
キャスパ跡地再開発(福山市三之丸町一番地区再生事業)
この記事は、my grooveを運営する株式会社Groove DesignsがAIを活用し独自に調査・作成したものです。
JR福山駅前で2012年に閉館した商業ビル「キャスパ」跡地を民間3社が再開発。コロナ禍でホテル計画をオフィスに転換しつつ2024年に3棟体制で竣工し、商業施設「NEW CASPA」が開業、翌年に全区画が満室となった事例。
広島県福山市のJR福山駅南口駅前広場に面した約0.3haの区域は、かつて備後地方有数のファッションビル「キャスパ(CASPA)」が立地していたが、2012年1月に閉館し、長らく手つかずの状態が続いていた。この跡地と隣接する福山とーぶホテル跡地で、穴吹興産株式会社・トモテツグループ・株式会社キョーエイネクストの3社が「福山市三之丸町一番地区再生事業(三之丸町地区優良建築物等整備事業)」として再開発を実施した。
(参考:「福山市三之丸町一番地区再生事業」北棟着工のお知らせ)
北棟「アルファゲートタワー福山駅前」(地上25階、高さ約87m)、中棟「キョーエイ三之丸ビル」(地上10階)、南棟「トモテツ大手門ビル」(地上7階)の3棟からなり、延床面積は合計約28,500㎡、総事業費は約110億円にのぼる。2024年3月に竣工し、1・2階の商業施設「NEW CASPA(ニューキャスパ)」が同年9月1日にグランドオープン、2025年5月に全12区画のテナントが出そろい満室となった。本事業は福山市が2018年に策定した「福山駅前再生ビジョン」における重点プロジェクトの一つに位置づけられている。
(参考:福山市「ふくまちエリアにおけるこれまでの取組の成果と課題について」、福山駅前のニューキャスパ、テナント満室に 備後の玄関口の機能充実(中国新聞デジタル))
現在の三之丸町一番地区にあたる場所には、1976年に「福山駅前三之丸共同ビル」が開業し、1987年に「CASPA」へと改称された。最盛期には約120店舗が入居する備後地方有数のファッションビルとして賑わったが、1999年以降は郊外型商業施設の伸長により来店客が減少し、2012年1月末に閉館した。隣接する福山とーぶホテルも老朽化しており、両施設ともに長期間活用されない状態が続いた。
(参考:JR福山駅前 CASPA(キャスパ)跡地再開発『福山市三之丸町1番地区再生事業』(Re-urbanization)、福山市「NEWCASPA」がついにオープン(LIFULL HOME'S))
新幹線「のぞみ」停車駅であるJR福山駅の南口駅前広場に面し、交通利便性が高く従来から人通りの多い立地でありながら、閉店後は再開発を望む声がありつつも動きが乏しかった。こうした状況を受け、福山市は2018年に「福山駅前再生ビジョン」を、2019年に「福山駅周辺デザイン計画」を策定し、「働く・住む・にぎわい」が一体となった駅前の実現に向けて、産業・雇用、空間、交通、地域づくりなど6つの柱で官民連携プロジェクトを進める枠組みを整えた。三之丸町一番地区再生事業は、このうち「福山の伝統と柔軟なアイディアが出会うビジネスの拠点づくり」を掲げる柱の中核事業の一つに位置づけられ、市の支援・協力のもとで2019年4月に施行者3社が事業計画概要を発表、同年7月に旧CASPAビル・とーぶホテルビルの解体工事に着手した。
(参考:「福山市三之丸町一番地区再生事業」北棟着工のお知らせ、福山駅前再生ビジョンを策定(福山市)、福山市「ふくまちエリアにおけるこれまでの取組の成果と課題について」)
1. 解体から着工へ(2019〜2021年)
2019年7月の解体着手から2021年2月に解体工事が完了。その後、中棟の建築工事が2021年6月に着工し、北棟は同年11月9日の起工式を経て着工した。
(参考:「福山市三之丸町一番地区再生事業」北棟着工のお知らせ)
2. コロナ禍による用途変更(2020年12月)
着工前の2020年12月、事業者は建物概要の変更を発表した。当初、南棟は地上13階・地下1階建てのホテルとして計画されていたが、新型コロナウイルス感染拡大により経済環境が大きく変化したことを理由に、用途をオフィスへ変更し、階数も縮小した。一方で北棟(マンション棟)は当初計画の22階建てから25階建てへと階数を引き上げた。総事業費約110億円や完成時期の目標は据え置かれた。同時期にはJR西日本も駅前で計画していたホテル事業を撤回しており、コロナ禍が福山駅前エリア全体の開発計画に影響を及ぼしていたことがうかがえる。
(参考:福山駅前再開発ビル、ホテル断念 オフィスに変更(日本経済新聞))
3. 各棟の竣工とグランドオープン(2022〜2024年)
中棟「キョーエイ三之丸ビル」は2022年2月に竣工し、先行してオフィス・商業テナントの入居が進んだ。南棟「トモテツ大手門ビル」には金融・建設業など8社の入居が発表された。北棟「アルファゲートタワー福山駅前」は2024年3月下旬に竣工し、住戸191戸の分譲マンションおよびオフィス・商業フロアが完成した。
(参考:アルファゲートタワー福山駅前(skyskysky.net)、トモテツ大手門ビル入居テナントを発表(経済リポートWEB版))
4. 商業施設「NEW CASPA」の開業(2024年9月)
3棟の1・2階に展開する商業施設は「NEW CASPA(ニューキャスパ)」と名付けられ、2024年9月1日にグランドオープンした。開業日にはコーヒーチェーンやドリンクスタンド、美容サロンなどが新たに営業を開始し、それ以前からエニタイムフィットネス福山駅前店やメガネ販売店、スニーカーショップなどが先行して開業していた。全12区画のテナントが出そろい満室となったのは、開業から約8カ月後の2025年5月であった。
(参考:JR福山駅前/駅ビル「NEWCASPA」グランドオープン(流通ニュース)、「NEWCASPA」が9月1日にグランドオープンしました(号外NET福山市)、福山駅前のニューキャスパ、テナント満室に(中国新聞デジタル))
独立3棟をデッキと公共通路でつなぐ回遊性の設計
北棟・中棟・南棟は構造的に独立した3棟として整備されているが、2階部分をデッキで連結することで商業エリアとしての一体感を持たせている。さらに敷地内には24時間通行可能な公共用通路を新たに整備し、JR福山駅・駅前広場から三之丸通りを経て周辺エリアへと歩行者が回遊できる動線を確保した。低層階は歩道と駅前広場に自然な回遊動線でつながる商業空間として設計されており、単体の建物ではなく街区全体の歩行者ネットワークの一部として計画されている点が特徴である。
(参考:福山市「ふくまちエリアにおけるこれまでの取組の成果と課題について」、三之丸町一番地区再生事業商業施設テナントの内容判明(経済リポートWEB版))
市場環境の変化に応じた用途構成の機動的な見直し
2019年の計画発表から2024年の竣工まで5年を要する長期事業の途中で、新型コロナウイルスの感染拡大というマクロ環境の急変に直面した。事業者はホテルという単一用途に固執せず、南棟をオフィスへ用途転換する一方、住宅需要を見込んで北棟のマンション規模を拡大するなど、住宅・オフィス・商業を組み合わせた複合開発の柔軟性を生かして事業を継続させた。総事業費や完成時期の大枠を維持したまま用途構成のみを転換した点は、長期化しがちな大規模再開発事業がリスクに対応する一つの手法を示している。
(参考:福山駅前再開発ビル、ホテル断念 オフィスに変更(日本経済新聞))
旧施設名称「CASPA」の継承によるブランドの連続性
新しい商業施設の名称は、全くの新規名称ではなく、2012年の閉館まで長年市民に親しまれてきた「CASPA」の名を引き継ぐ形で「NEW CASPA」と命名された。閉館から開業まで12年以上のブランクがあったにもかかわらず、地域住民の記憶に残る旧称を継承することで、駅前の待ち合わせ場所・居場所としての連続性を意識した施設づくりが図られている。
都市再生ビジョンに位置づけられた民間主導プロジェクト
本事業は穴吹興産・トモテツグループ・キョーエイネクストという民間3社が事業主体であるが、単独の民間開発として孤立しているわけではない。福山市の「福山駅前再生ビジョン」「福山駅周辺デザイン計画」に基づき、公開の会議体である「福山駅前デザイン会議」で進捗や成果が定期的に共有され、隣接するエフピコRiMの再生事業「iti SETOUCHI」(2022年9月オープン)など他の民間再開発プロジェクトとも歩行者ネットワークを通じて連動する形で位置づけられている。
(参考:福山市「ふくまちエリアにおけるこれまでの取組の成果と課題について」)
施設・テナントの状況
3棟合計の延床面積は約28,500㎡、総事業費は約110億円。北棟には191戸の分譲住戸が供給され、中棟(10階建て)・南棟(7階建て)の3〜10階部分にはオフィスフロアが配置されている。商業施設「NEW CASPA」は2024年9月1日の開業時点では一部テナントの営業にとどまっていたが、2025年5月までに飲食(コーヒーチェーン、焼肉、鉄板焼、ドリンクスタンドなど)、物販(眼鏡、スニーカー、アウトドア用品)、美容・フィットネス(フィットネスクラブ、美容サロン等)、金融(銀行ATM)など全12区画のテナントが出そろい、満室となった。
(参考:JR福山駅前/駅ビル「NEWCASPA」グランドオープン(流通ニュース)、福山駅前のニューキャスパ、テナント満室に(中国新聞デジタル)、NEWCASPA公式サイト)
エリア全体で確認されている変化
福山市が公表した資料によれば、三之丸町一番地区再生事業を含む「ふくまちエリア」での一連の官民連携プロジェクトを通じて、周辺の徒歩圏(ウォーカブルエリア)では複数の定量的な変化が確認されている。伏見町における1日当たりの流動客数は2017年度から2022年度にかけて平日で約1.2倍、休日で約1.4倍に増加し、ウォーカブルエリア内の商業地地価は2016年から2024年の9年間で平均約20%上昇した(エリア外の商業地の上昇率は平均約10%)。また駅周辺11の商店街の営業店舗数は2017年度の428店舗から2023年度は467店舗へと39店舗増加し、福山城公園の夜間来訪者数は2019年の3.3万人から2023年には7.4万人(約2.2倍)に増加した。これらはエリア全体での成果であり本事業単独の効果を示すものではないが、三之丸町一番地区再生事業は市がこの一連の取り組みの中核事業の一つとして位置づけている。
(参考:福山市「ふくまちエリアにおけるこれまでの取組の成果と課題について」)
単一用途への固執を避けた複合開発によるリスク分散
住宅・オフィス・商業を組み合わせた複合用途は、単なる床構成の多様化にとどまらず、事業期間中の環境変化に対する緩衝材として機能した。今回はホテル需要の急減という外的ショックに対し、他用途(オフィス)への転換や住宅供給量の拡大で対応できた。単一用途に依存した大規模再開発は、事業期間が長期化するほど市場環境の変化リスクにさらされやすい。複合用途による設計上の柔軟性をあらかじめ組み込んでおくことは、他地域の駅前再開発においても、事業期間中の与件変化への対応力を高める設計思想として参照できる。
公共貢献要素と民間収益性を両立させる街区設計
24時間通行可能な公共用通路をあえて敷地内に確保し、複数棟を歩行者デッキでつなぐという設計は、単体の建物としての完結性よりも、駅前広場から周辺市街地への回遊性というエリア全体の価値向上を優先した判断である。私有地内に公共性の高い通路・広場機能を組み込みながら商業施設としての収益性も確保する手法は、優良建築物等整備事業のような公的枠組みを活用しつつ、街区単位ではなくエリア単位でまちの回遊性を高めたい他地域の再開発事業でも応用可能な設計原則といえる。
閉店から10年以上を経ても失われなかった地域の記憶を資産として活用
「CASPA」というブランドは2012年の閉館から実に12年以上にわたり使われていなかったにもかかわらず、新施設の名称として復活した。これは、長期間の空白があっても地域住民の記憶に残るブランドや呼称は、再開発後の施設への心理的な接続点として活用しうることを示している。まったく新しい名称を採用するのではなく、地域に蓄積された記憶を再活用する選択肢は、老朽施設の建て替えを検討する他地域の再開発事業においても、住民の受容性を高める手段として検討に値する。
2026年9月時点の調査内容に基づいて作成
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