
AED設置事業(松岡区・上区)
長野市大豆島地区の松岡区・上区が支所発地域力向上支援金を活用し、公民館へのAED設置と使い方講習をセットで実施した事例。地区内の複数の区が数年がかりで整備を進める、住民主体の防災インフラ整備の手法を示す。
長野市大豆島(まめじま)地区の松岡区と大豆島上区(以下、上区)は、令和7年度(2025年度)に長野市大豆島支所発地域力向上支援金を活用し、それぞれの公民館にAED(自動体外式除細動器)を設置するとともに、住民向けの使い方講習会を実施した。松岡区の事業は2025年10月に、上区の事業は2026年2月に完了しており、いずれも設置費用の助成と住民講習をセットにした計画として申請・実施された。 (参考:令和7年度大豆島支所発地域力向上支援金事業)
大豆島支所発の同支援金では、2022年度以降、東風間公民館・大豆島区公会堂・西風間公民館・東区公民館と、年度ごとに異なる区(自治会)がAED設置に取り組んでおり(2023年度はテント整備が採択された年もある)、松岡区・上区の事業はその延長線上に位置づけられる。地区全体で見ると、単年度の一括整備ではなく、各区が自らのタイミングで支援金に応募し、複数年をかけてAEDの設置を積み重ねていくプロセスになっている。 (参考:支所発地域力向上支援金事業チラシ)
日本では公共施設や商業施設を中心にAEDの設置台数自体は増えているが、実際に心停止の現場で使われる割合は依然として低い。総務省消防庁の集計では、2024年に心肺機能停止となった傷病者のうち、一般市民によってAEDが装着されたのは11.3%(15,802人)で、実際に除細動が行われたのはそのうち2,264人にとどまる。 (参考:令和7年版救急・救助の現況|日本心臓財団)
筑波大学の研究では、目撃された心停止事例のうちAEDによる除細動が実際に行われた割合は全国で4%程度にとどまり、住宅地・郊外部では複数のAEDでカバーしきれない場所が生じやすいことが課題として指摘されている。住宅と農地が混在する郊外エリアは、こうした「AEDの空白地帯」になりやすい地理的条件を持つ。 (参考:AEDで救えるはずの命を救えていない?|筑波大学データサイエンス・ケースバンク)
大豆島地区は長野市中心部の東側、千曲川と犀川に挟まれた面積4.83km²のエリアで、人口は約1.26万人(2023年3月時点)。大豆島上区・中区・下区・東区、松岡一・二丁目、大豆島西沖、大字風間など複数の行政区(自治会)で構成され、地区内の公民館(自治会館)は各区がそれぞれ運営・維持している。 (参考:大豆島|Wikipedia)
このため、AEDのような防災・救急用品の整備状況は区ごとにばらつきが生じやすく、松岡区・上区にはこれまでAEDが設置されていなかった。両区とも令和7年度の事業計画で「緊急時や災害時において地域住民の命を守るため」に公民館へのAED設置が必要だとしている。 (参考:令和7年度支所発地域力向上支援金事業採択結果)
長野市は2014年度、少子高齢化・過疎化が進む中で地域の課題解決力(地域力)の向上を図るため、「支所発地域力向上支援金交付要綱」を制定した。市内32地区それぞれの支所長が、地区の実情に応じて募集対象事業や選考基準を独自に設定できる仕組みで、対象経費の一定割合を上限額の範囲内で交付する制度になっている。 (参考:長野市支所発地域力向上支援金交付要綱)
大豆島支所は令和7年度、6月2日から30日までを募集期間とし、保健福祉・教育文化・安全安心・環境保全・地域活性化の5分野を対象に事業を公募した。選考は大豆島支所長に加え、大豆島地区住民自治協議会総務部会員(区長会)や事務局長・事務局次長が委員を務める選考委員会が、事業の必要性・費用の適正性・効果・将来性の観点から審査する仕組みとした。松岡区・上区はそれぞれ単独で「AED設置事業」として応募し、いずれも採択された。 (参考:令和7年度大豆島支所発地域力向上支援金事業募集要項、採択結果)
松岡区は松岡公民館にAEDを設置し、あわせて住民向けの使い方講習を年1回のペースで実施する計画とした。事業は2025年10月25日に完了し、講習会には18名が参加した。 (参考:AED設置事業実施報告書(自己評価)松岡区)
上区は上区公民館にAEDを設置したうえで、定期点検やバッテリー交換などの維持管理体制も事業計画に組み込んだ。講習は新たに単独の機会を設けるのではなく、上区が毎年実施している公民館の防災訓練の中にAED・心肺蘇生法の講習を組み込む形で行われた。前年度の防災訓練では消火器の正しい使い方講習を行っており、AED講習はその翌年のテーマとして位置づけられている。事業は2026年2月19日に完了した。 (参考:AED設置事業実施報告書(自己評価)松岡区、同・上区)
要綱では、事業完了後15日以内(年度内は3月31日まで)に「事業実施報告書(自己評価)」を提出することが定められている。松岡区は参加人数・理解度などの定量データを記載したうえで報告書を提出し、上区は活動内容と地域への貢献度を中心とした自己評価を記載した。これを受けて大豆島支所長は、必要性・効果・将来性の3項目を5段階で評価し、次年度以降の活動への助言を添えたうえで市ホームページで公表する仕組みになっている。 (参考:支所発地域力向上支援金事業評価(大豆島支所)松岡区分、同・上区分)
この事業はAEDという機器の設置だけを目的にせず、申請段階から住民向け講習会の実施を計画に組み込んでいる点が特徴である。松岡区は年1回の定期講習という新たな枠組みを、上区は既存の防災訓練という枠組みへの組み込みを選んでおり、同じ支援金・同じ機器整備でも、区ごとの実情に合わせて継続の仕組みを設計している。
大豆島支所発の支援金では、2022年度以降、東風間公民館・大豆島区公会堂・西風間公民館・東区公民館、そして令和7年度の松岡公民館・上区公民館と、毎年度2件ずつAED設置事業が採択されてきた。地区が一度に全公民館分の予算を確保するのではなく、各区が自らの意思で応募するタイミングに委ねることで、結果として複数年にわたりAEDの空白地帯を埋めていくプロセスになっている。 (参考:支所発地域力向上支援金事業チラシ)
制度上、支援金に応募するのは行政ではなく区(自治会)自身であり、選考にも住民自治協議会の役員が関与する。事業終了後の自己評価も区が自ら記入する様式になっており、行政が一方的に整備計画を決めるのではなく、地域の当事者が必要性を判断し、実行し、振り返るサイクルが制度として組み込まれている。設置されたAED本体にも助成年度と制度名を明記したシールが貼付されており、整備の経緯が利用者から見ても分かるようになっている。 (参考:AED設置事業実施報告書(自己評価)上区)
松岡区の講習会には18名が参加し、参加者の理解度は90%以上に達したことが自己評価報告書に記録されている。松岡区はこの結果を踏まえ「区民の先頭に立って尽力できる人材への講習会であり、地域への貢献度は高い」と自己評価し、事業評価では「事業の内容」「事業の効果」をいずれも「予定どおり」に区分している。 (参考:AED設置事業実施報告書(自己評価)松岡区)
大豆島支所長は2025年11月、松岡区の事業について必要性・効果・将来性の3項目をいずれも5段階中4(「必要性があった」「効果があった」「見込める」)と評価し、「地域全体の取組として適正配備を進める計画は有意義」とコメントした。上区の事業についても2026年2月、同じく3項目とも4の評価を受けている。 (参考:支所発地域力向上支援金事業評価(大豆島支所)松岡区分、同・上区分)
上区は「引き続き消防署と連携し、AEDの取扱い訓練をしていく」ことを今後の取組として掲げている。新たに講習の場を作るのではなく、毎年の防災訓練という既存の枠組みにAED講習を組み込んだことで、次年度以降も追加の企画コストをかけずに継続できる体制になっている点は、単年度の助成事業にとどまらない実効性を示す成果といえる。 (参考:AED設置事業実施報告書(自己評価)上区)
AEDの設置台数が増えても実際の使用率が低いという全国的な課題を踏まえると、機器の購入・設置費用だけを助成対象にするのではなく、この事例のように住民向け講習の実施を申請段階から事業計画に含める設計は、防災・安全分野の補助金制度全般に応用できる考え方である。「置く」ことと「使えるようにする」ことを別の予算・別の事業として分けず、一体の事業として審査・評価することで、設置後の実効性を高めやすくなる。 (参考:令和7年版救急・救助の現況|日本心臓財団)
上区が新たに講習の機会を設けるのではなく、毎年の防災訓練の中にAED講習を組み込んだ手法は、担い手や参加者の負担を増やさずに継続性を確保する、再現性の高いアプローチである。新規施策を地域行事のスケジュールに「足す」のではなく「差し込む」という発想は、担い手不足に悩む他地域の自治会・町内会にとっても参考になる。
大豆島支所は地区内の全公民館へのAED設置を一度に予算化するのではなく、各区が支援金に応募するタイミングに委ねる形で、結果として複数年にわたり整備を進めてきた。行政が主導する一斉整備に比べて完了までの時間はかかるが、各区が自らの意思で申請し、自己評価まで行う分、設置後の維持管理や講習の継続につながりやすいという利点がある。予算を一度に確保することが難しい自治体にとって、複数年度に分散した小規模な公募型支援金は、地域の当事者意識を保ちながら着実にインフラを整備していく選択肢になり得る。
2026年8月時点の調査内容に基づいて作成
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