
緑の基本計画・景観計画による緑と景観のまちづくり
つくば市が緑の基本計画と景観計画で進める、計画都市ならではの緑と景観のまちづくり。1970年代に緑とペデストリアン網を計画的に埋め込んだ研究学園都市が、街路樹の高木化や公務員宿舎跡地の民間化を背景に、緑を増やす段階から成熟した緑を更新・継承する段階へ移った事例。2024年施行の改正都市緑地法に合わせ新計画の策定を2年延期した点にも特徴がある。
つくば市は、都市緑地法に基づく「緑の基本計画」と景観法に基づく「景観計画」という二つの法定計画を軸に、緑と都市景観を一体的に維持・形成するまちづくりを進めている。多くの自治体にとって緑の基本計画は「乏しい緑をいかに増やすか」という計画だが、1960〜70年代に国家プロジェクトとして白紙から建設された筑波研究学園都市では事情が異なる。都市の骨格として大規模な公園・幹線道路の街路樹帯・約48kmに及ぶ歩行者専用道(ペデストリアンデッキ)が当初から計画的に埋め込まれ、研究機関の敷地にも30%以上の緑地が確保された。つくばの緑と景観のまちづくりは、この「計画的に与えられた緑」を半世紀後にどう更新し、継承していくかという、成熟した計画都市ならではの課題に向き合う取り組みである。 (参考:つくば市緑の基本計画 第2章、筑波研究学園都市とは - つくば市)
この事例を特徴づけるのが、2024年11月に施行された改正都市緑地法への対応である。市の緑の基本計画(改訂版)は2024年度(令和6年度)を目標年次としていたが、市は新計画を急いで作るのではなく、計画期間を2027年3月(令和8年度末)まで延長し、新計画の策定を2年延期した。気候変動・防災・生物多様性に対応して緑を「グリーンインフラ」として位置づけ直す国の新たな枠組みと整合させるための判断である。緑の基本計画は、市が2025年に策定した生物多様性つくば戦略やネイチャーポジティブ宣言とも連動し、研究都市の緑地群を結節点とする緑のエコロジカルネットワークの形成を支えている。 (参考:つくば市緑の基本計画 - つくば市、都市緑地法等の一部を改正する法律について - 国土交通省)
筑波研究学園都市は、東京の過密緩和と研究・教育拠点の形成を目的に、1970年制定の筑波研究学園都市建設法に基づき国家プロジェクトとして建設された計画都市である。都市の設計段階から、洞峰公園や赤塚公園といった大規模な都市計画公園、幹線道路の広幅員の街路樹帯、住区を結ぶ約48kmのペデストリアンデッキが骨格として配置された。移住者の多くが国家公務員であったため計画的な公務員宿舎が各地区に建設され、緑の基本計画が「緑の中に住棟があるような印象を与える景観」と表現する街並みが形成された。これはつくば独自の街並み特性である。 (参考:筑波研究学園都市とは - つくば市、つくば市緑の基本計画 第2章)
しかし、計画建設から半世紀が経ち、この「与えられた緑」は新たな局面を迎えている。第一に、街路樹の成熟・高木化である。市が管理する街路樹は歩道部だけで高木が約1万本にのぼり、植栽から半世紀近くを経て倒木・落枝のリスクや、生育のアンバランス、生活環境への影響が顕在化した。緑の基本計画自身も、広幅員の植樹帯がつくる優れた沿道景観を評価する一方で、一部の区間では樹種や植栽基盤などの条件から樹木の育ち方に偏りが生じ、倒木につながる事例が出ていること、ペデストリアンデッキの一部がうっそうとしていることを課題として明記している。「緑が貧弱で増やしたい」という多くの都市とは逆に、つくばは「成熟しすぎた緑をいかに安全に更新するか」という、計画都市ゆえの“緑の高齢化”に直面している。 (参考:街路樹の維持管理指針 - つくば市、つくば市緑の基本計画 第2章)
第二に、公的に供給された緑の民間化である。財務省方針により2005年から国家公務員宿舎の処分が進み、つくば市内に供給された宿舎の約7割が廃止対象とされた。跡地は地区計画を定めて売却され緑の確保が図られるが、敷地内に緑を確保することが難しい場合もあり、「緑の中に住棟」という研究学園地区の環境は大きく変化しつつある。都市公園の整備が進む一方で宿舎廃止により施設の緑地が減少し、市街化区域に対する緑の割合は微増にとどまった。公的主体が供給してきた緑をどう守り継ぐかが、緑と景観の連続性を左右する課題となっている。 (参考:つくば市緑の基本計画 第2章、筑波研究学園都市の現状と諸課題にみる都市形成過程上の問題 - 国土技術政策総合研究所)
第三に、制度環境の変化である。2024年5月29日に都市緑地法等の一部を改正する法律(令和6年法律第40号)が公布され、同年11月8日に施行された。気候変動対応・生物多様性確保(ネイチャーポジティブ)・防災減災・Well-being向上といった観点から緑地を「グリーンインフラ」として捉え直し、国による基本方針の策定、荒廃した緑地を更新・再生する機能維持増進事業、民間の優良な緑地確保を国が認定するTSUNAG制度などが新設された。国は同年12月に基本方針(告示第1367号)を定め、市街地について緑被率3割以上を目指すなどの全国目標を掲げ、市町村の緑の基本計画にこの方針を反映するよう促した。市の計画は、この大きな制度転換と歩調を合わせる必要に迫られた。 (参考:まちづくりGX(緑地の保全及び緑化の推進) - 国土交通省、都市における緑地の保全及び緑化の推進に関する基本的な方針 - 国土交通省)
つくば市の緑の基本計画は2005年3月に初版が策定され、つくばエクスプレス(TX)開業や沿線開発の進展などを踏まえて2016年3月に改訂版が定められた。改訂版は「人と緑が共生する田園都市(ガーデンシティ)・つくば」を緑の将来像に掲げ、「協働の仕組みをつくる」「田園の緑を守り育てる」「環境を支える緑の骨格を強化する」「緑に親しむ拠点や道をつくる」「豊かな緑のまちなみをつくる」という5つの基本方針のもとに12の推進施策を体系化した。あわせて、市域の60%以上の緑の維持、市民1人当たり10㎡以上の都市公園確保、市民が主体的に管理する緑地の確保、アダプト・プログラム活動団体100団体以上といった具体的な目標水準も設定している。 (参考:つくば市緑の基本計画 第3章、つくば市緑の基本計画 概要版)
この改訂版は2024年度を目標年次とし、計画期間は2025年3月で終了する予定だった。しかし、改正都市緑地法の施行と国の基本方針の策定がこのタイミングと重なったため、市は新計画を急造せず、現行計画の計画期間を2027年3月(令和8年度末)まで延長して新計画の策定を2年延期する判断を行った。改正法・国基本方針に即した実効的な計画を策定する時間を確保しつつ、計画の空白期間が生じることを避ける措置である。 (参考:つくば市緑の基本計画 - つくば市)
緑とならぶもう一つの軸が景観計画である。つくば市は2005年8月に景観法に基づく景観行政団体となり、2007年6月につくば市景観条例を制定、同年10月に景観計画を策定した。2012年6月には景観形成重点地区の追加と屋外広告物条例の制定にあわせた変更を行っている。景観計画は市全域を計画区域とし、「筑波山への視線軸」「研究学園都市の都市景観軸」「水辺の景観軸」「緑の拠点・骨格軸」という骨格軸を景観構造の柱に据える。とりわけ、街路樹やペデストリアンデッキが生み出す緑ゆたかな歩行者空間、研究機関・大学の建築物群と緑地帯が一体となった街路景観を「研究学園都市の風格ある景観」と位置づけ、その維持・保全を図る点に、緑と景観を不可分に扱うつくばの姿勢が表れている。 (参考:つくば市景観計画 - つくば市、つくば市景観計画(本編))
具体的な手法としては、一定規模以上の建築物・工作物・開発行為を対象とする届出制度、色彩をマンセル表色系で規定する景観形成基準、つくば駅周辺の研究学園中心地区(約94ha)やTX沿線の地区計画指定地区などの景観形成重点地区の指定がある。屋外広告物については市独自の屋外広告物条例(2012年10月施行)で許可制による規制を行う。加えて、TX沿線の研究学園・みどりの地区などでは住宅メーカーや住民による景観協定が複数結ばれ、住民主体で街並みのルールを定める提案型の景観まちづくりも展開されている(TX沿線・研究学園地区のまちづくりは関連事例「つくばエクスプレス沿線・研究学園地区のまちづくり」で詳述)。 (参考:届出制度 - つくば市、認可された景観協定 - つくば市)
成熟した緑の安全管理に向けては、市は街路樹を「貴重な財産」と位置づけたうえで、市民の安全・安心を最優先する「街路樹の維持管理指針」を2022年(令和4年)に策定し、樹勢診断と計画的な更新・伐採を進めている。一方で緑を量から質・つながりへと展開する方向として、市は2025年3月に生物多様性つくば戦略を策定し、4月1日にネイチャーポジティブ宣言を行った(関連事例「生物多様性つくば戦略の策定とネイチャーポジティブ宣言」で詳述)。研究機関の構内緑地を結節点とする緑のネットワークづくりは、国立環境研究所が主導する「つくば生きもの緑地ネットワーク」や自然共生サイト認定の動きとも接続している(関連事例「つくば生きもの緑地ネットワークと国立環境研究所の自然共生サイト」で詳述)。 (参考:街路樹の維持管理指針 - つくば市、生物多様性つくば戦略)
最大の特徴は、緑の基本計画・景観計画が、緑の不足を補う「創出」の計画ではなく、計画都市が当初から備えた緑のストックを「更新・継承」する計画として機能している点にある。約48kmのペデストリアン網、広幅員の街路樹帯、研究機関の構内緑地といった緑は、1960〜70年代の都市建設時に都市骨格として設計されたものだ。半世紀を経て緑が成熟・高木化し、危険木の伐採・更新が必要になる「緑の高齢化」は、いずれ全国の都市が直面しうる課題を先取りしている。つくばの計画群は、その更新と安全管理を、緑の価値を損なわずにどう進めるかという、成熟都市の緑のマネジメントモデルを提示している。 (参考:つくば市緑の基本計画 第2章、街路樹の維持管理指針 - つくば市)
第二の特徴は、公務員宿舎やUR・研究機関といった公的主体が供給してきた緑が街並みの根幹をなし、その払い下げ・民間化に対して計画手法で緑の連続性を守ろうとする構図である。宿舎跡地の売却にあたって地区計画で敷地の緑化を定め、景観計画・景観協定で街並みのルールを担保するという、緑の基本計画と景観計画を組み合わせた防御線が引かれている。一般の自治体では遊休地の活用問題にとどまる宿舎跡地が、つくばでは「緑の中に住棟」という都市デザイン資産の継承問題になる点が際立つ。 (参考:つくば市緑の基本計画 第2章、つくば市緑の基本計画 第3章)
第三に、研究学園都市ならではの土地利用ルールが緑のネットワークの基盤になっている。建設当初から各研究機関の敷地内に30%以上の緑地確保が求められてきたため、市内には大学・研究機関の構内緑地という大規模な緑のまとまりが点在する。これらが緑のエコロジカルネットワークの結節点となり、緑の基本計画(緑の骨格・ネットワーク)から生物多様性つくば戦略(30by30)、自然共生サイト・OECM認定へと続く、階層的な生態系保全の土台を形づくっている。研究機関の集積という都市の個性が、緑と景観の計画にそのまま生きている。 (参考:つくば市緑の基本計画 第1章、つくば地域で初めての「自然共生サイト」認定 - 国立環境研究所)
緑の総量については、緑(土地利用上の緑地等)が市域に占める割合が約63%を維持し、市は計画でこれを60%以上に保つ目標を掲げている。ただし市街化区域に対する緑の割合は11.9%にとどまり、宿舎跡地の民間化などにより微増にとどまった。都市公園は計画策定時点で171箇所・約208haが整備されていたが、人口の急増に公園整備が追いつかず、市民1人当たりの都市公園面積は2015年3月時点で9.39㎡、最新の市公表値(2023年)では約8.87㎡と、目標の10㎡を下回り漸減傾向にある。緑の量の指標は、計画目標と人口増の現実とのギャップを率直に示している。 (参考:つくば市緑の基本計画 第2章、都市公園一覧 - つくば市)
一方、景観マネジメントの仕組みは着実に運用されている。市全域を対象とする届出制度、市独自の屋外広告物条例による許可制、TX沿線住宅地を中心とする複数の景観協定が定着し、研究学園中心地区などの景観形成重点地区で街並みのルールが運用されている。生態系の面では、市が2025年3月に生物多様性つくば戦略を策定し4月にネイチャーポジティブ宣言を行ったほか、研究機関の構内緑地が国の自然共生サイトに認定されるなど、緑の骨格を生態系ネットワークへと展開する動きが具体化している。なお、改正都市緑地法・国基本方針に対応する新たな緑の基本計画は2026年時点で策定中であり、本格的な成果はこれからの段階にある。 (参考:認可された景観協定 - つくば市、つくば市緑の基本計画 - つくば市)
第一に、緑の計画には「増やす」段階の先に「成熟した緑を更新・継承する」段階があることを、つくばは先取りして示している。高度成長期やニュータウン開発で一斉に植えられた街路樹・公園樹木は、全国の都市で今後一斉に高齢化・大径木化を迎える。緑を貴重な財産と位置づけつつ、計画的な更新・伐採を安全管理として組み込むつくばの考え方は、これから「緑の高齢化」に向き合う自治体の参考になる。緑の基本計画を「植える計画」から「育て、更新し、看取る計画」へと拡張する視点が求められる。 (参考:街路樹の維持管理指針 - つくば市、つくば市緑の基本計画 第2章)
第二に、公的に供給された緑を民間化の局面でどう守るかという論点である。公務員宿舎・公的住宅・公的機関の緑は、払い下げや再開発で一気に失われやすい。つくばは、地区計画による敷地緑化の担保と、景観計画・景観協定による街並みルールの維持を組み合わせて緑の連続性を守ろうとしている。緑の基本計画と景観計画を別々の計画として持つのではなく、緑と景観を一体の都市資産として連動運用することが、民間化局面での防御線になりうる。 (参考:つくば市緑の基本計画 第2章、つくば市景観計画 - つくば市)
第三に、制度の大きな転換期における計画策定のタイミング判断である。つくば市は、改正都市緑地法と国の基本方針という上位の枠組みが固まる時期に、あえて新計画を急造せず現行計画の期間を延長し、策定を2年延期した。制度変更の途上で計画を作り込むより、枠組みの確定を待って整合性の高い計画を作る方が実効的だという判断であり、計画の空白を延長措置で埋める手法とあわせて、制度過渡期の計画行政の一つの定石を示している。 (参考:つくば市緑の基本計画 - つくば市、都市緑地法等の一部を改正する法律について - 国土交通省)
第四に、都市が持つ固有の資源を緑と景観の計画に生かす発想である。つくばの場合、それは「研究機関の構内緑地」という土地利用ルールが生んだ緑の塊であり、これを生態系ネットワークの結節点として生物多様性戦略へ接続した。自地域に固有の大規模緑地(工場敷地、社寺林、農地、公的施設の緑など)を緑のネットワークの核として再定義する発想は、特定の人物に依存せず、多くの地域に応用できる。 (参考:つくば市緑の基本計画 第1章、つくば地域で初めての「自然共生サイト」認定 - 国立環境研究所)
2026年6月時点の調査内容に基づいて作成
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