
きなさっぷ(長野県立大学 鬼無里プロジェクト)
長野県立大学の学生サークル「きなさっぷ」が、高齢化率60%を超える長野市鬼無里地区で、おやきづくりや雪遊びイベントを通じて地域との交流を深める取り組み。
「きなさっぷ」は、長野県立大学の公認サークルで、正式な活動名称は「鬼無里における地域プロジェクト」である。長野市の西北部に位置する鬼無里(きなさ)地区で、地域の伝統や自然資源を活かしたイベントを企画・実施している。2023年11月には郷土食「おやき」づくり体験、2024年2月には「きなさの雪でおもいきり遊ぼう」と題した雪遊びイベントを開催し、地域住民と学生が協働しながら交流の場を創出している。
鬼無里地区は長野市の西北部、長野駅から車で約40分の距離に位置する山間地域である。総面積は127平方キロメートルで、そのうち約90%が森林に覆われている。裾花川が地区内を流れ、豊かな水源のもとで稲作や野菜栽培が営まれてきた。 (参考:鬼無里地区住民自治協議会)
地名の由来には複数の説があり、平安時代に京から流された「鬼女紅葉」にまつわる紅葉伝説が広く知られている。東京(ひがしきょう)、西京、二条、三条など、京の都を模した地名が今も残り、独特の歴史的風土を形成している。 (参考:信州鬼無里の観光情報)
鬼無里地区は長野市内で最も高い高齢化率を記録している。現在の人口は約1,225人、高齢化率は60.4%に達する。1950年頃には6,200人以上いた人口は、2005年の長野市との合併時には約2,200人に減少し、その後も減少が続いている。 (参考:鬼無里地区住民自治協議会)
保育園や小中学校は少人数での運営が続き、農業では野生動物による被害や遊休荒廃地の拡大、林業では後継者不足など、中山間地域が抱える課題が集中している。一方で、地域住民は「小さいからこそできることがある」と捉え、少人数規模の保育や学校教育を「子育て環境の強み」として発信している。
長野県立大学は2018年に開学した新しい公立大学で、「地域に根差し、世界とつながる大学」を掲げている。学内には地域貢献活動を行うサークルが複数存在し、「ぐるんぱ」(子育て支援)をはじめとする学生主体の活動が展開されている。サークル活動への物品購入支援や施設使用料の助成など、大学後援会を通じた支援体制も整備されている。
「きなさっぷ」は鬼無里の地名「きなさ」と活動を意味する接尾語を組み合わせた造語で、メンバー数は約23名(2024年5月時点)である。地域交流と地域課題解決を目的に、定期的に鬼無里地区でフィールドワークやイベントを実施している。SNSを通じた情報発信も行い、活動の様子を広く伝えている。 (参考:ユードリナの記録)
第一弾として実施されたのが、鬼無里の郷土料理「おやき」づくり体験イベントである。おやきは小麦粉や蕎麦粉で作った皮で野菜などの具材を包み、焼いたり蒸したりして作る長野県の伝統食である。鬼無里地区は「いろは堂」発祥の地として知られ、おやき文化の中心地の一つとなっている。いろは堂は大正14年(1925年)創業で、昭和40年から家庭料理だったおやきを初めて商品として製造・販売を開始した。2022年には工場併設店舗「OYAKI FARM」をオープンし、製造工程の見学やおやき作り体験も提供している。 (参考:いろは堂、ながの仕事物語)
学生が企画したイベントでは、地域の住民が講師となり、参加者におやきの作り方を伝授した。単なる料理体験にとどまらず、食を通じた世代間交流の場として機能した。
冬季プロジェクトとして「きなさの雪でおもいきり遊ぼう」と題した雪遊びイベントを開催した。鬼無里地区は冬季に豊富な積雪があり、地域では「鬼無里雪かき道場」という雪かき・雪下ろし体験イベントも毎年開催されている。2024年の雪かき道場は1月27日〜28日に開催され、講座・実技・懇親会を含む2日間のプログラムで定員約30名として実施された。鬼無里地区住民自治協議会が主催し、長野駅からの送迎バスも運行されている。 (参考:鬼無里雪かき道場)
きなさっぷはこの冬の資源を活かし、雪遊びを通じた交流イベントを企画した。都市部の住民や子どもたちに雪遊びの楽しさを提供すると同時に、冬季の鬼無里への誘客という観光的側面も持つ取り組みとなった。
きなさっぷは「ながのまちづくり活動支援事業」の採択団体として活動を実施している。2025年5月には長野市役所で開催された令和6年度採択団体活動報告会に参加し、約40人の聴衆の前で1年間の成果を報告した。メンバーは「自分たちのやりたいことに挑戦できた」と振り返り、「もっと回数を多く、効率的に宣伝して参加者を増やしたい」との意気込みを示している。 (参考:nagacle.net)
きなさっぷの活動は、大学からの「派遣」ではなく、学生自身が興味を持った地域で自発的に活動を始めた点が特徴である。企画立案から地域との調整、当日の運営まで、すべてを学生主体で行うことで、実践的な学びの場となっている。
おやきや雪といった日常的な地域資源を「体験イベント」として編集し直すことで、外部からの関心を喚起している。地域住民にとっては当たり前の暮らしの一部が、都市部の参加者にとっては新鮮な体験価値となる。
年2回程度の小規模なイベント実施という形で、無理のない規模で継続している。過疎地域での活動において、大規模な単発イベントよりも、小さくても継続的な関わりを重視する姿勢が見られる。
メンバーの報告によれば、両イベントを通じて地域住民と学生の交流が生まれ、「やりたいことに挑戦できる場」として学生自身の成長機会にもなっている。具体的な参加者数や定量的な成果については公式な発表資料が限られており、詳細は確認できていない。
活動を通じて、学生は過疎化や高齢化といった社会課題に直接触れ、地域の人々と対話する経験を得ている。地域住民にとっても、若い世代が継続的に訪れることは、地域への関心と活力をもたらしている。
長野県立大学のように、学生サークルを通じた地域貢献活動を支援する仕組みは、他の地方大学でも参考になる。大学後援会からの助成制度や、市の「まちづくり活動支援事業」との連携など、複数の支援制度を組み合わせることで、学生の自発的な活動を後押ししている。
鬼無里地区への交通アクセスは自家用車が中心であり、公共交通機関での訪問は限定的である。しかし、「鬼無里雪かき道場」のように長野駅からの送迎バスを手配することで、参加のハードルを下げる工夫がなされている。学生団体が同様の活動を行う際には、移動手段の確保が重要な検討事項となる。
きなさっぷの活動は、鬼無里地区で既に行われている「雪かき道場」や「鬼女紅葉まつり」といった地域行事と関連性を持たせることで、地域への理解を深める機会となっている。新たに何かを持ち込むのではなく、既にある地域資源や行事に学生が参加する形での関わりは、地域との関係構築において有効である。
2026年3月時点の調査内容に基づいて作成
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