
親子のつどいの場『おでかけひろば』とワークスペースひろば型(世田谷区)
世田谷区が徒歩15分圏に面的に整備する親子の居場所『おでかけひろば』。民設民営で40か所超に広がり、子育てと就労の両立に応える「ワークスペースひろば型」を先駆的に併設する在宅子育て支援の事例。
「おでかけひろば」は、主に0〜3歳の未就学児と保護者、そしてプレママ・プレパパが、予約なしで好きな時間に立ち寄り自由に過ごせる、世田谷区の親子のつどいの場である。玩具遊びや保護者同士の情報交換の場であると同時に、スタッフや専門職への育児相談窓口も兼ねる無料の居場所として、世田谷・北沢・玉川・砧・烏山の5地域に展開している。運営は社会福祉法人・NPO・生活協同組合・社会福祉協議会・地域の任意団体など多様な担い手が担い、区が運営費を補助・委託する「民設民営」の形をとる。区は「区内どこに住んでいても歩いて行ける」ことを掲げ、ベビーカーや子どもの足で15分ほどの距離ごとに施設を面的に整備してきた結果、現在は区内40か所超(区の案内で43か所)に広がっている。 (参考:親子のつどいの場「おでかけひろば」(世田谷区)、おでかけひろば・ほっとステイ運営団体向けご案内(世田谷区))
近年はこの居場所機能に、「子どもの近くでゆるやかに働きたい」というニーズに応える仕掛けを重ねている。保護者が働けるデスクスペースと一時預かりを組み合わせた「ワークスペースひろば型」を区内5か所で運営するほか、産後まもない保護者の休息に特化したスペースを設ける施設も現れている。区は令和8年度の整備・運営事業者を引き続き公募し、拠点網の拡充を進めている。 (参考:子どもの近くで働くことのできる「ワークスペースひろば型」(世田谷区))
都市部で核家族化と共働き・単身での育児が進むなか、乳幼児期の親子は日中に孤立しやすい。世田谷区は人口約92万人を抱える都内最大の基礎自治体である。緑豊かな住環境を求めて転入してくる子育て世帯が多い反面、近所とのつながりを持てないまま孤立する家庭が増えている——そうした課題認識が、住民の側からも示されていた。実際に砧地区で新たなひろば開設を目指した住民グループは、この地域課題を立ち上げの動機として明示している。 (参考:「うさぎの縁がわ」プロジェクト(MotionGallery))
こうした在宅子育て家庭の孤立感・負担感をやわらげ、身近な場所で交流と相談ができる環境を整えることが、区の子育て施策の柱の一つに据えられている。区は「子ども・若者総合計画(第3期)」(令和7〜16年度)に基づき、妊娠期から若者期までの各段階を通じて途切れなく支援する方針を掲げており、おでかけひろばの計画的な整備はその入口に位置づけられる。 (参考:世田谷区子ども・若者総合計画(第3期))
同時に、テレワークや短時間・柔軟な働き方が広がるなかで、「子育て中も就労とゆるやかにつながりたい」という保護者のニーズが顕在化した。しかし乳幼児を預けて働く選択肢は保育所入所が中心で、「子どもの近くにいながら少しだけ働く」ニーズの受け皿は乏しかった。居場所づくりに就労支援・一時預かりをどう重ねるかが、次の課題として浮かび上がっていた。 (参考:子どもの近くで働くことのできる「ワークスペースひろば型」(世田谷区))
面的整備の基盤づくり(おでかけひろば本体)。
区はおでかけひろばを直営で増やすのではなく、地域の担い手による民設民営を軸に整備してきた。保育所等の運営経験や在宅子育て支援の活動実績を持つ法人・団体などを事業者として公募し、区が運営費を補助・委託する仕組みである。開室時間内は出入り自由で、遊び・交流・情報交換に加え、子育て講座やリフレッシュのためのプログラムを提供する。この「担い手を募って面で増やす」方式により、区内5地域・40か所超という密度を実現している。 (参考:親子のつどいの場「おでかけひろば」(世田谷区)、おでかけひろば・ほっとステイ運営団体向けご案内(世田谷区))
一時預かり「ほっとステイ」の併設。
一部のおでかけひろばには、一時預かり「ほっとステイ」を併設している。預ける理由に条件を設けておらず、通院や買い物、休息といった保護者側の都合で利用できるレスパイト(休息)の受け皿として機能し、「居場所」と「短時間の預かり」を同じ拠点で完結できるようにしている。 (参考:お子さんの一時預かり「ほっとステイ」(世田谷区))
「ワークスペースひろば型」の導入と拡大。
区は平成30年度(2018年度)に、コロナ禍以前の段階で「子どもの近くで働く」ニーズに着目し、区内2か所でワークスペースひろば型を開始した。ひろばの一角にデスク席を設け、保護者が仕事をしている間は同じ施設内でスタッフが子どもを預かる仕組み(預かり定員は各所3名)である。対象は区内在住の保護者で、預けられる子どもは生後4か月〜3歳の未就園児。利用には事前の登録面談が必要で、平日10時から15時の間に使うことができる。現在は以下の5か所に広がっている。 (参考:ワークスペースひろば型・実施施設一覧(世田谷区))
このうち深沢の「ふかさわおでかけひろばワークスペースプラス」は、地域の子育て支援協議会が運営し、駒沢公園に近い立地でひろば・ワークスペースを平日日中に開くとともに、0〜3歳未就園児の保護者やプレママ向けの休息スペースを不定期で設けるなど、就労支援と産後の休息を組み合わせている。 (参考:ふかさわおでかけひろばワークスペースプラス(世田谷区))
産後の休息機能の付加。
2024年10月に砧公園前に開設された「おでかけひろば プレイス」では、助産師・保育士・理学療法士など専門職による相談に加え、生後0〜4か月の保護者が最大2時間休める「らっこルーム」を設けている。居場所に、専門相談と産後の休息という機能を上乗せする動きが広がりつつある。 (参考:おでかけひろば プレイス(世田谷区))
「徒歩15分圏」を基準にした面的整備。
この取り組みの最大の特徴は、個々の施設の質だけでなく、拠点網の「密度」と「近さ」を政策目標として明確に置いている点にある。区は「区民がどこに住んでいても徒歩で行ける」ことを掲げ、ベビーカーや幼児の足で歩いて15分ほどの距離を目安に整備を進めている。居場所づくりを単発の拠点整備ではなく、都市空間へのアクセシビリティの問題として設計しているのが特徴的である。 (参考:親子のつどいの場「おでかけひろば」(世田谷区)、おでかけひろば・ほっとステイ運営団体向けご案内(世田谷区))
民設民営と公募による、担い手の多様さ。
社会福祉法人やNPOだけでなく、生活協同組合や社会福祉協議会、地域住民が立ち上げる任意団体までが担い手となりうる。砧地区の「うさぎの縁がわ」では、経堂のひろばで5年勤めた地元出身者を代表に、地域のパン屋店主やコワーキング運営者が加わり、区の公募に応じて自分たちの手で拠点を立ち上げようとしている。行政が箱を用意するのではなく、地域の当事者が担い手として名乗り出られる制度設計が、拠点の密度と地域性を両立させている。 (参考:「うさぎの縁がわ」プロジェクト(MotionGallery))
「居場所」への機能の重ね書き。
おでかけひろばは、単なる遊び場から出発しつつ、一時預かり(ほっとステイ)、就労のためのワークスペース、産後の休息スペース、専門職相談といった機能を、同じ場所に段階的に重ねている。とりわけワークスペースひろば型を2018年という早い時期に始めた点は、テレワーク普及を先取りする形で「子育てと就労の両立」を居場所の課題として捉えていたことを示す。子育て支援・就労支援・レスパイトという縦割りになりがちな機能を、一つの拠点に統合している。 (参考:子どもの近くで働くことのできる「ワークスペースひろば型」(世田谷区)、ワークスペースひろば型・実施施設一覧(世田谷区))
拠点網の規模という点では、おでかけひろばは区内40か所超(区の案内で43か所)にまで拡大し、5地域をカバーしている。徒歩圏での整備という方針のもと、既存拠点から一定の距離がある地域を優先して新規整備を進める運用が続いている。 (参考:親子のつどいの場「おでかけひろば」(世田谷区))
ワークスペースひろば型は、平成30年度の2か所から現在の5か所へと拡大した。加えて、2024年に産後休息機能を備えた新型拠点が開設されるなど、機能面でも展開が続いている。区は令和8年度も整備・運営事業者の公募を継続しており、「子ども・若者総合計画(第3期)」(令和7〜16年度)に基づく10年スパンの計画的整備として位置づけられている。 (参考:ワークスペースひろば型・実施施設一覧(世田谷区)、世田谷区子ども・若者総合計画(第3期))
需要側の裏づけとしては、住民自らがひろばの新設を目指してプロジェクトを立ち上げる動きが見られる点が挙げられる。地域に拠点が足りない・つながりが薄いという課題認識が住民側から表明され、公募を通じて担い手として参画しようとする流れは、面的整備が住民ニーズと呼応していることを示す一例といえる。なお、各施設の利用者数や個別の運営指標といった定量データは公開情報からは確認できず、成果の中心はここでは拠点網の規模と機能の拡張にある。 (参考:「うさぎの縁がわ」プロジェクト(MotionGallery))
「近さ」を政策指標にする発想。
居場所づくりは「良い拠点を1つつくる」発想になりがちだが、世田谷区は「徒歩15分圏に必ずある」という到達性そのものを目標に据えた。ベビーカーで移動する乳幼児家庭にとって距離は利用可否を左右する決定的な要素であり、拠点の質と同じ重みで「密度」と「近さ」を設計する視点は、面積や人口規模の異なる自治体でも移植しやすい考え方である。
縦割りを崩す「機能の重ね書き」。
子育て支援・一時預かり・就労支援・産後ケアは、行政では別々の所管・別々の施設になりやすい。この事例は、それらを一つの居場所に段階的に重ねることで、保護者が場所を移動せずに複数のニーズを満たせるようにしている。とくにワークスペースひろば型は、「預けて働く(保育所)」でも「連れて過ごす(ひろば)」でもない、その中間の「近くで少し働く」という受け皿を制度化した点に新規性がある。テレワークが定着した現在、他地域でも再現価値の高いモデルといえる。
担い手を「募る」ことで密度と地域性を両立する。
直営で拠点を増やすには限界があるが、民設民営+公募という設計は、地域の法人・事業者・住民を担い手として引き込み、拠点の密度を確保しながら各地域の実情に合った運営を可能にする。担い手が「制度に応募できる」状態を整えることが、面的整備のエンジンになっている。ただし運営の質は担い手の力量に依存しやすく、補助・研修・相談機能など、担い手を支える仕組みをあわせて用意することが前提となる点は留意が必要である。
2026年07月時点の調査内容に基づいて作成
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