
世田谷区空き家等地域貢献活用事業(世田谷トラストまちづくり)
東京都世田谷区が2013年度に始めた空き家等地域貢献活用事業を紹介する。外郭団体の世田谷トラストまちづくりが空き家オーナーと地域活動団体をマッチングし、改修費を助成することで、空き家を子育て・高齢者・障がい者の居場所や地域交流拠点へ転用する、行政主導の中間支援型の空き家活用の仕組みをまとめる。
世田谷区空き家等地域貢献活用事業は、区内の空き家・空室・空き部屋を「地域資源」と捉え、それを手放したくないオーナーと、活動の場を求める地域団体とを結びつけて、子育て・高齢者・障がい者の居場所や地域交流の拠点へと転用していく取り組みである。事業を実際に担うのは、区の外郭団体である一般財団法人世田谷トラストまちづくりで、区の委託を受けて「空き家等地域貢献活用相談窓口」を運営し、オーナーと活動団体の双方の相談を受けながらマッチングにあたる。目的は建物の処分そのものではなく、空き家の活用を通じて「地域の人々がゆるやかにつながりながら共に暮らす、地域コミュニティの活性化・再生」に置かれている。(参考:世田谷トラストまちづくり「空き家等地域貢献活用事業」、世田谷トラストまちづくり「空き家等地域貢献活用相談窓口」)
この事業の骨格は二層になっている。ひとつは2013年度(平成25年度)に開設された相談窓口による「マッチング」の機能で、財団が中立の立場でオーナーと団体の間に入り、両者の合意形成を支える。もうひとつは、マッチングした(あるいは団体が自ら見つけた)空き家を活動の場に仕立てるための改修費を後押しする「初期整備への助成」で、当初は「世田谷らしい空き家等地域貢献活用モデル事業」として始まり、現在は空き家等地域貢献活用助成事業として続いている。行政が空き家バンクのように情報を提供するだけでなく、行政の側からマッチングを能動的に支援し、さらに改修費まで助成する仕組みは全国的に見ても先進的で、都市計画分野の学術研究でも「行政主導型の応用可能性の高い事業」として取り上げられている。(参考:世田谷トラストまちづくり「空き家等地域貢献活用助成事業」、笈田幹弘ほか「まちづくり活動とのマッチングによる空き家活用推進事例の研究」(都市計画論文集, 2018))
世田谷区は、住宅地として人気が高く地価も比較的高い一方で、空き家の絶対数が多い自治体でもある。2018年の住宅・土地統計調査では区の空き家数が全国の市区町村で最多となり、2013年・2018年・2023年の調査を通じて5万件台で推移してきた。減った分と同程度の空き家が新たに生まれ続ける構造があり、その多くは相続をきっかけに発生する。地価が高いため評価額が数千万〜数億円にのぼり、相続人が売却や活用の判断をためらいやすいことも、空き家を滞留させる一因になっている。(参考:日本経済新聞「都市にも空き家 『最多自治体』世田谷区の取り組み」、ジチタイワークス「高齢者を中心に支援を講じて、空き家の予防へ」)
その一方で、地域には「活動の場が足りない」という逆向きの課題があった。少子高齢化や地域活力の低下を背景に、住民自らが子育て支援・高齢者の見守り・障がい児の居場所づくりといった地域課題の解決に取り組む動きが広がるなかで、公共施設だけでは多様化する活動を受け止めきれなくなっていた。使われない建物が余る一方で、場を求める活動が場を得られない——この需要と供給のミスマッチを埋めることが、事業の出発点にある。(参考:笈田幹弘ほか「まちづくり活動とのマッチングによる空き家活用推進事例の研究」(都市計画論文集, 2018))
世田谷区には、この事業に先立つ土台もあった。区とトラストまちづくりは2005年度(平成17年度)から、建物オーナー自身が自宅などの一部を地域に開いてまちづくり活動の拠点にする「地域共生のいえづくり支援事業」を運営してきた。ただしこれはオーナーの発意を起点とする仕組みで、活用の広がりはオーナー側が動くかどうかに左右される。空き家等地域貢献活用事業は、その発意を待つのではなく、行政・財団の側から空き家と活動団体を能動的に結びつける「マッチング型」へと踏み込んだ点で、先行制度を補完する位置づけにある。(参考:世田谷トラストまちづくり「地域共生のいえ」、笈田幹弘ほか「まちづくり活動とのマッチングによる空き家活用推進事例の研究」(都市計画論文集, 2018))
事業の中核は、財団が空き家のオーナーと地域貢献活動団体の双方の相談窓口となり、それぞれの要望に沿ってマッチングを進める点にある。オーナーからは「使っていない建物を地域のために役立てたい」という相談が、団体からは「活動にふさわしい場所を探している」という相談が寄せられ、財団が中立の立場で間に入って条件をすり合わせる。マッチングが成立した場合には、オーナーと団体のあいだで定期借家契約などを結び、双方が安心して関係を続けられる形を整える。見知らぬ相手に建物を貸すことへのオーナーの不安を、公的な財団が仲立ちすることで和らげる——この橋渡し役が仕組みの要になっている。(参考:世田谷トラストまちづくり「空き家等地域貢献活用相談窓口」、笈田幹弘ほか「まちづくり活動とのマッチングによる空き家活用推進事例の研究」(都市計画論文集, 2018))
空き家を活動の場に変えるには、多くの場合まとまった改修が必要になる。事業では、マッチングした物件や団体が自ら探した物件を使う地域貢献企画を公募し、審査を経て初期整備費用を助成する。当初のモデル事業では改修費の一部が助成され、現在の助成事業では改修工事費に加えて耐震改修費も助成対象に含まれている。応募できるのは、その物件で5年以上活動を継続する意思があり、地域貢献の実績を持ち、収益を構成員に分配しないなどの要件を満たす団体で、政治・宗教目的の団体は対象外とされる。物件側にも、新耐震基準への適合など建築関係法令の要件が課される。(参考:世田谷トラストまちづくり「空き家等地域貢献活用助成事業」)
助成の可否は、応募団体によるプレゼンテーションと専門委員による質疑からなる公開審査会で決められる。審査委員は大学教員・社会貢献活動の実践者・行政関係者など多様な立場の5名で構成され、「継続性・実現性」「地域貢献性」「モデル性」「費用対効果」の観点から、その企画が地域の活動として続いていけるか、他の空き家活用の手本になり得るかまでを見極める。単に建物を活用できるかではなく、活動そのものの事業性を厳しく問う設計になっている。(参考:笈田幹弘ほか「まちづくり活動とのマッチングによる空き家活用推進事例の研究」(都市計画論文集, 2018))
事業は開始当初から完成形だったわけではなく、年度ごとに課題を振り返りながら支援体制を継ぎ足してきた。2013・2014年度(平成25・26年度)は財団がオーナーと団体それぞれの窓口となってマッチングを担う体制だったが、2015年度(平成27年度)には、資金計画の相談に応じる信用金庫と、建物の相談に応じる一般社団法人東京都建築士事務所協会世田谷支部が加わった。建築士による支援は三段階に整理され、活用を検討する建物の現況確認と改修費用の見通しの把握、用途に応じた諸条件の整理と改修費のアドバイス、そして具体化した後の空間活用・DIYの助言までを担う。財団が単独で抱え込むのではなく、専門家集団への「つなぎ役」として機能することで、改修や資金という壁を下げていったのがこの取り組みの進め方である。(参考:笈田幹弘ほか「まちづくり活動とのマッチングによる空き家活用推進事例の研究」(都市計画論文集, 2018))
こうして生まれた活用拠点は、用途も担い手も多彩である。象徴的な事例のひとつが、砧・大蔵地区の木造賃貸アパートを再生した「タガヤセ大蔵」だ。賃料を下げても借り手がつかなくなった空き室3室をひとつの大きな空間につなぎ、街に開かれた高齢者デイサービスと地域の寄り合い所に転用した。オーナー・社会福祉法人・建築家の三者が組み、業務用の大きなキッチンを空間の中心に据え、近隣農地でとれた野菜を使った食事づくりや、月1回の認知症カフェ、多世代が交わるイベントを重ねている。周辺の団地は高齢化率が40%を超え、駅からも遠い地域だが、そこに介護の要・不要を問わず人が行き来する場が生まれた。(参考:UR都市機構「街みちネット タガヤセ大蔵」、世田谷トラストまちづくり「空き家等地域貢献活用事業」)
活用の広がりはデイサービスにとどまらない。学術調査で追跡された初期の事例には、障がいのある未就学児が親子で過ごせる居場所、大切な人を亡くした子どもや大人に寄り添うグリーフケアのスペース、学童保育や子ども食堂を営む拠点などが含まれ、いずれも第一種低層住居専用地域の戸建てや集合住宅の一部を活用していた。財団の公開サイトには、こうして生まれた活用拠点が23件掲載され(うち5件は終了)、現在も十数か所が地域の居場所・交流拠点として稼働している。区と財団は、これらの実践を広く伝えるため、オーナーや活用希望者を対象とする「空き家等活用ゼミナール」も継続的に開催しており、2025年9月には「"いえ"を活用した居場所づくり」をテーマに、「ふくふくのいえ」や「岡さんのいえTOMO」など既存の居場所の運営者と建築士が改修や運営のノウハウを共有した。(参考:笈田幹弘ほか「まちづくり活動とのマッチングによる空き家活用推進事例の研究」(都市計画論文集, 2018)、世田谷トラストまちづくり「空き家等地域貢献活用事業」、世田谷ボランティア協会「世田谷の空き家等活用ゼミナール」)
第一の特徴は、行政が「情報提供」ではなく「マッチングと初期整備助成」まで踏み込んでいる点にある。空き家の情報を空き家バンクで公開する自治体は多いが、行政(およびその外郭団体)が主体となって活動団体とオーナーを結びつけ、さらに改修費を助成して活用を後押しする事例は、事業開始当時ほとんど存在しなかった。都市計画分野の研究はこの点を「先進的」で「行政主導型の応用可能性が高い」と評価しており、空き家対策の一手法として他地域にも移植しうるモデルとして位置づけている。(参考:笈田幹弘ほか「まちづくり活動とのマッチングによる空き家活用推進事例の研究」(都市計画論文集, 2018))
第二に、中立的な中間支援主体が「あいだ」に立つことで信頼が生まれやすい構造がある。オーナーにとって、見ず知らずの団体に自分の建物を委ねるのは心理的な壁が高い。区の外郭団体である財団が両者の窓口となり、条件のすり合わせや契約形態の助言を担うことで、その壁が下がる。研究でも、財団が中立の立場で介在することがオーナーと団体の相互の信頼を得やすくしていると指摘されている。制度を条例で用意するだけでは動かない部分を、運用する主体の存在が支えている。(参考:笈田幹弘ほか「まちづくり活動とのマッチングによる空き家活用推進事例の研究」(都市計画論文集, 2018))
第三に、この事業は「空き家対策」と「地域活動支援」という二つの政策課題を同時に解こうとしている点で独特である。余っている建物の活用(供給側)と、場を求める地域活動(需要側)を一本の仕組みで結ぶため、単なる不動産の流通促進にとどまらず、居場所や交流拠点という地域の社会資本を増やす結果につながる。空き家を「処分すべき負動産」ではなく「地域に開くべき資源」と捉え直す発想が、事業全体を貫いている。(参考:世田谷トラストまちづくり「空き家等地域貢献活用相談窓口」、日本経済新聞「都市にも空き家 『最多自治体』世田谷区の取り組み」)
初期段階の実態を最もよく伝えるのが、財団への調査に基づく2018年の学術研究である。それによれば、空き家等地域貢献活用相談窓口への相談は開設以降増加し、平成25〜27年度の累計でのべ約1,500件、案件としてはオーナーからの相談が150件、団体からの相談が288件に達した。この期間にモデル事業として成立したのは7件で、内訳は平成25年度が5件応募・3件採択、平成26年度が2件応募・2件採択、平成27年度が4件応募・4件採択(うち2件は採択後に辞退)だった。財団自身がマッチングして成立したのはこのうち3件で、残りは団体が自ら見つけた物件だった。事業を通じて、空き家が実際に地域の活動の場へと転用される流れが立ち上がったことは、確認できる成果である。(参考:笈田幹弘ほか「まちづくり活動とのマッチングによる空き家活用推進事例の研究」(都市計画論文集, 2018))
一方で、相談が増えてもマッチングの成立は横ばいにとどまり、「相談が増えれば成立が増える」という単純な相関は見られなかった。成立に至らない理由は大きく二つに分かれる。ひとつは、建ぺい率・容積率の超過、確認申請との相違、接道義務違反など建築基準法に適合できず紹介できない「対応不可」で、この期間だけで30件にのぼった。もうひとつは、家賃の折り合いや相互の信頼関係が整わない「不成立」で、旧耐震基準の物件が多く耐震改修の費用負担が壁になる例が目立った。マッチングが成立しない原因の多くはオーナー側の事情にあり、そこにきめ細かく対応できるかが財団の力量にかかっている——研究はそう整理している。(参考:笈田幹弘ほか「まちづくり活動とのマッチングによる空き家活用推進事例の研究」(都市計画論文集, 2018))
成立した事例に目を向けると、初期整備助成の効果は明確だった。追跡された団体からは「助成金がなければ改修ができなかった」「改修のアイデアが生まれたのは事業のおかげ」という声が確認され、初期整備への後押しが活動の開始・継続・発展に寄与していた。ただし課題も残る。活動団体が家賃を払い続けられるだけの収入をどう確保するか、という事業継続性の問題である。財団は団体の事業を直接運営することはできないが、「区のモデル事業である」という信頼付与や、地域の他団体・専門家とのネットワークづくりを通じて継続を側面支援している。また、建築士がどこまで無償で関与し、報酬をどう設定するかといった専門家側の負担の整理も、持続的な支援体制に向けた検討課題として残されている。(参考:笈田幹弘ほか「まちづくり活動とのマッチングによる空き家活用推進事例の研究」(都市計画論文集, 2018))
第一に、空き家を「処分すべき負動産」ではなく「地域活動の場の供給源」と捉え直す発想は、多くの自治体に応用できる。人口減少地域でも都市部でも、遊休化した建物が余る一方で、居場所や活動拠点を求める住民活動が場を得られずにいる、という需給のミスマッチは共通する。空き家バンクによる情報提供にとどめず、行政や中間支援組織が能動的に両者を結びつける役割を担えるかどうかが、空き家を地域の資産に転じられるかの分かれ目になる。(参考:笈田幹弘ほか「まちづくり活動とのマッチングによる空き家活用推進事例の研究」(都市計画論文集, 2018))
第二に、マッチングを成り立たせるうえで、中立的な中間支援主体の存在が決定的だという点である。オーナーが見知らぬ団体に建物を委ねる不安は、契約や条件交渉の巧拙だけでは解けず、信頼できる第三者が間に立ってはじめて和らぐ。世田谷区では区の外郭団体である財団がその役を担ったが、他地域で再現する際には、NPOや中間支援組織など、行政と住民のあいだで信頼を得られる主体を確保できるかが要になる。制度の枠組みは移植できても、それを回す「人」と「組織」がなければ動かない。(参考:笈田幹弘ほか「まちづくり活動とのマッチングによる空き家活用推進事例の研究」(都市計画論文集, 2018))
第三に、初期整備への助成が、活用に踏み出す団体の「背中を押す」効果を持つという知見である。とりわけ都市部の空き家は旧耐震基準や既存不適格の物件が多く、改修費が活用の最大の障壁になりやすい。世田谷区の事例では、助成がなければ改修に踏み切れなかった団体が複数あり、少額でも初期費用を支える仕組みが活動の実現に直結していた。マッチングの制度だけでなく、改修という物理的なハードルを下げる財政的支援をセットで用意することが、実効性を左右する。(参考:笈田幹弘ほか「まちづくり活動とのマッチングによる空き家活用推進事例の研究」(都市計画論文集, 2018))
最後に、マッチングの成立はゴールではなく出発点にすぎない、という教訓が重い。場を得た活動団体が家賃を払い続けられなければ拠点は続かず、空き家は再び空くことになる。世田谷区の経験は、契約成立後も活動団体の事業継続性を見据えた伴走支援——他団体や専門家とのネットワークづくり、信頼の裏づけの提供——が欠かせないことを示している。空き家活用を一過性のイベントで終わらせないためには、「場をつくる支援」から「活動を続ける支援」へと視野を広げる制度設計が求められる。(参考:笈田幹弘ほか「まちづくり活動とのマッチングによる空き家活用推進事例の研究」(都市計画論文集, 2018))
2026年7月時点の調査内容に基づいて作成
この記事は公開情報に基づき、AIを用いた詳細調査により作成されました。記事内容への修正依頼、お問合せ等は以下までお寄せください。
問い合わせ:support@groove-designs.com
よくあるご質問(FAQ)もあわせてご確認ください。
#
総合計画
#
まちづくり指針
#
エリアビジョン
#
景観計画
#
緑の基本計画
#
公共空間活用
#
ウォーカブル
#
公園活用
#
防災・減災
#
空き家活用
#
エリアプラットフォーム
#
公民連携プラットフォーム
#
公民連携
#
地域コミュニティ
#
地域交流拠点
#
多文化共生
#
子育て支援
#
文化芸術
#
自動運転バス
#
モビリティマネジメント
#
モビリティハブ
#
関係人口
#
移住促進
#
探究学習
#
グリーンインフラ
#
生物多様性
#
参加型予算
#
都市整備
#
まちなか
#
駅前広場
#
協働のまちづくり
#
リノベーションまちづくり
#
フューチャーセンター
#
スマートシティ
#
AI
#
リビングラボ
#
空きスペース活用
#
居場所づくり
#
子ども食堂
#
沿線まちづくり
#
健康
#
社会教育
#
持続可能な都市
#
計画策定
#
まちづくり
#
コミュニティ形成
#
ワークショップ
#
社会実験
#
市民参加
#
子ども・若者
#
子育て世代
#
シニア