
福山市ゼロカーボンシティ宣言
この記事は、my grooveを運営する株式会社Groove DesignsがAIを活用し独自に調査・作成したものです。
鉄鋼業が排出構造の中心を占める産業都市・福山市が2023年2月に掲げた2050年実質排出ゼロ宣言。地域新電力による公共施設の再エネ100%化と中小企業向けプラットフォームを両輪に、大規模製造業を含む産業界を巻き込む複線的な脱炭素戦略を追う。
福山市は2023年2月27日、2050年までに市内の温室効果ガス排出量を実質ゼロにすることをめざす「ゼロカーボンシティ」を宣言した。中期目標として2030年度までに2013年度比39.0%(うち省エネ対策等で18.2%)の削減を掲げ、市民・事業者・行政が一体となって再生可能エネルギー導入や省エネルギー強化を進めるとしている。 (参考:福山市は「ゼロカーボンシティ宣言」を表明しました。(福山市公式サイト)、広報ふくやま2023年7月号特集「だから今、ゼロカーボンシティ宣言」(福山市公式サイト))
福山市はJFEスチール西日本製鉄所福山地区をはじめとする重厚長大型の製造業が集積する広島県東部の中核市であり、区域全体のCO2排出量に占める産業部門の割合は約7割と、全国平均(4割強)を大きく上回る特異な排出構造を持つ。この事例は、家庭・中小事業者向けの一般的な脱炭素支援策に加えて、ごみ発電と地域新電力を組み合わせた公共施設の再エネ100%化、そして大規模製造業を含む産業界を巻き込む「グリーンな企業プラットフォーム」を並行して進める複線的なアプローチに特色がある。 (参考:自治体排出量カルテ 福山市(環境省))
福山市の年平均気温は1982年の14.5℃から2022年には16.2℃まで上昇し、最高気温30℃以上の「真夏日」は53日増加した。豪雨災害も増加傾向にあり、こうした気候変動の影響が動植物の生態系にも及んでいることが、宣言の背景として説明されている。 (参考:広報ふくやま2023年7月号特集「だから今、ゼロカーボンシティ宣言」(福山市公式サイト))
環境省の自治体排出量カルテによれば、福山市の区域全体のCO2排出量(標準的手法、2022年度)は7,132千t-CO2(約713万トン)で、このうち産業部門が69%(4,948千t-CO2、うち製造業が4,903千t-CO2)を占める。同じ2022年度の構成比を全国平均(産業部門42%)・広島県平均(同65%)と比べても、福山市の産業部門比率は際立って高い。 (参考:自治体排出量カルテ 福山市(環境省))
さらに、温対法に基づき自らの排出量算定・報告が義務付けられている「特定事業所」ベースの集計(2021年度)では、市内53事業所の排出量合計は24,664千t-CO2(約2,466万トン)にのぼり、福山市を含む人口規模が近い全国29自治体(杉並区・八王子市・姫路市・倉敷市・大分市など)の比較の中でも倉敷市に次いで2番目に大きい。このうち鉄鋼業はわずか5事業所でありながら22,696千t-CO2と全体の9割超を占めており、市内に立地する大規模製鉄所の動向が市全体の排出量を大きく左右する構造になっている(この特定事業所ベースの数値は、区域全体を統計的に按分推計する「標準的手法」とは算定の枠組みが異なるため、上記の区域排出量とは単純に比較できない点に留意が必要である)。倉敷市や大分市も同様に製鉄・石油化学コンビナートを抱える臨海工業都市であり、福山市はこうした産業構造型の都市に共通する課題を抱えているといえる。 (参考:自治体排出量カルテ 福山市(環境省))
区域の電気使用量に対する再生可能エネルギー(FIT・FIP制度分)の導入比率は、2015年度の6.6%から2023年度には10.4%まで上昇したものの、依然として電力使用量の1割程度にとどまっている。 (参考:自治体排出量カルテ 福山市(環境省))
福山市は「第二次福山市環境基本計画」に脱炭素社会の構築(気候変動対策)を含む5つの基本目標を掲げており、このうち脱炭素分野については2050年カーボンニュートラルへの対応を前倒しするため2022年度に単独で改定を行った。この改定を踏まえ、2023年2月27日にゼロカーボンシティ宣言に至っている。 (参考:第二次福山市環境基本計画(福山市公式サイト))
福山市は環境省の「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金(重点対策加速化事業)」の採択を受け、「脱炭素へステップアップ‼ みんなで創る未来の福山プロジェクト」として2023年度から2028年度までの6年間の取り組みを開始した。家庭向けには自家消費型太陽光発電設備・蓄電池の導入補助、事業者向けには太陽光発電設備・蓄電池・省エネ改修への補助、公共施設には太陽光発電設備の導入とLED改修を計画的に進めている。 (参考:地域脱炭素移行・再エネ推進交付金(重点対策加速化事業)の採択について(福山市公式サイト))
福山市は2018年12月、JFEエンジニアリングとの共同出資により地域新電力を担う「福山未来エナジー株式会社」を立ち上げ、2019年4月からは広島銀行も出資に加わって電力小売事業を続けてきた。2024年8月1日、新たなごみ処理施設「福山ローズエネルギーセンター(ふくやま環境美化センター)」が本格稼働し、ごみ焼却熱を利用した発電によるバイオマス由来の再エネ電力の供給が始まったことを受け、福山未来エナジーはこの電力と環境価値を活用した「再エネ100%プラン」を、本庁舎・各支所・市立小中学校・スポーツ施設・文化施設・ごみ処理施設・動物園など公共施設127施設に供給開始した。年間使用電力量約3,500万kWhに相当する電力使用によるCO2排出量がゼロとなり、年間11,000t-CO2の削減効果が見込まれている。 (参考:再エネ100%の電力プランを導入しました(福山市公式サイト)、再エネ100%プランの供給開始~ふくやま環境美化センターの再エネ電力を地産地消~(福山未来エナジー株式会社)、広島県福山市、地域新電力を設立 廃棄物燃料の電力を地産地消(環境ビジネスオンライン))
福山市は2023年12月、環境配慮・多様な人材の雇用促進・働きやすい職場環境整備という3分野の取り組みを「グリーンな取組」と位置づけ、企業間の連携や情報共有を通じて人材確保・取引拡大・技術力向上につなげる官民連携の枠組みとして「グリーンな企業プラットフォーム」の構築を進めた。企業は「グリーンなチャレンジ宣言」として挑戦する取り組みを表明する形で参加し、2024年5月には第1号実践グループが始動、同年6月には専用Webサイトが開設された。参加企業には、温水・洗浄薬品の使用を抑える「エコ染色」技術でCO2排出と廃水処理負担を軽減する坂本デニム、時差出勤や男性育休の義務化など雇用施策に取り組むエフピコグループ、在宅勤務や短時間勤務を柔軟に選べる制度を整え、離職防止につなげてきたオーザックなどが名を連ねている。あわせて、市内中小事業者がCO2排出量管理システムを導入する費用の一部を補助する「福山市二酸化炭素排出管理支援事業」も実施されている。 (参考:広島県福山市、製造業の脱炭素化など後押しする組織(日本経済新聞)、広報ふくやま2023年12月特集1「グリーンなものづくり企業」(福山市公式サイト)、グリーンな企業プラットフォーム(福山市公式サイト)、2024年度(令和6年度)福山市二酸化炭素排出管理支援事業について(福山市公式サイト))
2025年4月30日、福山市は容器包装大手のエフピコと「資源循環及び脱炭素の促進に関する連携協定」を締結した。プラスチック資源を地域内で循環させる取り組みの拡大(トレーtoトレー、ボトルto透明容器)、太陽光発電など再エネの利用拡大や省エネ化の取り組みを通じたゼロカーボンシティ推進、普及啓発、環境教育、SDGs推進など6項目にわたる連携を掲げ、公共施設への回収ボックス設置や小学校での資源回収、環境学習支援などを計画している。 (参考:エフピコと広島県福山市は資源循環及び脱炭素の促進に関する連携協定を締結しました(エフピコ ニュースリリース))
福山市の脱炭素戦略は、家庭・中小事業者向けの一般的な補助金メニューと、区域排出量の7割を占める産業部門(とりわけ数事業所に排出が集中する鉄鋼業)への対応を明確に切り分けている点に特色がある。多くの「ゼロカーボンシティ宣言」が家庭部門や公共施設の対策を中心に語られがちな中、福山市は排出構造そのものが全国平均と大きく異なる産業都市であるという実態を踏まえ、家庭向け補助金と産業界向けの関係構築という二段構えの施策を組み立てている。
福山市は宣言(2023年)に先立つ2018年、JFEエンジニアリングとの共同出資で地域新電力会社「福山未来エナジー」を立ち上げていた。宣言後はこの既存インフラを土台に、新設のごみ発電施設(福山ローズエネルギーセンター)の再エネ電力を市自らの公共施設127施設に還流させる「電力の地産地消」モデルを迅速に実現した。市内最大の産業排出源である鉄鋼業を擁するJFEグループのグループ会社が、同時に市の再エネ調達インフラの出資者でもあるという構図は、大規模製造業を単なる規制対象としてではなく、地域エネルギーインフラの担い手として位置づけている点で示唆的である。 (参考:地域新電力事業について(福山市公式サイト)、福山市の地域新電力会社「福山未来エナジー株式会社」への出資について(ITmedia))
「グリーンな企業プラットフォーム」は、CO2削減そのものを直接の参加条件とするのではなく、環境配慮・雇用促進・働きやすい職場環境整備という3分野を束ねた「グリーンな取組」を企業自らが宣言する仕組みになっている。人材確保や取引拡大、技術力向上といった経営上のメリットを軸に据えることで、脱炭素を含む環境配慮を規制順守ではなく企業の成長戦略の一部として位置づけ直し、中小事業者の自発的な参加を促す設計になっている。 (参考:グリーンな企業プラットフォーム(福山市公式サイト))
2024年8月の「再エネ100%プラン」供給開始により、市の公共施設127施設(庁舎・学校・スポーツ施設・文化施設・ごみ処理施設・動物園等)で使用する年間約3,500万kWhの電力による排出がCO2排出量ゼロとなり、年間11,000t-CO2の削減が見込まれている。これは公共施設の電力使用に伴う排出という限定された範囲ではあるが、宣言後1年半で具体的な数値効果を伴う施策を実装した事例といえる。 (参考:再エネ100%の電力プランを導入しました(福山市公式サイト)、再エネ100%プランの供給開始(福山未来エナジー株式会社))
グリーンな企業プラットフォームは2024年5月に第1号実践グループが始動し、坂本デニムやエフピコグループ、オーザックなど環境・雇用・職場環境の各分野で先行的な取り組みを行う企業が参画している。あわせて2024年度からは中小事業者のCO2排出量管理システム導入を支援する補助事業も始まっており、宣言から1〜2年の間に産業界向け施策が段階的に具体化していることが確認できる。 (参考:広報ふくやま2023年12月特集1「グリーンなものづくり企業」(福山市公式サイト)、2024年度(令和6年度)福山市二酸化炭素排出管理支援事業について(福山市公式サイト))
区域の電気使用量に対する再エネ導入比率は2015年度6.6%から2023年度10.4%へ、住宅用太陽光(10kW未満)の累積導入件数は2015年度12,186件から2023年度19,991件へと、いずれも緩やかな増加基調が続いている。ただしこれらは環境省の統計に基づく2023年度までの数値であり、2023年2月の宣言以前から続く長期的なトレンドの延長線上にあるため、宣言そのものの効果として単純に切り分けることはできない点に留意が必要である。 (参考:自治体排出量カルテ 福山市(環境省))
2025年4月のエフピコとの連携協定締結により、脱炭素の取り組みは廃棄物処理・再エネ供給といった行政主導の施策に加えて、プラスチック資源循環など民間事業者の本業と結びついた分野にも広がりを見せている。 (参考:エフピコと広島県福山市は資源循環及び脱炭素の促進に関する連携協定を締結しました(エフピコ ニュースリリース))
福山市の事例が示すのは、「ゼロカーボンシティ宣言」を実効性のある戦略に落とし込む出発点が、自地域の排出構造を定量的に把握することにあるという点である。環境省が公開する自治体排出量カルテのような公的データを用いれば、部門別の排出割合や特定事業所への排出集中度を他自治体・全国平均と比較しながら把握できる。家庭部門中心の一般的な施策パッケージをそのまま適用するのではなく、自地域が産業型・住宅型・商業型のいずれの排出構造に近いのかを事前に検証することは、他の自治体にとっても再現可能な最初のステップである。
福山市は、ごみ発電の再エネ価値を公共施設に還流させる仕組みを、宣言後に新規事業として立ち上げるのではなく、2018年から稼働していた地域新電力会社という既存の公民連携インフラを土台に迅速に実現した。同様にごみ焼却発電施設や地域新電力会社を持つ他の自治体にとっても、新たな仕組みをゼロから構築するのではなく、既存の公民連携資産を再エネ調達の実装手段として転用する発想は応用可能なアプローチである。
排出量が特定の大規模事業所に集中する産業構造を持つ都市にとって、大規模製造業を規制の対象としてのみ扱うのではなく、地域エネルギーインフラや企業間連携の担い手として位置づけ直す視点は一つの選択肢となりうる。同時に、中小事業者に対しては規制ではなく人材確保や取引拡大といった経営メリットを軸にしたプラットフォーム型の関与を用意するなど、事業者の規模や立場に応じて異なるアプローチを組み合わせる複線的な設計は、倉敷市や大分市のように特定業種・特定事業所への排出集中度が高い他の工業都市にとっても参考になりうる。
福山市のように産業部門が排出量の7割を占める都市では、家庭部門の省エネや太陽光導入をどれだけ積み上げても、区域全体の排出量に与える影響は限定的にならざるを得ない。ゼロカーボンシティ宣言を掲げる際に、自地域の排出構造上どの部門への働きかけが最も効果的かを見極めた上で施策の重点配分を決めるという姿勢は、住宅都市・商業都市とは異なる工業都市特有の教訓として他地域にも共有しうる。
2026年9月時点の調査内容に基づいて作成
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