
沼津市立地適正化計画の改定(防災指針の新設)
沼津市が2024年3月、策定から5年ぶりに立地適正化計画を改定。10種類の災害ハザードを定量分析して「防災指針」を新設し、北部地区を都市機能誘導区域に追加するなど、リスクを排除せず管理する防災まちづくりの枠組みを構築した事例。
沼津市は2024年3月、2019年3月に策定した立地適正化計画を、策定から5年ぶりに改定した。最大の変更点は、令和2年度の都市再生特別措置法改正を踏まえて新設した「防災指針」で、洪水・津波・高潮・土砂災害など10種類の災害ハザードを定量的に分析した上で、想定最大規模の災害(L2)には「命を守る」、発生頻度の高い計画規模の災害(L1)には「命も暮らしも守る」という二段階の目標を設定した。(参考:沼津市立地適正化計画)
併せて、土地区画整理事業の進捗により人口・生活利便施設が増加した北部地区(岡宮地区)を新たに都市機能誘導区域に追加するなど、5年間の状況変化を踏まえた誘導区域の見直しも行った。改定案は2024年2月19日から3月19日までパブリックコメントに付され、市民1名から寄せられた意見への市の考え方とともに同年3月25日に公表された。(参考:沼津市立地適正化計画改定(案)パブリックコメント)
沼津市は2021年度から2年間かけて外部委託により災害リスクの基礎調査を実施し、洪水・内水・津波・高潮・土砂災害・大規模盛土造成地・液状化・冠水実績・家屋倒壊/火災・火山災害という10種類のハザード情報をGISで図化し、市内18の中学校区単位で被害想定人口・建物棟数を定量集計した。その結果、浸水被害を受ける人口の割合は、狩野川の本流沿いと市西部のJR東海道線沿線の校区で他の校区より高い数値を示した。皮肉なことに、これらはいずれも現在の中心市街地に近く、沼津市内で比較的人口が減りにくいエリアと重なっていた。コンパクトシティ政策が人口集積を図ろうとする地区と、複合的な水災害リスクを抱える地区が重なるという構造的な課題が、数値として可視化された形である。(参考:沼津市立地適正化計画 防災指針基礎調査【概要版】)
具体的には、市西部の広範囲で浸水継続時間が最長3日程度に及ぶ洪水リスク、大平地区のほぼ全域における3.0メートル以上の浸水リスク、市南部集落における4.0〜10.0メートル未満の津波浸水リスク、狩野川河口周辺における2.0〜4.0メートル未満の津波浸水リスクなどが確認され、さらに狩野川の河口付近は洪水・津波・高潮という3種類の浸水想定区域が同時に重なり合う複合リスクエリアであることも分かった。(参考:沼津市立地適正化計画 防災指針基礎調査【概要版】)
沼津市は2018年度に策定した津波対策計画に基づき、津波の浸水深・到達時間や避難場所の収容能力等を考慮した「津波避難困難地区」を設定していた。その後、避難路整備や新たな津波避難ビルの指定などの官民連携の取組により、当初計画策定から5年の間にこれらの地区は解消された。しかし、津波浸水想定区域内には1981年5月31日以前の旧耐震基準で建てられた建築物が今なお多く分布しており、家屋倒壊による道路閉塞や避難の遅れが懸念される状態が残っていた。(参考:第4回沼津市立地適正化計画検討委員会 会議資料)
2019年策定の当初計画では、都市計画マスタープランに位置付けられた6つの拠点(沼津駅周辺、沼津港周辺、大岡駅周辺、北西部地区、南部地区、北部地区)のうち、北部地区については当時、人が集まる実態や都市機能の蓄積がまだ十分でないとされ、都市機能誘導区域への指定を見送り、状況変化に応じて見直すこととされていた。その後、岡宮北土地区画整理事業等により当地区の宅地供給と生活利便施設の立地が進み、計画上の位置付けと実態との間にずれが生じていた。(参考:第4回沼津市立地適正化計画検討委員会 会議資料)
沼津市はまず2021年度に「立地適正化計画における防災指針作成に向けた基礎調査等業務」を公募プロポーザル方式で発注し、国際航業株式会社静岡支店が2021年6月から2022年3月にかけて災害リスク分析・高リスク地域の抽出を実施した。続く2022年度には「防災指針作成業務」を発注し、2022年6月から2023年3月にかけて具体的な防災指針の素案を作成した。この2段階の委託により、ハザード情報の収集・整理から取組方針の検討までを1年ずつ段階的に進めた。(参考:令和3年度沼津市立地適正化計画プロポーザル、令和4年度沼津市立地適正化計画防災指針作成業務プロポーザル)
沼津市立地適正化計画検討委員会は複数回にわたり開催され、2023年11月28日の第4回委員会では「北部地区を都市機能誘導区域に位置付けることに係る説明資料」「旧津波避難困難地区の取扱い」「防災指針の立地適正化計画への掲載案」「改定計画における誘導施策の新旧対照表」が審議事項として提示された。委員会資料には、人口集中地区該当性・鉄道駅やバス停からの距離・公共用地率・災害リスクという4つの評価項目に基づき、都市機能誘導区域の候補となる8地区を横並びで比較する評価表が示され、北部地区が中心拠点としての要件を満たしていることが定量的に確認された。(参考:第4回沼津市立地適正化計画検討委員会 会議資料)
改定案は2024年2月19日から3月19日までの約1か月間、パブリックコメントに付された。寄せられた意見は市民1名から合計2件と少数にとどまったが、市は意見の概要とそれに対する市の考え方をまとめ、2024年3月25日に公表した。この手続きを経て、2024年3月に立地適正化計画の第1回改定が完了した。(参考:沼津市立地適正化計画改定(案)パブリックコメント)
旧津波避難困難地区については、避難のルート沿いに立つ1981年5月以前の基準で建てられた建物の所有者を一軒ずつ訪ね、耐震補強や取り壊しを働きかける取組を進めることとした。3地区で最大75件の建築物が対象として想定されている。あわせて、自治会の協力を得て作成している「避難行動要支援者名簿」(3地区の登録者数はそれぞれ77人、38人、15人)を活用し、要支援者が参加する避難訓練の実施も検討することとした。(参考:第4回沼津市立地適正化計画検討委員会 会議資料)
防災指針は、1,000年に1度程度かそれ以下の頻度で発生する想定最大規模の災害(L2)に対しては、ハード整備による対策が困難であることを前提に避難を中心としたソフト対策で「命を守る」ことを目標とし、概ね100年に1度の頻度で発生する計画規模の災害(L1)に対しては、堤防等のハード整備による減災効果が見込めることから「命も暮らしも守る」ことを目標とする、という二段階の目標設定を採用した。すべての災害に同じ水準の対策を一律に適用するのではなく、発生確率の違いに応じてハード・ソフトの投資配分を変える考え方を明示した点に特徴がある。(参考:沼津市立地適正化計画【概要版】)
沼津市は、津波浸水深2メートル以上かつ陸域への津波到達時間10分未満、または家屋倒壊等氾濫想定区域かつ浸水深3メートル以上という条件で「浸水総合対策エリア」を設定し、これを都市部局が所管する立地適正化計画と、危機管理部局が所管する地震・津波対策アクションプランの双方に位置付けることとした。同じ空間単位を共有することで、都市計画と危機管理という縦割りになりがちな2つの計画行政が、対策の優先順位付けを揃えて進められる仕組みとした。(参考:第4回沼津市立地適正化計画検討委員会 会議資料)
洪水や津波のリスクがある沼津港周辺や狩野川沿岸のエリアについても、法令上除外が義務付けられるレッドゾーン等を除き、原則として居住誘導区域・都市機能誘導区域に含める方針を採った。リスクを理由に区域を狭めるのではなく、耐浪性の高い建築物を誘導施設の要件に組み込むことで民間投資を呼び込み、対策を「より早く」、リスクを「より低く」することを狙う。狩野川沿いでは「居住×アクティビティ×防災」、沼津港周辺では「観光×商業×防災」を掛け合わせたまちづくりを目指すとしている。(参考:沼津市立地適正化計画【概要版】)
北部地区の都市機能誘導区域への追加は、2019年から2022年にかけての岡宮地区の人口増加(6,628人から6,806人へ、+178人、+3.0%。他の誘導区域が軒並み減少する中での増加)、生活利便施設数の増加(医療施設1→4、福祉施設3→12、商業施設1→3)、土地区画整理事業の進捗率(宅地造成72.8%、区画道路68.6%)という具体的な指標に基づいて判断された。当初計画で「様子見」として保留していた拠点候補地を、5年後に定量データに基づき機動的に追加するという運用を実践した点が特徴である。(参考:第4回沼津市立地適正化計画検討委員会 会議資料)
2018年度の津波対策計画策定時に設定された津波避難困難地区は、避難路の整備や新たな津波避難ビルの指定といった官民連携の対策により、居住誘導区域内では今回の改定を待たずに解消済みとなっていた。この実績を踏まえ、今回の改定では当該地区を「居住誘導候補区域」として位置付け、安全性がさらに向上した場合に居住誘導区域へ編入するという段階的な枠組みを設けた。(参考:第4回沼津市立地適正化計画検討委員会 会議資料)
今回の改定で最も具体的な成果と言えるのは、防災指針の実効性を検証するための数値目標を2036年の目標値として明記したことである。都市機能誘導区域内かつ津波浸水想定区域内における津波避難ビルから100メートル以内のエリアカバー率は2022年時点の77.7%から100%へ、居住誘導区域内の同カバー率は56.2%から100%へ、居住誘導区域内かつ津波浸水想定区域内に位置する耐震性を持つ建物の割合は57.4%から75%へ引き上げることを目標とした。避難訓練の参加人数(2022年時点14,669人)や災害に備えている市民の割合(同62.6%)についても漸増を目指す指標として設定されており、防災指針を理念にとどめず、進捗管理が可能な体制に落とし込んだ点が今回の改定の特徴と言える。(参考:沼津市立地適正化計画【概要版】)
前述の人口・生活利便施設の増加実績を踏まえ、北部地区が都市機能誘導区域に追加された。これにより、都市機能誘導区域は沼津駅・沼津港周辺、大岡駅周辺、北西部地区に北部地区を加えた構成となった。(参考:沼津市立地適正化計画【概要版】)
計画全体の指標としては、転入者数から転出者数を差し引いた値が2017年の-626人から2022年の-371人まで縮小しており、都市計画区域内人口に対する居住誘導区域内人口の割合は88%を維持している。ただし2036年目標の±0人以上には届いておらず、これは今回の防災指針そのものの効果ではなく、居住誘導区域内での都市機能・住宅供給の取組全体の推移として参照される数値である。(参考:沼津市立地適正化計画【概要版】)
中心市街地や沿岸部・河川沿いの市街地に人口や都市機能を集めようとするコンパクトシティ政策は、多くの場合、水害・津波リスクが相対的に高いエリアと重なりやすい。沼津市の基礎調査は、この重なりを避けて通るのではなく中学校区単位で定量化し、L1/L2という発生確率別の目標設定とハード・ソフトの組み合わせで正面から扱った。リスクの高いエリアを一律に「除外」するのではなく「管理」の対象として都市計画に位置付ける発想は、同様の地理的制約を抱える他の沿岸・河川都市にとって参考になる。
「浸水総合対策エリア」のように、都市部局と防災部局が共通のエリア区分を用いて互いの計画に同じ内容を記載し合う仕組みは、部署間の縦割りを越えて対策の優先順位を揃えるための具体的な工夫である。特別な組織改編を伴わずに、共通の地図・エリア設定を介して部局間の整合を図る手法は、他自治体でも比較的着手しやすい再現性の高いアプローチだと言える。
当初計画で拠点候補としながら要件未達で保留とした地区を、人口・生活利便施設・インフラ整備の進捗という客観的な指標に基づいて5年後に追加するという運用は、区域指定を硬直的な線引きとしてではなく、状況変化を前提とした見直し可能な仕組みとして設計・運用する参考例になる。指定の可否を判断する評価項目(人口集中地区該当性、公共交通からの距離、公共公益施設用地率、災害リスク)をあらかじめ明文化していたことが、5年後の機動的な見直しを可能にした条件でもある。
耐震化やハザード対策は往々にして全市一律の啓発にとどまりがちだが、沼津市は旧津波避難困難地区内の避難経路上という最もリスクが集中する箇所に対象を絞り込み、建築物所有者への個別訪問という手厚い手法を組み合わせた。対象を絞ることで、限られた行政リソースを効果の大きい場所に集中投下するという考え方は、防災に限らず他分野の重点対策にも応用できる。
2026年7月時点の調査内容に基づいて作成
この記事は公開情報に基づき、AIを用いた詳細調査により作成されました。記事内容への修正依頼、お問合せ等は以下までお寄せください。
問い合わせ:support@groove-designs.com
よくあるご質問(FAQ)もあわせてご確認ください。
#
総合計画
#
まちづくり指針
#
エリアビジョン
#
景観計画
#
緑の基本計画
#
公共空間活用
#
ウォーカブル
#
公園活用
#
防災・減災
#
空き家活用
#
エリアプラットフォーム
#
公民連携プラットフォーム
#
公民連携
#
地域コミュニティ
#
地域交流拠点
#
多文化共生
#
子育て支援
#
文化芸術
#
自動運転バス
#
モビリティマネジメント
#
モビリティハブ
#
関係人口
#
移住促進
#
探究学習
#
グリーンインフラ
#
生物多様性
#
参加型予算
#
都市整備
#
まちなか
#
駅前広場
#
協働のまちづくり
#
リノベーションまちづくり
#
フューチャーセンター
#
スマートシティ
#
AI
#
リビングラボ
#
空きスペース活用
#
居場所づくり
#
子ども食堂
#
沿線まちづくり
#
健康
#
社会教育
#
持続可能な都市
#
計画策定
#
まちづくり
#
コミュニティ形成
#
ワークショップ
#
社会実験
#
市民参加
#
子ども・若者
#
子育て世代
#
シニア