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世田谷区環境基本計画(2025年度〜2030年度)・脱炭素地域づくり
世田谷区環境基本計画(2025年度〜2030年度)・脱炭素地域づくり

世田谷区環境基本計画(2025年度〜2030年度)・脱炭素地域づくり

世田谷区環境基本計画(2025年度〜2030年度)・脱炭素地域づくり

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約90万人が暮らす住宅都市・世田谷区が2025年度に策定した環境基本計画と脱炭素地域づくりの事例。CO2排出の約5割を占める家庭部門を主戦場に据え、無作為抽出の気候市民会議やUCHIKARA、成城でのモデル事業、卒FIT余剰電力のP2P取引まで、区民協働による多層的な脱炭素の設計を紹介する。

概要

世田谷区は2025年度(令和7年度)から2030年度(令和12年度)までの6年間を計画期間とする『環境基本計画』を2025年に策定した。将来像に「自然の力と人の暮らしが豊かな未来をつくる〜環境共生都市せたがや〜」を掲げ、2050年カーボンニュートラルと2030年ネイチャーポジティブ(自然再興)の実現を目指す。温室効果ガス排出量は2013年度比で2030年度までに57.1%削減、さらに野心的な水準として66%削減も視野に入れる。(参考:世田谷区環境基本計画(2025年度〜2030年度)を策定しました脱炭素地域づくりとは世田谷区地球温暖化対策地域推進計画を策定しました(令和5年4月施行)

特徴的なのは、この計画が約90万人が暮らす「住宅都市」という世田谷区の性格に正面から向き合っている点である。区土のおよそ7割を宅地が占め(そのうち約7割が住居系)、二酸化炭素排出量の約5割を家庭部門が占めるため、工場やプラントではなく家庭の暮らしそのものを脱炭素の主戦場に据えている。区は「環境の手入れ」を理念に据え、区民・事業者・NPO・町会がそれぞれの立場で環境を手入れする地域社会の実現を目標とし、無作為抽出型の気候市民会議、区民向けブランド事業「UCHIKARA」、成城地区でのモデル事業「SEIJO GREEN CITY」、卒FIT家庭の余剰電力を地域内で融通するP2P電力取引実証など、多層的な取り組みを展開している。(参考:脱炭素地域づくりとは

背景・課題

前計画の策定以降、国際社会・国・東京都のいずれもが、2050年カーボンニュートラルと2030年ネイチャーポジティブという新たな目標を相次いで掲げた。世田谷区はこうした情勢の変化に即応性と柔軟性をもって対応するため、環境施策の土台となる環境基本計画を改めて策定し直した。(参考:世田谷区環境基本計画(2025年度〜2030年度)を策定しました

課題の核心は、世田谷区が大規模な住宅都市であるという構造にある。区内のCO2排出量の約51%が家庭から生じており、産業都市のように大口の事業所を対象とした削減策では全体の排出を大きく動かせない。約90万人の一人ひとりの暮らし方——電気の契約先、住宅の断熱、家電の選択、日々の行動——を変えていかなければ削減目標には届かない構造になっている。(参考:脱炭素地域づくりとはUCHIKARAとは?

家庭部門を動かすうえで最大の壁は、環境に関心の薄い層をどう巻き込むかという点にある。従来の環境施策は関心の高い区民に届きやすい一方、大多数の生活者の行動変容にはつながりにくい。加えて、住宅用太陽光発電の固定価格買取(FIT)が導入から10年を超え、買取期間を終えた「卒FIT」家庭が増加していることも新たな課題となった。区はこれらを、規制や補助だけでなく、対話・参加・地域内の仕組みづくりによって乗り越えようとしている。(参考:世田谷版気候市民会議住宅用太陽光発電の余剰電力を活用した実証事業

取り組みのプロセス

計画の枠組みづくり。

区はまず、将来像・理念・目標を三層で整理した。将来像「環境共生都市せたがや」、理念「環境の手入れ」、そして2050年カーボンニュートラル・2030年ネイチャーポジティブという二つの到達点を掲げ、温室効果ガス削減(家庭部門中心)とみどり・生物多様性の保全(世田谷みどり33の系譜)を両輪に据えた。(参考:世田谷区環境基本計画(2025年度〜2030年度)を策定しました

無作為抽出による気候市民会議。

区は計画策定と並行し、2025年1月から3月にかけて全3回の「世田谷版気候市民会議」を開催した。ミニパブリックス(無作為抽出型市民会議)の手法を採り、16歳以上の区民4,000名に案内状を送付し、応募した248名のなかから年齢や性別、職業、居住地域が偏らないよう55名を選んだ(当日は35名が出席)。参加者は16歳から78歳まで幅広く、「区の縮図」となるよう設計された。区立教育総合センターで東京大学の専門家による講演を受けたうえで、「太陽光発電設備の設置」「再エネ電力への切替え」「住宅の省エネ改修」「脱炭素行動変容」の4テーマに分かれてグループワークを行い、最終回で区への提言書をとりまとめた。(参考:世田谷版気候市民会議第1回世田谷版気候市民会議

次世代を対象とした気候若者会議。

続いて区は、2050年時点で社会を担う立場になっている若い世代に向けた「世田谷版気候若者会議」を、15〜29歳の64名を集めて2025年11月から2026年1月にかけて全3回開催した。専門家講義とワークショップを通じて環境問題を「自分ごと」として議論し、こちらも提言書を提出している。市民会議が全世代の縮図を、若者会議が将来の当事者世代を担うという世代の役割分担が組まれている。(参考:世田谷版気候若者会議

区民向けブランド事業「UCHIKARA」。

家庭部門の行動変容を後押しする受け皿として、気候危機対策課を事務局に「UCHIKARA」を展開している。再生可能エネルギー電力プランへの切替え促進、太陽光パネル・蓄電池の創エネ支援、家電買い替え・断熱リフォーム・EV購入などの省エネ支援、次世代向けの環境教育、脱炭素イベントの5本柱で構成され、「再エネでんき切り替えキャンペーン」など生活者が参加しやすい入口を用意している。(参考:UCHIKARAとは?

事業者との包括連携協定。

家庭のエネルギーを扱う民間企業とも連携を重ねた。2023年6月に東京電力パワーグリッドと「ゼロカーボンシティ実現に向けた共創推進に関する連携協定」を結んだのに続き、同年9月には東京ガス・東京ガスネットワークと、省エネや低炭素エネルギーへの転換、エネルギーデータを活かした地域単位の需給最適化、環境教育など7分野にわたるカーボンニュートラル包括連携協定を締結。NTT東日本、生活クラブ生活協同組合、レジル株式会社などとも協定・連携を結び、区が旗を振り事業者が家庭部門の脱炭素を技術面で支える体制を組んでいる。(参考:世田谷区のカーボンニュートラル実現に向けた価値共創に関する包括連携協定の締結について東京電力パワーグリッド株式会社と「ゼロカーボンシティ実現に向けた共創推進に関する連携協定」を締結しました

モデル地域「SEIJO GREEN CITY」。

成城地区(成城1〜9丁目)を対象に、「脱炭素(省エネ・再エネ)×地域課題の解決=地域の魅力と価値の向上」という方程式を掲げたモデル事業を進めている。緑地の保全や防災力の向上、住民の健康増進、コミュニティづくりといった身近な課題への対応を脱炭素と束ね、住民との合意形成を図りながら進める設計で、約2,000世帯を無作為抽出したアンケート調査や大学・高校との連携研究を組み込み、2030年まで年次で状況を把握する。成果は区内全域へ横展開する方針が示されている。(参考:脱炭素地域づくり「SEIJO GREEN CITY」

卒FIT余剰電力のP2P電力取引実証。

2025年7月から2027年3月にかけて、区内で生まれた太陽光の余剰電力を地域内で融通するP2P(Peer to Peer)電力取引の実証事業を開始した。設置後10年以上を経た卒FIT家庭(売り手)約200世帯と、区内在住の買い手約100世帯の計約300件規模で、売り手と買い手をブロックチェーン等の技術で自動的にマッチングする。買取価格は9.0〜15.0円/kWhの範囲で30分単位に変動し、参加者にはせたがやPayポイントが付与される。JERA、TRENDE、全農エネルギー、東京大学大学院工学系研究科など複数事業者・団体が加わり、東京都の環境政策加速化事業にも採択された。(参考:住宅用太陽光発電の余剰電力を活用した実証事業

この事例の特徴

住宅都市型の脱炭素として設計されている点。

多くの自治体の脱炭素計画が事業所・工場を主対象とするのに対し、世田谷区は家庭部門(約51%)を明確に主戦場に据え、計画・会議・支援事業・実証のすべてを「暮らしをどう変えるか」に収斂させている。排出構造から施策の設計を逆算している点が一貫している。(参考:脱炭素地域づくりとは

「脱炭素×地域課題解決」という価値の転換。

SEIJO GREEN CITYに象徴されるように、脱炭素を我慢やコストとしてではなく、みどり・健康・防災・コミュニティといった身近な暮らしの困りごとに応えながら地域の価値を底上げしていく手段として捉え直している。環境目標を単独で追うのではなく、住民が実感できる地域メリットに束ねることで動機づけを設計している。(参考:脱炭素地域づくり「SEIJO GREEN CITY」

無作為抽出による「関心の薄い層」の包摂。

気候市民会議は、公募では集まりにくい環境無関心層を含めて「区の縮図」を人為的に構成する手法を採っている。4,000名への案内から属性バランスを取って選出するプロセスは、参加者の代表性を確保し、特定の関心層に偏らない提言を得るための工夫である。全世代の市民会議と将来世代の若者会議を分けた点も、当事者性の設計として明快である。(参考:世田谷版気候市民会議世田谷版気候若者会議

モデル地域先行→横展開というスケール設計。

成城地区で先行的に取り組み、アンケートや大学連携で効果と課題を把握したうえで区内全域へ広げる段階設計を採っている。90万人規模の区全体に一斉展開するのではなく、地域単位で検証してから普及させるリスク管理型のアプローチである。(参考:脱炭素地域づくり「SEIJO GREEN CITY」

卒FIT・地産地消という制度の隙間への地域的回答。

FIT終了後の余剰電力の行き先という全国共通の課題に対し、地域内での電力融通(P2P)という具体的な受け皿を用意している点は、家庭の太陽光を「切替えの後押し」だけで終わらせず、発電した電力が地域内で循環し続ける仕組みまで踏み込んでいる。(参考:住宅用太陽光発電の余剰電力を活用した実証事業

調査時点の成果

計画面では、2050年カーボンニュートラル・2030年ネイチャーポジティブと、2013年度比57.1%削減(野心的水準として66%削減)という数値目標を明文化し、住宅都市としての脱炭素の方向性を公式に定めた点が第一の成果である。(参考:世田谷区環境基本計画(2025年度〜2030年度)を策定しました脱炭素地域づくりとは世田谷区地球温暖化対策地域推進計画を策定しました(令和5年4月施行)

参加の面では、気候市民会議が全3回を経て区への提言書を提出し、若者会議も64名の参加を得て提言をまとめた。市民会議の議論では、20代の参加者から、賃貸住まいの単身者にも実践できる脱炭素対策を尋ねる生活実態に即した問いや、「区民にできることはもうないのでは」という懐疑の声も上がり、講師が、市民が主体となった行動が生まれること自体に意義があると応じるなど、関心層に閉じない率直な対話が生まれた。無作為抽出が想定どおり多様な当事者を議論の場に引き入れたことを示すエピソードである。(参考:16歳から78歳まで!区民が考える世田谷の未来—【気候市民会議】始動第1回世田谷版気候市民会議

実証事業では、P2P電力取引が卒FIT約200世帯・買い手約100世帯の計約300件規模で稼働を開始し、取引状況・平均単価・CO2削減量を毎月更新・公表する運用が始まっている。一方で、これらは計画初年度に着手された取り組みであり、区全体の排出削減量として目標達成度を評価できる段階にはまだ至っていない。現時点の成果は、目標の明文化と、家庭部門を動かすための参加・支援・実証の仕組みが実際に立ち上がったことにある。(参考:住宅用太陽光発電の余剰電力を活用した実証事業

他地域への示唆

第一に、住宅都市の脱炭素は「家庭部門の行動変容」が本丸であり、補助制度の整備だけでは動きにくいという構造を、世田谷の事例は具体的に示している。排出構造(誰がどれだけ出しているか)から施策を逆算し、参加・対話・地域内の仕組みまでを一体で設計する発想は、住宅地の比率が高い都市部の自治体に広く応用できる。

第二に、無作為抽出型の市民会議は、公募では届かない関心の薄い層を政策形成に引き入れる再現性の高い手法である。案内数・応募数・選出属性のバランスを公開しながら「地域の縮図」を構成するプロセスは特定の人物や偶然に依存せず、他自治体でも制度として移植しやすい(近隣の杉並区でも、無作為抽出した16歳以上の5,000名に案内を送る気候区民会議が実施されている)。全世代版と将来世代版を分ける設計も、当事者性を高める工夫として参考になる。(参考:杉並区気候区民会議の概要

第三に、脱炭素を「地域課題解決の手段」として再定義する枠組みは、環境目標を単独で掲げるよりも住民の動機づけに結びつきやすい。みどり・防災・健康・コミュニティといった住民が価値を実感しやすいテーマと束ねることで、脱炭素を「我慢」から「地域の魅力向上」へと転換できる可能性を示している。

第四に、モデル地域で先行検証してから全域へ横展開する段階設計は、大規模自治体が一斉展開のリスクを抑えつつ普及を図る現実的な戦略である。加えて、卒FIT余剰電力のP2P取引のように、国の制度の変化(FIT終了)が生む地域課題に対して自治体が地域内の受け皿を用意する発想は、同じ制度環境に置かれた全国の自治体にとって参照価値が高い。いずれの取り組みも、特定地域固有の条件よりも、排出構造・参加設計・制度対応という移植可能な論理に立脚している点が、他地域にとっての再現性を支えている。

参照元


2026年07月時点の調査内容に基づいて作成

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