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世田谷区「地域整備方針(後期)」の策定(10年間の進捗でアクションエリアを棚卸しする都市計画マスタープランの中間見直し)
世田谷区「地域整備方針(後期)」の策定(10年間の進捗でアクションエリアを棚卸しする都市計画マスタープランの中間見直し)

世田谷区「地域整備方針(後期)」の策定(10年間の進捗でアクションエリアを棚卸しする都市計画マスタープランの中間見直し)

世田谷区「地域整備方針(後期)」の策定(10年間の進捗でアクションエリアを棚卸しする都市計画マスタープランの中間見直し)

東京都
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東京都世田谷区が2025年7月に策定した都市整備方針第二部「地域整備方針(後期)」を砧地域・成城を軸に整理する。20年計画を全面改定せず、優先街づくり地区(アクションエリア)を10年の進捗で移行・新規・継続に再分類し、官民連携やエリアマネジメントまで取り込んだ、マスタープラン中間見直しの手法に着目する。

概要

世田谷区都市整備方針は、都市計画法第18条の2に基づく「市町村の都市計画に関する基本的な方針」(いわゆる都市計画マスタープラン)で、世田谷区街づくり条例を根拠に、区の長期的な都市づくり・街づくりの総合的な基本方針を定めるものである。計画期間は区議会の議決を経た「世田谷区基本構想」に即して20年間とされ、区全体に共通する第一部「都市整備の基本方針」(2014年策定)と、5地域(世田谷・北沢・玉川・砧・烏山)ごとに街づくりの方向を示す第二部「地域整備方針」(2015年策定)の二部構成をとる。 (参考:世田谷区「世田谷区都市整備方針」世田谷区「(素案)区民意見募集の実施結果」意見概要及び区の考え方

この第二部「地域整備方針」が策定から概ね10年を経過したことを受け、世田谷区は2025年7月、その中間見直し版にあたる「地域整備方針(後期)」を策定した。20年計画を全面的に書き直すのではなく、この10年間の取組み状況・事業の進捗を踏まえて「地域のアクションエリアの方針」(各地域で優先的に街づくりを進める地区とその方針)を中心に更新した点が、この見直しの骨格である。砧地域は第4章にあたり、成城地区・成城学園前駅周辺・国分寺崖線の保全などが、この地域方針の下位に位置づく。本記事は、砧地域・成城を具体的な素材としながら、マスタープランを「進捗で棚卸しして更新する」という見直しの手法に着目して整理する。 (参考:世田谷区「地域整備方針(後期)」本編世田谷区「世田谷区都市整備方針」

背景・課題

見直しの直接の契機は、時間の経過そのものである。第二部の策定(2015年)から約10年が経ち、その間に上位計画や社会情勢が大きく動いた。区は見直しに当たり、①上位計画等との整合(2024年策定の「世田谷区基本計画」や「世田谷区地域行政推進計画」、この間に改定された分野別の整備方針・計画の反映)、②区をとりまく状況とその対応の整理、③これまでの取組み状況・事業の進捗を踏まえた検討、④各地域の区民意見の把握——という4つの視点を掲げた。とりわけ、都市整備の基本方針の策定時には人口増加が続くと見込んでいたのに対し、2023年の推計では2042年をピークに減少へ転じ、年少人口は減少局面に入ると見込まれるなど、少子高齢化・人口減少への対応の重要性が増していた。 (参考:世田谷区「地域整備方針(後期)」本編

もう一つの背景は、この10年で街づくりの「進み方」自体が多様化したことである。従来、地域整備方針は、優先的に街づくりを進める地区(アクションエリア)を、地区計画や地区街づくり計画といった「街づくりのルール」を策定して進める地区として描いてきた。しかし近年は、区と事業者が連携した取組みや、事業者が中心となって進める取組み、エリアマネジメントなど、必ずしもルール策定を前提としない街づくりが地域の姿の実現に貢献するようになった。区民との意見交換にも、双方向のオンライン会議などデジタル技術が併用されるようになってきていた。ルール策定だけを前提とした従来の枠組みでは、こうした実態を方針に位置づけきれないという課題があった。 (参考:世田谷区「地域整備方針(後期)」本編

砧地域に即して見ると、10年間のデータは「守るべきものが少しずつ失われていく」構図を示していた。砧地域は区西部に位置し、平均宅地面積273.4㎡と5地域で最も広く、みどり率33.0%と最も高く、区内の生産緑地地区の約4割が集まる、みどりとゆとりに恵まれた地域である。一方で、みどり率も生産緑地も減少に転じ、生産緑地面積は約8.3ha減と5地域で最大の減少率を示した。100㎡未満の敷地数は過去10年間で27.3%増加し、相続を機とした敷地の細分化が進んでいた。加えて道路率15.9%・都市計画道路整備率40.6%と都市基盤の整備水準は5地域で最も低く、人口は今後10年程度は増加が続く見込みで、開発が街並みやみどりに与える影響への対応が求められていた。良好な環境ゆえに開発需要が集まり、相続のたびに土地が分割されみどりと農地が減っていく——という、砧地域が抱える構造的な課題が、地域方針の更新が向き合うべき現実であった。 (参考:世田谷区「地域整備方針(後期)」本編世田谷区「(素案)区民意見募集の実施結果」意見概要及び区の考え方

取り組みのプロセス

見直しは、複数段階の区民参加を計画づくりのプロセスそのものに組み込む形で進められた。まず2023年10〜12月に各地域で意見交換会と区民アンケートを実施し、2024年1月には各地域の10年間の取組み状況を公表して土台を共有した。続いて2024年7〜8月に方針の「たたき台」を示して意見を募り、2024年11月15日〜12月6日に「素案」のパブリックコメント(区民意見募集)を実施、あわせて素案説明会を開いた。素案への意見を反映した「案」を2025年2〜3月に公告・縦覧し、2025年7月に方針を策定した。完成した文書を提示して意見を聞くのではなく、たたき台→素案→案という段階ごとに区民意見を挟み込む設計になっている。 (参考:世田谷区「世田谷区都市整備方針」世田谷区「(素案)区民意見募集の実施結果」

素案のパブリックコメントには36人から86件の意見が寄せられ、提出方法はファクシミリ・郵送・持参が19人、オンライン手続きが17人と、書面とオンラインがほぼ半々だった。区は障害のある人への配慮として音声による読み上げや、意見聴取のオンライン受付などにも取り組んでいる。砧地域に関しては、延焼遮断帯となる都市計画道路の整備一辺倒でよいのかという問い直し、相続に伴う農地・みどりの減少への危機感、祖師谷住宅の高層建て替えと消防活動空間の確保をめぐる懸念など、実名の地区を挙げた具体的な意見が多く提出された。区はそれぞれに「区の考え方」を示して回答している。 (参考:世田谷区「(素案)区民意見募集の実施結果」世田谷区「意見概要及び区の考え方」

寄せられた意見は、素案から案への具体的な修正にも反映された。区が公表した「主な変更箇所」によれば、「ウォーカブル」に関する区の取組み(2013年の基本構想で掲げた「より住みやすく歩いて楽しいまちにする」など)の記述が追記され、身近な街づくりの進め方を示す図では、担い手の「思い」を「子ども・若者の思い」「障害者の思い」「多様な区民の思い」と明記する形に改められた。また終章には、方針を「世田谷区実施計画」や分野別計画の行動計画等に基づいて進行管理していく旨が加えられ、砧地域の防災の章にも管理不全建築物への対策や「復興に備える」段落が追記された。どの意見がどう反映されたかを対照表で開示している点も含め、参加の結果が文書に痕跡として残る運用がとられている。 (参考:世田谷区「主な変更箇所について」世田谷区「意見概要及び区の考え方」

この事例の特徴

1. 全面改定ではなく「アクションエリアの棚卸し」で更新する。

この見直しの核心は、20年計画を書き直すのではなく、優先街づくり地区(アクションエリア)を10年間の進捗で再分類したことにある。各地区は、新たに位置づける「新規」、そのまま続ける「継続」に加え、二つの「移行」で状態を移す。地区計画などが未策定だった地区が計画を策定し終えたら「移行2」として『ルールに基づき街づくりを進めていく地区』へ送り、逆に、すでに計画がある地区でも、区民の気運の高まりや大規模な土地利用転換を契機に新たな手法で検討し直す必要が生じたら「移行1」として『計画を策定し街づくりを進めていく地区』へ引き戻す。街づくりが「進んだ地区」は維持段階へ卒業させ、「動きが再燃した地区」は再び優先検討に戻す——静的な計画図を、進捗に応じて地区の状態が行き来する動的な管理ツールに変えている点が特徴である。 (参考:世田谷区「地域整備方針(後期)」本編

2. 「街づくりのルール」に限らないものを、方針が正式に取り込んだ。

後期版は、アクションエリアの考え方に、地区計画・地区街づくり計画といった従来のルールに加えて、事業者発意による取組み、エリアマネジメント、官民連携、街づくり誘導指針や個別方針の策定といった「新たな考え方」を明示的に含めた。さらに、アクションエリアの外側にも網を広げ、住民の関心が高まったり、住民・事業者が自発的に動き出したりした地区は、そのつど新たな検討対象として拾い上げるとした。規制的な計画づくりだけを「街づくり」とみなしてきた枠組みを広げ、三軒茶屋のエリアプラットフォームや二子玉川のエリアマネジメント、下北沢の沿線まちづくりのような、ルールを前提としない実態をマスタープラン上に正当に位置づけ直した点は、この改定の実質的な新規性である。 (参考:世田谷区「地域整備方針(後期)」本編

3. 成城が、この分類フレームのすべての状態を体現している。

砧地域には19のアクションエリアが位置づけられ、成城に関わる地区はその状態がそれぞれ異なる。成城一〜九丁目地区は、2017年に地区街づくり計画を策定し終えたことで「移行2」(維持段階)へ送られ、「みどりとゆとりに包まれた成城らしい街並みを継承した街づくり」を進める。成城八丁目地区は「継続」で、より高い水準の住環境をめざす。そして成城学園前駅周辺地区は「移行1」に置き直された。区はこの地区を『主要な地域生活拠点』へと育てるため、駅前の商業機能と住宅地の共存を、あらためて「おしゃれでみどり薫る拠点」として練り直す段階に位置づけている。同じ成城の中に、計画を完成させて維持へ移った地区と、あらためて検討を再起動する駅周辺とが併存しており、駅周辺の「移行1」という位置づけは、その地区で新しい参加型の街づくり検討を進める上位フレームとして機能している。 (参考:世田谷区「地域整備方針(後期)」本編

4. みどりの保全を、規制・公有化・風景の複線で担保する。

砧地域の方針は、国分寺崖線を「水と緑の風景軸」、砧公園一帯や成城みつ池緑地一帯などを「みどりの拠点」と位置づけ、風致地区制度や緑化地域制度の運用、農地の生産緑地地区への追加指定、屋敷林の市民緑地・保存樹林地としての指定、民有樹林地や水辺の公有化などを重ねて講じるとした。成城の桜並木といちょう並木、成城の富士見橋・不動橋などは「地域風景資産」として位置づけられており、規制による誘導、土地の公有化、風景資産としての価値づけという複数の手立てで、細分化と緑量減少という前掲の課題に対応する構えを示している。 (参考:世田谷区「地域整備方針(後期)」本編

調査時点の成果

現時点で確認できる成果は、方針そのものが完成・施行されたことと、その更新の中身である。第二部「地域整備方針」は、2015年の初版から、10年間の進捗と2024年の基本計画をはじめとする上位計画を織り込んだ「後期」版へと更新され、2025年7月に策定された。砧地域では、成城一〜九丁目・大蔵三丁目・祖師谷二丁目などが地区計画等の策定完了を受けて維持段階(移行2)へ移り、木造住宅が密集し防災上の課題がある祖師谷一丁目・祖師谷五・六丁目などが新規のアクションエリアとして加えられるなど、地区の顔ぶれと優先度が進捗に合わせて更新された。 (参考:世田谷区「地域整備方針(後期)」本編世田谷区「世田谷区都市整備方針」

参加の面では、3段階(たたき台・素案・案)にわたる意見募集と説明会を経て、36人・86件の意見を「区の考え方」とともに公表し、その一部を素案から案への修正として反映した。オンライン受付が書面とほぼ同数だった点や、担い手の「思い」を子ども・若者・障害者・多様な区民へと明記し直した修正は、参加のチャネルと表現の両面で多様な主体を意識したことをうかがわせる。 (参考:世田谷区「(素案)区民意見募集の実施結果」世田谷区「主な変更箇所について」

ただし評価にあたっては留意点がある。地域整備方針は、それ自体が具体の事業を行うものではなく、下位の地区計画・地区街づくり計画や個別の事業を束ねる「方針(フレーム)」である。したがって、細分化の抑制やみどりの回復といった実際の効果は、方針の下で今後どれだけの実装が積み上がるかに委ねられており、2025年7月に策定されたばかりの本方針の効果を測る段階には至っていない。背景で示した100㎡未満敷地の27.3%増や生産緑地の減少は、方針が向き合う課題の大きさを示すものであって、方針の成果ではない。アクションエリアの再分類が実際の街づくりの進捗をどれだけ加速するかは、進行管理と今後の運用実績の公表を待って検証されるべきものである。 (参考:世田谷区「地域整備方針(後期)」本編世田谷区「意見概要及び区の考え方」

他地域への示唆

都市計画マスタープランや地域別構想の見直しに直面する自治体にとって、この事例には移植可能な観点がいくつかある。

  • 全面改定と塩漬けの間をとる「中間見直し」の設計。 20年の計画を、10年時点で全面改定するのでも放置するのでもなく、優先地区(アクションエリア)を進捗で棚卸しして再分類するという中間更新にとどめた。計画本体の骨格は保ちつつ、動きのある地区だけを移行・新規で入れ替える手法は、改定コストを抑えながらマスタープランを「生きた」状態に保つ工夫として参考になる。
  • 「移行」という双方向のステータス管理。 計画を完成させた地区を維持段階へ卒業させる「移行2」だけでなく、既存計画のある地区を新たな手法での再検討へ引き戻す「移行1」を用意し、街づくりの状態が行き来する仕組みにした点は示唆的である。進捗=一方向の前進とみなさず、機運の再燃や大規模開発を契機に優先度を上げ直す経路を制度上あらかじめ持っておくことは、他地域でも応用しやすい。
  • マスタープランを実態に合わせて広げる。 街づくりを地区計画等のルール策定に限定せず、事業者発意・エリアマネジメント・官民連携までを正式にアクションエリアの考え方へ取り込んだ。ルール前提の枠組みのままだと、現に地域の姿の実現に貢献している非規制型の取組みが計画上「見えない」ままになる。自地域で起きている街づくりの実態と計画の語彙がずれていないかを点検する契機になる。
  • 参加を段階化し、反映を可視化する。 たたき台→素案→案と意見の投入点を複数設け、寄せられた意見と「区の考え方」、素案から案への変更箇所を対照表で公表した。どの声がどう反映されたかを追える形にすることは、参加の納得感と計画の正統性を高める運用として再現性がある。

一方で、再現性には条件がある。このアクションエリア再分類が意味を持つのは、その下に地区計画・地区街づくり計画・区民街づくり協定・専門家派遣制度といった成熟した街づくり条例のメニューと、それを使いこなす多数の地区レベルの活動が実在しているからである。「移行1/移行2」というラベルは、追跡すべき地区の街づくりが実際に動いていて初めて機能するものであり、こうした土台の薄い自治体が分類の枠組みだけを移植しても、空の器になりかねない。まず地区レベルの担い手と制度メニューを育てることが、この種の中間見直しを実効あるものにする前提となる。

参照元


2026年7月時点の調査内容に基づいて作成

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