
地域包括ケアの地区展開(四者連携・28地区)
東京都世田谷区が全28地区のまちづくりセンターを拠点に、あんしんすこやかセンター・社会福祉協議会・児童館の四者連携で「福祉の相談窓口」と「参加と協働による地域づくり」を一体展開する世田谷版地域包括ケア。相談対応と地域資源開発を同じ窓口が担う仕組みを紹介する。
東京都世田谷区は、区内を5地域・28地区に分ける行政区割りを土台に、住民に最も身近な行政拠点である「まちづくりセンター」を福祉の拠点として位置づけ直し、地域包括ケアの地区展開を進めている。各地区のまちづくりセンター内に、あんしんすこやかセンター(地域包括支援センター)と社会福祉協議会地区事務局を同居配置し、令和4年(2022年)5月からは児童館が加わって「四者連携」の体制へと拡張した。
この四者が一体となって担うのが、福祉の困りごとを幅広く受け止める「福祉の相談窓口」と、日々の買い物の手助けや住民の居場所の立ち上げといった活動を住民とともに生み出す「参加と協働による地域づくり」である。支援の対象は高齢者にとどまらない。障害のある人や子育て世帯に加え、社会とのつながりに困難を感じる若者や経済的な困難を抱える人までを視野に入れる包括性が、「世田谷版地域包括ケアシステム」の骨格をなしている。相談を受け止めるだけでなく、地域に不足する資源を能動的につくり出すところまでを同じ窓口が担うのが特徴である。 (参考:世田谷区「地域包括ケアシステムについて」、世田谷区「『福祉の相談窓口』をご利用ください」、世田谷区「区内全28地区のまちづくりセンターにお越しください」)
高齢化の進展とともに、医療・介護・予防・住まい・生活支援を日常生活圏で一体的に提供する地域包括ケアシステムの構築が全国的な政策課題となってきた。一方で、住民から見ると相談先が分野ごと・機関ごとに分かれており、「どこに相談すればよいか分からない」「複数の困りごとを抱えると窓口をたらい回しにされる」という分かりにくさが課題として残っていた。 (参考:世田谷区「地域包括ケアシステムについて」)
世田谷区は約92万人の人口を抱える大規模自治体であり、区全域を一律に扱うのではなく、地域の実情に応じたきめ細かい対応が求められた。区にはもともと、区民参加による街づくりを支える「まちづくりセンター」が各地区に置かれ、町会・自治会の取りまとめや災害時対応など住民生活を支える身近な窓口として機能していた。この既存の地域インフラを、福祉相談と地域づくりの拠点としても活用できないか、という発想が地区展開の出発点となった。 (参考:世田谷区「区内全28地区のまちづくりセンターにお越しください」)
さらに、高齢者を主対象としてきた地域包括ケアの枠組みを、子ども・子育て家庭や困窮者まで含む全世代・分野横断型へと広げていく必要があった。とりわけ子ども分野の地域資源開発をどう強化するかが、四者連携へ発展する直接の動機となった。 (参考:世田谷区「地域包括ケアシステムについて」)
段階的な地区展開
地区展開はいきなり全域で始めたわけではなく、モデル実施から段階的に広げられた。平成26年度(2014年度)に砧地区でモデル実施し、平成27年度(2015年度)に5地区へ拡大、平成28年度(2016年度)に全27地区(現在は28地区)へと広げて、まちづくりセンター・あんしんすこやかセンター・社会福祉協議会地区事務局の三者連携体制を確立した。そのうえで令和4年(2022年)5月に児童館を加え、子ども分野の地域資源開発を強化する四者連携へと発展させている。 (参考:ふくし実践事例ポータル「世田谷区社協における重層的支援体制整備事業の取組み」、世田谷区「地域包括ケアシステムについて」)
福祉の相談窓口
各地区の窓口では、「介護の仕方が分からない」といった介護の相談から、子育て支援、病気や障害による生活の不安、地域活動への参加方法まで、幅広い相談を受け止める。複数の悩みを同時に抱える人にも対応し、より専門的な支援が必要な場合は適切な機関へ引き継ぐ。三者・四者がそれぞれの専門性を持ち寄り、役割を分担して支援にあたる形をとっている。 (参考:世田谷区「『福祉の相談窓口』をご利用ください」、ふくし実践事例ポータル)
参加と協働による地域づくり
窓口は相談を受けるだけでなく、地域に足りない支え合いの仕組みをつくり出す役割も担う。日々の買い物の手助けや、住民が集える「ふれあい・いきいきサロン」といった居場所の立ち上げを後押しし、活動の担い手を地域から掘り起こす。さらにNPOや活動団体と手を組み、新たなサービスを形にしていく。相談で見えてきた個別の困りごとを、地域全体の資源開発へとつなげる循環がねらいである。 (参考:世田谷区「『福祉の相談窓口』をご利用ください」、世田谷区「区内全28地区のまちづくりセンターにお越しください」)
地区アセスメントと地区ビジョン
各地区では、まちづくりセンター・あんしんすこやかセンター・社会福祉協議会などが、地区にどのような資源があり、住民が何を必要とし、どのような暮らしの課題を抱えているかを調べて整理する「地区アセスメント」を作成する。その結果は住民や関係機関が参加する地区情報連絡会などで共有され、地区が目指す将来像を住民とともにまとめる「地区ビジョン」の策定や課題への取り組みにつながっていく。属人的な勘ではなく、地区ごとの現状把握を共通基盤として地域づくりを進める仕組みである。 (参考:世田谷区「まちづくり活動の目標(地区ビジョン)」)
重層的支援体制整備事業への発展
令和3年度(2021年度)には、社会福祉法の改正を受けて重層的支援体制整備事業が開始され、地区ごとの包括的な相談支援としての「福祉の相談窓口」が制度的にも位置づけられた。あわせて、ひきこもり支援に特化した多機関協働の体制整備も進み、生活困窮者自立相談支援や若者支援の機関が連携して対応する仕組みが整えられている。 (参考:ふくし実践事例ポータル「世田谷区社協における重層的支援体制整備事業の取組み」)
成果の共有
区は毎年度、地区展開の取り組みを共有する報告会を開催している。令和6年度報告会は令和7年(2025年)1月30日に北沢タウンホールで開かれ、上町・松沢・用賀の3地区が事例を発表した。地区間で実践を持ち寄り学び合う場として定例化している。 (参考:世田谷区「令和6年度 地域包括ケアの地区展開報告会を開催しました」)
第一に、福祉のためのまったく新しい拠点を新設するのではなく、区民に身近な既存の行政拠点である「まちづくりセンター」を福祉の相談・地域づくりの拠点として活用した点である。町会・自治会支援や防災など地域に根ざした機能をすでに持つ場所に相談機能を重ねることで、住民が構えずに立ち寄れる窓口を実現している。 (参考:世田谷区「区内全28地区のまちづくりセンターにお越しください」)
第二に、「相談を受け止める」機能と「地域づくりで資源を生み出す」機能を、同じ窓口・同じ体制で一体的に運用している点である。多くの相談窓口が個別対応(受け身の支援)にとどまりがちなのに対し、世田谷区の窓口はサロンやボランティアの立ち上げといった資源開発まで踏み込む。相談で見えた課題を地域全体の仕組みづくりに還元する設計になっている。 (参考:世田谷区「『福祉の相談窓口』をご利用ください」)
第三に、対象を高齢者に限定しない全世代・分野横断型である点である。あんしんすこやかセンターは高齢者だけでなく障害のある人や子育て中の人の相談も受け、令和4年5月の児童館の参画によって子ども分野の資源開発が明確に体制へ組み込まれた。高齢者中心で始まった地域包括ケアを、段階的に全世代型へ広げてきた経緯そのものが特徴といえる。 (参考:世田谷区「地域包括ケアシステムについて」)
第四に、地区アセスメントという共通の現状把握手法を全地区で用いることで、担い手個人の力量に依存しない再現性のある地域づくりの仕組みを整えている点である。 (参考:世田谷区「まちづくり活動の目標(地区ビジョン)」)
モデル実施(平成26年度)から全区展開(平成28年度)を経て、令和4年5月の児童館参画により、全28地区で四者連携による「福祉の相談窓口」と「参加と協働による地域づくり」を担う体制が定着している。制度面でも、令和3年度に始まった重層的支援体制整備事業のなかに地区展開が位置づけられ、ひきこもり支援など複合的な課題への多機関協働へと発展している。 (参考:ふくし実践事例ポータル「世田谷区社協における重層的支援体制整備事業の取組み」)
取り組みの成果は、年度ごとの報告会を通じて可視化・共有されている。令和6年度報告会(令和7年1月30日・北沢タウンホール)では、上町地区が「希望が繋がる、人生が輝くまち」を目指した地区の底力の発揮、松沢地区が多世代が共存し「明るく暮らせる町」の実現、用賀地区が「支えあい・助け合いのあるまち」に向けた多世代交流事業をテーマに発表した。報告会の様子は区公式YouTubeチャンネルでも公開されている。 (参考:世田谷区「令和6年度 地域包括ケアの地区展開報告会を開催しました」)
一方で、相談件数や地域づくり活動の立ち上げ数といった定量的な成果指標は、区の公開情報からは網羅的には確認できなかった。体制の全域整備と各地区での実践事例の蓄積は確認できるものの、効果を数値で横断的に評価する材料は限られている点は、フラットに捉えておく必要がある。 (参考:世田谷区「地域包括ケアシステムについて」)
世田谷区の地区展開が他地域に示すのは、福祉の相談体制を「新しい箱をつくる」発想ではなく「既にある身近な拠点に機能を重ねる」発想で構築できる、という点である。町会・自治会支援や防災など地域に根を張った既存拠点を持つ自治体であれば、そこに相談機能を同居させることで、住民の心理的なハードルを下げつつ立ち上げコストを抑えられる可能性がある。 (参考:世田谷区「区内全28地区のまちづくりセンターにお越しください」)
もう一つの示唆は、相談窓口を「困りごとを受ける場」で終わらせず「地域資源を生み出す場」として設計する考え方である。個別相談で浮かび上がった課題を、サロンや見守り、担い手の発掘といった地域全体の仕組みづくりへ転換する循環を組み込めば、窓口が対症療法にとどまらず地域の支え合いそのものを厚くしていく装置になりうる。 (参考:世田谷区「『福祉の相談窓口』をご利用ください」)
加えて、高齢者向けに始めた枠組みを一気に全世代化するのではなく、三者連携で基盤を固めてから児童館を加えて四者連携へ広げるという段階的なアプローチは、対象や連携主体を無理なく拡張していくうえで参考になる。全地区で共通の地区アセスメントを用いる点も、担い手の異動や属人化に左右されにくい仕組みとして再現性が高い。さらに、年度ごとの報告会で地区間が実践を持ち寄り学び合う場を定例化する運用は、多数の地区・拠点を抱える自治体が横展開と質の底上げを図るうえで応用しやすい。 (参考:世田谷区「まちづくり活動の目標(地区ビジョン)」、世田谷区「令和6年度 地域包括ケアの地区展開報告会を開催しました」)
2026年7月時点の調査内容に基づいて作成
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