
応用地質つくばオフィス緑地の自然共生サイト認定
茨城県つくば市の応用地質つくばオフィス敷地内緑地約2.4haが、2024年に環境省の自然共生サイトに認定された事例。樹林と草地が併存する企業敷地で、社内の生物専門人材がカメラトラップやバイオネスト、草刈り頻度の調整による生息環境づくりを実践し、自社の認定支援サービスへ事業化している。
2024年、茨城県つくば市御幸が丘にある応用地質株式会社つくばオフィスの事業所敷地内緑地(約2.4ヘクタール)が、環境省の「自然共生サイト」に認定された。自然共生サイトは、企業の森や里地里山、都市の緑地など、民間の活動を通じて生物多様性が守られている区域を国が認定する制度で、応用地質の緑地は令和5年度後期の認定(2024年2月27日報道発表、認定証は同年3月18日付)に含まれる62か所の一つである。同年8月には、保護地域との重複を除いた2.0ヘクタールが、OECM(保護地域以外で生物多様性保全に資する区域)として国際データベース(WD-OECM)に登録された。 (参考:応用地質 プレスリリース、環境省 令和5年度後期認定結果、応用地質「OECMに登録されました」)
特徴は、保全の対象となったのが企業の事業所敷地という、これまで生物多様性保全の文脈で可視化されにくかった土地であること、そしてその管理を担うのが地質調査・建設コンサルタントを本業とする応用地質の社内人材だという点にある。同社には、生物分類技能検定の資格を持つ職員や樹木医など動植物に通じた人材がおり、シラカシやケヤキ、コナラといった高木が茂る樹林エリアとイネ科草本群落の草地エリアが併存する緑地で、カメラトラップによる野生動物観測、落ち葉や剪定枝を積んだバイオネスト、草刈りの頻度を変える管理などを実践している。さらに同社は、この自社実践を踏まえて他企業向けの「自然共生サイト認定支援サービス」を事業として展開しており、自社緑地が実践とソリューションの両面を担う構造になっている。 (参考:応用地質 プレスリリース、応用地質 自然共生サイト/OECM支援サービス)
国際的には、2030年までに国土と海域の少なくとも3割を健全な生態系として守る「30by30目標」の達成が課題となっている。日本は「生物多様性国家戦略2023-2030」でネイチャーポジティブ(自然再興)の実現と30by30を掲げ、その実現手段として環境省が2023年度(令和5年度)から「自然共生サイト」認定を開始した。これは国立公園のような法的保護地域だけでなく、企業や団体が日常的に管理する緑地を保全区域として位置づけ、保護地域との重複を除いた区域をOECMとして国際データベースに登録していく仕組みである。都市や産業の敷地に点在する緑のまとまりをどう保全の枠組みに取り込むかが、制度設計上の焦点となっていた。 (参考:環境省 自然共生サイト・30by30、応用地質 プレスリリース)
公園や里地里山と異なり、企業の事業所敷地は通常、外部の目が入りにくく、その緑地にどのような生きものが暮らしているかが体系的に把握される機会は乏しい。一方で、まとまった面積の社有緑地は、適切に管理されれば都市内の貴重な生息環境になり得る。近年は、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)に代表される自然資本の情報開示の潮流もあり、企業が自社敷地の生物多様性を可視化し、社会に示す動機が高まっていた。応用地質つくばオフィスの緑地は、こうした「企業敷地の埋もれた生態系価値」を制度に接続する一例として位置づけられる。 (参考:応用地質 自然共生サイト/OECM支援サービス、つくばSDGsパートナーズ 応用地質)
応用地質は地質調査・防災・建設コンサルタントを主力とする企業だが、環境事業として企業緑地の管理支援、生態系保全調査、生物多様性保全コンサルティングを手がけている。つくばオフィスにはこうした業務を担う動植物の専門人材や樹木医が所属しており、自社敷地の緑地を専門的に評価・管理できる体制が社内に存在した。同社は「生物多様性のための30by30アライアンス」にも参加しており、自社緑地での取り組みは、30by30への賛同を具体的な実践で裏づける位置づけを持っていた。 (参考:応用地質 プレスリリース、つくばSDGsパートナーズ 応用地質)
つくばオフィスの緑地は、シラカシやケヤキ、コナラといった地域在来の高木が育つ樹林エリアと、主にイネ科の草本が広がる草地エリアの二つの環境で構成されている。社内の専門人材がこの緑地で生きものの状況を把握し、生息環境を整える管理を行ってきた。具体的には、野生動物を撮影するカメラトラップの設置、構内の落ち葉や剪定枝を積んで小動物や昆虫のすみかとするバイオネストの活用、場所によって草刈りの頻度を変えて多様な草丈の環境を残す管理などである。あわせて、希少な動植物に配慮した刈り取り禁止区域の設定、植物の移植、繁殖期に配慮した伐採禁止期間の設定といった措置がとられている。 (参考:応用地質 プレスリリース、NIES つくば生きもの緑地ネットワーク)
これらの管理実践と緑地の生態系価値が評価され、つくばオフィスの緑地は令和5年度後期の自然共生サイト(2回目の環境大臣認定、全国62か所)に認定された。認定にあたっては、緑地でどのような生きものが確認されているかが基礎情報となる。撮影・確認された生きものには、カブトムシ・クロカナブン・オオヒラタシデムシなどの昆虫、ツグミ・ヒバリ・キジ(キジは雌の親と幼鳥が撮影された)などの鳥類、ノウサギ、爬虫類のアオダイショウなどが含まれ、樹林と草地が併存する敷地が多様な生きものの生活の場になっていることが示された。 (参考:応用地質 プレスリリース、環境省 令和5年度後期認定結果)
2024年8月、令和5年度に認定された自然共生サイトのうち保護地域との重複を除いた区域が、OECMとして国際データベース(WD-OECM)に登録された。応用地質つくばオフィスの緑地は、このうち2.0ヘクタールが登録対象となった。自社敷地内の緑地が、国内制度にとどまらず国際的な保全区域のデータベースに位置づけられたことになる。 (参考:応用地質「OECMに登録されました」)
つくば市には、国立環境研究所が呼びかけ役となり、研究機関・企業・市民団体・行政の緑地を相互に観察・情報共有でつなぐ「つくば生きもの緑地ネットワーク」がある。応用地質は2024年から同ネットワークに参加し、2024年7月には新たに自然共生サイトに認定された企業として国立環境研究所での意見交換に加わり、植物相の管理やサイト認定支援事業について議論した。さらに2025年5月22日には、ネットワークのメンバー10機関・団体19名がつくばオフィスを見学し、カメラトラップやバイオネストといった具体的な取り組みが共有され、希少種の保護や外来種への対応について意見が交わされた。単独敷地の取り組みを、研究学園都市の緑地群と「面」でつなぐ動きである。 (参考:NIES つくば生きもの緑地ネットワーク、応用地質「ネットワークの方々が見学されました」)
2025年4月、自然共生サイト制度を法制化した「地域生物多様性増進法」が施行された。同法では、施行前に認定された既存の自然共生サイトについても、当該サイトを実施区域とする「増進活動実施計画」を新たに作成し、環境・農林水産・国土交通の3大臣による認定を改めて得ることが必要となった。応用地質は2026年1月、つくばオフィスの自然共生サイトを実施区域とする増進活動実施計画について同法に基づく認定(令和7年度第2回)を取得し、任意の認定から法律に基づく計画認定へと制度的な裏づけを更新した。 (参考:応用地質「増進活動実施計画が認定されました」、環境省 地域生物多様性増進法の施行)
第一の特徴は、保全対象が「企業の事業所敷地内緑地」であることだ。つくば市内では、都市公園(洞峰公園など)や国立研究機関の構内緑地が自然共生サイトに認定されてきたが、本事例は民間企業のオフィス敷地という別カテゴリの土地を制度に乗せた点に独自性がある。日常的に従業員が働く事業所の傍らにある緑地が、国際データベースに登録される保全区域として位置づけられた。 (参考:応用地質 プレスリリース、応用地質「OECMに登録されました」)
第二に、管理を担う専門性が社内に内製化されている点である。多くの企業緑地は外部委託や造園業者に管理を委ねるが、本事例では生物分類技能検定の資格を持つ職員や樹木医といった専門人材が社内におり、生きものの状況把握から生息環境づくりまでを自前で行っている。カメラトラップやバイオネスト、草刈り頻度の調整といった手法は、生態学的な意図に基づいて設計された管理であり、敷地の緑を「維持する」段階から「生息環境として育てる」段階へ踏み込んでいる。 (参考:応用地質 プレスリリース、NIES つくば生きもの緑地ネットワーク)
第三に、自社実践を事業へ転化する循環構造である。応用地質は、自社緑地での認定取得・管理の経験を踏まえ、他の企業・団体向けに生物調査から増進活動実施計画の作成・申請、認定後のモニタリング・効果測定・イベント企画までを支援する「自然共生サイト認定支援サービス」を展開している。自社敷地がサービスの実証フィールドであり、ショーケースでもあるという構造は、環境を本業の一部に持つ企業ならではの事例の発展形といえる。 (参考:応用地質 自然共生サイト/OECM支援サービス、応用地質 プレスリリース)
第四に、単独敷地を地域の緑地ネットワークに接続している点である。応用地質はつくば生きもの緑地ネットワークに参画し、研究機関や市民団体と見学会・意見交換を重ねている。生きものは敷地境界を越えて移動するため、点としての企業緑地を周辺の研究所緑地・公園とつなぎ、面としての生態系として捉え直す視点が組み込まれている。 (参考:NIES つくば生きもの緑地ネットワーク、応用地質「ネットワークの方々が見学されました」)
2026年6月の調査時点で確認できる成果は次の通りである。
一方で、認定や登録はあくまで保全活動の「起点」であり、生物多様性の状態そのものがどれだけ改善したかは、今後の継続的なモニタリングで検証される段階にある。保全対象の面積も約2.4ヘクタールと限られており、単独敷地での効果には自ずと範囲がある。だからこそ、つくば生きもの緑地ネットワークのような面的連携を通じて周辺緑地とつながることの意味が大きい。
企業の事業所敷地という「埋もれた緑の資産」の再評価。 工場・研究所・オフィスなどの事業所敷地には、外部から見えにくいまとまった緑地が眠っていることが多い。本事例は、そうした企業緑地が、適切に管理・記録されれば国の認定や国際データベース登録の対象となり得ることを示している。自治体にとっては、地元の立地企業に対して社有緑地の生物多様性価値の掘り起こしを呼びかける余地があり、企業にとっては自然資本の情報開示やステークホルダーへの訴求と結びつけやすい取り組みである。
本業の専門性を自社資産に適用し、事業化する循環モデル。 応用地質は、環境調査・コンサルティングという本業の専門性を自社緑地に適用し、その実践をさらに他社向けサービスへと展開した。環境分野に限らず、造園・林業・不動産・教育など、自社の中核能力を社有地や関連資産に適用して実証し、ソリューション化するという発想は、業種を問わず応用が利く。「自社で実践した取り組みを外に売る」構造は、取り組みを一過性のCSRで終わらせず、継続のインセンティブを内在化させる点で示唆に富む。
専門性をどう確保するか――属人性を回避する選択肢。 本事例の管理は社内の専門人材に支えられているが、これは多くの企業・自治体には必ずしも当てはまらない条件である。だからこそ、専門人材を社内に持たない主体にとっては、こうした支援サービスの活用、研究機関や市民団体との連携、地域の生きものネットワークへの参加といった外部リソースの取り込みが現実的な代替策になる。重要なのは、特定の担い手の熱意ではなく、専門性に裏づけられた管理を継続できる仕組みをどう設計するかである。
制度移行期に「再認定」を経た実例としての参照価値。 自然共生サイトは2025年に地域生物多様性増進法へと法制化され、既認定サイトには増進活動実施計画の再申請が求められた。本事例は、任意制度の下で認定を受けた主体が、法施行に伴って計画を作り直し法定認定へ移行する一連の流れを実際に経ている。今後、保全の枠組みに参加する主体が増えるほど、こうした制度更新への対応が共通の論点になる。早期に認定を取得した主体がどのように制度移行を乗り越えたかは、後続の地域・企業にとって具体的な手順の参考になる。
2026年6月時点の調査内容に基づいて作成
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