
下屋設置工事(りんごパイ通年製造拠点整備事業)
長野市信更町の農産物加工グループ「りんごの里信更」が、アップルパイの通年製造・販売に向けて導入した急速冷凍機の設置場所として、工房前に下屋(屋根付き空間)を整備した事例。信更支所発地域力向上支援金を活用しつつ事業費の大半を自己負担し、完成した下屋下は直売・住民交流スペースとしても機能している。
長野市南西部の中山間地域、信更町田野口の農産物加工グループ「りんごの里信更」は2025年7〜8月、菓子製造施設「あっぷる工房」の前に、屋根付きの半屋外空間「下屋」を新設した。目的は、前年に導入した急速冷凍機・保管冷凍庫の設置場所を確保することである。工房内には冷凍庫を置くスペースがなく、屋外に設置するための下屋整備が必要になった。 (参考:支所発地域力向上支援金事業実施報告書(自己評価)下屋設置工事)
りんごの里信更は、規格外の「やまのぶりんご」を活用したアップルパイを2018年から製造・販売してきたが、りんごの収穫期に合わせた11月〜翌春の季節限定生産にとどまっていた。取引先から通年での仕入れ希望が寄せられたことを機に、冷凍保存によって通年供給できる体制づくりに乗り出し、その延長として下屋設置に至った。事業費の一部を長野市の「信更支所発地域力向上支援金」で賄い、残りは自己負担とした。完成した下屋の下部空間は、冷凍庫の設置場所であると同時に、毎週土曜日にアップルパイなどを販売する「おやすみ処 あっぷる工房」としても活用されている。 (参考:「りんごの里信更」あっぷる工房 アップルパイ通年販売へ、支所発地域力向上支援金事業実施報告書(自己評価)下屋設置工事)
信更地区は、長野市中心部から支所まで車で約15分、長野駅まで約30分の中山間地域で、りんごや稲作が盛んな地域と、標高800メートル前後に広がる高原部を併せ持つ里山である。国道19号が地区内を通り、中央地区などに商店が点在するが、過疎化・高齢化が課題となっている。 (参考:田舎暮らし 長野市信更町)
りんごの里信更は、こうした状況下で地域ブランドである「やまのぶりんご」を生かした地域活性化に取り組むため、JA女性部を母体として2016年に発足した団体である。2018年に菓子製造施設「あっぷる工房」を開設し、規格外りんごを使ったアップルパイの製造・直売や、地域のイベント、Aコープファーマーズ店などへの出荷を行ってきたが、生産は原料となるりんごが手に入る11月から翌年4〜5月ごろまでの季節限定にとどまっていた。 (参考:「りんごの里信更」あっぷる工房 アップルパイ通年販売へ)
こうした中、取引先からアップルパイの常時仕入れの希望が寄せられたことを受け、りんごの里信更は経営拡大を検討し、冷凍保存によって年間を通じた製造・販売を可能にする方針を固めた。県・市の支援を得て急速冷凍設備と保管用の冷凍庫を導入したものの、保管冷凍庫を置くスペースが工房内になく、屋外に設置場所を新たに確保する必要が生じたことが、下屋設置工事という個別事業の直接の契機になった。 (参考:「りんごの里信更」あっぷる工房 アップルパイ通年販売へ、支所発地域力向上支援金事業実施報告書(自己評価)下屋設置工事)
急速冷凍機・保管冷凍庫の導入
りんごの里信更はまず、通年供給の要となる凍結・保管用の機器一式を県・市の支援を得て導入した。これにより、りんごの収穫期に製造したアップルパイを冷凍保存し、収穫期以外の時期にも販売できる体制の土台が整った。ただし、保管冷凍庫を工房内に設置するスペースがなく、屋外への設置場所確保が新たな課題として残った。 (参考:「りんごの里信更」あっぷる工房 アップルパイ通年販売へ)
信更支所発地域力向上支援金への申請と選考
長野市は2014年度、地域団体が行う「地域力」向上に資する事業に対し、支所長の裁量で予算の範囲内で助成する「支所発地域力向上支援金」制度を創設した。全市共通の交付要綱は対象経費の全額を交付対象とし、1団体あたりの交付額に上限を設けるのみで、募集対象や実際の上限額、選考基準は地区ごとに支所長が決定する。信更支所ではこの枠組みの中で、1事業あたりの上限額を定めた運用を行っている。 (参考:長野市支所発地域力向上支援金交付要綱)
令和7年度(2025年度)、信更地区では8団体から要望があり、選考委員会が5団体(事業)を選定した。りんごの里信更は「カーポート設置工事」を内容とする下屋設置工事を要望したが、内定額は他の4団体と同額となり、予算の枠内に収まる形で要望額から査定減となった。 (参考:令和7年度支所発地域力向上支援金事業 支援金交付団体選定一覧表)
下屋設置工事の実施(2025年7〜8月)
工事は2025年7月24日時点の記録写真で骨組みの設置作業が確認でき、8月20日に完了した。事業費の大半を団体が自己負担した。実施報告書では、事業内容・事業効果とも「予定どおり」と自己評価されている。 (参考:支所発地域力向上支援金事業実施報告書(自己評価)下屋設置工事)
直売・交流スペース「おやすみ処 あっぷる工房」の稼働開始
完成した下屋の下部空間は、保管冷凍庫の設置場所であると同時に、「おやすみ処 あっぷる工房」としての活用も始まった。毎週土曜日の11時から15時まで(12月末までの予定)、アップルパイと飲み物を扱う臨時販売を行い、パンについては月初の土曜日に限り取り扱っている。 (参考:「りんごの里信更」あっぷる工房 アップルパイ通年販売へ)
需要が先行し、設備投資・施設整備が後追いする投資の連鎖
一般的な農産物加工の拠点整備では、まず施設を作ってから販路を開拓する順序が取られがちである。本事例では、取引先からの常時仕入れ希望という具体的な需要が先にあり、それに応えるための冷凍設備投資、さらにその設置スペースを確保するための下屋整備、という順序で投資が連鎖している点が特徴的である。需要の見込みが不確かな段階での先行投資ではなく、実際の取引ニーズを起点にした設備投資である。 (参考:「りんごの里信更」あっぷる工房 アップルパイ通年販売へ)
主要投資の「最後の一押し」に絞った小口助成の使い方
事業費の大半を団体の自己負担が占め、支援金の割合はごく一部にとどまる。通年化の中核となる冷凍設備そのものは県・市の別の支援を得て自己負担も含めて導入済みであり、支所発地域力向上支援金はその設置場所を確保する付随工事という「最後の一押し」部分にピンポイントで充当されている。小口の地域助成が、事業者の主体的な投資判断を前提とした補完的資金として機能している例である。 (参考:支所発地域力向上支援金事業実施報告書(自己評価)下屋設置工事、長野市支所発地域力向上支援金交付要綱)
生産設備の整備が副次的に住民交流の場を生んだ二次利用
下屋は本来、保管冷凍庫の設置という生産・貯蔵目的のために整備された構造物である。しかし完成後、その下部の空間が直売スペース兼「おやすみ処」として住民に開放され、毎週土曜日の定例的な交流の場に転用された。生産効率化を目的とした単一目的のハード整備が、地域住民の日常的な集いの場という別の機能を派生的に生み出している。 (参考:「りんごの里信更」あっぷる工房 アップルパイ通年販売へ)
通年製造販売のための物理的基盤の整備完了
2025年8月20日に下屋設置工事が完了し、保管冷凍庫を工房前に安定的に設置できる状態になった。これにより、りんごの収穫期以外にも冷凍保存したアップルパイを供給できる物理的な条件が整った。信更支所長による事業評価では、必要性・効果・将来性のいずれも5段階評価で4(「必要性があった」「効果があった」「見込める」)とされ、「施設は地域住民が運営する菓子製造施設であることから、就業の場を創出しており、地域の活性化及び課題解決が期待できる」とコメントされている。 (参考:支所発地域力向上支援金事業実施報告書(自己評価)下屋設置工事)
「おやすみ処 あっぷる工房」の定例開催開始
下屋下スペースを使った毎週土曜日のアップルパイ・パン・飲み物の提供が2025年秋から始まり、地域住民が定期的に立ち寄れる場ができた。ただし、来場者数や売上額の推移など、この交流スペースの利用実績を定量的に示すデータは調査時点で確認できていない。 (参考:「りんごの里信更」あっぷる工房 アップルパイ通年販売へ)
なお実際の売上増加効果は今後の検証課題
実施報告書は「年間を通して製造販売を実施し、冷凍商品の販売先の広がりにより売上額の増加が期待でき、労働機会の増加など事業の持続発展が可能となる」と記しているが、これは事業完了直後(2025年8月)時点の見込みであり、実際の売上増加や新規取引先獲得を裏付ける実績数値は、調査時点で公表されている資料の範囲では確認できなかった。 (参考:支所発地域力向上支援金事業実施報告書(自己評価)下屋設置工事)
主要設備投資の「あと一歩」を小口助成でピンポイントに埋める設計
農産物加工グループが規格外農産物の活用や通年販売化に取り組む際、冷凍設備などの主要投資は事業者の自己資金や県・市の別制度で賄いつつ、その導入に伴って生じる付随的な工事(設置場所の確保など)を、地域の小口助成でピンポイントに支援するという役割分担は、他地域の農産物加工グループ支援にも応用できる考え方である。全額を単一の大型補助金でまかなうのではなく、事業者の主体的な投資判断を前提に、実現の最後の障壁を小口資金で取り除くという設計は、限られた財源で多くの事業を後押ししたい自治体にとって参考になる。 (参考:長野市支所発地域力向上支援金交付要綱)
生産効率化のハード整備にコミュニティ機能を組み込む設計余地
下屋という生産・貯蔵目的の構造物の下部空間を、住民向けの直売・交流スペースとして併用した点は、単一目的の設備投資であっても設計段階で「誰もが立ち寄れる余白」を持たせることで、産業振興と地域コミュニティ形成という複数の目的を同時に達成できる可能性を示している。加工施設や倉庫の整備を検討する他地域の生産者団体にとって、屋根下の余剰スペースを地域開放型の販売・交流拠点として位置づける発想は、追加コストを抑えながら地域とのつながりを強める再現性のある工夫といえる。 (参考:「りんごの里信更」あっぷる工房 アップルパイ通年販売へ)
単年度完結の投資であり、継続的な助成に依存しない持続可能性の設計
りんごの里信更は、令和8年度(2026年度)の信更支所発地域力向上支援金の採択事業一覧には含まれておらず、今回の下屋設置は単年度で完結した一過性の投資だったことがうかがえる。助成金の継続受給を前提とせず、整備後は通年販売による売上増加で事業を自走させる設計になっている点は、他地域が小口助成を活用した設備投資を検討する際、「助成は初期の一押しに限定し、運営の持続性は事業者自身の収益構造に委ねる」という前提の参考になる。 (参考:令和8年度信更支所発地域力向上支援金事業 採択事業一覧)
2026年8月時点の調査内容に基づいて作成
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