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杉並第一小学校等施設整備等方針の策定
杉並第一小学校等施設整備等方針の策定

杉並第一小学校等施設整備等方針の策定

杉並第一小学校等施設整備等方針の策定

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杉並区最古の公立小学校の改築検討中、隣接する河北総合病院の移転意向を契機に、区は現地改築案と移転改築案を比較。検討部会・作業部会・住民説明会等を重ね、2017年5月に学校を病院跡地へ移す方針を策定した玉突き型施設再編の起点となった事例。

概要

杉並区立杉並第一小学校は1875年(明治8年)開校の区内最古の公立小学校で、施設の老朽化に伴う改築検討が2014年(平成26年)4月に始まった。区は当初、現在地での改築(A案)を軸に検討を進め、2016年(平成28年)3月に基本構想・基本計画を策定した。ところが同年8月、学校に隣接する河北総合病院の運営法人と、その移転先候補である「けやき屋敷」の地権者から、病院をけやき屋敷へ移転改築したいという意向が示された。これを受け区は、空く病院用地に学校を移転改築する案(B案)を新たに検討対象に加え、両案を比較考察することになった。(参考:杉並区「杉並第一小学校等施設整備等方針の策定」

検討は「杉並第一小学校改築・複合化検討部会」を中心に進められ、2014年4月から2017年(平成29年)1月まで計15回開催されたほか、個別テーマを扱う「作業部会」が2016年11月から2017年1月にかけて4回開かれた。並行して2016年10月から2017年4月にかけて、保護者・周辺住民・検討部会委員を対象とする説明会・意見交換会が6回実施され、延べ439名が参加した。区はこれら教育環境・防災性・にぎわい創出という3つの視点を突き合わせたうえで、個別の施設単位ではなく地域全体・将来を見据えた判断としてB案を採用し、2017年5月に「杉並第一小学校等施設整備等方針」を正式決定した。(参考:杉並区「杉並第一小学校等施設整備等方針の策定」

単独の学校改築問題として始まった検討は、隣接する民間病院の移転意向という外部要因をきっかけに、学校・病院・阿佐谷地域区民センター・産業商工会館という4つの公共・準公共施設を巻き込む地域全体の「玉突き型」土地利用再編へと発展した。2017年の方針決定はこの再編の起点であり、その後の実施段階の進捗・停滞の両方が調査時点までに具体的に確認できる事例である。

背景・課題

杉並第一小学校は1875年(明治8年)に馬橋清見寺本堂で「桃園学校第一番分校」として開校し、1884年(明治17年)に現在地(杉並区阿佐谷北一丁目)へ移った、杉並区の公立小学校で最も古い学校である。(参考:阿佐谷地域区民センター協議会「杉並第一小学校~創立140周年を迎えた区内最初の公立小学校~」

校舎の老朽化を受け、区は2014年4月に「杉並第一小学校改築・複合化検討部会」を設置し、当初は現在地での改築(A案)を軸に検討を進めた。検討部会は第1回から第13回まで、2014年4月から2016年9月の期間に開催され、2016年3月には「杉並第一小学校等複合施設整備に係る基本構想・基本計画」(当初案)としてA案がまとめられた。市街地に囲まれた学校用地は狭あいで、在校中の児童の学びを維持しながら現地で校舎を建て替える難しさが、検討の出発点にあった。(参考:杉並区「杉並第一小学校等施設整備等方針の策定」

この基本構想の策定直後、2016年8月に事態が転換する。学校に隣接する河北総合病院の運営法人(河北医療財団)と、病院の移転先として想定された「けやき屋敷」の地権者から、病院をけやき屋敷へ移転改築したいとの意向が区に示された。病院が現在地を離れるなら、その跡地に学校を移転改築できる可能性が生まれる。区はこれを機に、学校の近隣病院用地への移転・改築の可能性と、老朽化していた阿佐ヶ谷地域区民センター・産業商工会館の整備のあり方を合わせて検討する方向に舵を切った(B案)。単一施設の建て替えを、周辺の土地利用の変化に応じて地域全体の公共施設再編の機会として捉え直した点が、この事例の背景における最大の転換点である。(参考:杉並区「杉並第一小学校等施設整備等方針の策定」

取り組みのプロセス

検討部会でA案からB案検討への転換を進める

「杉並第一小学校改築・複合化検討部会」は2014年4月の第1回から2017年1月の第15回まで、約2年9か月にわたって開催された。第1回から第13回(2014年4月〜2016年9月)はA案(現地改築)の基本構想・基本計画づくりに充てられ、2016年8月の病院移転意向表明を受けて、第14回(2016年11月)以降はB案(移転改築)を含めた比較検討に主題が移った。検討部会の委員は学校整備担当部長・施設再編整備担当部長・教育委員会事務局次長ら区役所内部の部長級・課長級職員で構成され、学校関係者や地域住民の意見は別途設置された「杉並第一小学校改築・複合化検討懇談会」を通じて聴取された。(参考:杉並区「杉並第一小学校等施設整備等方針の策定」

作業部会でテーマ別に実務検討を深める

検討部会と並行して、2016年11月の第1回(検討部会第14回と同日開催)から2017年1月の第4回まで、計4回の「作業部会」が開かれた。この作業部会の検討を土台に、区は2017年1月付で「阿佐ケ谷駅北東地区大規模敷地活用に関する調査業務委託」をまとめ、「杉並第一小学校跡地活用構想」「杉並第一小学校移転建替え計画」「阿佐谷けやき公園敷地を活用した阿佐谷地域区民センター及び産業商工会館の移転・複合化の検討」という3本のテーマ別資料を作成している。学校本体の移転計画にとどまらず、移転後に空く旧校地の使い道や、老朽化した区民センター・産業商工会館の再編まで一体で検討した点が、この段階の特徴である。(参考:杉並区「杉並第一小学校等施設整備等方針の策定」

説明会・意見交換会を重ねて住民の声を集める

2016年10月から2017年4月にかけて、対象を変えながら6回の説明会・意見交換会が開かれた。最初の2回は「杉並第一小学校改築・複合化検討懇談会」委員や地元の任意団体「阿佐ケ谷駅北東地区を考える会」を対象とする小規模な意見交換(2016年10月28日・20名、2017年2月28日・15名)で、その後、学校保護者向け(2017年3月2日・21名)、周辺地域住民向け(2017年3月3日・122名、3月28日・146名)、修正後の方針案に関する説明会(2017年4月27日・115名)と対象を広げていった。6回の参加者は延べ439名にのぼり、各回で出された意見は「意見の概要と区の考え方」として整理・公表された。(参考:杉並区「杉並第一小学校等施設整備等方針の策定」

方針案の修正を経て正式決定へ

区は2017年3月に「杉並第一小学校等施設整備方針(案)」を公表して意見交換会を実施し、寄せられた意見を踏まえて2017年4月に方針案を修正、同月に修正案に関する説明会を開いた。そのうえで2017年5月、B案を採用した「杉並第一小学校等施設整備等方針」を正式に策定した。当初のA案検討開始(2014年4月)から数えて約3年、病院移転の意向表明(2016年8月)からは約9か月での方針決定であった。(参考:杉並区「杉並第一小学校等施設整備等方針の策定」

この事例の特徴

単独施設の改築を地域全体の再編機会に転換した

この事例の最大の特徴は、1校の改築という個別課題を、隣接する民間病院の移転という外部要因の発生を機に、学校・病院・区民センター・産業商工会館を含む地域全体の「玉突き型」土地利用再編の入口として位置づけ直した点にある。病院が空けた土地に学校を移し、学校が空けた土地の使い道を別途検討し、老朽化した区民センター等も合わせて再編するという連鎖的な発想は、単発の建て替え計画では生まれない選択肢を区にもたらした。(参考:杉並区「杉並第一小学校等施設整備等方針の策定」

判断基準を3点に絞って公開で比較した

区はA案・B案の比較にあたり、「教育環境の向上」「首都直下地震発生の切迫性を踏まえた地域の防災性の向上」「土地利用の見直しによる民間と連携したにぎわいの創出」という3つの評価軸を明示した。単に「現地か移転か」という二択を示すのではなく、何を根拠に判断するのかを先に言語化し、その基準に沿って両案を比較考察する過程を意見交換会等で公開した。評価軸が曖昧なまま結論だけを説明する進め方との違いが、この事例の透明性を支えている。(参考:杉並区「杉並第一小学校等施設整備等方針の策定」

代表制の検討部会と開放型の説明会を役割分担させた

参加の設計は一様な「住民参加ワークショップ」ではなく、複層構造になっている。区役所内部の部長級・課長級職員による検討部会・作業部会が実務的な検討を深める一方、学校関係者・地域住民等で構成する検討懇談会が方針素案への意見を述べ、さらに保護者や周辺住民に説明し意見を募る場として、対象を段階的に広げた説明会・意見交換会を別途設けた。庁内の専門的な検討と、代表者による意見聴取、そして広く開かれた住民への説明責任を、異なる会議体に分けて担わせる設計は、時間的制約のある公共施設の意思決定において検討の深さと開放性を両立させる一つの型である。(参考:杉並区「杉並第一小学校等施設整備等方針の策定」

調査時点の成果

方針決定そのものは2017年に円滑に完了した

検討部会15回・作業部会4回・説明会等6回(延べ439名参加)という積み重ねを経て、2017年5月に「杉並第一小学校等施設整備等方針」が正式決定された。方針案は住民説明を経て一度修正されており、意見聴取の結果が最終案に反映される手続きが機能していたことが確認できる。(参考:杉並区「杉並第一小学校等施設整備等方針の策定」

区民センター等の再編は2022年に実現した

方針で検討された再編のうち、阿佐谷地域区民センターと阿佐谷児童館は、阿佐谷けやき公園(旧プール跡地)に新築移転する形で2022年(令和4年)4月18日に開設された。37年間使われた旧センターからの移転であり、防災倉庫やマンホールトイレなど防災設備も備えた複合施設となっている。(参考:杉並区「令和4年(2022年)4月18日にオープンした阿佐谷地域区民センターは、子育て世帯にもありがたい場所」

産業商工会館の移転先・時期は当初の想定から変わった

一方、2017年の検討時点でけやき公園への移転が併せて検討されていた産業商工会館は、けやき公園の再編には含まれず、調査時点でも阿佐谷南三丁目の既存施設で運営が続いている。区は現在、産業商工会館について「移転後の杉並第一小学校跡地に移転・整備することを予定している」としており、移転先が当初検討されたけやき公園ではなく、学校移転後に空く旧校地へと変更されている。(参考:杉並区「産業商工会館」

病院は2025年に移転開院、学校本体の移転は遅れている

河北総合病院は、けやき屋敷の敷地に免震構造・地上9階建ての新病棟を建設し、屋敷林を残す「森の中の病院」を掲げて2025年(令和7年)7月1日に移転開院した。(参考:河北医療財団「河北総合病院移転開院のお知らせ」

これにより空いた旧病院用地への学校移転は、当初2029年(令和11年)4月の新校舎開校が目標とされ、区教育委員会は2024年9月に設計等業務委託のプロポーザルを実施、2025年1月に事業者を選定して手続きを進めた。一方で区は2025年3月、旧病院の解体に関して河北医療財団から地下構造物の一部存置と工期の大幅な延伸(約5か月)の申し入れを受けたことを公表している。区は施行協定書に基づき医療財団が地下構造物をすべて除去・費用負担すべきだと主張し、財団側は隣接道路・住宅地の地盤沈下リスクを理由に一部存置を求めており、協議は平行線のまま、学校の開校時期は調査時点で確定していない。(参考:杉並区「杉並第一小学校移転先の旧河北総合病院解体工事について」

なお、新校舎の設計等を検討する「杉並第一小学校改築検討懇談会」は2017年方針決定時の検討部会とは別に、2024年(令和6年)4月に新たに設置され、現在も継続して開催されている。(参考:杉並区「杉並第一小学校改築検討懇談会(令和6年4月〜)」

他地域への示唆

隣接主体の事業判断を公共施設再編の機会として捉え直す

民間病院の移転意向という、区が直接コントロールできない外部要因の発生を、単独施設の建て替え問題を地域全体の再編に広げる機会として捉え直した発想は、他地域でも参考になる。ただしこの機会は偶発的に生じたものであり、常に計画的に用意できるものではない。重要なのは、隣接地の土地利用に変化の兆しが生じた際に、自らの施設更新計画をいったん立ち止めて選択肢を広げ直せる検討体制を、あらかじめ持っておくことである。当初案(A案)で基本構想まで固まっていたにもかかわらず、方針を柔軟に組み替えた点は、計画の途中段階での方向転換を許容する仕組みの必要性を示している。

判断基準を先に言語化してから選択肢を比較する

「教育環境」「防災性」「にぎわい創出」という3つの評価軸を先に明示し、その基準に沿って現地改築案と移転改築案を公開の場で比較考察した進め方は、複数の選択肢を伴う公共施設の意思決定に広く応用できる。評価軸の明示は、住民説明会で「なぜこの案なのか」という問いに答えるための共通言語にもなる。

合意形成の丁寧さと、その後の用地引き渡し実務のリスクは別問題である

この事例が示す最も重要な教訓は、方針決定段階の合意形成が円滑に進んだことと、決定後の用地引き渡しが円滑に進むこととは別の問題だという点である。2017年の方針決定自体は、検討部会・作業部会・説明会という重層的なプロセスを経て大きな混乱なく完了した。しかしその8年後、旧病院用地の引き渡しは、地下構造物の扱いと費用負担を巡る医療財団との協議が難航し、当初目標としていた開校時期が確定しない事態に至っている。他地域で同種の土地交換・玉突き型再編を検討する際は、方針策定の段階から、既存構造物の撤去範囲や費用負担の考え方を協定書レベルで具体的に詰めておくことが、実施段階でのトラブルを避けるうえで重要になる。(参考:杉並区「杉並第一小学校移転先の旧河北総合病院解体工事について」

玉突き型の複合再編は、当初計画通りに進まない前提で設計する

区民センター・児童館はけやき公園への移転が計画どおり実現した一方、産業商工会館は当初想定されたけやき公園ではなく、学校移転後の旧校地へと移転先・時期が変更された。複数施設を連動させる玉突き型の再編は、一つの施設の進捗が遅れれば後続の施設の計画も連動して変わる構造を持つ。方針策定時点では、個別施設の移転先・時期をすべて確定的に約束するのではなく、後続フェーズで見直しが生じうることを前提に、段階的な計画として説明しておくことが、住民の期待値と実施実態のずれを小さくする。

参照元

2026年8月時点の調査内容に基づいて作成

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