
リノベーションまちづくり推進事業「まちの空想倶楽部」
この記事は、my grooveを運営する株式会社Groove DesignsがAIを活用し独自に調査・作成したものです。
広島県福山市が2022年度から実施する住民参加型のまちづくり人材育成事業。中心市街地の商店街エリアごとに3段階ワークショップでビジョンイラストとキャッチコピーを作成し、社会実験へとつなげた取り組みを、数年後の展開まで含めて検証する。
福山市は2022年度(令和4年度)から、中心市街地の商店街エリアを対象とした住民参加型のまちづくり人材育成事業「まちの空想倶楽部」を実施している。市の産業振興課が事業主体となり、対象エリアに暮らす・働く人たちが「こんなふうになったらいいな」という将来像を、3段階のワークショップを通じて1枚の絵とキャッチコピーに落とし込む取り組みだ。 (参考:リノベーションまちづくり推進事業【まちの空想倶楽部】について)
2022年度は伏見町・三之丸・本通・霞(中央公園周辺)の4エリア、2023年度は宮通り・ひさまつどおり・元町通りエリアで実施され、各エリアで描かれたビジョンは、デニム屋台の出店や商店街の緑化イベント、野外映画祭、歩道の芝生化といった小規模な社会実験に接続された。単発のワークショップで終わらせず、その後の店舗開業やエリア独自の継続イベントにまで発展しているエリアがある点が、この事業の実質的な成果を測るうえでの焦点になる。 (参考:リノベーションまちづくり推進事業【まちの空想倶楽部】について)
福山市の中心市街地は、1990年代以降の郊外型ショッピングセンター進出により空洞化が進み、駅前のにぎわい低下が長年の課題となっていた。なかでも伏見町は、かつては繊維の卸問屋が軒を連ねる問屋街としてにぎわっていたが、1970年代の自動車普及に伴い客足が郊外店へ流出。約40年間にわたり再開発計画が浮上しては頓挫を繰り返し、時間が止まったような状態が続いた末、2014年時点の居住人口は101人にまで落ち込んでいた。 (参考:福山市伏見町のリノベーションによる街づくり)
こうした状況を変える機運は、段階的に積み上げられてきた。2017年10月には、福山駅南口周辺の歩道空間を使い、案内所やオープンカフェ、リヤカーでの小商い体験などを配した社会実験「OPEN STREET FUKUYAMA」が市民・企業・大学・行政の協働で実施され、まちの公共空間を使いこなす「パブリックマインド」を育てる試みとして位置づけられた。同年には福山駅前再生手法説明会(187人参加)やリノベーションまちづくりアクションミーティング(131人参加)も開かれ、住民・事業者・行政が同じ方向を共有する土壌がつくられていった。 (参考:ミチを楽しむとヒトが変わり、マチも変わる!? パブリックマインドを育てる社会実験「OPEN STREET FUKUYAMA」、これまでの取組み)
2018年3月には「働く・住む・にぎわい」が一体となった駅前の実現を掲げる「福山駅前再生ビジョン」が策定され、同年からは株式会社リノベリングを迎えて「リノベーションスクール@福山」が始動した。市内外の受講生が遊休不動産を題材に事業プランを練るこのスクールは、2018〜2019年の2年間で20の新規事業を生み出し、2018年12月には伏見町第1号店となる飲食店がオープン、2021年には福山伏見町町内会(後の福山伏見町商店会)も発足している。 (参考:福山駅前再生ビジョンを策定、福山市伏見町のリノベーションによる街づくり)
リノベーションスクールが不動産所有者や創業希望の事業者を主な担い手としていたのに対し、エリアで実際に暮らし働く一般の住民や就業者が将来像づくりに関わる回路は限られていた。「まちの空想倶楽部」は、この層を対象にまちづくり人材を育成し、将来的な創業や地域活動への参加につなげることを狙って2022年度に開始された。 (参考:リノベーションまちづくり推進事業【まちの空想倶楽部】について)
3段階のワークショップ構成
事業は、各対象エリアで3回にわたるワークショップを軸に進められる。第1回では、まちの過去・現状・将来を踏まえ、まちを訪れる人がどのような人でどんな目的を持っているかという観点から参加者同士が意見を交わし合い、第2回では各自が思い描いた空想を発表し合い、ビジョンイラストに盛り込む要素を絞り込む。第3回では下描きの完成度を高めながらエリアの核となる要素を洗い出し、それをもとにキャッチコピーを決める、という流れをとる。 (参考:リノベーションまちづくり推進事業【まちの空想倶楽部】について)
実際の開催形態としては、たとえば霞町エリアでは2022年3月12日・26日の14時から18時にかけて、参加者が対象エリアを実際に歩いて回りながら、不足している要素やニーズを考え、エリアの個性を発見するプログラムが組まれた。現地で撮った写真の上に色を重ねる形で、思い描く理想の風景を描き足していき、描き上がった絵を素材にしながら参加者と専門家が意見を交わし合う構成で、子育て世帯を含む幅広い層が参加できるよう設計されていた。 (参考:【3/12、3/26】【イベント】まちの空想倶楽部、まちづくり、歩いて考案 福山の商店街でワークショップ)
2022年度:4エリア同時展開
初年度となる2022年度は、伏見町・三之丸・本通・霞(中央公園周辺)の4エリアで並行してワークショップが行われ、それぞれ独自のキャッチコピーとビジョンイラストが完成した。伏見町は「懐かしいと新しいに出会えるネオい個商い商店街」を掲げ、路上でのデニム屋台による社会実験を実施。三之丸は「ワン!だぁ三之丸」のもとエリアマップを作成・配布し、本通は「まちの森プロジェクト」として緑化ワークショップイベントを開催した。霞+中央公園エリアは「Kasumi Library Park」を掲げ、野外映画祭の開催と歩道芝生化の社会実験を行った。 (参考:リノベーションまちづくり推進事業【まちの空想倶楽部】について、まちの未来を描こう~自分たちのまちは自分たちでつくる~)
2023年度:対象を1エリアに絞った展開
2023年度は、対象を宮通り・ひさまつどおり・元町通りの1エリアに絞り、「にぎわい×出会いのへそ 福の山クロスポイント」というキャッチコピーのもとでビジョンイラストを作成した。宮通りとひさまつどおりの交差点をにぎわいと出会いの拠点と位置づけ、中央公園からの人の流れの"にじみ出し"を意図した歩道芝生化の社会実験が実施された。市の公式ページの更新は2024年3月が最新で、これ以降の年度における新規ワークショップの開催は確認できていない。 (参考:リノベーションまちづくり推進事業【まちの空想倶楽部】について)
「歩く→描く→名づける」による将来像の可視化
抽象的な議論に終始しがちな将来ビジョンの検討を、実際にエリアを歩いて課題や個性を発見する工程、写真に絵を描き加えて理想のまちを表現する工程、その核をキャッチコピーとして言語化する工程という3段階に分解している。専門家主導で完成形を提示するのではなく、住民・就業者自身の手で1枚の絵とコピーに落とし込ませる設計が、当事者意識の醸成につながりやすい。
複数エリアの並行実施による相互参照
2022年度は4つの商店街エリアで同時にワークショップを走らせている。隣接するエリアが互いの発表内容やビジョンイラストを見比べられる状態をつくることで、単独エリアでの検討より視野が広がりやすく、エリアごとの個性の違いを意識した差別化にもつながっている。
ビジョン策定を社会実験に直結させる設計
多くのまちづくりワークショップはビジョンやイラストの完成をもって終了するが、この事業では各エリアのキャッチコピー確定後、間をおかずにデニム屋台、緑化イベント、野外映画祭、歩道芝生化といった小規模・低コストの社会実験へと接続している。「絵に描いた餅」で終わらせない実践への橋渡しが、当初から組み込まれている点が特徴といえる。
リノベーションスクールとの補完関係
福山市では2018年からリノベーションスクールを継続実施しており、遊休不動産の所有者や創業希望の事業者を主な担い手として実際の事業プランを練り上げてきた。これに対し「まちの空想倶楽部」は、事業プランを持たない一般の住民・就業者を対象にエリアの将来像づくりに関わる機会を提供するもので、担い手の異なる2つの事業を組み合わせることで、まちづくり人材育成のすそ野を広げる構造になっている。 (参考:福山市伏見町のリノベーションによる街づくり)
伏見町:キャッチコピーが数年後の商店街ビジョンに継承
伏見町で2022年度に掲げられた「懐かしいと新しいに出会えるネオい個商い商店街」というキャッチコピーは、その後も生き続けている。福山伏見町商店会が2026年8月に発行した「伏見町ビジョンブック」は、"古き良きものと新しいものが混在するまち"を「ネオい個商い商店街」というコンセプトで表現しており、車道の一部を歩行者向けの広場として開放する実験や、出店希望者が手軽に使える可動式の屋台コーナーといった、デニム屋台の社会実験の延長線上にある取り組みが紹介されている。ワークショップで生まれた言葉とコンセプトが、4年後の商店会の公式な発信物にそのまま採用されている点は、一過性のイベントで終わらなかったことを示す具体的な材料といえる。 (参考:伏見町ビジョンブックができました)
本通:ビジョンが商店街の公式再生プランへ格上げ
本通エリアで描かれた「まちの森プロジェクト」は、その後、福山本通商店街の再生ビジョンとして採用された。以降、商店街内で出た食品廃材を堆肥化して都市農園に還元する「とおり町コンポストプロジェクト」が展開され、2025年10月には「まちの森 秋の収穫祭2025」として、近隣のこども園の子どもたちが栽培に携わった野菜を材料にしたピザづくり体験なども実施されている。ワークショップ発のビジョンが、循環型の都市農園という具体的な活動テーマを持つ継続プロジェクトへと発展した事例である。 (参考:『まちの森 秋の収穫祭2025』がありました)
霞+中央公園:芝生化のアイデアがより本格的な検証へ
霞+中央公園エリアで2022年度に行われた歩道芝生化の社会実験の後、中央公園では2025年2月から2026年8月にかけて、福山市公園緑地課による「芝生を使った環境整備の社会実験」がより大規模な形で実施されている。実際の使われ方を踏まえてエリア分けを見直した広場を整え、居心地の良さや官民連携による運営方法を確かめる内容で、まちの空想倶楽部の提案そのものを引き継いだと公式に明記されているわけではないが、同じエリアで芝生を軸にした検討が段階的に続いている点は注目される。 (参考:中央公園で「芝生を使った環境整備の社会実験」を行っています!)
確認できなかった情報
各年度のワークショップ参加者数、事業予算、三之丸エリアの「エリアマップ」その後の活用状況について、公開情報からは確認できなかった。また2024年度以降、まちの空想倶楽部としての新規エリアでのワークショップ開催情報も見当たらず、事業が継続中かどうかは調査時点では判然としない。
段階的な機運醸成の上に成り立っている点は、他地域が参考にする際に見落としやすいポイントである。福山市では2017年の社会実験や説明会、2018年のビジョン策定とリノベーションスクールの開始という積み重ねを経て、2022年度にようやく住民・就業者向けのビジョン策定型ワークショップへと展開している。同種のワークショップ単体を切り出して他地域に移植しても、下地となる公民の合意形成や先行する成功事例がなければ、参加者の当事者意識や実践への接続力は弱まりやすいと考えられる。
一方で、「ビジョン策定を必ず小規模な社会実験に接続する」という運営上のルール自体は、地域の属人的な条件に依存しない、再現性の高い設計といえる。デニム屋台や緑化イベントのように低コスト・短期間で実施できる実験を初期段階から組み込むことで、ワークショップの成果を可視化しやすくし、参加者の次の行動(出店や継続的な地域活動)への動機づけにもなっている。
複数エリアを同一年度に並行して走らせる運営方法も、他地域での応用可能性がある。エリアごとに個性の異なるキャッチコピーやビジョンイラストが同時に生まれることで、単独エリアでの検討にありがちな視野の狭さを避けやすく、商店街同士が互いの取り組みを意識し合う効果も期待できる。
他方、2023年度に対象エリアが1つに縮小し、2024年度以降の新規展開が確認できない点は、継続的な予算・体制の確保が容易ではないことを示唆している。単年度の委託事業として設計する場合、複数年にわたってエリアを拡大し続けるための財源や、事業終了後にエリア側が自走してビジョンを実践し続ける体制づくりを、初期段階からどう組み込むかが課題になりうる。
2026年09月時点の調査内容に基づいて作成
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