくなると思われる」との指摘が出るなど、緑地・里道の維持を担う人手不足が地域全体の構造的課題として認識されていた。この課題への対応として、芋井地区住民自治協議会は地域外の人材にも草刈り機の安全な使用法を教える「草刈りバスターズ養成講座」を開催し、担い手の裾野を広げる取り組みを進めてきた。 (参考:地域まんまる「地域の草刈りどうしてる?」レポート - 市民協働サポートセンターまんまる、地域のやっかいごとに挑んだ「草刈りバスターズ」が思いのほか楽しかった件 - ナガクル)
森林博物館は県準絶滅危惧種のモリアオガエルの生息地でもあり、6月中旬には柳沢池周辺で産卵の様子が観察できる。地域の維持管理力だけでは、こうした生態的な価値を持つ遊歩道や試験区を維持し続けることが構造的に難しくなっており、行政・地域・企業のいずれか一者だけでは解決しにくい状態にあったことが、外部の協働先を求める背景となっている。 (参考:飯綱高原森林博物館 - 長野市公式ホームページ)
1. 令和5年度からの協働整備の開始
2023年度、日本たばこ産業株式会社長野支社が資金と人手を、草刈りバスターズ(芋井地区住民自治協議会)が現場の知見をそれぞれ持ち寄り、飯綱高原森林博物館の遊歩道に生い茂る下草の処理や倒れた木の撤去を継続的に行う体制が始まった。企業側は労働力と資金、地域側は現場を知る知見と人員を持ち寄る形で、単発のイベントではなく継続的な作業として設計されている。 (参考:飯綱高原森林博物館 - 長野市公式ホームページ)
2. 県の仲介制度を使った正式契約の締結
2023年7月27日、長野市と日本たばこ産業株式会社長野支社は、長野県が2003年度から運営する「森林(もり)の里親促進事業」の枠組みで正式な契約を締結した。同事業は県内の県有林・市町村有林・団体有林を対象に企業と地域の連携を仲介する制度で、2026年5月時点で長野県内累計192者が契約しており、日本たばこ産業長野支社も契約者一覧に名を連ねている。飯綱高原森林博物館のケースは、企業が独自に協働先を探すのではなく、県の既存の仲介制度を通じて自治体の市有林とマッチングした事例にあたる。 (参考:飯綱高原森林博物館 - 長野市公式ホームページ、森林(もり)の里親促進事業 - 長野県、森林(もり)の里親促進事業 契約者様一覧(令和8年5月現在) - 長野県)
3. 寄附金による施設改修
契約に基づく企業からの寄附金を財源として、看板・木橋の改修工事が行われ、2025年度(令和7年度)に完成した。整備活動は下草刈りや倒木処理という日常的な保守作業に加え、施設そのものの更新にもつながっている。 (参考:飯綱高原森林博物館 - 長野市公式ホームページ)
4. 環境学習会の開催
これらの整備活動と並行して、長野市は長野市に通う小学生・中学生の子どもたちを対象に、飯綱高原森林博物館を舞台とした環境学習会を不定期に開催している。自然の中での活動を通じて、参加した子どもたちが森の恵みや生態系の大切さを肌で感じ、自分にできる環境保全の行動を考えるきっかけとなることを狙いとしている。 (参考:飯綱高原森林博物館 - 長野市公式ホームページ)
1. 既存の県仲介制度を活用したマッチング
この事例の特徴は、自治体と企業が独自に協定を結ぶのではなく、長野県が20年以上運営してきた「森林の里親促進事業」という既存の仲介制度を経由して協働を成立させている点にある。県内で192者が利用してきた枠組みに乗ることで、契約手続きや連携のノウハウを新たに構築するコストを抑えられる。これは飯綱高原に限らず、同種の制度を持つ他の都道府県でも応用できる再現性のある手法である。
2. 資金提供だけでなく実務労働を伴う協働
この事例では日本たばこ産業長野支社と草刈りバスターズが、寄附という資金面の協力にとどまらず、下草刈りや倒木処理という現場作業そのものを継続的に担っている。寄附金は看板や木橋という具体的な改修対象に投じられ、完成時期(令和7年度)まで確認できる形で成果が可視化されている点も特徴的である。
3. 地域の担い手不足対応の仕組みと企業リソースの接続
芋井地区では高齢化に伴う担い手不足が構造的課題となっており、地域住民自治協議会は「草刈りバスターズ養成講座」で地域外の人材にも草刈り機の使用法を教えるなど、独自に担い手を広げる努力を続けてきた。森林博物館の協働整備は、こうした既存の地域組織の活動に企業の労働力・資金を接続する形になっており、地域の当事者性を保ちながら不足するマンパワーを補う構造になっている。
4. 生物多様性保全と環境教育の一体運用
整備対象の遊歩道は、県準絶滅危惧種のモリアオガエルの生息地である柳沢池などを含む。維持管理そのものが生態系保全に直結し、その現場を環境学習会の教材としても活用することで、施設整備と環境教育が別々の予算・事業ではなく一つの現場で連動して機能している。
1. 継続的な整備体制の確立
2023年度に始まった協働整備は、2025年度時点まで継続していることが長野市公式サイトで確認できる。単年度のイベントで終わらず、複数年度にわたる恒常的な体制として運用されている点が確認できる成果である。 (参考:飯綱高原森林博物館 - 長野市公式ホームページ)
2. 施設改修の完了
企業からの寄附金を財源とした看板・木橋の改修工事が2025年度(令和7年度)に完成した。老朽化していた遊歩道の安全性・案内機能が具体的に更新されたことが確認できる。 (参考:飯綱高原森林博物館 - 長野市公式ホームページ)
3. 環境学習会の継続開催
市内小中学生を対象とした環境学習会は、協働整備と並行して不定期に継続開催されている。ただし、開催回数や参加者数といった定量データは公式資料からは確認できず、この点は今後の情報公開が期待される。 (参考:飯綱高原森林博物館 - 長野市公式ホームページ)
なお、来訪者数の変化やCO2吸収量認定など、他の「森林の里親」契約事例で見られる定量的な環境価値評価については、飯綱高原森林博物館のケースに関する公開情報の中では確認できなかった。
1. 都道府県の既存仲介制度を「入口」として使う
自治体単独で企業との協働先を探す場合、相手探しから契約条件の調整まで多くの調整コストがかかる。長野県のように既に運用実績のある「森林の里親」のような制度がある地域では、自治体の公有林・公共施設の維持管理ニーズをその制度に載せることで、企業とのマッチングコストを下げられる。同種の企業-自治体連携の仲介制度を持つ他の都道府県でも、公有林や公園緑地の維持管理課題に応用できる考え方である。
2. 資金不足ではなく「担い手不足」への対応として設計する
森林や緑地の維持管理課題は、予算不足だけでなく、現場作業を担う人手そのものの不足が根本にあることが多い。この事例は、企業パートナーシップを単なる寄附受け入れではなく、下草刈りや倒木処理といった実作業への参加を含む形で設計しており、資金だけでは解決しない現場労働力の確保に直接寄与している。他地域で企業連携を検討する際も、資金提供と実務参加を分けて設計する視点が参考になる。
3. 既存の地域組織を経由して外部リソースを接続する
企業との協働窓口を新設せず、既に地域で活動している住民自治協議会などの既存組織を経由して連携することで、地域の当事者性を保ったまま不足する人手・資金を補える。属人的な個人ボランティアへの依存を避け、組織としての継続性を持たせる設計は、担い手不足に悩む他の中山間地域でも再現しやすい要素である。
4. 施設整備と環境教育を同じ現場で連動させる
維持管理の対象となる自然環境そのものを環境学習の教材として活用することで、整備活動が単なる保守作業ではなく教育的な価値も持つようになる。整備予算と教育予算を別々に確保するのではなく、同一の現場・同一の協働関係の中で両方の目的を満たす設計は、限られた予算・人員で複数の政策目的を達成する手法として他地域でも参考になる。
2026年08月時点の調査内容に基づいて作成
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