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杉並区木造住宅耐震化助成事業(耐震改修促進計画)
杉並区木造住宅耐震化助成事業(耐震改修促進計画)

杉並区木造住宅耐震化助成事業(耐震改修促進計画)

杉並区木造住宅耐震化助成事業(耐震改修促進計画)

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旧耐震基準の木造住宅を中心に簡易・精密診断と改修工事費を段階的に助成する杉並区の施策。令和4年改定で数値目標を「不十分な建物のおおむね解消」に転換し、区を4地区に分けたポスティング・意向確認アンケート・希望者訪問という段階的な戸別アプローチを展開している。

杉並区木造住宅耐震化助成事業(耐震改修促進計画)

概要

杉並区は、昭和56年5月以前に建てられた「旧耐震基準」の木造住宅と、昭和56年6月から平成12年5月までの「新耐震基準」木造住宅を対象に、無料の簡易診断、精密診断助成、耐震改修工事費助成を段階的に組み合わせた支援制度を運用している。除却や耐震シェルター設置、緊急輸送道路沿道建築物の補強設計まで対象を広げ、毎月の無料耐震相談会や施工業者リストの公開、所得税控除・固定資産税減免といった税制優遇も組み合わせている。 (参考:杉並区耐震改修促進計画|杉並区公式ホームページ耐震化支援事業|杉並区公式ホームページ

制度の土台となっているのは平成20年策定・令和4年3月改定の「杉並区耐震改修促進計画」である。この改定では、達成できなかった過去の数値目標(令和3年度末までに耐震化率96%以上)を、国・東京都の方針に合わせて「令和7年度末までに耐震性が不十分な建物をおおむね解消する」という到達点ベースの目標に置き換えた。あわせて策定された「杉並区住宅耐震化緊急促進アクションプログラム」では、令和4〜7年度の4年間で区内を4地区に分け、各年度1地区ずつポスティングと意向確認アンケートを行い、希望者にのみ個別訪問で説明するという段階的なアウトリーチを進めている。令和6年度は戸別訪問(ポスティング)20,227件、簡易診断371件、精密診断197件、改修工事助成92件の実績があった。 (参考:杉並区耐震改修促進計画|杉並区公式ホームページ耐震化支援事業|杉並区公式ホームページ

背景・課題

耐震改修促進法(平成7年法律第123号)は、約25万棟が全半壊し6,400人以上が死亡した阪神・淡路大震災を教訓に制定された。被害は昭和56年6月施行の新耐震基準以前の建築物に集中しており、以降の国・自治体の耐震化政策は一貫して旧耐震基準の建築物を主な対象としてきた。平成28年の熊本地震でも旧耐震基準の木造建築物の被害が目立ち、首都直下地震の発生確率の高さが繰り返し指摘されるなかで、杉並区でも対策の強化が課題となっていた。 (参考:杉並区耐震改修促進計画(令和4年3月改定)

杉並区は平成20年に耐震改修促進計画を策定し、平成28年の改定では令和3年度末までに区内建築物の耐震化率を96%以上にするという数値目標を掲げた。しかし推計値は目標に届かず、令和2年度末時点で住宅全体の耐震化率は87.4%、区内建築物全体でも92.0%にとどまった。木造住宅密集地域に限れば、東京都の防災都市づくり推進計画で「整備地域」に指定された区域の木造建築物の耐震化率は83.6%、重点的に不燃化を進める「不燃化特区」でも85.4%であり、古い木造家屋の建て替えが着実に進んだことで対象丁目数は平成28年3月の55丁目から令和2年3月には27丁目まで減少したものの、依然として耐震性が不十分な建物が集積していた。 (参考:杉並区耐震改修促進計画(令和4年3月改定)

こうした目標未達を受け、令和4年3月の計画改定では目標設定の考え方自体を見直した。国が「令和7年までに耐震性が不十分な住宅をおおむね解消する」との方針を示し、東京都も令和3年3月の計画一部改定でこれに追随したことを踏まえ、杉並区も一律の到達率ではなく残存する非対応建物の解消を目標に据え直している。区内建築物約12万3千棟のうち、地震被害を受けやすい昭和56年5月以前の建築物は約1万6千棟残っており、この解消が令和7年度末に向けた目標として設定された。 (参考:杉並区耐震改修促進計画(令和4年3月改定)

取り組みのプロセス

1. 計画改定と目標設定の転換(令和4年3月)

令和4年3月、杉並区は耐震改修促進計画を改定し、令和7年度末を到達期限とする新たな目標を設定した。従来の「耐震化率96%以上」という一律の数値目標を「耐震性が不十分な建物のおおむね解消」に切り替えたことに加え、緊急輸送道路沿道建築物や特定建築物についても用途別に耐震化率の目標値を個別設定している。 (参考:杉並区耐震改修促進計画(令和4年3月改定)

2. 4地区分割によるポスティング・意向確認・戸別訪問(令和4〜7年度)

計画改定と同時に策定された「杉並区住宅耐震化緊急促進アクションプログラム」は、区内全域を対象区域としつつ、令和4〜7年度の4年間で区を4地区に分割し、各年度1地区ずつ段階的に展開する設計をとった。手順は、対象となる旧耐震・新耐震基準の木造住宅に耐震改修助成制度の案内をポスティングし、あわせて詳しい説明を希望するかどうかのアンケートを実施したうえで、希望者にのみ個別訪問で説明するという3段階である。全戸を一律に訪問するのではなく、意向確認を挟むことで訪問先を絞り込む設計になっている。 (参考:杉並区住宅耐震化緊急促進アクションプログラム(令和4年3月)

3. 段階的な財政支援(診断から改修・除却・シェルターまで)

助成制度は、無料の簡易診断から始まり、簡易診断で必要性が認められた場合の精密診断助成、精密診断で耐震性能不足と判定された場合の耐震改修工事助成という順に段階を踏む構造になっている。旧耐震基準の木造住宅については、改修だけでなく除却や耐震シェルター等の設置費用も助成対象に含めている。緊急輸送道路沿道建築物については、特定緊急輸送道路沿道建築物への補強設計・改修助成に加え、令和5年3月の東京都計画改定に伴う指定変更を受けて一般緊急輸送道路沿道建築物についても対象建築物を抽出し所有者調査を実施した。 (参考:【旧耐震基準】木造住宅等の耐震化に関する助成制度|杉並区公式ホームページ【新耐震基準】木造住宅の耐震化に関する助成制度|杉並区公式ホームページ杉並区耐震改修促進計画(追補版)(令和6年6月)

4. 診断後のフォローアップと事業者側への働きかけ

区の取り組みは、助成制度を告知して終わるのではなく、診断を受けた後の行動まで視野に入れている。耐震診断結果を所有者に報告する際に耐震改修の必要性を啓発し、診断から一定期間が経過しても改修に至っていない所有者には改めて啓発を行う。あわせて耐震改修事業者向けの講習会を実施し、修了した業者の一覧を区が公開することで、所有者が改修を依頼する事業者を見つけやすくする仕組みも並行して整えている。 (参考:杉並区住宅耐震化緊急促進アクションプログラム(令和4年3月)

5. 令和6年能登半島地震後の周知強化

令和6年1月1日の能登半島地震を受け、区は同年1月11日付で耐震化・不燃化・ブロック塀対策の3助成制度をまとめて呼びかけるページを公開し、「対策ができるのは大地震が起こる前の今です」と利用を促した。あわせて区役所や地域の掲示板にポスターを貼り出し、各世帯にチラシを配布して周知の裾野を広げ、耐震診断の申請もオンラインで完結できるようにした。 (参考:耐震化・不燃化を支援しています(6年1月11日)|杉並区公式ホームページ令和6年度杉並区事務事業評価シート(耐震化の促進)

この事例の特徴

未達目標を「隠さず」次の目標設計に反映させた

多くの自治体計画は目標未達を評価シート上の課題として記すにとどまるが、杉並区は令和3年度末の耐震化率96%という目標が達成できなかった事実を計画改定の出発点に据え、指標そのものを「一律の到達率」から「残存する非対応建物の解消」に組み替えた。数値目標を据え置いたまま期限だけを延長するのではなく、目標の性質自体を見直した点は、既存計画の更新を検討する他自治体にとって参考になる判断である。 (参考:杉並区耐震改修促進計画(令和4年3月改定)

戸別訪問の前に「行きたい家を選ぶ」工程を挟んでいる

戸別訪問型の普及啓発事業は、対象世帯を一律に訪問する設計になりやすく、担当職員の人員に対して対象棟数が多い密集市街地では効率が課題になる。杉並区のアクションプログラムは、ポスティングと意向確認アンケートを先行させ、詳しい説明を希望した世帯にのみ個別訪問を行うことで、訪問対象をあらかじめ絞り込む設計を採用している。4年かけて区内を一巡させる計画性と組み合わせることで、限られた人員でも区内全域を計画的にカバーできる仕組みになっている。 (参考:杉並区住宅耐震化緊急促進アクションプログラム(令和4年3月)

助成メニューの告知で終わらせず「診断後」のプロセスを設計している

耐震診断を受けても改修に進まない所有者は珍しくないが、杉並区は診断結果報告の場を改修の必要性を伝える機会として位置づけ、診断後一定期間が経過してもなお未改修の所有者には改めて啓発するという継続的なフォローの仕組みを持つ。助成制度の周知だけでなく、利用後の行動変容までを事業設計に含めている点は、単発の広報にとどまりがちな他の助成事業との違いである。 (参考:令和6年度杉並区事務事業評価シート(耐震化の促進)

調査時点の成果

区内建築物全体の耐震化率は、令和3年度末実績92.9%、令和4年度末実績93.7%を経て、令和5年度末には94.6%と推計されている。令和5年度計画(目標値)94.5%に対する令和5年度実績の対計画比は100.1%であり、区が事務事業評価上で自ら「達成」と位置づける水準に近づいている。ただし、この94.6%は耐震改修だけでなく除却や建替えも含めた推計値であり、旧耐震基準の建物が老朽化とともに建替えで置き換わっていくことも耐震化率の押し上げに寄与している。 (参考:令和6年度杉並区事務事業評価シート(耐震化の促進)

一方で、助成件数の実績は資材価格の変動に左右されている。令和5年度は、建設資材の調達に遅れが生じたうえ原材料コストも上昇し、当初見積もりを上回る工事費となったことで着工が先送りされ、結果として耐震改修等の助成件数は計画を下回った(対計画比40.5%)。区は事務事業評価のなかで、この落ち込みを物価上昇による家計への圧迫という需要側の要因としても分析している。耐震化率という指標が上昇していても、その内訳である助成件数は外部要因で大きく変動しうることが、単一年度のデータからも確認できる。 (参考:令和6年度杉並区事務事業評価シート(耐震化の促進)

令和6年度は、戸別訪問(ポスティング)20,227件、簡易診断371件、精密診断197件、改修工事助成92件の実績があった。区は令和6年能登半島地震を機に区民の耐震化意識が高まったとみて、地域掲示板でのポスター掲示や各世帯へのチラシ投函で制度の存在を広く伝えるとともに、耐震診断の申請を電子化して手続きの敷居を下げ、前年度より申請件数を伸ばしたと自己評価している。特定緊急輸送道路沿道建築物では、耐震改修を予定していた3件のうち、設計内容の見直しや着工時期のずれ込みによって年度内の完了が難しくなっている案件があり、区は個別に進捗を追っている。 (参考:杉並区耐震改修促進計画|杉並区公式ホームページ耐震化支援事業|杉並区公式ホームページ令和6年度杉並区事務事業評価シート(耐震化の促進)

他地域への示唆

目標指標を「率」から「残存量の解消」に切り替える選択肢を持つ

耐震化率のような割合指標は、母数となる建物総数が老朽化と建替えで自然に減少していくため、行政が特段の施策を追加しなくても時間の経過とともに上昇しやすい性質がある。杉並区が採用した「耐震性が不十分な建物のおおむね解消」という目標は、残存する対応困難な建物そのものに焦点を当て直すもので、達成の実感が指標に表れにくいという割合指標の弱点を補う。数値目標の未達が続いている自治体にとって、目標の立て方自体を見直す一つのモデルになる。

全戸訪問の前に「意向確認」を挟むことで、限られた人員でも計画的にカバーできる

密集市街地での戸別訪問は効果的だが人員的な制約が大きい。杉並区はポスティングとアンケートで訪問希望者を絞り込んでから個別訪問するという順序を取り、これを4年計画で区内全域に展開している。人員を増やさずに対象地域を計画的に一巡させる設計は、同様の木造住宅密集地域を抱える他自治体でも応用しやすい。

助成制度は「利用後」の設計まで含めて初めて完結する

耐震診断を受けても改修に進まない所有者への継続的な啓発は、助成メニューを整備するだけでは生まれない工程である。診断結果報告の機会を改修促進の接点として位置づけ、未改修者への時間差フォローを制度に組み込むことで、診断助成が改修助成につながる歩留まりを高める余地が生まれる。助成制度の設計段階から、申請後のプロセスまで視野に入れる価値がある。

大規模地震を機とした関心の高まりを、恒常的な周知強化の契機として使う

能登半島地震後の区民意識の高まりを、区は既存制度の周知強化(掲示板ポスター、戸別チラシ、電子申請導入)という形で受け止め、実際に申請件数の増加につなげたと評価している。新たな制度を急いで作るのではなく、既存の助成制度の到達点を広げる機会として災害後の関心の高まりを活用する発想は、他の防災関連施策にも転用できる。

資材価格などの外部要因による実績変動を、指標の解釈に織り込む

令和5年度の助成件数減少は、区が自ら原材料費高騰による工事延期を要因として分析しており、施策の質の問題ではなく市況変動として整理されている。耐震化のような長期継続事業では、単年度の件数増減だけで施策の成否を判断せず、資材価格や物価動向といった外部要因を合わせて評価する視点が必要になる。

参照元


2026年8月時点の調査内容に基づいて作成

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