
地域共生のいえづくり支援制度(世田谷トラストまちづくり)
建物オーナーが自宅などの私有空間の一部を地域にひらき、まちづくり活動の拠点「地域共生のいえ」とする世田谷トラストまちづくりの支援制度。資金助成ではなく構想・試行・開設の3段階の伴走支援で住民主体の居場所を生み出し、2019年に都市住宅学会賞を受賞した。
「地域共生のいえづくり支援制度」は、建物のオーナーが自宅の空き部屋やリビング、あるいは相続などで生じた空き家を地域にひらき、まちづくり活動の拠点として使う「地域共生のいえ」を生み出すための支援制度である。世田谷区の外郭団体である一般財団法人世田谷トラストまちづくりが、2004年から運営している。 (参考:地域共生のいえづくり支援制度|世田谷トラストまちづくり)
大きな特徴は、オーナーへの資金助成を行わず、財団職員や地域の専門家が「構想」「試行」「開設」の3段階でオーナーに寄り添う人的な伴走支援に徹している点にある。子どもの居場所、子育て支援、高齢者・障がい者支援、地域まちづくりの啓発、地域交流という5つの公益的機能のいずれかを担う拠点が、住宅都市・世田谷のなかに点在して生まれてきた。2024年3月末時点で22か所が活動しており、20年にわたって住民主体の居場所を継続的に創出してきた取り組みは、2019年に都市住宅学会賞・業績賞(学会長賞)を受賞している。 (参考:地域共生のいえづくり支援制度|世田谷トラストまちづくり、2019年都市住宅学会・業績賞 概要書)
世田谷区は都市計画上、住居系用途地域が全体の約9割を占め、この割合は23区の中でも突出して高い。とりわけ第一種・第二種低層住居専用地域だけで半数超(約52%)を占めており、戸建てを中心とした低層住宅街としての性格が強い。こうした地域では、駅前や商業地のような公共空間よりも、日々の暮らしの延長線上にある身近な交流の場が求められやすい。 (参考:2019年都市住宅学会・業績賞 概要書)
制度が構想された背景には、高齢化への問題意識があった。虚弱になってからの介護サービスだけでなく、住み慣れた地域で暮らし続けるための介護予防や健康づくり、そして地域での社会交流が重要になる。地域とのつながりが長く健やかに過ごせる期間を延ばすことも、近年の研究で示されつつある。一方で、新築による高齢者施設などの供給の仕組みは既に確立されており、既存の住宅ストックを活かして「住まいに居住を補完する機能を付加する」というかたちは、従来の制度では支援対象になりにくかった。財団はこの空白に着目し、当初は高齢者に注目しつつも、多世代交流など広い観点が必要だと考え、対象者を限定せず「誰もがいきいきと安心して住み続けられるまち」の実現を掲げて、2004年に本事業を施行した。 (参考:2019年都市住宅学会・業績賞 概要書)
もっとも、私有の住まいを地域にひらくことには固有の難しさもある。制度初期を対象とした研究(日本建築学会計画系論文集)は、相談や構想の段階にとどまり開設に至らないケースが少なくないことを指摘し、その要因として、オーナーと近隣住民の相互理解を深める仕組みが弱いこと、オーナーと活動を担う住民グループの関係構築を支える仕組みが不足していること、空間整備への財政的な支援がないことを挙げた。あわせて、開設後の継続的な運営を支える仕組みの必要性も課題として示された。制度はこうした運用上の課題に向き合いながら、支援手法を段階的に整えていくことになる。 (参考:財団法人世田谷トラストまちづくりにおける「地域共生のいえづくり支援事業」制度の運用実態(J-STAGE))
制度は2004年に策定されたが、支援実績を重ねるなかで手法が確立され、2014年4月には「地域共生のいえづくり支援要綱」が施行された。新たな拠点を生む支援は「創出支援」と呼ばれ、次の3段階で構成される。 (参考:2019年都市住宅学会・業績賞 概要書)
第1段階・構想支援
では、まずオーナー本人の考えを聞き取りながら、住まい手自身・建物の状態・周辺エリアという3つの切り口で状況を調べていく。オーナーとの会話を通じて地域への関わり方や課題認識、人的ネットワーク、特技や関心を把握し、建物調査では玄関から活用空間への動線や、部屋が人の集まれる状態かを確認する。周辺調査では地域資源や年齢構成、関連所管へのヒアリングから地域ニーズをとらえ、これらをもとに具体的な活動プランをつくる。 (参考:2019年都市住宅学会・業績賞 概要書)
第2段階・試行支援
では、策定したプランを一定期間試す。まず告知から着手し、オーナーは自宅に人を招く経験を積みながら、運営の仕組みや利用のルールを固め、手伝ってくれる担い手を探していく。専門家のサポートを受けつつ、オーナー主体で回せる体制ができた時点で試行支援は区切りとなる。 (参考:地域共生のいえづくり支援制度|世田谷トラストまちづくり、2019年都市住宅学会・業績賞 概要書)
第3段階・開設支援
では、地域へのお披露目として開設セレモニーを行い、財団からオーナーへ「地域共生のいえ憲章」と「地域共生のいえプレート」を贈呈する。憲章には、住まいを地域に役立てようと思うに至った経緯や実現したい場のイメージを、オーナー自身の言葉でつづってもらう。プレートは財団の支援対象であることの目印であり、道路側から見える場所に掲げることで、見知らぬ人の出入りに対する近隣の警戒感をやわらげ、活動への理解を得やすくする役割を担っており、このセレモニーをもって「地域共生のいえ」の開設となる。 (参考:2019年都市住宅学会・業績賞 概要書)
開設後は運営支援に移る。オーナーからの運営相談に応じるほか、オーナーと運営協力者が集う情報交換会「オーナーズプラス会議」を開き、拠点をまたいだ情報共有や課題の持ち寄りの場をつくる。広報紙「地域共生のいえ かわら版」やSNS・メールマガジンでの情報発信、新たなオーナーや協力者を掘り起こす「オープンデイ」の開催も継続している。たとえば2023年度(令和5年度)には、相談4件・専門家等による支援8か所・運営相談16件に対応し、オーナーズプラス会議やオープンデイを開催、全22拠点を紹介する「かわら版」特別号を1万部発行している。 (参考:令和5年度事業報告書(世田谷トラストまちづくり))
第一の特徴は、オーナーの発意を起点とする「オーナー志向」の制度設計である。相続で家を引き継いだときや子どもが独立したとき、あるいは親族を見送ったときなど、暮らしに余白が生まれた住まい手から「地域の役に立てたい」という相談が次々と寄せられたことが、この制度を後押ししてきた。活動内容はオーナーの想いに委ねられ、5つの機能という大まかな枠組みのなかで自由度が高い。活動頻度も「月に1回程度」を目安としつつ、実際には月1回から週5回まで幅がある。高齢のオーナーが多い一方で40代の男性オーナーもおり、体調や家族の状況、生活との兼ね合いに柔軟に対応できる「ゆるやかな設定」が、多様な担い手の参加を可能にしている。 (参考:2019年都市住宅学会・業績賞 概要書)
第二に、公共施設ではなく「住まい」を活用すること自体が価値を生む点である。訪れる人は庭先を抜けて玄関をくぐり、暮らしの気配が残る居間で顔を合わせる。住まい手が同じ空間にいて迎え入れてくれるという安心感が、通い続ける動機になっているとされる。近隣の公共施設に同種の交流の場があっても、住まいならではの温かみを求めて子育て中の利用者があえて足を運ぶ例も報告されている。 (参考:2019年都市住宅学会・業績賞 概要書)
第三に、**資金助成を行わない「伴走支援」**という支援の哲学である。金銭的な助成は行わず、財団の職員がオーナーの伴走者として関わり続け、必要に応じて区内でまちづくりの実績を持つ専門家に業務を委託しながらオーナーを支える体制をとっている。カネではなくヒトと知恵で自発性を引き出す設計は、活動の主体をあくまでオーナー・住民の側に置き続けることを意図している。 (参考:2019年都市住宅学会・業績賞 概要書)
拠点の広がりと継続性
:2024年3月末時点で活動拠点は22か所にのぼる。最も古い「COSちとふな」(2005年)から2024年開設の「いいづかさんち」まで、約20年にわたり継続的に拠点が生まれてきた。囲碁好きが集う「眞喜楼」、ギャラリーとして地域に開かれた「在林館」、健康麻雀を楽しむ「ななこの積み木ハウス」、伝統構法の家屋を活かした「いいづかさんち」など、オーナーそれぞれの関心や特技が拠点の個性になっている。 (参考:令和5年度事業報告書(世田谷トラストまちづくり)、地域共生のいえ 活動拠点紹介)
活動の発展性
:個々の拠点が、地域課題や社会ニーズに応じて活動を発展させている点は特筆に値する。「岡さんのいえTOMO」は幼児と母親の交流の場として始まったが、2015年には放課後を過ごせない中高生の受け皿を、2016年には児童養護施設を出た若者や困窮家庭の子どもへの学習サポートを新たに始め、対象を広げていった。「茶論ONE COIN」と「シェア奥沢」は2016年に介護予防事業(通所型サービスB型)を始め、要支援者が食卓を囲む通いの場となった。「ケアラーズカフェKIMAMA」は認知症カフェを近隣の公共施設で開催するまでに至り、「ぬくぬくハウス」は、子ども食堂をきっかけに知り合ったスタッフが2018年からラジオ体操を始めたところ、今では60名を超える高齢者が毎朝近隣の公園に集まる習慣に育っている。住まいという小さな器から、拠点の外へと活動が波及している。 (参考:2019年都市住宅学会・業績賞 概要書、ここは18年続く、誰でも来れる"まちのお茶の間"。世田谷にある多世代が集まる「岡さんのいえTOMO」(soar))
利用者・オーナー双方への効果
:利用者からは「ここに来なければ二人目を産もうと思わなかった」(岡さんのいえTOMO)、「年上の人と接することで老いへの心構えを学べる」(あばら屋春夏)といった声があがる。オーナー側にも、「定期的に活動があるので掃除を心掛けるようになった」といったセルフケアの向上や、地域への愛着の高まりが見られ、自宅の改修を通じて住まいの利便性・安全性が向上する副次的な効果も報告されている。 (参考:2019年都市住宅学会・業績賞 概要書)
外部からの評価
:住民主体の地域マネジメントとして国内外から注目を集め、2017年度には22件の視察を受け入れた。取り組みは書籍や専門誌への掲載、各地での講演を通じて広く共有され、2019年には都市住宅学会賞・業績賞(学会長賞)を受賞した。伴走支援、住民主体の地域マネジメント、柔軟な制度設計の3点が評価されている。 (参考:2019年都市住宅学会・業績賞 概要書、都市住宅学会・業績賞(2019年))
「箱」ではなく「発意」から始める
:多くの居場所づくりが公共施設の整備や場所の確保から出発するのに対し、本制度は「地域に役立てたい」というオーナーの発意を起点にする。相続や空き家の発生といった、どの地域でも生じるライフイベントを地域資源に転換する発想は、施設を新設せずに身近な機能を供給する方法として、住宅系市街地を抱える多くの自治体に応用余地がある。
資金助成に頼らない自立支援のモデル
:金銭助成ではなく人的な伴走支援に徹する設計は、補助金が切れると活動が止まるという典型的な課題を避け、活動の主体を住民の側に置き続ける。専門家派遣という外部リソースの活かし方も含め、財政規模に左右されにくい再現性のある支援モデルといえる。ただし、その裏返しとして空間整備の費用はオーナーの負担に依存する点は、制度初期の研究でも課題として指摘されており、導入時に留意すべきトレードオフである。
運用課題に応じて仕組みを足していく
:私有空間を地域にひらく取り組みは、近隣住民の不安や、開設後の孤立・継続性といった固有の課題を伴う。本制度は、近隣理解を促す「憲章とプレート」の贈呈、拠点間をつなぐ「オーナーズプラス会議」や「かわら版」といった仕組みを段階的に加えることで、初期に指摘された「近隣理解」「関係構築」「継続支援」の弱さに応えてきた。制度を完成形として一度に設計するのではなく、運用実態から見えた課題に合わせて支援手法を更新していく姿勢は、他地域が同種の制度を育てるうえで参考になる。
ゆるい枠組みが多様性と発展性を生む
:「5つの機能」という大まかな枠と「月1回程度」というゆるやかな頻度設定が、多様なオーナーの受け入れと、社会ニーズに応じた活動の発展を同時に可能にしている。担い手の想いに細かく応えられる柔軟さは、拠点数の増加とともに活動の多様性が増していく好循環を生み出している。
2026年7月時点の調査内容に基づいて作成
この記事は公開情報に基づき、AIを用いた詳細調査により作成されました。記事内容への修正依頼、お問合せ等は以下までお寄せください。
問い合わせ:support@groove-designs.com
よくあるご質問(FAQ)もあわせてご確認ください。
#
総合計画
#
まちづくり指針
#
エリアビジョン
#
景観計画
#
緑の基本計画
#
公共空間活用
#
ウォーカブル
#
公園活用
#
防災・減災
#
空き家活用
#
エリアプラットフォーム
#
公民連携プラットフォーム
#
公民連携
#
地域コミュニティ
#
地域交流拠点
#
多文化共生
#
子育て支援
#
文化芸術
#
自動運転バス
#
モビリティマネジメント
#
モビリティハブ
#
関係人口
#
移住促進
#
探究学習
#
グリーンインフラ
#
生物多様性
#
参加型予算
#
都市整備
#
まちなか
#
駅前広場
#
協働のまちづくり
#
リノベーションまちづくり
#
フューチャーセンター
#
スマートシティ
#
AI
#
リビングラボ
#
空きスペース活用
#
居場所づくり
#
子ども食堂
#
沿線まちづくり
#
健康
#
社会教育
#
持続可能な都市
#
計画策定
#
まちづくり
#
コミュニティ形成
#
ワークショップ
#
社会実験
#
市民参加
#
子ども・若者
#
子育て世代
#
シニア