
杉並区景観計画(第2回改定)
2010年策定・2016年第1回改定の杉並区景観計画を2025年4月に第2回改定。上位・関連計画との整合と区民の認知度向上を目的に掲げ、パブリックコメントで寄せられた46項目の意見による修正120項目を含む、計画全体189項目の修正を行った。
杉並区は2025年(令和7年)4月、2010年(平成22年)に策定し2016年(平成28年)に第1回改定を行った「杉並区景観計画」を第2回改定した。景観計画は景観法と杉並区景観条例に基づく法定計画で、区内全域34.06平方キロメートルを景観計画区域とし、建築物等の届出制度や大規模建築物の事前協議を通じて良好な景観形成を誘導するものである。 (参考:杉並区景観計画|杉並区公式ホームページ)
今回の改定は、単に規制基準を見直すものではなく、上位・関連計画の更新内容を反映すること、そして「景観づくりに関心はあっても区の取組みまでは知らない」という区民の認知ギャップを埋めることを明確な目的に掲げた点に特色がある。改定案は2024年12月に公表され、35日間のパブリックコメントで寄せられた12件・延べ46項目の意見をもとに、計画全体で189項目という広範な修正が加えられたうえで2025年4月に公表された。 (参考:都市環境委員会資料 令和7年6月10日 杉並区景観計画の改定について)
杉並区は2008年(平成20年)に杉並区景観条例を制定し、2009年(平成21年)に東京都の同意を得て景観法上の「景観行政団体」となった。これにより法定の景観計画を策定できる立場を得て、2010年(平成22年)に区内全域を対象とする「杉並区景観計画」を初めて策定し、2016年(平成28年)には社会情勢の変化に対応するため第1回改定を行っている。 (参考:都市環境委員会資料 令和7年6月10日 杉並区景観計画の改定について)
第1回改定から約8年の間に、景観計画と関わりの深い上位・関連計画が相次いで更新された。2021年10月には「みどり豊かな住まいのみやこ」を杉並区の目指す姿とする新たな基本構想が策定され、2022年5月には杉並区環境基本計画が改定された。2023年3月には都市計画マスタープランにあたる「杉並区まちづくり基本方針」が改定され、従来の「景観まちづくり方針」に加えて「ゼロカーボンシティを目指すまちづくり方針」が新たに掲げられた。景観計画をこれらの内容と整合させる必要が生じたことが、改定の直接的な引き金になっている。 (参考:都市環境委員会資料 令和7年6月10日 杉並区景観計画の改定について)
同時に区が把握していたのが、景観づくりへの関心と行政施策の認知度との間のギャップである。区は改定にあたり「景観づくりに関心はあっても、区の取組みまでは知らない人の割合が非常に高い」という実情を明記し、これを制度面の見直しと並ぶもう一つの課題として位置づけた。届出制度や事前協議といった規制の枠組みは整っていても、その存在や意義が区民・事業者に十分伝わっていなければ、良好な景観形成という目的の達成度は限定的になる、という問題意識である。 (参考:都市環境委員会資料 令和7年6月10日 杉並区景観計画の改定について)
これらを踏まえ区が定めた改定の視点は3つある。緑化や防災、産業振興など他部門の取組みを景観の切り口で棚卸しして計画に組み込むこと、まちづくり基本方針に新設された脱炭素の方向性を計画の随所に反映させること、そして専門的な記述に偏りがちな紙面を図版や写真を交えて区民・事業者に伝わる構成へ作り替えること――この3点を柱として区は第2回改定に着手した。 (参考:都市環境委員会資料 令和7年6月10日 杉並区景観計画の改定について)
1. 審議会での検討と改定案の取りまとめ(〜2024年11月)
区は、まちづくり景観審議会および都市計画審議会への意見聴取を経て改定案を取りまとめ、2024年11月28日の都市環境委員会に報告した。改定案では、100年後を見据えて設定された現行計画の将来像「みどり豊かな美しい住宅都市、『杉並百年の景』」を引き続き据えたうえで、「美しさと落ち着きのあるまちなみを継承します」など4項目の基本理念と、それに対応する4項目の取組方針を新たに整理している。 (参考:都市環境委員会資料 令和6年11月28日 杉並区景観計画の改定(案)について)
2. 改定案の公表とパブリックコメントの実施(2024年12月〜2025年1月)
改定案は2024年12月3日に公表され、同日から2025年1月6日までの35日間、意見提出手続き(パブリックコメント)が実施された。周知は広報すぎなみの臨時号、区公式ホームページ、市街地整備課・区政資料室・区民事務所・図書館での文書閲覧という複数の手段を組み合わせて行われた。 (参考:都市環境委員会資料 令和7年6月10日 杉並区景観計画の改定について)
3. 意見への個別回答と計画修正(2025年1月〜3月)
寄せられた意見は12件(すべて個人からの提出で、団体からの提出はゼロ)、延べ46項目にのぼった。区はこのすべてに対して「区の考え方」を一件ずつ文書化し、意見による修正120項目を含む計189項目の修正を計画案に反映した。意見には、第1章における景観法・景観条例の関係性の説明不足の指摘、第2章の地図表記の不備(国の史跡である荻外荘や玉川上水が地図上で文化財の記号を伴っていない点など)、第6章の届出制度の説明順序が分かりにくいという指摘、届出件数・事前協議件数のグラフを縦棒から横棒表示に改めるべきという提案など、条文や紙面構成レベルにまで踏み込んだ内容が含まれていた。区はこれらに対し、記述の追加、表現の修正、地図・図版の調整などで個別に対応している。 (参考:都市環境委員会資料 令和7年6月10日 杉並区景観計画の改定について)
4. 都市計画審議会への意見聴取と公表(2025年3月〜4月)
区は2025年3月に都市計画審議会への意見聴取を行ったうえで計画を改定し、2025年4月に第2回改定を行った。改定後の計画本文は同年4月15日付で区公式ホームページ上に掲載され、あわせて内容をかいつまんで伝える広報用の小冊子も別途用意される見通しが示された。 (参考:都市環境委員会資料 令和7年6月10日 杉並区景観計画の改定について)
個人による詳細な技術的指摘に、修正一覧という形で応答した
パブリックコメントの提出者はわずか12件、しかもすべて個人であり、団体からの提出はなかった。数だけを見れば決して大規模な参加とは言えない。しかし区は、寄せられた意見の一つひとつに「区の考え方」を対応させた一覧を作成・公表し、さらに計画案の「修正前」「修正後」「修正理由」を189項目にわたって並べた別紙を公開した。意見の中には、地図上での文化財記号の欠落や、規定根拠となる条文の記載有無の不統一、グラフの向きといった、通常であれば見過ごされやすい紙面設計上の指摘まで含まれていたが、区はこれらも修正理由とともに一覧に記載している。意見の「件数」ではなく「対応の可視化」に力点を置いたプロセスと言える。 (参考:都市環境委員会資料 令和7年6月10日 杉並区景観計画の改定について)
規制の説明書から、他部門施策を束ねる編集の場へ
改定案の検討段階で区は、みどりの保全・創出、まちなか整備、歴史と文化の保存・活用という3つの切り口のもとに、みどりの基本計画や環境基本計画、交通安全計画、空家等対策計画、産業振興計画といった他部門の施策を「景観づくりに資する取組み」として整理し、景観計画の中に位置づけ直した。景観行政を届出・規制という狭い制度運用にとどめず、緑化助成や無電柱化、空き家対策、商店街振興といった隣接施策との関係性を一つの計画の中に可視化した点は、部署ごとに分断されがちな景観行政の運用に一つの型を示している。 (参考:都市環境委員会資料 令和6年11月28日 杉並区景観計画の改定(案)について)
「認知度の低さ」を規制強化と並ぶ改定目的に据えた
多くの景観計画改定は、基準の強化・緩和や対象区域の見直しなど制度内容の変更を主眼に置く。杉並区は、届出・事前協議制度そのものの枠組みは維持しつつ、「関心はあるが取組みを知らない」という認知面の課題を明示的な改定目的の一つとして掲げ、イラストや写真を活用した紙面構成の見直しに具体的な作業として取り組んだ。制度の中身ではなく「伝わり方」を変えることを政策目標として明文化した点は、既に一定の制度が整備されている自治体が景観計画を見直す際の視点として参考になる。 (参考:都市環境委員会資料 令和7年6月10日 杉並区景観計画の改定について)
計画の改定・公表が完了した
改定後の杉並区景観計画は2025年4月に改定され、同年4月15日に区公式ホームページ等で公表された。区内全域を対象とする法定計画としての改定手続きは完了しており、市街地特性別の目標・方針や景観形成基準、届出・事前協議制度は、改定後の内容で運用されている。 (参考:都市環境委員会資料 令和7年6月10日 杉並区景観計画の改定について)
パブリックコメントを反映した189項目の修正が記録として公開された
改定案に寄せられた12件・延べ46項目の意見のうち、意見による修正120項目を含む計189項目の修正が行われ、区は「意見及び区の考え方」と「修正一覧」をそれぞれ別紙として公表した。目次構成の簡素化(4頁構成から2頁構成へ)、条例・法との関係性に関する説明の追加、地図の記号・大きさの統一、届出件数・事前協議件数グラフの表示方法の変更など、修正内容は紙面構成から個別の記述まで多岐にわたる。区民から寄せられた指摘とそれへの対応が、後から検証可能な形で記録・公開されている点は、改定プロセスそのものの成果として確認できる。 (参考:都市環境委員会資料 令和7年6月10日 杉並区景観計画の改定について)
定量的な効果検証は今後の課題として残る
改定によって届出・事前協議の件数や区民の認知度がどう変化したかについては、本記事の調査時点で確認できる公開資料はなかった。改定案の段階では、区民から届出・事前協議の運用実績を計画本文に明記すべきという意見も出されており、区は大規模建築物・公共施設の事前協議件数を追記する方針を示している。改定の実効性を測る定量データは、今後の都市環境委員会資料等で継続的に確認する必要がある。 (参考:都市環境委員会資料 令和7年6月10日 杉並区景観計画の改定について)
パブリックコメントの価値は件数でなく対応の可視化で決まる
杉並区の事例は、意見提出がわずか12件・全て個人であっても、内容を精査し「区の考え方」と「修正一覧」を対にして公開すれば、計画の完成度を大きく引き上げられることを示している。意見提出者数の多寡だけでパブリックコメントの成否を評価するのではなく、少数の意見であっても個別に応答し、修正の理由まで含めて公開する運用は、参加者数の確保に苦心している他自治体でも取り入れやすい実務上の工夫である。
景観計画を「規制の説明書」から「施策間の連携図」に読み替える
景観計画を届出・規制制度の解説にとどめず、緑化、防災、空き家対策、商業振興といった隣接施策を「景観」という切り口で束ねる編集の場として位置づけ直す発想は、景観行政団体の指定を受けている他の自治体でも応用できる。特に景観計画の改定タイミングは、関連する個別計画群がそれぞれ独自に更新され続けている状況を一度棚卸しし、政策間の整合性を点検する好機として活用できる。
制度を変えずに「伝わり方」を変える改定もある
計画改定というと基準の強化・緩和や区域の見直しが主眼になりがちだが、杉並区は既存の届出・事前協議制度の骨格を維持したまま、認知度の低さという課題認識に基づいて紙面構成やビジュアル面の改善を明確な改定目的の一つに位置づけた。制度の実効性を高める手段は規制の強化だけではなく、既に制度が一定程度整備されている自治体が計画を見直す際に、「内容は変えず伝え方を変える」という選択肢を検討する参考になる。
2026年8月時点の調査内容に基づいて作成
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